「アマデウス」
アマデウス 1984・米
「アマデウス」 老サリエリは回想する

製作総指揮:
    マイケル・ハウスマン
製作:ソウル・ゼインツ
監督:ミロス・フォアマン
原作:脚本:
    ピーター・シェーファー
撮影:ミロスラフ・オンドリチェフ
音楽:ネビル・マリナー

出演:F・マーリー・エイブラハム
    トム・ハルス
    エリザベス・ベリッジ
    ロイ・ドートリス
    サイモン・キャロウ
    ジェフリー・ジョーンズ

サリエリとモーツァルト

サリエリ(右)のF・マーレイ・エイブラハム

黒い仮面の父(右)

ドン・ジョバンニのモーツァルト

鎮魂曲を書くモーツァルト

アマデウス
物語

「モーツァルト!・・・私を許してくれ! 告白する!私は君を殺した!・・・私に慈悲を!君を殺した私を許してくれ!」
年老いたサリエリの叫ぶ声が部屋から聞こえた。ただならぬ気配に男たちがドアを押し開けた。
そこには、床に座ったサリエリ(F・マーリー・エイブラハム)が自らの咽喉を剃刀で掻き切り、血で染まった元宮廷作曲家の異様な姿が横たわっていた。

若い神父が精神病棟を訪れた。幸い一命を取り留めた老サリエリの魂を慰めるためだ。サリエリは俯いて与えられた小さなピアノを弾いていた。
「・・・ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト・・・」 サリエリが囁いた。
「貴方が殺したとか・・・」若い神父が訊ねた。
「聞いたのか?」 「何か告白したいのなら話しなさい、安らぎが得られます」
「・・・彼は・・・私の理想だった・・・」 サリエリは夢見るように話し始めた。

モーツァルトは、音楽に理解のある父を持ち、幼い頃から驚くべき才能を発揮した。だが、サリエリの父はまったく理解しなかった。少年サリエリにとって音楽が全てであるということを。サリエリはモーツァルトが妬ましかった。
サリエリは神に祈った。「神よ、私を偉大な作曲家に!音楽を通じてあなたを称えます、この身にも栄光を!世界に及ぶ不滅の名声をお与えください!」

やがて、奇跡が起こった。父が咽喉に食い物を詰まらせ、あっけなく死んだのだ。小さな田舎町にくすぶっていた名も無い少年サリエリがこのウィーンへやって来た。音楽を愛好するヨゼフ皇帝(ジェフリー・ジョーンズ)のもとで数年、サリエリは宮廷作曲家に出世した。皇帝は実のところ音痴だったがサリエリの音楽を愛した。
「そこへ、あいつが、・・・」 老サリエリが苦々しい表情で声を絞りだした。
「モーツァルトがウィーンでコンサートを開いた・・・場所はザルツブルグ大司教の館、その夜が私の人生を変えたのだ・・・」

モーツァルトは、4歳でコンチェルトを書き、7歳でシンフォニー、12歳でオペラ・・・どんな奴だろう・・・
演奏会の直前にサリエリが盗み見たモーツァルトは、下品な言葉を連発しながら女の尻を追い回す卑猥な若者だった。甲高い哄笑が軽薄な人格を物語っていた。
「・・・しかし、一旦演奏に入ると人が違った。それは、今まで知らなかった音楽だった。まるで、神の声を聞いているようだ・・・」 老サリエリは昨日のことのようにうっとりとした。
『・・・だが、何故だ、神は何故、あんなゲスな子供を選びたもうたのか・・・』

ヨーゼフ皇帝に面会するモーツァルト。スティーテン男爵、宮廷楽長、帝室オペラ劇場監督、そして、宮廷作曲家サリエリが紹介される。
その場で、モーツァルトはサリエリのモーツァルトを迎えるための小曲、ヨーゼフ皇帝自らこの曲を弾き、「いい曲だ」と言ったその曲を「ヘンテコな曲」と愚弄したのだ。こうした方がまだましだと、サリエリの小曲を変えて弾いてみせた。確かにその方が良いと誰もが感じた。
・・・・・・サリエリは無言で微少を浮かべていたが、はらわたが煮え繰り返った・・・・サリエリは神を呪った・・・

モーツァルトはコンスタンツェ(エリザベス・ベリッジ)と結婚した。
ある日、モーツァルト夫人、コンスタンツェがサリエリを訪れた。夫の楽譜を内緒で持ち出し値踏みをしに来たのだった。サリエリはその楽譜を見て陶酔した。
『信じられない、素晴らしい音楽、全てがオリジナルというのに書き直した個所がない!書く前に頭の中で出来上がっているのだ。完璧だった。ここには神の声が書かれていた』
サリエリは十字架のキリスト像に向かった。
「あんたは敵だ!あんたはあの生意気な小僧を選んだ。好色で下品で幼稚なあの若者を・・・不公平だ」
サリエリは神に復讐することを誓った。「あんたの息のかかった、あいつを滅ぼす!」

モーツァルトのアパートを訪れた父レオポルド(ロイ・ドートリス)は、息子の住居のあまりの汚さに仰天する。嫁は何をしているのだ。
モーツァルトは父レオポルトを仮面舞踏会へ招待した。レオポルトは黒い仮面をかぶり、息子達の狂乱ぶりに幻滅した。モーツアルトの罰ゲームで、「ザルツブルグへ戻るのだ」と、父は言った。「この場の罰ゲームですよ」モーツァルトははしゃいだ。
その時、「サリエリを・・・」の声が。仮面をかぶったサリエリだった。
「サリエリ!それはいい」 モーツァルトはサリエリの曲をピアノで弾きながら思い切り罵倒したのだった。
「彼ではない、神が嘲笑ったのだ!神があの下品な声を通して笑っていた!」老サリエリが声を絞り出す。

サリエリはモーツァルトのアパートへ密偵としてのメイドを差し向けた。滞在していたモーツァルトの父、レオポルドは「素性の解からん女を入れていいのか」と、メイドの受け入れに反対したが、嫁コンスタンツェは、「金はかからないんでしょ」と受け入れるのだった。舅と嫁は対立し、モーツァルトは辟易していた。
そして、サリエリはモーツァルトの留守の機会を知り、メイドの手引きでモーツァルトの部屋に入った。そして見た。モーツァルトの新曲「フィガロの結婚」の楽譜を!

「フィガロの結婚」はフランスで書かれた戯曲で、皇帝は上演を禁止していたのだ。呼びつけられたモーツァルトに皇帝は言い渡した。「これは階級対立を引き起こす、フランスがいい例ではないか」
しかし、モーツァルトは強引にリハーサルを始めた。皇帝も顔を見せた。
『「フィガロの結婚」それは、舌をまく程の出来栄え』サリエリは完全に敗北を意識した。

モーツァルトに父レオポルドの死の知らせが入った。
「・・・『ドン・ジョバンニ』・・・彼は父親の死までオペラにした。自分の父を墓場から蘇えらせ、息子を非難したのだ。それは、恐ろしく見事な舞台だった。
・・・そして、私の狂気が始まった・・・精神が分裂を始めた。私は思いついた・・・神に思い知らせる恐ろしい手段を・・・

ある雪の日、モーツァルトのもとへ、黒い仮面をかぶった男が現れた。モーツァルトは凍りついた。かって仮装舞踏会で父レオポルドがかぶっていた仮面と同じだった。
「君に仕事を頼みたい」 男は言った。モーツァルトは恐れ慄く。
「鎮魂曲を」 男が差し出した金を受け取る。「このことは他言無用だ」男は立ち去った。
『単純な計画だ。彼を殺す。彼の葬式だ。中央に安置された小さな棺。そして、天上の音楽とまがう響きが人々を包む。モーツァルトを悼む鎮魂ミサ。作曲者は生前の彼の最良の友人、アントニオ・サリエリ・・・神はそれを聞く。今度こそ私が笑う番だ。だが、どうやって殺す・・・それが問題だった・・・』

モーツァルトは鎮魂曲を書き始めた。壁に掛かった父レオポルドの肖像画が彼を睨んでいる。彼は何かに憑かれたように恐れおののき朝から酒と薬を飲みながらの作曲だ。
それに大衆芝居の座長にも作曲を頼まれ引き受けてしまっていた。黒い仮面の男は仕事の進捗を見に来る。モーツァルトは次第に消耗していった。
妻のコンスタンツェが寝てしまうと、夜中に抜け出して大衆芝居の仲間たちと乱痴気騒ぎをして気を紛らわすモーツァルト。
朝、ふらふらになりながら家に帰ると、コンスタンツェの母が待っており、妻と子の姿がない。
「娘たちは温泉に静養に行かせました。まったく、貴方は自分のことと音楽だけの身勝手な男だわ!」 嫁の母親のヒステリックに叫ぶ顔を見て、モーツァルトは大衆芝居に使える!と思うのだった。

大衆芝居小屋でのオペラ。指揮をするのはモーツァルト。顔色が冴えない。
サリエリも客席で鑑賞していた。サリエリはモーツァルトの様子がおかしいのに気付いた。そして、モーツァルトが倒れた。
サリエリは馬車でモーツァルトを彼の家まで運んだ。妻と子がいない。
気が付いたモーツァルトはサリエリに感謝の礼を言った。「貴方は親切だ。オペラを見に来てくださった」 「君の作品を見逃す訳がない」 「大衆芝居ですよ」 「とんでもない、素晴らしい作品だ」
その時、ドアをノックする音が。「あいつだ!追い払ってくれ、曲はまだできていないと」 サリエリがドアを開けると、大衆芝居の座長と仲間たちがモーツァルトを心配してやって来たのだった。サリエリはていよく追い払った。座長は分け前だと言い、金を渡した。
モーツァルトのベッドに近づいたサリエリから出た言葉は、「明日の夜までに仕上げれば、100ダカット支払うと言っていた」 
「そんなに?・・・だが、明日の夜なんて、無理だ・・・」
「よければ、私が手伝おう」とサリエリは言った。

ベッドのモーツァルトが指示した曲をサリエリが楽譜に書く作業が延々と続く。モーツァルトの消耗が激しい。朝が来て、サリエリがあまりに協力的なのに礼を言うモーツァルト。「私は恥ずかしい。馬鹿だった。あんたに嫌われていると思ってた・・・許してくれ・・・」
妻コンスタンツェと子供が帰ってきた。サリエリが部屋にいるので驚く。
「お引取りを」コンスタンツェが言った。だが、この時、すでにモーツァルトはベッドの上で死んでいたのだ。

老サリエリは若い神父に語る。「君の慈悲深い神は、愛する者の命を奪い、凡庸な才能の人間には栄光のお裾分けも与えなかった。神はモーツァルトを殺し、私には苦しみの日々を・・・以来32年間の苦痛に満ちた日々。自分が徐々に忘れ去られて、私の音楽がすたれていく。今ではまったく演奏もされない。・・・ひきかえ彼の音楽は・・・」
若い神父はサリエリの長い述懐を聞き、打ちのめされていた。サリエリの苦悩を自分には解く手立てがないのだ。

老サリエリは支離滅裂な言葉を発した。「私は凡庸な人間の代表だ、彼らの守り神だ!」
老サリエリが車椅子で運ばれていく。精神を病んだ患者たちが廊下に溢れている。
「君らの罪を許そう!凡庸なる者よ!」 運ばれながら微笑んだサリエリの口から一瞬、モーツァルトの甲高い哄笑が漏れた。

     モーツァルトのトム・ハルス
映画館主から

監督のミロス・フォアマンはチェコスロバキア生まれで、両親はユダヤ人。両親は第二次大戦中、ナチの強制収容所で死去しています。
ロマン・ポランスキーと似た経歴の持ち主です。アメリカへの亡命後、コメディやミュンヘン・オリンピックの記録映画の部分監督を務めていましたが、’75年、「カッコーの巣の上で」(主演:ジャック・ニコルソン)という問題作を発表して、アカデミー主要5部門独占という快挙を成し遂げました。

そして、この「アマデウス」という、ミステリアスな話題作です。モーツァルトは実際は殺されたのでは、という大胆な仮説に基づき、宮廷作曲家サリエリの人間像を浮き彫りにしていきます。36歳で亡くなったモーツァルトの埋葬には誰も参加しなかったため、どこに埋葬されたのかは不明とされているそうです。

自殺を図り精神病院に入れられた老サリエリの回想が映画の大部分です。若きモーツァルトの才能に嫉妬するサリエリ、それは次第に神への憎悪となり、神への復讐と変化していきます。サリエリの計略通り、モーツァルト自身の鎮魂曲をサリエリが手伝って作るラストは壮絶なものがあります。
そして、モーツァルトの死。サリエリはそれから32年もの長い間、モーツァルトの呪縛から解放されることはなかったのです。自殺を図っても神は死なせてはくれません。そうなれば、サリエリは自らが神のような存在になるしか方法がなかったのでありましょう。

演技陣も良く、アカデミー主演男優賞にはモーツァルト役のトム・ハルスとサリエリ役のF・マーレイ・エイブラハムが揃ってノミネートされましたが、受賞したのはサリエリの方でした。
アカデミー賞、作品、監督、主演男優(F・マーリー・エイブラハム)、脚色、美術監督、衣裳デザイン、メイクアップ、音響の8部門で受賞の大作です。
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