| 激突! 1971・米 | |
![]() 製作:ジョージ・エクスタイン 監督:スティーブン・スピルバーグ 原作:脚本: リチャード・マシスン 撮影:ジャック・マータ 音楽:ビリー・ゴールデンバーグ 出演:デニス・ウィーバー タンクローリー その他 ![]() ![]() ![]() |
物語 わたしの名はデイブ・マン(デニス・ウィーバー)。知人に貸した金を取り立てるため、朝早く郊外の自宅を出て赤いプリムス・ヴァリアントを走らせていた。 バリー大通りからサウス・ストリート。ラジオから流れる交通情報。いつもと変わりない町の風景だ。 ハイウエイを抜けてカリフォルニア州を南に向かった。やがて殺風景な一本道が果てしなく続く。ラジオから流れる人生相談の会話。 前方に黒いタンクローリーがのろくさと走っている。おまけにディーゼル特有の黒々した煙を煙突から吐き出している。 わたしはむせた。「ちぇっ、公害問題でもやれ!」 わたしはラジオに向かって文句を言った。 思い切ってわたしはタンクローリーを追い抜いた。前には1台の車も走っていない。 するとタンクローリーがわたしの車を追い越していった。そのくせ、タンクローリーは又のろのろと前方を塞いでしまう。煙突から煙を吐き出しながら。 わたしは再度タンクローリーを追い越した。タンクローリーは怒ったようにクラクションを鳴らし続けている。バックミラーを見る。すぐ後ろに迫っている。「ちぇっ、何て奴だ」 わたしはアクセルを全開にしてスピードを上げた。タンクローリーが見る見る遠ざかった。 ガソリン・スタンドに入った。するとタンクローリーが追いついてきてわたしの隣のスタンドにつけるではないか。タンクローリーの運転席に奴の手が見えた。が、顔は見えない。スタンドの店員が窓を拭いている隙に奴は降りたらしい。タンクローリーの向う側に奴の足が見えた。ジーンズに茶色の長靴を履いている。 ガソリンを満タンに頼み、電話を借りた。実は昨夜、女房と些細なことで喧嘩したのだ。今朝出てくる時にはまだ寝ていたので黙ってきたのだ。 「早めに仕事を済ませて帰る」 とわたしは言った。まだ女房の機嫌が直ってはいないようだった。 わたしはタンクローリーより先にスタンドを出た。しばらくすると後方にタンクローリーの姿が見えてきた。スピードが出ている。たちまちすぐ後ろに追いついた。 わたしは辟易し、窓から手を出して先に行けと合図した。タンクローリーはわたしを追い抜き、又もやスピードを落とす。嫌味な奴だ。明らかにわたしの邪魔をしているとしか思えない。 「ゆづってやっただろ!早く行けよ!」 煙が目にしみる。時計に目をやる。 《この先追い越し車線》 の標識が見えた。わたしはタンクローリーを追い越そうとした。するとタンクローリーは行く手を阻むように蛇行し始めた。右へ左へ嫌がらせを始めたのだ。 「やってくれるね、どういう気だ、信じられん」 わたしは時計が気になった。「遊んでいる暇はないんだ」 わたしはいらいらし、クラクションを鳴らした。大きく右にカーブしている、その時、タンクローリーの運転手の腕が窓から先に行けと手招きした。 「分かればいいんだよ」 わたしは気を良くして追い越そうとした、瞬間!対向車線に1台の車が向かって来た!スワッ!わたしは危うくハンドルを切りタンクローリーの後ろに逃れた。「何て奴だ!」 奴は対向車が来るタイミングで手招きしたに違いない。こんなことをしていたら約束の時間に間に合わないではないか。 「いいだろう、遊んでやるさ」 わたしは開き直った。本線から脇にはずれた道を猛スピードで走り抜け本線に戻った。してやった!ヒャッホー!タンクローリーは後方をのろのろ走ってくる。わたしは小躍りした。見る見る後方へ遠ざかるタンクローリー。様を見ろ!奴め、あきらめたか。 《CHUCK’S CAFE》の看板が見えた。気が付くとタンクローリーがもの凄い勢いで追ってきた。鳴り続けるクラクション。60,70,80・・・わたしは必死で逃げた。90,100・・・スピードメーターの針は動く。田舎道を走るスピードではない。前方に建物が見え、空き地があった。わたしの車はそこへ滑り込んだ。砂煙をあげ、木の柵に車の横腹をぶち当ててやっと止まった。 「大丈夫か?」 老人が覗き込んでいる。わたしは首を痛めたようだ。 「殺されかけた・・・」 わたしは首を押さえて言った。「殺すだと?」 「下りの道を凄い勢いで・・・150キロくらいだ、人殺しだよ・・・」 「むち打ちだね」 老人は言った。 わたしは《CHUCK’S CAFE》のトイレを借りた。顔を洗って一息つく。なんてことだ、信じられん。いつものようにただ道を走っていただけだ。人殺しに出会うなどと考えもせずに・・・突然こんなことに・・・危うく命を落とすところだった。これじゃまるでジャングルだ。まあいいか、済んだことだ。 トイレから出てわたしは愕然とした。窓の外にタンクローリーが止まっている。ということは、奴はこのカフェの中にいる! ビリヤードに興ずる男、そのむこうのカウンターでビールを飲む数人の男。ジーンズに長靴の男が何人もいる。こいつか?あいつか?見れば皆疑わしい。 わたしはテーブルにつきウェイトレスに食事を注文した。「ライ麦パンにスイス・チーズを、それにアスピリンをくれ」 「頭痛なのね」 ウェイトレスは下がっていった。 じっくり店の客たちを観察した。・・・どういう気だ、たかが2、3回追い越しただけだろう。まともじゃない。異常者だ。どうする・・・ 今すぐに出てみるか。でも奴が追ってきたら・・・頑張ってもすぐに追いつかれる。奴のは凄いディーゼルだ。わたしの車では勝てん。せいぜい150キロが限度だ。ちょっと気を抜けばたちまち100キロに落ちる。どうする、落ち着け・・・ そうだ、直接話してみよう。 “追い越しが気に障ったかい、ビールでも奢るよ”・・・駄目だ。・・・警察でも呼ぶか・・・余計な時間がかかるな・・・尋問されても“知らん”の一言で終わりだ・・・ その時、わたしが奴と睨んだ男が勘定を済ませて店を出て行った。男はタンクローリーの方へ歩いていく。やっぱり奴だ!と、思いきや男は陰になっていた乗用車に乗って行ってしまった。 まだ奴は店の中にいるのか。ジーンズに長靴・・・隅のテーブルでサンドウィッチにぱくついている男。こいつだ!わたしは男に近づいていった。 「・・・やめてくれないか」 男が振り向く。「何?」 「やめてくれないか」 「何を?」 「分かっているだろ、頼むよ、お遊びは終わりだ」 「何の話だ?」 「警察を呼ぶぞ」 「・・・あんたイカレてるな」 わたしはかっとなった。「どっちがだ!」 わたしは奴のサンドウィッチを叩き飛ばした。「この野郎!」 男がわたしの胸倉をつかみ殴ってきた。二人はもみ合いになり、わたしは倒れた。笑って見ている客たち。 「出てってくれ!」 殴られ失神寸前のわたしに店員が言った。 だが、わたしを殴ったその男もタンクローリーではなく別のトラックに乗って行ってしまった。あいつも違った。 その時だ、大きなエンジン音が響きタンクローリーが動き出したのだ。わたしは外に飛び出し走ってタンクローリーを追いかけた。タンクローリーはわたしを尻目に走り去った。わたしはくたくただった。 わたしは再び車に乗り出発した。タンクローリーはかなり向うまで行ってしまった筈だ。途中、オーバーヒートして動かなくなった小学生の送迎バスがあった。運転手に頼まれわたしの車のバンパーで押してやる。小学生たちがバスのガラス窓から嘲笑っている。バスはびくともしなかった。 そうこうするうちにわたしは前方のトンネルの向うにタンクローリーが待ち構えているのを見た。奴は戻って来たのだ!そしてタンクローリーがこちらに向かって来た。わたしは車を走らせた。タンクローリーが方向転換してわたしを追ってくる。 踏み切りの手前でわたしは止まった。長い貨物列車が通っていく。 ガツンと衝撃を感じた。タンクローリーがわたしの車の後ろから押してくる。わたしは叫び思い切りブレーキを踏んだ。タイヤが前に押される。貨物列車はまだ続く。列車に届いてしまう!ギギギギッギギッ車が押し出される!やっと列車が過ぎ去った。瞬間、わたしは踏み切りを渡り線路の向う脇へ止めた。タンクローリーはそのまま行ってしまった。 「勝手に行ってしまえ」 わたしはゆっくり車を走らせていた。40キロのスピードのわたしの車を追い越していく乗用車。「どうぞ、どうぞ」 だが、しばらく行くとタンクローリーが待ち受けている。又だ。 わたしの車の前をゆっくりゆっくり走り始めた。ディーゼルの黒い煙を撒き散らしながら。 ガソリンスタンドが見えた。わたしはそこへ止め、出てきた老婦人に電話を借りた。タンクローリーは少し向こうで止まっている。電話ボックスがあった。 「ガソリンを入れておいてくれ」 「ガラガラヘビも見てってね」 小屋の中に蛇やらトカゲやら気味悪い生き物がうごめいている。 「トラックに命を狙われている!」 電話ボックスに入り警察に電話していると、タンクローリーは方向を変えこちらに向かって突進してくるではないか。わたしは咄嗟に電話ボックスから飛び出した。タンクローリーは電話ボックスを粉々に踏み潰し、あたりの小屋も粉砕した。 更に旋回したタンクローリーが襲い掛かった。蛇やトカゲ、得体の知れない蜘蛛などが散乱しうごめいている。何て趣味だ!老婦人はつぶれた蛇を手に嘆き叫んでいる。 わたしは車に戻り急発進し、全速力で逃げた。バックミラーを見てタンクローリーが追いついて来ないのを確かめてから山陰の空き地に車を車を止めた。そのうちにタンクローリーは通り過ぎていった。 わたしは疲れていた。いつに間にかそのまま眠ってしまったらしい。 眠りを覚ましたのは激しい轟音だった。はっと我に返ると、わたしの車の横を貨物列車が通り過ぎていた。わたしは線路脇に車を止めていたのだ。 笑いがこみ上げてきた。気を取り直し、わたしは出発した。 タンクローリーは既に彼方に行ったことだろう。だが、わたしの考えは甘かった。又してもあのタンクローリーが待ち構えていたのだ。そしてわたしの進路を妨げている。わたしは車を降りて走った。するとタンクローリーは前進した。とても追いつかない。あきらめて車に戻ろうとした時、乗用車がやってきた。わたしは大きく手を振り車を止めた。 「頼みがある、警察に電話を、あのトラックだ」」 老夫婦らしい二人連れに言った。 「もめごとはいやよ」 夫人が言った。その時、タンクローリーがバックで向かって来た。老夫婦の車は驚いて車をバックさせた。タンクローリーはまた前進して止まった。わたしはその隙に車に戻り発進させた。 タンクローリーの窓から手が先に行けと手招きしている。わたしが急発進すると案の定、奴も追ってくる。 「お前の前に来てやったぞ、お望みどうりに。俺を殺すまで追いかけろ」 60、70、80・・・「あと5分で上り坂だ、引き離してやる」 わたしは猛スピードを出した。追ってくるタンクローリーも半端ではない猛スピードだ。 行く手に車止めが置いてある。右へ折れて踏み切りを越え線路伝いの道を突っ走る。当然のごとくタンクローリーも車止めを破って同じ道を唸り声を上げて突進してくる。 隣の線路を貨物列車が走る。その何倍ものスピードでわたしは走った。「よし、上り坂だ、150キロで走れば奴は追いつけまい。だが、そんなスピードで走りきれるか、経験がないからな、やるしかない、後ろは人殺しだ!」 わたしはぐんぐん引き離した。思わず笑みが浮かぶ。 突然わたしの車が失速した。後部から白い煙が出ている。ラジエーター・ホースだ!50、40、30・・・大変だ!タンクローリーが見えてきた。エンジンランプが赤く点灯した。走ってくれ!必死の叫び!40、30、20・・・だめだ!頂上はまだか! その時、道は下り坂に入った。《トラックはローギアに》 の標識。40、50、60・・・再びスピードが回復した。脇道にそれたが今までのスピードの勢いのまま山肌に激突して止まった。車の右側は酷い状態になっていた。再び脇道の上り坂を上り始める。振り返るとタンクローリーは執拗に追ってきた。 そこは一般道ではなさそうだ。そこで道は途切れていた。行く先は断崖絶壁。先には道がない。わたしは覚悟した。タンクトーリーと正面衝突しかないのだと。 タンクローリーがやってきた。わたしはタンクローリーに向かって車を発進した。奴のタンクローリーとわたしの車とどっちに幸運をもたらすのか。 わたしはドアを半開きにして身を乗り出し、タンクローリーと衝突する直前に地面に身を投げ出した。 タンクローリーがわたしの車を踏み潰した瞬間、わたしの車が爆発した。炎と白煙に包まれタンクローリーは視界が遮られたのだろう。そのままわたしの車を押し続けたまま断崖から落ちてしまったのだった。 物凄い轟音と共に断崖から落ちて行く2台の車。わたしは深く安堵のため息をついた。とにかく命は助かった。タンクローリーの奴は死んだに違いない。自業自得さ。訳のわからない仕打ちをわたしに仕掛けて死んだんだ。 わたしの車も仕事も犠牲になったけれども命があったればこそだ。女房も分かってくれる筈だ。 わたしを慰めてくれるのは西の空を染めた夕焼けのみであった。 |
| 映画館主から 大ヒットメーカーのスティーブン・スピルバーグの弱冠25歳の処女作。 この「激突!」は元々はテレビムービーですが、評判が良かったためヨーロッパ、日本、南米では劇場公開にしたのだそうです。 ストーリーはいたって単純です。あるサラリーマンがたまたま車を走らせていてタンクローリーを追い越す。そこから悪夢のようなタンクローリーの執拗な攻撃が始まるのです。訳のわからない恐怖です。 圧倒的な迫力で迫るタンクローリーはまさに殺人マシーンそのものです。 スピルバーグは巧みにカットを積み重ね見る者を恐怖のどん底に引きずり込んでいきます。 タンクローリーの運転手の顔を見せないのも計算のうちなのでしょうが、その分不気味さが増幅されます。運転手の顔を見せない分、我々はどんな悪相をしているのだろうと想像をたくましくしてしまいます。 この手法は、なかなか正体を見せない劇場版第2作目の「ジョーズ」(’75年)につながり大ヒット作となったのです。 スピルバーグは1947年生まれ(私と同年)。幼い頃からディズニー映画に親しんだ映画少年は「未知との遭遇」(’77年)、「レイダース/失われた聖櫃」(’81年)に始まるインディ・ジョーンズシリーズ、「E・T](’82年)、「フック」(’91年)、「ジュラシック・パーク」(’93年)などで少年・少女に夢を与え続ける現代のディズニーといえるのではないでしょうか。 タンクローリーと死闘を展開するのはテレビシリーズ「警部マクロード」(’70年〜’77年)のデニス・ウィーバー。殆ど一人芝居ですが、途中のカフェの中での顔の演技はなかなかのものです。 本作は1973年にフランスのアヴォリアッツで開かれた第1回ファンタスティック映画祭でグランプリに輝いています。 参考文献:「スピルバーグ」 筈見有弘著 講談社現代新書 |
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