’99.10.15

国際理解(国際ボランティア)の授業
〜こんにちは赤ちゃん、さよなら赤ちゃん

○ はじめに

ユニセフ(国際連合児童基金)事務局長キャロル・ベラミー氏から発信された

TELEGRAM(緊急通達)がある。

 それには、次のように書かれてある。


 事態は急を要しています。医療施設には患者があふれているにもかかわらず、医者や看護婦、医薬品やワクチンなどが全く不足しています。引き続き緊急救援を実施しなければ、さらに多くの子どもの命が失われてしまうでしょう。
 大勢の栄養不良の子どもたちを救うために、ユニミックスなど栄養食の大量供給を最優先でお願いします。子供たちが直面しているこの危機を無視することはできません。
 大至急、救援をお願いします。

       オペレーション・ライフライン・スーダン

 世界には、死の淵に立っている多くの子供たちがいる。

このことは、言葉では理解できても、我々豊かな国日本人にとっては、正直言って、

なかなか実感として受け止められないかもしれない。

先のキャロル氏は、スーダンを視察し、恐るべき光景を目の当たりにし、

大きな衝撃を受けたと言っている。

 状況は、想像を絶する悲惨なものだったと言っている。

本来なら元気に走り回っているはずの子供たちが、まさに「骨と皮ばかり」となり、

ついには立つこともできず食べるのもやっとの状態でいると報告している。

 

 さて、大人も含めて、子供たちは、この事実をどこまで理解しているのであろうか。

恥ずべきながら、私自身もまた、これを授業にかけてみようと思うまでは、

ほとんど真実の実態は理解できていなかった。

もちろん、授業できたからと言っても、枝葉末節甚だしいと思っている。

その現実を私自身目の当たりにしたわけではないのだから・・・・。 

しかし、そうであっても、我が心に留まったこの悲惨な世界の状況や子供の実態を、

目の前にいる教室の子供たちに伝えたい、そう強く心を突き動かされてやまなかったのである。

 ところで、そのような思いはあっても、授業化するとなると、いろいろ考えねばならぬ点が出てくる。

 そこで、とりあえず、授業構想を練る前に、ポイントにしたのが以下の6点である。


①インパクトのある、心にズシンとくる資料とそこからじわじわと思考が深まっていく提示の仕方。
②具体的な数字で、悲惨な状況や命の尊さを感得できる資料の提示の工夫。
③テンポのよい問答を取り入れた前半部分の展開。
④小刻みなノート作業で、常に全員参加を促す指示や発言のさせ方。
⑤重苦しくならないように、未来に希望が持てる終末部分の展開。
⑥以後の実践に結びつくようなオープンエンド型の構成。

 

 ここで紹介する授業記録には、多くの課題が散在している。

心許ないながらもまずは実践してみたという感があるが、

最後の子供の感想にもあるように、授業後の子供は明らかに変容している。

 心動かされているのである。

 拙い実践にご意見ご指導いただければ幸いである。

 授業の展開にあたっては、佐藤浩樹氏、尾形一氏、大城邦夫氏の実践を参考にさせていただいた。

 実施学年は6年生である。

 

○ 授業の実際

 日付板書後、資料①(ユニセフのダイレクトメールカードをA3版にカラーコピーした物)をはる。


指示1 この写真をみて気づいたこと・分かったこと・思ったこと何でもいいからノートに箇条書きで書きなさい。
もっと近くで見たい人は、自由に立って見に来てもいいですよ。
時間は3分です。はい、始めなさい。

 

               

 3分後、作業を中断させ、指名なし発言させる。


指示2 自由起立発言をします。とりあえず発表するものを一つ選びなさい。そして、それを言われたのなら、もう一つ話すことを用意しておきます。

では、誰からいきますか。はい、どうぞ。
 

 


・二人とも体が黒い。
・他に人はいないのか。
・二人とも子供だ。
・二人とも笑っていない。
・悲しそうな表情をしている。
・女の子と男の子がいる。
・二人ともまずしそうだなぁと思った。
・どこの国の人かなぁ。
・何となく寂しそうだ。
・外国の人だ。日本人じゃない。
・この二人はかわいそうだと思った。
・私たちの服装と全然違う。
・元気がなさそう。悲しい目をしている。
・髪がもさもさしている。男の子がパーマ。
・仲がよさそう。くっついているので。
・二人とも表情がとても暗い。
・CMに出ているアジアの恵まれない子供たちに似ている。
・女の子は子供をだいているので、お母さんがいなくなったのかなと思った。

 

 以上5分間、全員が発表した。


発問1 いい発見がたくさんありました。さて、この子(抱かれている子)は、何歳ぐらいだと思いますか。ノートに書きなさい。
 

 列指名で口々に言わせてみる。「2〜3歳」が多かった。


説明1 この子は3歳になる女の子でアチャットという名前です。
発問2 では、この抱いている女の人は何歳ぐらいだと思いますか。
    同じようにノートに書きなさい。

 

 これも同様、列指名で答えさせた。

 「10〜12歳」が多い。「20歳」も一人いた。

 T「なるほど。君たちは何歳?」C「12歳。」


説明2 この人の名前は、アデルと言います。実は8歳の女の子です。アデルとアチャットはスーダンという国に住んでいる姉妹です。
アデルは、幼い妹をだっこしながら、こういうことを言っています。

 

 


(板書)(写真に吹き出しを書きながら)
「もうずっと弟と妹の面倒を見ているの・・・・(         )から

 

 


発問3 さて、(       )の中には、どんな言葉が入ると思いますか。

この写真を見ながら想像して、ノートに書いてごらん。
 

2分後、発表させる。期間巡視し頭をなでて指名予告した子供(5人)に発表させた。

野口先生がよく行う意図的指名である。


・かわいいから
・かわいそうだから
・親が病気だから
・親がいないから
・お母さんが留守だから
・お父さんとお母さんが忙しいから

 

 


説明3 (板書しながら)実は「とうさんもかあさんも死んじゃった」からと言っているのです。8歳だよ。遊びたい盛りだ。
 

 静かな空気が教室を包む。

 ここで、資料②(ACの広告を拡大コピーしたもの)を黒板に貼る。

 数字の所は、伏せておく。

                   

 

 
発問4 この広告は、「日本の、こんにちは赤ちゃん」と書いてありますが、「こんにちは」とは、どういう意味だと思いますか。
 

 口々に言わせてみる。「生まれてきた」と子供たち。

 「その通り。オギャーとこの世に生まれてきたということです。」と言って次の問い。


発問5 一年間で、日本には「こんにちは赤ちゃん」は、およそ何人いると思いますか。次の中から選んでノートに書きなさい。
①秋田市の人口31万人くらい
②秋田県の人口120万人くらい
③日本の人口一億三千万人くらい

 

 挙手させた。

①・・・・・10人、②・・・・・21人、③・・・・・3人

 正解が②であることを告げ、資料の(127万人)を示す。


発問6 では、この「アジアのさよなら赤ちゃん」とありますが「さよなら」とはどういう意味だと思いますか。
 

 「死んでしまう」と子供たち。


発問7 そうです。5歳まで満たないで、赤ちゃんが「さよなら」しちゃうんです。どんな人が悲しむでしょう。
 

口々に言わせてみた。「親、兄弟、家族、親戚、おばあちゃん、おじいちゃん」等。

「たくさんの人が悲しむんだね。つらいね。」と言って、次のように問うた。


発問8 ところで、日本の「さよなら赤ちゃん」は、一年間に何人くらいいると思いますか。ノートに書いてごらんなさい。
 

 列指名で答えさせる。1万人、5600人、10万人,27万人、20万人、10人などさまざまである。

 ここは、すぐに「8000人です。」と教える。テンポよく進める。


発問9 さて、アジアという国々が日本の周辺にあります。
スーダンもアジアの一部です。
アジアの「さよなら赤ちゃん」は、一年間に何人いると思いますか。ノートに同じように書いてみなさい。

 

 これも同様に列指名で尋ねていく。10万人から600万人と、これもさまざまあげられた。

 「実は、これだけいるのです。」と言って伏せておいた紙をはがして正解を出す。(676万人)

 「日本で生まれてくる子供より多い!」という声が挙がった。


発問10 そうだ。日本の赤ちゃんよりも約16倍も死亡する確率が高いのです。・・・・(間) 
 どうして、こんなにたくさんの子供が5歳に満たない
までに亡くなってしまうのでしょう。
 自分の予想をノートに書きなさい。

 

 ノート作業後、自由に指名なし発言させた。


・食べ物がない。
・戦争のため。
・薬がないから。
・栄養がない。(栄養失調)
・何かの伝染病。
・住む場所がない。
・医者がいないのでは・・・。
・地雷のせいで。
・着る物もなく、病気にかかりやすい。
・ワクチンがない。

 

 


説明4 みなさん、知恵をしぼってよく話してくれたね。よく知ってますね。実は、こういう訳なんです。
(ここで資料①の裏面にかかれていることや、ユニセフからの緊急電文などをユニセフについて簡単に触れながら読み上げた。)

 

 ちょっとした静けさが教室をおおう。


説明5 つまり、病気などが原因で多くの赤ちゃんが亡くなっているということなのです。
食べ物が満足に取れず栄養不足で命を
落としてしまう「栄養失調」。

それと「ポリオ」。別名急性灰白髄炎と言って、ウイルスによってうつる病気です。
高熱や頭痛、筋肉が縮むといったことがおこり、治ったとしても、手足が麻痺したり後遺症が残る恐ろしい病気なのです。
日本でも戦争が終わった頃多くの患者がいたそうです。
しかし、世界からの温かいワクチンの援助で年々減少し、今はほとんど見られなくなりました。
今、みなさんがこうしてピンピンしてられるのもみなワクチンのおかげなのです。

 

 


発問11 この事実を知って、豊かな国日本に生まれた君たちは、そう言う人たちのために何ができるだろう。
 何ができると考えますか。考えられることをいくつでもいいから、ノートに書いてごらんなさい。

 

 書けた子供からどんどん発表させた。

 そのほとんどが物品の寄付や募金するというものであった。


説明6 みなさんの言うとおり、募金、つまりお金で救うことができます。たとえばここに「3000円あれば下痢による脱水症状の子供の命が救えます。」などと書かれた振り込み用紙があります。(実際に見せながら)
 

 


質問 しかし、よく考えてごらんなさい。そのお金は、君たちのお金ですか?君たちが働いてつかみ取ったお金ですか?
 

 首を横に振る子供たち。


説明7 自分たちのお金じゃない。・・・・
このように考えていくと、実は非常に難しい。

ただ、募金すればよいというわけではない。この考え方は、ただお金で解決できるという金持ちのエゴです。
 実際に私たちは何ができるというのでしょう。
そう言うことを考えていくと、我が生活をふり返ってみる必要がありそうですね。
 例えば、日本の出るゴミの40%は、台所の食べ残しだそうです。
 台所から出る食べ残しの処理にさえ、日本はものすごいお金を使っているんです。
 こんなことからも、ただお金さえポンと投げ出せばいいという考え方、それだけではいけないような気がしてならないんです。

 

 子供たち黙って静かに聞いている。少しの間の後、説明を続ける。


説明8 でも、そう考えていくとあまり暗くなっちゃうんで、一つこんなのぞみもあります。
たとえば、テレカ。使い切ったテレカ。

これ、実は39枚あれば、二人の赤ちゃんの命が救えるんです。
ですから、このクラスで一人一人みなさんが1枚持ってきてくれれば、一人の赤ちゃんの命を救うワクチンが買えるんです。
(子供たち「えっー。うそぉ。」の声)
なぜか、どういう仕組みになっているかというと、ヨーロッパという国々では、日本のテレカというのは、非常に人気が高くカードマニアがたくさんいるんだそうです。
 日本製は質がいいので、使い古されたカードでも、それをコレクターとして買ってくれる人がいるんです。
 その買ってくれたお金をワクチン代として、スーダンや恵まれない子供たちにワクチンとしていくそうですよ。
ですから、募金だけではなく、いろんな方法があるのです。
私たちの身近なところに世界を救う糸口があるのです。
 自分に何ができるのか考え、ちょっとでもいい、役に立ちたいですね。

 

ほとんど残り時間もなくなってきた。残り30秒といったところか。

最後に、次の新聞記事をコピーした物を配った。

「地球60億人目に指定されたサラエボの赤ちゃん」(秋田魁新聞朝刊’99.10.13付)の記事である。

                      


指示 このような戦禍にある国でも、次々と新しい命が笑顔で誕生しているんです。
私たちにできることはないでしょうか。

今日の授業の感想を書きなさい。

書いた人からノートを出して休み時間です。
 

 

○ おわりに

 子供の授業感想文をいくつか記す。


・まさかテレフォンカードで助かる人がいるなんて意外でした。
ぼくもご飯を残さないようにしたいです。
・日本はとても幸せだな。何か協力したくなった。
・こんなに貧しい子供たちがいるとは初めて知った。ぼくは、日本で生まれて良かった。
・同じ人間なのに、ここまで苦しんでいるなんて初めて知った。
ぼくにもできることをしようと思った。
・できることは、食べ物を粗末にしないということ。できることは少ない。切手やテレカを集めます。
・使い捨てのテレカを今度からは捨てないで集めてみようと思う。
・食べ物を食べたくても食べられない人もいるので、好き嫌いをしない。テレカで命が救えるなら協力して集めたい。
・今まで嫌いな食べ物は、ポイッと捨てていた。けれど、アジアやスーダンの子供たちは、その捨てていた食べ物も本当に貴重なんだ。何か募金だけでなく、助けてあげたいと思う。
・日本の親のいない子供でも、他の国に比べればとても恵まれているのかも知れない。
・人を助けることって難しいと思った。募金をするのも自分のお金とは言えないから、どうすればいいのか分からない。でも、自分には、それくらいしかできないからそういう活動には参加したい。
・前はCMをみてもあまり気にしなかったけれど、今日世界の子供のことが少し分かってきた。
・いつも100円なんてと思っていたけれど、百円で人を助けることができるなんて、自分はすごく贅沢だなと思った。
・産まれた赤ちゃんより、死んじゃう赤ちゃんの方が多いなんてかわいそうすぎると思った。私は、いつもの生活の中で何か無駄がないか考えてみたい。
・今までをふり返ってみると、自分はお金をむだ遣いしていたなと思う。
・私たちは幸せすぎる。
・今まで、あんまりこういうことは気にしていなかったけれど、今日からは食べ物や服などいろいろなものを大事にしていきたいです。
・台所から出るゴミの40%が食べ残しと知って、その無駄をなくしてワクチンを買ってあげたい。

 


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