NO.111

保護者会ではタメになる話を

                    

○ はじめに

 「PTA」と聞いただけで,まるでアレルギーのごとく保護者会(懇談会)を毛嫌いする教師がまれにいる。もっとも「大好きだ。」と豪語する教師もまたそんなにいるとも思えないが,・・・。

 私自身に関して言えば,それほどイヤなものでもない。もっと言えばこの頃は授業参観付きともなれば,どちらかと言えば,ワクワクする思いも多少なりとも感じるようになった。

 それは,授業の腕に自信があるとか,話上手だからとか,人前で話をするのが好きだからとかという理由からではない。(もっともそんな人もいないと思うが。)

 保護者会というのは,むしろ担任である教師が自己アピールできる絶好のチャンスと考えているからである。

 授業参観があれば,なおさら,教師の腕を発揮する(腕を上げる)絶好の機会になるからである。

 ほとんどの学校では,少なくとも年3回程度は授業参観・懇談会がもたれるのが普通のようである。

 考えてみれば,1年間という期間からすれば,3回程度というのは実に少ない機会である。だから,なおさら,保護者は忙しい中にも時間をさいて,期待と不安そして関心をいだき,学校に足を運ぶのである。

 

Ⅰ どんな話をするべきか!?

 担任としては,会を盛り上げるために形態や方法,内容など様々な手立てを考えるだろう。

 では,具体的にはどんな話をすればいいのであろう。

 1学期末のPTA学級懇談会であれば多くの場合,「1学期の振り返り」「夏休みの生活について」「その他・連絡」で組み立てられることだろう。

 でもこれだけでは不十分なのである。

 懇談会(保護者会)に参加なされる保護者の方々というのは,やはり多くの場合何かを求めてくるわけであり,そして少なからず教育への関心(担任やPTA活動への関心含む)が高いものである。だとすれば,以上のような話で終始してしまうのは,あまりに平平凡凡すぎて退屈な時間を過ごしてしまうことになるに違いない。

 何しろ,タメになる話というよりは,報告・連絡的話としての意味合いが強いからだ。

 私は,保護者会で話をするとき,必ず心がけていることがある。

 これである。


 どの親も,メモをとりたくなる話か。
 

 一概には言えないが,参加される保護者は,


 教育力が高いとは言い切れないまでも,教育熱は高いことが多い。
 

のである。

何らかのタメになる情報を求めに,わざわざ赴いてきて下さっているのである。担任からの一方的な話で終始してはならないが,保護者の方々からの要望や困っていること,気になっていることを聞き入れながら教師は事実と考え(思想や理念と言ってもいい。)を分けて,心に響くように話を伝える必要がある。決して,気休めや思いつきで話をしてはならない。

それだけの責任が,教師にはある。

 

Ⅱ 保護者へのアンケートを活用して

 私は,1学期末(7/4)の保護者会で別紙の様なアンケートを使って話をした。

 ちなみに,当日は,授業参観がなく懇談会のみの開催であった。

 にも関わらず,22名の出席数であった。(本学級児童数39名)

 この日のために作成し用意したものである。

 話したことを再現してみる。

 

 学級委員長の挨拶,PTA各部からの連絡の後,簡単な挨拶から始める。


 お暑い中大変ご苦労様です。ようこそおいでくださいました。
 多数のご参加有難うございます。1学期最後の懇談会ですが,授業参観がないのが残念です。
 今,子供たちは算数の「小数のわり算」に根気強くとりくんでいるところです。クラス全体,ルールも徹底してきて,少しずつクラスが知的に色付き始めてきました。
 お母さん方から見て,いかがですか。子供さんのようすや成長ぶりを簡単でいいからお話ください。
 (    )さんからどうぞ。

 

・ノートの取り方ていねいになった。

・人の目を見て話すようになった。

・ノートの使い方よくなった。

・調理実習が楽しかったらしく,お手伝いをしてくれる。

・保健の学習で「身体の変化」に興味を持ってきた。教えられる範囲で教えてあげようと思う。

・ノートを使う量が増えてびっくりしている。

・成績はよくないが,毎日の勉強や学校が楽しいと言っている。

・討論の学習について,どう話せばいいのか聞かれた。

・字を書く濃さと大きさがよくなった。

・家庭学習以前より頑張っている。   

などが出された。


 有難うございました。実によく子供さんのこと見てらっしゃいますね。おほめの言葉もいただきましたが,全ての子供さんの成長は子供さん自身が努力して初めて表れてきます。素直だからこそ,私の拙い指導もきちんと受け入れてくれるのでしょう。
 

 


 ところで,今日はせっかくの機会ですから,とことん子供さんのこと,親としてのあり方など見つめ直してみたいと思います。
 

 アンケート用紙を配る。


 ちょっと私自身見直してみようと思いまして,作ってみたんですが,(1)から(25)まであります。1つずつ読んでいただきまして(  )にそうだなと思われたなら○を,そうではないなと思われたなら×(空欄でもいい)で書き込んでみてください。
 テストでも何でもありませんので,どうぞリラックスしてあまり考え込まずにお付け下さい。では,始めてください。

 

 授業と同じように机間巡視をしながら,「たくさん○付けてらっしゃいますね。すごいですね。」「私なんか10個ついたかどうかですよ。」などとおしゃべりするように雰囲気を和らげていく。

 ただし,机間巡視は1回きりにする。

 全員がまだ作業が終わっていなくても,2,3人終えたのなら次の様に言う。


 どうでしょうか。25ありますから1つ4点だとすれば,80点以上ならかなり優秀かな?50点以上なら合格。それ以下は「がんばりましょう」ってことになりましょうか。ちなみに私は「かなりがんばりましょう」でした。
 さて,途中であってもよろしいです。もしよろしければ手を挙げてください。(1〜6まで○付けられた方に挙手させる。)

 

 


 なるほど。有難うございました。すばらしいですね。それでは,ここでちょっと,テレビと親子の会話についてお話したいと思います。
 

 


【テレビの視聴時間について】
 テレビの視聴時間,コンピュータゲームなども含みますが,それが,子供の言語能力や思考力,持続力と深い関係にあるということをご存じでしょうか。
 長いことみていますと,悪影響を及ぼすよということなんです。
 小学生にとって,悪影響から守るための1日の限度は1時間半です。飛躍的に悪影響が出るのは1日5時間を越えるケースです。
 一般的に,毎日平均3時間くらいテレビをみている子供は,「忘れ物が多い」「持続性に欠ける」「ノートが雑」などの面が見られます。テレビはみる番組,みる時間帯をはっきりと家庭で決め,1日1時間半以内を守りたいものです。これはひとつの家庭のルールなのです。
 何より,家庭内での団らんや会話の時間帯を確保して欲しいのです。

 

 


【親子の会話について】
 さて,その親子の会話ですが,みなさんは子供さんと一日何分位会話していらっしゃいますか。(   )さん,いかがですか。
 会話なのですから,話し掛けとか言葉掛けとは違います。お互いに目と目を結んで話している時間です。
 このようなことをお聞きしますと,大抵の親御さんは「30分〜1時間くらい」とおっしゃいます。でも子供に同じような質問をしますと,なんと10分とか・・・驚いたことに10秒位などと答える子供さんも,まれにいるんです。
 親子の間に結構大きな隔たりがあるんですね。
 親は理想的状態と言いますか,願望意識で考えようとしますが,子供は事実で考えようとします。シビアなんですね。子供の方が。
 実際考えてみますと,まあご家庭の事情で違いはあるでしょうが会話が持てる時って決まっているんです。食事の時・お手伝いしているとき・一緒にお風呂に入っているとき・たまに外食しているとき・・・それ以外はほとんどないのでないでしょうか。
 子供たちに実際に考えてもらったことがあるんですが,起床して就寝するまでの時間表を作らせて,学校にいるとき,習いごとしているとき,スポ少,テレビ,遊びなどの時間を書き込んでいきますと,事実ほとんど会話の時間がとれていないということがわかるんです。(子供の書いた資料を拡大コピーして見せながら)
 このこと今度じっくり話題にしてみてください。

 

 このように事実で語ると,どの親も真剣に耳を傾けてくれた。

 次に同じように(7)〜(12)まで挙手させてみる。


【忘れ物・整理整頓について】
 夏休み中,いや今日からでも調べてみてください。子供さんの机の中や筆箱の中そしてランドセルの中。
 おもしろいめやすがあるので参考までにお話しましょう。
 机の上や中,ランドセルの中の整頓状態を毎日5点満点で評価をします。すると不思議なことに,一週間の減点は子供のその週にした忘れ物の数とほぼ等しいのです。
 高学年だからなどと思わずに,是非子供さんの持ち物に目を配ってみて下さい。新しいもの,目新しいものがあったり増えていたリするときも注意が必要です。

 

 (13)〜(17)まで同様に,つとめて明るく問答を楽しむように進める。ここでは「学習」について取り上げる。

 親にすれば,最も関心のあるところである。


【成績がふるわない子の親】
 なかなか成績が上がらないということで,御家庭から相談を受ける時がありますが,全体的に見ますと次の3つの親御さんのパターンがあるようです。
①あきらめてしまう親
②あきらめかかってしまうけど,そのうち何とかなるだろうと考えている親
③今のうちは,これでもよいと考え,そのうち何とかなると考えている親
 ②,③,①の順で多いようです。私は,特別な例や事情は除いて次の様に答えます。
「何とかなる」といいますが,はっきり言って「何もしなければ」「何とかならない」のですよって。
 いわゆる「何とかなる子」というのは,持続的に努力することができる子です。「何とかならない子」というのは努力を持続することが極端に弱い子です。たとえばある日,周囲に励まされ頑張った結果,100点取ったとしましょう。子供も親も当然喜び「やればできる。」ということを感じることでしょう。でも継続することを怠けてしまうために,また点数が下がってしまいます。
 「やればできる」のだが「続けるのができない子」なのです。
 その本質的なところを理解してやらないと,回りの大人は「やればできる」ことを過大に評価して「何とかなる」と言うわけです。
 私は,記憶力とか理解力は劣っていたとしても,持続力を育てていくことは非常に大切なことだと思っています。
 その力を持つ子が社会に出て,成功したという例はよく聞かれるところです。

 

 


【伸びる子の条件】
  さて,実は「伸びる子の条件」というものがあります。
  次の4つです。
①まずは,さっき言いました「続ける」ということです。
②2つ目は「ていねいさ」ということです。
 鉛筆の削り方ひとつ,消しゴムの減り方ひとつ,紙の折り方ひとつ見ても,学力と大いに関係あるのです。
③3つ目は,「まじめである」ということです。
「まじめ」をどう捕らえるかということにもよりますが,たとえばこういうようなことです。
 子供さんは,自分の机に毎日向かって座っていますか?
 机の前に毎日座る時間や習慣があるということは,それだけで大きな力になります。どのくらい違うかというと,中学校に入って1教科平均で10点は違うだろうと言われています。
 これはなかなか難しいことですが,完全にそうなるまでに2年はかかると言われますが,学年×10分をめやすに,その習慣を付けたいものです。
 始めのうちは,漫画でもいいです。お絵かきでもいいです。とにかく毎日机に向かっているという「まじめさ」が大きな力になるということです。
④最後に4つ目ですが,「挑戦する」ということです。まずやってみるというタイプです。このような子供は生命力が強いと言われます。友人も多かったりします。とにかく挑戦することで成功感と挫折感を味わってたくましくなっていくわけです。
 以上4つ考えていますが御自分の子供さんはどのタイプに近いでしょうか。


・1つくらいしかないのですが・・・・      (親A)


  全部有ったらお化けですよ。1つあったら上等ですよ。せいぜい2つもあればたいしたもんです。


・1つもないんですけれど・・・・        (親B)


 心配ありません。このタイプに似ているということを見つけ,そこの近い線を伸ばしていけばいいんです。
 間違っても3つ4つと欲張って求めないことでしょうね。

 

 


【勉強の仕方に目を配る】
 さて学習のことについてもう少し付け加えたいと思います。
 「お母さん,ここの勉強教えて。」と来たとき,どのようになさいますか。・・・・・・・・・
 私は,勉強を教えるということよりもむしろ,「勉強の仕方」を教えることが大事なことなのだと考えています。
 励まし,誉めながら,いっしょに勉強の仕方を探っていく。「わからない。」と言ったら,「どこまで分かる?」と聞いてやる。そして「分かる」ところまで戻って,もう一度やってみる。
 子供が「何が分からないのかを分かる」ことが,親の務めだと思うわけです。
 自分が何が分からないのか分かるということが大事なのです。
 例えば算数の練習問題では,できた問題には○印をつけておく。できなかったものには×やレ印を付けておく。次にやるときはその×やレだけをやればよい。その繰り返しです。それも一つの問題集だけでいい。あれもこれもとやるから何が分からないのか分からなくなってしまうんです。「繰り返し」というのはそういうやり方のことを言うんです。
 また漢字力をあげるならば,ドリル学習だけでなく日記にも目を向けて欲しいのです。漢字の力は,問題で間違った数に反比例するんじゃなく,一日の日記(作文)の中の使用量に比例するのです。
 このような見方で子供さんの勉強の仕方に目を向けていただきたいと思います。

 

 


【努力直線と成長曲線】
 ただ勉強の仕方も,毎日続けることで身についていくものです。
 そういう努力はやはり大事です。
 ただここで注目しておきたいのは,努力は段階的に重ねなければならないが,発達は加速的に訪れるということです。
 私は子供たちにこういうことをよく言います。


 上達したければ,努力を一つ一つ積み重ねるしかないのです。
 勉強でも遊びでもスポーツでも同じことです。でも努力したと言っても,上達は一歩一歩目に見えるように訪れてはきません。1日努力して1日分の上達が訪れるわけではないのです。
 ある日ちょっこっと泳げるようになったとします。10メートル位泳げるようになったとき,なぜか何度練習しても25メートルに届かない日々が続くことがあります。しかし,ある日突然に25メートル泳げちゃうということがあるんです。(努力直線と成長曲線のグラフを板書しながら)
 毎日毎日努力して,ちっとも成長しない日が続きます。でも目には見えないけれども,その努力は身体と脳に蓄えられているのです。人によって違いますが,100回ほどの蓄えができると,いっぺんに目で見えるようになるのです。

 

 

 続いて(18)について話す。


【砂糖と脳の関係】
 みなさんは,缶ジュースに含まれる砂糖の量がどれくらいか知っていますか?・・・・・・
 実は,平均で33.7gだそうです。角砂糖1個3g〜4gです
から,角砂糖10個分含まれているということになります。
 人間が一日に必要な砂糖の量が20g〜30gと言われていますから,毎日のように缶ジュースや清涼飲料水を飲んでいたりすると大変なことになってしまいます。
 砂糖の取り過ぎは,身体への影響だけではなく脳や心にも悪影響を及ぼすということが最近分かってきました。
 脳の一切を働かせる機能を持つのがカルシウムです。砂糖を取り過ぎると,カルシウムが身体に入りにくくなるのです。缶ジュース1本分の砂糖で,牛乳50本分のカルシウム補給が必要と言われるほどです。
 最近「キレル」子供が増えたというのは,イライラして自分で自分が抑えられない,つまり脳の働きが低くなってきた子供が増えたということなのだそうです。
 非行や犯罪行為と非常に関係のあることなんです。「食」という字は「人」を「良」くすると書きます。
 毎日の「食」生活をお互いに見直したいですね。

 

 この話の後,(19)〜(25)までについて,特に「しつけ」について話す。


【しつけの3原則〜育てるのは親の務め】
 時代が変わっても変わらないしつけの3原則というのがあるそうです。
①くつをそろえること,よその家に言っても自宅に返ってきてもきちんとかかとを揃えてそろえているか,椅子はきちんと入れてあるかということ
②「はい。」と返事をすること。家族の間でもきちんと返事が交わされているかということです。
③挨拶をすることです。


 この3つは,最低限度の躾として備わっていなければ社会で生きていくことは容易ではなくなるのです。
 人間は人間に育てられ,人間の行動を学ぶことで初めて人間らしくなるわけです。そういう意味から躾は大事です。「学ぶ」のもともとの語意は「まねぶ」「まねる」だそうです。
 狼に半年間育てられた人間の赤ん坊は,その後人間に育てられても,コップを持てるまでに5年もかかるそうです。人間に育てられれば1歳でできるようになることがです。
 やはり親の育て方一つなのです。
 でもアンケートにもありましたが,(25)ですが,これにはむしろ×が付くほうがよろしいかと思います。
 子供は親の言う通り,考えている通りには育たないそうです。親のする通りに育つそうです。肝に命じたいと思います。

 

 


【その他】
  最後にある本に,こういう文章が載っていましたので紹介して終わりたいと思います。


 家庭教育や学校教育,つまり教育は,菊好きの人間が菊を作るようにしてはならない。百姓が野菜や大根を作るようにすべきだ。


 きれいで目を引く菊を作るには小さな芽は全て摘み,一つだけ残して大輪の花をつけさせる,そういう教育であってはならないということでしょう。たとえ同じ畝であっても,違う日当り日陰で育った野菜や形の悪い大根であってもいとおしく一生懸命育てた物はどれもおいしいのだということなのでしょう。
  何か教えられるものがあるような気がします。

 

 


以上,一方的な話になってしまいまして申し訳ありませんでした。
おうちに帰られましたら,この資料を親子でもう一度ごらんになられまして,是非話題にして,会話をしていただけたらと思います。

 

 この後,質問を受付答えたあと「通知表の見方」「夏休みのくらし」「夏休みの学習課題」「その他・連絡」を数分で連絡し,別資料をおみやげに配って終了した。

 保護者の方は,誰もが熱い中,真剣にメモを取ってくださっていた。

 

○ おわりに

 かなり一方的で講話的なものになったが,年に1度くらいは教師のほうから保護者に是非とも伝えたい話材群である。

 今回のように欲張らず,一つのことについてじっくり語り,じっくり考えていただく機会も工夫していきたいと思っている。

 また,話だけでなく子供の事実を示す資料を準備し,提供することも喜ばれる。例えば子供の授業のノート,普段の学校生活の様子を映したVTR,テスト(丸付けしてもらうこともある)などである。

 なお,今回の話材は,全て『教え方のプロ・向山洋一全集(12)家庭教育の指針』(明治図書)におさめられている。是非お勧めの一冊である。教師必読の書である。

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