「十二人の怒れる男」
十二人の怒れる男 
       1957・米


製作:ヘンリー・フォンダ
製作:原作:脚本:
    レジナルド・ローズ
監督:シドニー・ルメット
撮影:ボリス・カウフマン
音楽:ケニヨン・ホプキンス

出演:ヘンリー・フォンダ
    リー・J・コップ
    エド・べグリー
    E・G・マーシャル
    マーティン・バルサム
    ジャック・ウォーデン


物語

真夏の法廷で、18才の少年が父親を刺殺した事件の裁判が行われた。
検察側の証人尋問が終わり、これから陪審員による評決に入るところだ。

●陪審員室
12人の陪審員たちが入ってきた。それぞれ、今日初めて会い、互いの名前も知らぬ間柄だ。「弁護士がベラベラしゃべっても結果は同じさ」 「今夜はナイターに行くんだ」 「早いとこ始めようぜ」 「検事は見事だった」 「すごい説得力だ」 「息子が父親を殺すとは!」 「世も末だ」
  
皆、てんでにしゃべりながら席に着いた。第1号陪審員が陪審員長となり、司会を始めた。「さて、まず討議してから投票しても良いし、今、投票してもいいが・・・」 「まず投票だ!」「それがいい、早く帰れるかも知れん」
司会「ただし、有罪に投票すると被告を電気椅子に送ることになります」 「わかってる!」  「では、有罪の人は?」 パラパラと手が上がった。11人。「では、無罪の人は?」
 たった1人、第8号陪審員(ヘンリー・フォンダ)が挙手をした。
「何故、無罪なんだ?」「必ずへそ曲がりがいる!」「証言を聞いたろ、父親の胸を10センチも刺したんだ」 
8号「話し合いたい」 「皆、有罪と言ってるんだぜ!」 

全員有罪の中、8号陪審員だけが一人、無罪を主張したのだ。 
8号「私まで有罪だと、あまりにも簡単に死刑が決ってしまう」
8号への反論は様々だ。10号「彼は悲惨な人生を送ってきた。スラムで生まれ、9歳で母親と死別、父親は詐欺師で、1年半施設で過ごした。最悪の環境が彼のすさんだ性格を作ったんだ。あいつらは、生まれつき嘘つきだ!」「へー、そんなあんたは、完璧な人間か?」と、別な声。「「階下の老人がぶっ殺してやるという声を聞いてる」「少年が逃げるのを見ている」「犯行時間に見たという映画の題名を覚えていない」「目撃者がいる。向かいのアパートから彼がナイフで父親を刺すのを見ている」「前歴を見ろ、ナイフの腕は良かったらしい」
8号「状況からみると有罪にみえる。しかし、6日間、証言を聞くうちに、あまりに明白なのでかえって奇妙な気がした。弁護士は反論していない。手抜きではないか?」 8号は続ける。「目撃者は女性一人だけ、あとは階下の老人が物音を聞いた。・・・この二人の証言が間違っているとしたら・・・」 「どう違うんだ!証言台で誓ったのだぞ!」 8号「人間なら間違いもある」

一人が言った。「ナイフをどう説明する。少年はあの晩買ったと認めている」 ナイフがその場に運ばれた。柄と刃にかなり特徴がある。「少年が落としたというナイフを偶然拾った人物が、偶然少年の父親を刺したというのか?」
 8号「誰かが似たナイフで刺した可能性はある!」 「めったに無い珍しいナイフだぞ」 その時、8号はポケットからやおら取り出したナイフをテーブルに突き立てた。まったく、そっくりなナイフである。皆、騒然とする。「彼の家の近くの質屋で買ったものだ」と8号。世の中に似たものはある、と8号は主張したのだ。
このままでは埒があかない。
8号は言った。「提案がある。皆さん方で無記名投票してください。全員有罪なら、私も従う」 投票の結果、一人、無罪の投票があった!!

さらに、白熱の議論が続く。
8号は言った。「目撃した女性は向かいのアパートから、通過する電車の空の車両越しに少年が刺すのを見たという。その時、階下の老人が物音を聞くのは、電車の音で遮られ無理ではないか?」 「陪審員長、無罪に転向したい」と名乗り出た人物はスラム出身であった。再投票した結果、有罪8、無罪4となる。

8号は、老人が物音を聞いてから、ベッドからドアへ歩いて行き、少年が逃げる姿を目撃したという、15秒間を再現した。足の悪い老人の足では40秒もかかることが解った。 3号は最初から強行な有罪論者だ。「皆んなどうかしてるぜ!これはペテンだ!あいつは死刑に決まってる。電気椅子に送りこもうぜ!」 8号は立ち上がった。「個人的な感情で死刑にできるのか?サディストだ!あわれな人だ」 「なにを!」3号が8号に掴みかかろうとしたのを皆が止めた。11号が言った。「私たちは争うために集まったのでは無い。郵便で通告を受け、一面識もない人間の有罪、無罪を公正に決定するために集まったのです。・・・私情は押さえるべきです。」  再投票で、6対6になった。

外は土砂降りの雨になった。
さらに、8号は父親に刺さったナイフが胸から下向きになっていたことに疑問を投げた。スラム出身の11号は言う。「昔、ナイフの喧嘩をよく見た。普通、飛び出しナイフはこう持ってそのまま刺す」ナイフは胸に上向きに刺さる形になる。再投票で9対3。無罪が優勢になった。

冷静な中に、8号の鋭い指摘に敬意を感じていた4号は、あくまで有罪を主張。「しかし、目撃した女性がいる限り、有罪はゆずれない・・・」と、その時、4号はめがねの跡が痒いのか、鼻をかいた。9号は見逃さなかった。9号「あの女性もいまのあなたのように鼻をかいていた!法廷ではめがねをかけていなかったが、目が悪いのではないのか?」 これには4号も反論できない。 再投票して、11対1。とうとう、有罪を主張する者は3号一人になった。「誰が何と言ったって有罪だ!皆んな、どうかしてる。チキショー!・・・俺の負けだ・・・無罪・・・・」 3号はテーブルに突っ伏した。

かくして、12人全員が無罪を表明するに至った。散りじりに裁判所を出る陪審員たち。8号に9号の老人が声をかけてきた。「お名前は?」 
8号「デイビスです」 二人は握手して別れた。 先程までの雨が嘘のように止んでいた。
映画館主から

実に後味の良い室内ドラマに仕上がっています。陪審員制度は選考された12人の市民が、有罪か無罪かを判定するものですが、人の命を左右する厳粛な作業です。たった一人無罪を主張した陪審員が、自分の率直な疑問を全員に投げかけ、安直な有罪論者を序々に覆していく過程はまさにサスペンスフルで、感動的です。
ルメットは、この陪審員室だけで12人が演ずるドラマを、取り外し可能なセットを用い、全部で397のカットでつなぎ、95分の物語と上映時間を一致させました。ヒッチコックの「ロープ」’48と似ていますが、こちらはヒッチコックの魔術、ワンカット撮影です。

テレビ界出身のシドニー・ルメットはこの作品で映画界に踊り出ました。社会派の巨匠、ニューヨーク派の巨匠として、現在も活躍中です。花形ディレクター時代には、5年間で500本のドラマを手がけたという驚異的な仕事の虫。
映画も「質屋」’65、「セルピコ」’73、「狼たちの午後」’75、「ネットワーク」’76、「評決」’82など、社会派としての作品のほか、「オリエント急行殺人事件」’74、「デストラップ/死の罠」’82、「ファミリービジネス」’89など、娯楽色の濃い作品も多く手がけています。

主演のヘンリー・フォンダは、冷静な落ち着いた演技で、代表作の一つになりました。この映画では製作も勤め、配役もルメットとともに決めたそうです。中でも、最後まで有罪を主張した3号陪審員を演じたリー・J・コップがベテランらしく強烈な印象を残しています。1号の司会役、マーティン・バルサムはこの後、「サイコ」’60の探偵役で知られます。
ベルリン映画祭、金熊賞受賞作品です。

   参考文献:「THE MOVIE」 ディアゴスティー二

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