’00.10.16
○ はじめに
この授業は、大江浩光氏の原実践(道徳授業改革双書22「今を生きる人々に学ぶ」明治図書)を参考に修正追試した。
氏の使用した2枚のバングラディッシュの子供たちの写真の他に、世界子供白書「教育」(1999)の冊子(インターネットで申し込むと無料で送付してくださった)の裏表紙に載っている写真(資料①)を活用した。
この世界白書には「万人のための教育」と題して、その権利を守るためにユニセフで行っている活動内容や教育に恵まれぬ世界の現状の囲み記事、そして具体的な教育指標などの数値による世界の国々のデータが詳細に記載されている。
「子供の権利条約」には、教育は、充実した自由な暮らしの基礎であり、全ての子供の権利であり、全ての政府の義務であると明記されている。
にもかかわらず、約10億人の人が本を読んだり、自分の名前すら書くこともできないまま21世紀を迎えてしまう事実は、本書を読んでいて胸を締め付けられる。
いわゆる開発途上国と言われる国々では、1億3000万人以上の就学年齢の子供(そのうちの7300万人が女子)が基礎教育を受けられないまま暮らし、他にも非常に多くの子供が全く学習できないような不適切な学習環境のもとに置かれているのである。
それらの子供たちは、現在もいや将来すらも、読み書きのできる人よりも絶望的な貧困のもとで病気がちの暮らしをする。
そう言う人々を機能的非識字者と言う。
教育は、基本的人権であり、国際平和と安全への道になるものである。
豊かに恵まれている日本。そして、識字率約100%の日本の子供たち。
我々大人も子供たちも、学ぶべき所は大いにある。
○ 授業の流れ
授業の始まりと同時に、A3版のカラーコピーした写真(資料①)を黒板に貼る。
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指示1 これは何の写真だと思いますか。これを見て、気づいたこと、感じたこと、思ったこと何でもいいから言ってごらん。
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列指名にて、座ったまま答えさせた。
以下のような発言があった。
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・黒板に何か書いている。
・手が二つある。
・黒板が汚い。
・書き方がへん。
・変な絵のような物を書いている。
・どこかの国の字かもしれない。
・どっちの手で書いているのか。
・右手で誰かの手を支えているみたい。
・書くのを誰かがじゃましているみたい。
・手が不自由な人が書くのを誰かが手伝っているのかな。
・チョークの使い方を教えている。
・先生が、子供に字を教えている。
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説明1 いろんな意見がありましたね。すばらしい。
さて、これは何なのか、授業のおわりに教えます。
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ここでは、正解を告げずに次へと進めた。
次にまた別の写真資料(資料②)を貼る。
書籍からのモノクロ拡大コピーなので、鮮明ではない。
写真の質としては粗く、子供にとっては分かりにくいところもあったと思われる。
大江氏が使用した写真資料である。(同書P46)
見にくい子供は、黒板に群がった。
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指示2 これを見て、気づいたこと・感じたこと・それがなくても思ったことを箇条書きで少なくとも5個以上ノートに書きなさい。
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2分後、作業を中断させた。
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指示3 はい、止め。自分が書いた数の分だけ、上の欄にその数を書きなさい。1個書けた人・・・(挙手)、2個書けた人・・・、5個・・・、10個。
すごいね。これから発表してもらいます。どれか書いたのを1つ選びなさい。
では、少ない人から発表してください。どうぞ。
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以上のように指示してから、指名なし発言をさせた。
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・棒に子供たちがしがみついている。
・何か食べ物を食べたそうにしている。
・牢屋に入っているみたい。
・出してくれと叫んでいるようだ。
・手錠みたいな物らしき物が見える。
・写っているのは子供だけ。
・こっちをずっと見ている。
・目の前に何かあるようにじっと見ている。
・大人がいない。
・どこにいるのだろう。
・中国人かな。
・檻に入っている。
・まん中の子供の目つきが怖い。
・私たちと同じくらいの年かな。
・鉄格子だと思う。
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指示4 これは、鉄格子や檻みたいだという意見がありました。
ここにいる子供たちは、何か悪いことをして檻のようなものに入れられて、出られないのだと思う人は○、違うと思う人は×をノートに書きなさい。
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10秒後、挙手で確かめる。
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説明2 何の写真でしょうね。実は、この子供たちは日本人ではなくてバングラディシュ(板書)という国の子供たちなのです。(地図帳で簡単に確認する。)
そういう国の子供たちです。
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発問1 さて、その国の人たちに関係することですが、日本では、ほぼ100%、バングラディシュは約38%です。(板書)
さてこの数字は何を示すものでしょう。ノートに予想を書いてごらんなさい。
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2分与えた。2分後、全員に座ったまま聞いていった。以下の予想が出された。
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・食糧 ・子供の数 ・酸性雨が降る確立 ・犯罪の数 ・牢屋に入っている犯罪者数 ・自然の破壊 ・水の量 ・車の数 ・三食食べている人 ・廃棄物
・電気量 ・森林伐採 ・消費電力 ・親がいる人たち ・ゴミを出す量 ・給料をもらっている人の数
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説明3 実は、これらの数字は、識字率(しきじりつ)(板書)というものを表したものです。識字率とは、文字を読める割合のことを言います。
識字率が100%ということは、日本人は全員が読み書きできると言うこと、38%とは、100人いれば38人しかバングラディシュの人は文字を読めないということです。
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ちょっとしたどよめきが、教室を包む。
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発問2 では、どうしてバングラディシュの人は、38%しか字が読めないのでしょう。識字率が日本に比べてぐんと低いのはどうしてでしょう。どんなことでもいいですから、自分の考えをノートに書きなさい。
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書けた子供から、自由に立たせて発言させた。
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・学校に行くお金がない。
・勉強していないから。
・学校に行けないから。
・学校に行っても、教える人がいないから。
・文字を見る機会がないから。
・勉強の本や教科書がないから。
・お金が無くて働いていて学校に行けないから、字も読めないので教える人も当然いないから。
・学校がないから
・貧しい国だから。
・学校を知らないから。
・学校には行かないで働いているから。
・学校を建てるお金がないから。
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のべ20人ほど、次から次へと意見を述べた。
「短い時間によくいろんな事考えましたね。りっぱです。たいしたもんです。」と褒めてから、補足説明をした。
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説明4 みなさんが言ってくれたことはもっともです。その通りなんです。
付け加えるならば、バングラディシュは、昔、戦争がありました。戦争中というのは、いつ死んでもおかしくない状況なのです。
そんな最中に学校に行くことができるでしょうか。学校すら閉鎖しているかも知れません。
また、この国は、標高は最高でも10mにも満たないため、四月から十月の雨期に大雨が降れば、国土の三分の二が水没してしまうそうです。そうなれば、国民は食糧難になります。生きるか死ぬかの瀬戸際なのに、国民が、食糧を手に入れようと努力しないで学校に行くことができますか。特に農村の子供は、小学校へ入学しても卒業できるのが10人中2人しかいないと言われています。
したがって、この国の多くの国民は、教育を受ける機会が少なかったのです。今現在もです。だから、識字率が38%と低いのです。
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ひと通り説明を終えてから、再び写真②に話題を戻した。
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発問3 それでは、もう一度この写真を見てください。もう一回聞いてみます。この子供たちは、いったい何をしているのでしょう。
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「うらやましくて、本を読んでいるのを見ている。」「勉強しているところを見ている。」
等の声がボソボソ聞こえてきた。
「いいカンしてるねぇ。」と言って、もう一枚の写真資料③(同書P47)を黒板に貼った。
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発問4 実はその通りです。ここは、教室の窓なんです。この子たちは、教室で勉強している人や同じ年頃の友達をじっと外から見ているのです。
この目をごらんなさい・・・・。(間)
さあ、あなたたちには、この子たちのどんなつぶやきが聞こえてきますか。その心の吹き出しがあるとしたら、どんなことを言っていると思いますか。ノートに書いてごらんなさい。
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ここも書けた子供から、座ったまま答えさせていった。
じっくり考えさせる時間を与えてもよかった気がする。
次のようなつぶやきが発表された。
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・いっしょに勉強させて!
・ぼくも勉強したいなあ。
・いいなあ。本を読みたいなあ。
・何やっているんだろう。
・ぼくには行けないなあ。
・学校に入りたい。
・いいな。でも家のこともあるし・・・。
・生きていくためには仕方がないんだ・・・。
・こんなことなら違う国に行きたい。
・いいなあ。勉強って楽しいだろうなあ。
・お金があれば・・・。
・うらやましい。なぜ入れてくれないのか。
・戦争なんてなければいいのに。
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説明5 実にうらやましそうに見つめる目。そして、しっかり鉄格子を握りしめている両手・・・・。
こういう子供たちには、今もバングラディシュにたくさんいるのです。
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教室はしーんとして、静寂の中に子供たちは、いる。少し間をおいたあと問うた。
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発問5 さてあなたたちにあって、この子供たちにないものは何でしょう。
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列指名で聞いていく。一つ一つの発言を大げさに褒めていく。
「友達」「自由」「字を読む力」「知識」「学校」「笑顔」「勉強道具」「先生」「言葉」など子供たちの口から次々と出された。
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発問6 では、あなたたちにはなくて、この子供たちにあるものとは何でしょう。
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同様に、別の列に指名して尋ねてみた。
「仕事」「さびしさ」「うらやましさ」「生活の貧しさ」「苦しさ」「孤独」等が出た。
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指示5 さて、一番最初に見せた写真ですが、これはね。書いているのがお母さん。その上から手を添えて教えているのが、その子供の娘。娘に助けられて自分の名前を一生懸命書いているお母さんの写真です。(「えっー、うそぉー。」と子供たちの声)
世界にはたくさんのいろんな国があり、私たちとは違う生活をしている人がたくさんいるのです。
今日の授業の感想を書きなさい。
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書いた子供からノートを提出させ、休み時間とした。
○ おわりに
子供の感想文をいくつか以下に記す。
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・私は、今、やっていることが当たり前のように思っているけど、そうじゃない人たちもいるんだなぁと思った。
・ぼくは、学校に行きたくないなと思ったことがあるのに、行きたくても行けない人がいる。自分が恥ずかしくなった。
・ぼくたちは楽をしている。バングラディシュの人たちは、働きっぱなしでかわいそうだ。
・もし、ぼくがバングラディシュに生まれていたら、こんなに大変なのかな。
・この日バングラディシュという国を初めて知った。この子たちは、ぼくたちが感じることができない苦しみ、悲しみ、憎しみがあると思う。
・今日の授業は、不幸の勉強だ。とてもかわいそうだ。代わってあげられるのなら代わってあげたいが・・・・。
・今日の授業は、バングラディシュのことを学んだ。写真では、少年院に入っていると思ったら、学校を見ていたなんて思いもしなかった。この人たちに自由をあげるとしたら、いろいろなものがいるだろうな。
・今日の授業では、世界には自由がない子供がたくさんいると聞いて、びっくりした。戦争は、自分のことではないと思っていたけど、そんなことはないと思った。
・私は、世界には学校に行けない人がいるなんて、とてもかわいそうだと思いました。それに、バングラディシュの子供たちは、大人になったらどうなっちゃうのかなぁと思いました。あと、子供たちに、私の考えだけど、学校に行かせたいと感じました。だって、私たちと同じ子供なんだから。
・今日の授業は、少し悲しかった。何故かというと学校には入れないし、毎日仕事をやるからだ。わたしは、自分がこの人たちだったらいやだなぁと思った。
でも、この子供たちは、たくましい気もした。
・私たちが遊んでいる間に、バングラディシュの子供たちは働いていると思うと、なんだかかわいそうだなと思いました。私たちは、とっても幸せなんだと思いました。
・バングラディシュの子供たちと違って、私たちはちゃんと学校に通えて幸せだと思った。それにしても、どうして学校の窓が鉄格子なんだろう。
・バングラディシュの人たちは、最初見たときは牢屋に入っているのかと思ったけど本当はうらやましかったんだなぁと思いました。バングラディシュの子供はかわいそうだなと思いました。
・世界には学校のない国があると知ってびっくりした。私たちは、バングラディシュの人々に何かできないのだろうか。
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