| 炎のランナー 1981・英 | |
![]() 製作:デビッド・パットナム 監督:ヒュー・ハドソン 脚本:コリン・ウエランド 撮影:デビッド・ワトキン 音楽:ヴァンゲリス 出演:ベン・クロス イアン・ホルム イアン・チャールソン ニコラス・ファレル ジョン・ギールグッド リンゼイ・アンダーソン シェリル・キャンベル アリス・クリージャ ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 1924年。イギリスのオリンピック選手団が海岸端を走る。 若き息吹に燃えた砂浜の足跡を打ち寄せる波が消していく。一団は今、ケント州のカールトン・ホテルでオリンピックに向けた最後の合宿の最中だった。 この中のハロルドとエリックという二人の選手を中心にドラマが進行していく。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1919年、ケンブリッジ大学のキーズ・カレッジの新入生、ハロルド・モーリス・エイブラハム(ベン・クロス)は【カレッジ・ダッシュ】に挑戦した。 【カレッジ・ダッシュ】とは、カレッジの中庭一周200メートルを時計が12時を合図にスタートし、12の鐘が打ち終わる前に走りきるというもので、過去700年、成功者無しと言われているのだ。 ユダヤ人であるハロルドを快く思っていない学長(ジョン・ギールグッド)と学寮長が中庭を窓から見ていた。ハロルドの俊足は早くも知られていた。 「彼の足は速いのか」 「風の如しです」 学寮長は答えた。 見物人が集まった中に、ハロルドが時計の合図を待っていた。 「もう一人いるぞ!」 そこにやってきたのはリンゼイだった。「僕も挑戦する」 時計が12時の鐘を打ち始めた。同時にダッシュする二人。見物人の間を猛烈なスピードで駆け抜ける二人。・・・10、11、12。ハロルドは直前にゴールし、リンゼイは一瞬遅れたが健闘した。 全員がハロルドを称え、沸きかえった。 「やはりユダヤ人は『神に選ばれた民』なのかな・・・」 窓から一部始終を見ていた学長が呟いた。 そんなハロルドは自分がユダヤ人であることに思い悩んだ。 『ユダヤ人であるということは、痛みと絶望と怒りを持つことだ。妄想だと思おうとしても人々の顔色に、言葉の端々に、握手する手の冷たさを感じてしまう・・・』 彼は金融業を営む父親を敬愛していたが、『・・・だが、父はひとつ忘れている。英国はキリスト教徒とアングロ・サクソンの国であり、彼らが嫉妬と憎悪で他の者を占め出している・・・』 と思うのだ。ハロルドは偏見に挑戦する意思を深めていく。イギリス人としての誇りを持ち、様々な大会で実績を重ねていくのである。彼がオリンピックで金メダルを目指すのは社会のユダヤ人に対する偏見への挑戦でもあった。 1920年。スコットランドの緑溢れる高地で開かれた運動会。 子供たちに賞を手渡すのはスコットランドの人気走者エリック・ヘンリー・リデル(イアン・チャールソン)である。 余興で200ヤード・オープンレースに参加したエリックは、独特の顎を上げた走り方で皆の期待通りトップでゴールし、少年達の歓迎を受けた。 エリックは伝道師の息子で、父の仕事の関係で中国で生まれ、5歳のときにスコットランドに戻ってきた。そして彼も伝道師としての道を歩んでいた。俊足の彼は、陸上競技で力を示すことは、キリスト教伝道において効果的なことと考えていた。 しかし、彼の妹ジェニー(シェリル・キャンベル)は、兄が陸上競技に熱を入れることを恐れていた。そのまま伝道から離れてしまうのではないかと。 だが、そんなジェニーの心配をよそにエリックはスコットランドの陸上競技に次々と出場し、そこで説教も行った。 「・・・ゴールに向かう力はあなた方の中から湧き出ます。・・・主の愛に身をゆだねること、それがゴールへの最短距離なのです・・・」 イングランド対フランスの競技会。ハロルドは評判のエリックを見るためにやって来たのだが、そこでエリックの走りを目の当たりにしてショックを受ける。 エリックは他の選手の妨害に合い、突き飛ばされ転倒したにも関わらず、すかさず起き上がり独特な動物的走りでトップでゴールしたのである。 ハロルドはそこで出会ったプロのコーチ、サム・マサビーニ(イアン・ホルム)に自分のコーチを依頼した。 「私は速い、あなたの力があれば誰よりも速く走れる、金メダルが欲しい」 サムは言った。「君を観察し、力になれる、メダルが取れると思ったら一刻も無駄にはしない。今度頼む時はコーチが頼む時だ。見込んだら最後、とことんしごくぞ」 友人たちと観劇に出かけたハロルドは、舞台に出演していた女優シビル・ゴードン(アリス・クリージャ)にひと目惚れした。積極果敢なハロルドの情熱は成功し、舞台がはねた後、シビルを食事に誘った。 「どうして走るの?走るの好き?」 ハロルドは答える。「中毒以上に、戦いの武器だ・・・」 イングランド対スコットランドの対抗競技会の日がやって来た。 ハロルドとエリックの初対決であった。結果はハロルドの参敗である。 落ち込むハロルドを慰めるシビルだが、エリックとの能力差は決定的だけにハロルドは悩む。 「・・・何を目標にしたらいいんだ・・・」 そんなハロルドの前にコーチのサムが現れた。 「あと2歩は私が保証しよう」 サムはハロルドの素質を認め、自らコーチを買って出たのだ。 サムはハロルドに歴代の選手のスライドを見せる。そしてハロルドはサムをコーチに猛練習を開始した。 ハロルドは学長たちに軽い食事に招待された。専任のコーチを付けてプロ化した訓練に全霊を傾けるハロルドに意見するためであった。 「君のやり方は下賎だ」 学長の言葉の裏にはユダヤ人に対する潜在的な差別意識が潜んでいる。コーチのサム・マサビーニがイタリア系且つアラブ系の人間だというのも気に食わない。 「私は自己の能力の探求につとめ、自分の力に賭ける」 ハロルドは部屋を出た。 学長は学寮長に言う。「・・・あれがユダヤ人というものだ。神が違えば、目的も違う」 ハロルドとエリックたちケンブリッジ学生がオリンピック選手に選ばれた。 ハロルドは100mと200m、エリックは100m、アンディは400mとハードル、ストラードは1600m、オーブリーは障害物競走などである。 しかし、敬虔なクリスチャンのエリックにとって、オリンピック出場が危ぶまれる事態が起こった。 100m走の予選が安息日である日曜日に行われるというのだ。伝道師の立場としてエリックは思い悩む。棄権すべきか否か・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1924年、第8回パリ・オリンピックが開催された。参加国数44カ国の選手団の行進。大会の標語は“より速く、より高く、より強く”であった。 晩餐会の席上、日曜日の100m予選を棄権するというエリックに対し、その態度を傲慢と批難したカドガン卿にエリックは声を荒げた。 「個人の信仰に立ち入るのが傲慢だ!」 そんな時、アンディが部屋に入って来た。彼はすでにハードルで銀メダルを獲得していた。そして彼の400m出場の権利をエリックに譲ると申し出たのだった。 その場にいた全員がアンディの申し出に賛成し、エリックは400m走に出場することになった。 コーチ、サムの特訓を受けたハロルドは緊張の面持ちで100m走の決勝に挑み、見事金メダルを獲得した。 サムは競技場に隣接するホテルの部屋から、ユニオン・ジャックが掲揚され、イギリス国歌が聞こえてきた時、ハロルドの快挙を知ったのである。 「My son・・・」と呟き、感無量でハットを打ち破る。 そして、エリックの400m走では相変わらずの独特のフォームでトップを飾り、金メダルを獲得したのである。 |
| 映画館主から 1924年のパリ・オリンピックを舞台に実在した人物を描いたスポーツ青春群像。 監督のヒュー・ハドソンは、コマーシャルやドキュメンタリー出身の力量を発揮し、長短のショットやスローモーションを組み合わせて、人間が走る姿を感動的なまでに高めています。 私が高校2年生の時の市川崑監督作品「東京オリンピック」は記録か、芸術かという論争を巻き起こしましたが、本作を見てそれを思い出しました。 ユダヤ人であるハロルドは、人種偏見に打ち勝つために走る。敬虔なクリスチャンであるエリックは、俊足を神の贈り物と受け止め、『神のために走る』。 ベン・クロス、イアン・チャールソン共に飾りのない演技で好感がもてます。 プロのコーチを演ずるベテラン、イアン・ホルム(「未来世紀ブラジル」「ロード・オブ・ザ・リング」など)も場面を引き締めてくれました。 映画ではユダヤ偏見の場面があまりないのですが、やはりキリスト教の国にあっては相当根深い問題なのでありましょう。 また、聖職者エリックが安息日の日曜日には出場を拒否するといったエピソードも、いかにもキリスト教の国であり、個の主張を守り抜いた意志を清々しく感じさせます。 実在のハロルドは、その後、弁護士、キャスター、スポーツ組織指導者という立場でイギリスのアマチュアスポーツ界に貢献し1978年に亡くなりました。 一方エリックは、生まれ故郷の中国に渡り宣教師となり、日本軍の捕虜収容所に抑留されたまま1945年に亡くなったそうです。 映画の冒頭、海岸を走る青年たちに重なるヴァンゲリスのテーマ曲は崇高であり、その後のスポーツ番組などの定番になっています。 アカデミー、作品、脚本、作曲、衣裳デザイン賞受賞作品です。 参考文献:「THE MOVIE 1981年」 デアゴスティーニ |
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