´98.11.26
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新しい道徳の授業を創る〜 ライフスキルの授業「ムカツキと食欲」 |
1.はじめに
頭では分かっているけれど、できない。
「悪口を言うのは、いけない。」「いじめももちろん悪い。」頭では分かる。判断も一応下せる。
体の不自由な人が困っている。「手助けしてあげるべきだ。」分かっているけれど行動に移せない。
知識としては、分かっている。しかし、行動として現象化されない。
知識と行動との間には、大きな溝がある。
知識というものは、行動に生かされてこそ意味を持つ学びになるのである。
しかし、昨今の子供たちの現状を見るにつけ、
正しい知識・判断が現実社会の中での行動として表すことができていないというのが、実は現実問題なのである。
何故か。それは、
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スキルが身についていないからである。 |
ずばり言おう。
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ライフスキルが習得されていないからである。 |
ライフスキルとは何か。次のように定義され る。
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生きて行くのに必要な技術 |
または、
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人間として生きるために必要な技術 |
と言ってもいい。
簡潔に言うと、
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生活の知恵 |
とも言える。
戦後の学校教育は、「知識の教え込み」「知識の偏重主義」に出合ったという非難の指摘がある。
人間の生き方を学び、人生如何に生きるかという学習は、大切であるのにも関わらず、
どこか知識の習得の陰において欠落してきた部分であったとも思われる。
ライフスキル教育は、「生き方」に関わる教育である。
子供たちが将来、質の高い生き方ができるように保障してやる教育である。
具体的に例を挙げて考えてみよう。
一人の子供が、留守番を任されたとする。
親は、出掛けていて家にはいない。
さて、夕食の時間になった。
当然おなかがすいて来る。
冷蔵庫を開けると、野菜・肉・魚など入っている。
タマネギ、ピーマン、豚肉等名前は知っている。
しかし、子供は、冷蔵庫の中の材料を見つめたまま、ただ黙っているだけ。
何もできないのである。どう料理すればいいのか、分からないのである。
それは、母親なり用意してくれたものをレンジでチンして食べたり、
カップラーメンにお湯を注いで食べたりすることしか経験がないからである。
知識はあっても、技術や技能がないからである。
清掃するとき、電気掃除機が家にあって、掃除できることは知っている。
しかし、小学校に入学するようになってから初めてほうきに触れたという子供も少なくない。
ほうきというものは、以前から知っている。
しかし、「ほうきで掃いてね。」と言われても、正しい持ち方もできない。掃き方もできない。
というようなことは事実としてあるのである。
以上のような例は、特別極端な事例であるわけではない。
兵庫で起きた少年の殺害事件に「自分も同じことをするかもしれない。」と答えた同年代の子供たちがいた。
恐ろしいことである。
蟻を踏み潰したのではない。
イライラして物を蹴飛ばしたのではない。
人一人殺しているのだ。しかも、残虐な結末を招いて・・・。
それでも、同じことをするかもしれないと言うのか。
これこそ、情動面のスキルの欠如と言わざるを得ない。
このように、現代の子供たちに欠けてきた教育があるならば、それは、ライフスキルの教育の欠落と言っても過言ではないのだ。
ライフスキルは、本来学校のみならず、家庭・地域社会でその基盤が親なり大人なりから、教えられ伝えられてきたものである。
核家族化・少子化・地域等の人間関係の希薄化に伴い、その教育の状況も大きく様変わりしてきた。
学校教育におけるライフスキル教育は、今、大きくクローズアップされ、
新教育課程における総合的学習とも統合され取り上げられて行くことであろう。
ライフスキル教育の具現化においては、WHOが提唱しているライフスキルの諸因子をキーワードに教育の場にのせられていくことであろう。
諸因子とは、次の10項目である。(※1)
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エイズ教育を始め、健康教育で中心的活動をされている千葉大学の武田敏氏は、
これらのライフスキルを3つの大きな枠組みで捕らえている。
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ライフスキル学習については、「教室ツーウェイ」(明治図書)NO.160に特集されているので参照されたい。
さて、以上のような考えのもと、ライフスキル学習を意識した授業を実践することにした。
理論はあってもそれが具体的な授業として具現化されなければ、教育の場では無意味なものとなる。
しかも、子供にとってつまらないような内容では、およそ授業の目的は果たせず、
楽しく学習してよかったと自覚できるような時間を保障するような授業を組み立てて行くことが、肝要である。
これこそが、当面学校教育において我々に求められていることであろう。
そういう意味からの一つの提案授業である。
実践例は、原実践小川泰求氏の修正追試である。
3年生を対象に「ムカツク」「キレル」について考え、
ムカツキの対処の仕方を学ぶ情動コントロールのライフスキル学習である。
2.授業例
○ 主題名 「ムカツキと食欲」
「キレル」と板書する。
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発問1 キレルって何ですか。 |
・おこること・かっとして止まらなくなること・物が切れること・さけること等出された。
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発問2 では、気持ちの方の「キレル」で、こういうふうに「キレタ」ことのある人はいますか。 |
自由に口々に言わせてみる。
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教師「それだけでキレちゃうの?」子供「うん。あったまにきちゃう。」
こんな調子で始まる。子供たち(3年生)は、実に日常生活の中で取るに足らない「キレ」を生じさせているようである。
とは言っても「キレル」という行為そのものが、単に頭に来るといった類いのものと解釈しているきらいもある。
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発問3 では、ムカツクって何ですか。 |
・頭に来るってこと・はらがたつ・しゃくにさわる・きもちわるくなる ・はきけがする等出された。
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発問4 ムカツクことありますか。 |
これも自由に口々に言わせてみる。いわゆるブレインストーミングする。
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発問5 では、「ムカツク」と「キレル」の違いは何なの? |
「ムカツキを通り越してパワーアップするとキレル。」と子供たちは言う。
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説明1 なるほど。そういうことなのか。 |
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説明2 先生が、これからあるお話を読みますので、よく聞いていて下さいね。 |
このように言ってから、板書で図解しながら以下の資料を読み聞かせる。
あるいは、語り聞かせてもいい。
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その場は一時的におさまるものの、コウイチくんは、仲直りできないままむしゃくしゃして帰宅する。 |
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発問6 さて、コウイチくんは、どうして、ツヨシくんに色鉛筆を貸さなかったのですか。 |
次の5つが出された。
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ここで、「この中で一番強い気持ちはどれ?」と尋ねると、「A。」だと言う。
T「ツヨシ君、鉛筆もっているの?」C「うん。」T「どこにあるの?」C「ロッカー。」T「なるほどね。」
こんな具合で話の筋を対話するように確かめて行く。
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発問7 じゃあ、ツヨシくんは、どうして、コウイチくんに借りようとしたの。 |
これも次の5つが出された。
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同様にT「この中で一番強い気持ちは?」C「Aの面倒臭い。」
T「君たちもそういうことある?」C「ある。」
T「どうして?」C「めんどうくさいもん。」・・・まあ、こんな具合である。
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発問8 言い争いにならないようにするためには、どうすればよかったのですか。 |
以下の2つの意見にわかれた。
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発問9 AとB、どちらがいいのですか。どちらの行動を取れば、けんかは起こらなかったのでしょう。ノートにどちらかの記号を書いて訳も考えなさい。 |
5分時間をとった。その後、それぞれの人数分布を調べ発表させた。
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クラスでは、A派がどちらかというと圧倒的に多く、意見ももっともであり、
それなりに子供たちなりの考えを持っていることを知ることができた。
ここでは、とりあえず、意見を聞くだけにして深入りは避けて、次の発問に移った。
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発問10 では、コウイチ君は、どうして口の中がかわいて、食欲が無かったのでしょう。 |
子供からは、「ムカツイテいたから。」「頭に来ていてイライラしていたから。」「気持ちがおさまらなくて。」という意見が挙がる。
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説明3 なるほど。ムカツクっていうのは、頭に来るだけではなく、ムカムカして気持ちまで悪くなって食欲が無くなるということにつながるのかもしれないね。 |
子供たち「そうだ。」という表情で聞いている。
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発問11 でも、コウイチ君はその後、食欲が出てきましたよ。 |
「水を飲んだから。」「犬のポチと遊んで気が紛れたから。」の声。
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発問12 みなさん。こんなときね。こういうように、むしゃくしゃしているとき、このムカツキをどんなふうにしたら解決することができるでしょうね。 ノートにその自分なりの方法を個条書きで書いてごらんなさい。 |
机間巡視しながら、各ノートにA〜Fの記号を書いて行く。
作業後タイプ別に発表させるためである。頃合いを見て作業を打ち切り発表させた。
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指示1 ノートにAと書かれた人起立。その記号をつけられたものを発表した人から座りなさい。 |
このようにして、A〜Fまで分類して発言を板書した。以下のようなものが出された。
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(C)・黙っている・何もしない・ボーとする・ゴロゴロする |
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発問13 たくさんあるんですね。この中で、この方法はまずいんじゃないかと思うものありますか。 |
子供の意見はAとBに集中した。自由起立発言させてみた。
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説明4 そうだね。でもその時は、むしゃくしゃして、ついやってしまうのでしょうね。しかし、いかなるときでも、心にブレーキを持ちたいね。後になって、「あっ、あんなことしなければよかった。」と思わないようにしたいものです。 |
子供たちは、実に素直に聞いていた。
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指示2 それでは、いろんなムカツキ解消法が出たんだけれど、これはなかなかいい方法だなと思う物に赤丸して下さい。 |
時間切れだったので、こういう終わり方になってしまったのが少し残念である。
感想も書かせたかったが、ノートをみると、どの子もE・F群に赤まるが多かった。
自分にとってマイナスのことよりはプラスのこと、人に迷惑をかけることなく自分をいいほうへと導いて行く方法の方が
楽しくなるといった結論を子供たちは出してくれた。
3.おわりに
私自身は、子供らが些細なことでもすぐ口にする「ムカツク」「キレル」を次のように解釈している。
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