「フルメタル・ジャケット」
フルメタル・ジャケット
        1987・米
フルメタル・ジャケット

製作:監督:
    スタンリー・キューブリック
脚本:スタンリー・キューブリック
    マイケル・ハー
    グスタフ・ハスフォード
原作:グスタフ・ハスフォード
撮影:ダグラス・ミルサム
音楽:アビゲイル・ミード

出演:マシュー・モディーン
    リー・アーミー
    ヴィンセント・ドノフリオ
    アーリス・ハワード
    ケヴィン・メイジャー・ハワード
    アダム・ボールドウィン
    ドリアン・ヘアウッド


ハートマン教官にしごかれるレナード

ベトナム市街戦

ジョーカー(マシュー・モディーン)

ベトナム少女戦士

フルメタル・ジャケット
物語

ベトナム戦争が熾烈を極めていた。
ここ、南カロライナ州、パリス・アイランドの海兵隊新兵訓練基地は、ハイスクールを出たばかりの若者を零から鍛え直す場所だった。

丸刈りにされた若者たちはここで8週間を過ごすと、いっぱしの殺人兵器と育ち、ベトナムの戦場へ送られていく。
ハートマン教官(リー・アーミー)は、情け容赦のない男だ。それは訓練兵への愛の鞭なのか、それとも・・・。

「貴様等、雌豚がおれの訓練に生き残れたら、各人が兵器となる・・・その日まではウジ虫だ!地球で最下等の生命体だ!」
「貴様等は人間ではない!両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない!」

朝から晩まで訓練兵に罵声を浴びせるハートマン教官。肥満体のレナード(ヴィンセント・ドノフリオ)は、訓練の何をやらしてもヘマばかりだったから、ことさらハートマンの標的にされた。
薄笑いを浮かべるレナードに、ハートマンのビンタが飛ぶ。「デブ、グズ、ノロマ!ベトナムへ行く前に戦争が終わっちまうぞ、アホ!」

ジョーカー(マシュー・モディーン)は、班長を命じられ、レナードの面倒を見た。
銃の扱いから靴紐の通し方まで。レナードは次第に唯一の友、ジョーカーを慕っていった。
ハートマンはさけぶ。 「戦場で生き残りたいと思うなら、殺戮本能を研ぎ澄ますことだ!ライフルは道具にすぎん、殺しは鉄の心臓がやる!」

ある夜、ハートマンの点検を受けたレナードは、荷物の中に隠したドーナツを見られてしまった。おかげで責任は全員に及び、腕立て伏せの制裁となる。
それからも、制裁はレナードの不手際のつど全員に及んだ。
夜、全員がベッドに着いた後、示し合わせた通り、レナードへのリンチが行われた。レナードの自由を奪い、皆でレナードを打ちのめすのだ。ためらうジョーカーも参加せざるを得なかった。

以来、レナードに変化が起こった。目つきが変っている。
射撃訓練で、レナードは目ざましい成果を上げる。ハートマンも珍しくレナードを称えた。「見事だ、貴様の取り得をついに見つけた!」
ジョーカーは分解掃除をしながら自分の銃に話し掛けるレナードを気味悪く思うのだった。

「海兵は死ぬ!死ぬために我々は存在する!だが、海兵隊は永遠である!」
訓練兵たちの所属が決まった。カウボーイ(アーリス・ハワード)、レナード、その他が0300歩兵隊に、ジョーカーは4212基礎軍事報道部へと。

最後の夜、見回り番だったジョーカーは、便所の中で銃に弾を込めるレナードを見た。レナードの目は異常だった。
「・・・実弾か?」ジョーカーは戦慄した。「・・・完全(フル)・・・被甲(メタル)・・・弾(ジャケット)・・・」 「ハートマンに見られたらひどい目にあうぞ」「・・・俺はもう・・・ヒデー・・・クソだぜ・・・左肩にささげ銃!!」
ハートマンが騒ぎを聞いて駆けつけた。レナードはジョーカーが止める間も無く、ハートマン教官に銃を向け胸を撃ち抜くと、自らの口に銃口をくわえ、引き金を引いたのだった。


髪の毛が伸びたジョーカーは「スターズ&ストライプ」の記者となり、ベトナム、ダナンにいた。カメラマンを連れてフバイへ。ヘリコプターの射手は眼下のベトナム農民たちを撃ちまくっていた。

フバイへ着くと訓練所の同期生、カウボーイと再会した。そのままカウボーイたちの小隊と行動をともにする。
一同はフエ市に入る。映画班はカメラを回す。小隊長が仕掛け爆弾を受け死亡、カウボーイが指揮をとる。前方に廃墟があった。その中にベトナムの狙撃兵が潜んでおり、偵察に行った仲間が一人、二人と被弾して死んでいく。

カウボーイはジョーカーとカメラマンを含む数人で狙撃兵のいる廃墟へと近づいていった。そしてカウボーイが胸を撃ち抜かれ、ジョーカーの腕の中で死んだ。
彼らは煙幕をたき、廃墟の中へ突入した。その時、ジョーカーは後ろ向きで狙撃中の狙撃手を見つけた。撃とうとしたジョーカーの銃は弾が切れていた。振り向いた狙撃兵が銃を乱射した。それは十代のベトナム少女だった。
側面から来たカメラマンが彼女を撃ち、少女は倒れる。皆が少女を取り囲んだ。狙撃兵は彼女ひとりだった。

少女は虫の息だが、死んではいなかった。放っていこうとする仲間にジョーカーは反対した。「このまま行く訳にはいかない・・・」
その時、瀕死の少女がか細く言った。「・・・私を撃って・・・」
ジョーカーは決断を迫られた。ジョーカーは拳銃で彼女を射殺した。

夜明け前の廃墟が燃えている。ジョーカーたち、若者は瓦礫の中を“ミッキーマウス・クラブ”を唄いながら前進してゆく。
映画館主から

オカルト大作「シャイニング」以来、7年ぶりにキューブリック監督が発表した戦争映画。
前半は海兵隊員の訓練所での若者たちの体験、後半はベトナム戦地での死と隣り合わせの若者たちを描いてキューブリック独自の反戦映画になっています。

訓練基地の辛らつなハートマン教官を演じたリー・アーミーは実際に元教官だったそうで、最初は技術顧問として参加したのだそうです。
対するデブのレナードを演じたヴィンセント・ドノフリオは、3万4000本のビデオの中から選ばれた新人です。
主演のジョーカーことマシュー・モディーンがそれにからんで、映画中盤の大ショックが我々を戦慄させるのです。

後半はベトナム戦場での悲惨な戦闘場面です。ベトナムの少女戦士を射殺するジョーカー。
映画は、ジョーカーの周囲で起きた二人の死に焦点をあてています。つまり、レナードが精神に異常をきたし教官を殺して自分も自殺したのは、実は憎い教官よりも、ジョーカーが集団リンチに加わっていたのをレナードが知ってしまったためでしょう。たった一人、自分の味方と信じたジョーカーが自分をリンチした。そのショックはレナードにとって逃げ場のない絶えがたさとなるのです。
それは恐らく、そのままジョーカーの苦悩となり、戦場へ持ち込まれて行きます。

瀕死のベトナム兵を射殺せざるをえない立場にたったジョーカー。それもまだ十代のいたいけな少女なのです。
この二人の死を背負ったジョーカーがこれからどう生きていくか、戦争とはなんなのか、キューブリックは我々に命題を突きつけたのではないでしょうか。

ベトナム戦争を題材にした映画は数多くあります。
古くは「グリーン・ベレー」(’68年、ジョン・ウェイン監督・主演)。これはタカ派の戦意高揚映画です。そのうちにベトナム戦争が泥沼化して以降、様々な反戦映画の傑作が並びます。
代表的なのは、「ディア・ハンター」(’78年、マイケル・チミノ監督・ロバート・デ・ニーロ主演)、「地獄の黙示録」(’79年、フランシス・F・コッポラ監督・マーロン・ブランド主演)、「プラトーン」(’86年、オリバー・ストーン監督・チャーリー・シーン主演)、「カジュアリティーズ」(’89年、ブライアン・デ・パルマ監督・マイケル・J・フォックス主演)などです。
「フルメタル・ジャケット」もまた、それらの一本となったのです。

参考文献:「イメージフォーラム/キューブリック」 ダゲレオ出版

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