「愛のメモリー」
愛のメモリー
     1976・米
愛のメモリー

製作:ジョージ・リットー
    ハリー・N・ブラム
監督:ブライアン・デ・パルマ
脚本:ポール・シュレイダー
音楽:バーナード・ハーマン

出演:クリフ・ロバートソン
    ジュヌビエーブ・ビュジョルド
    ジョン・リスゴー
    ストッカー・フォンテリュウ
    スタンリー・J・レイス
    

ジュヌビエーブ・ビュジョルド

ジョン・リスゴーとクリフ・ロバートソン

フローレンスの教会を象った墓

大邸宅に飾られた絵に見入るサンドラ

ジュヌビエーブ・ビュジョルド

自殺未遂のサンドラ

愛のメモリー
物語

1959年、ニューオーリンズ。マイケル・コートランド(クリフ・ロバートソン)の屋敷で結婚10周年の記念パーティが盛大に開催されていた。
マイケルの最も心を許せるロバート(ジョン・リスゴー)はポンチャトレー株式会社の共同経営者でもあった。そのロバートが集まったマイケルの親友達に向かってマイケルを祝福し、マイケルの業績や人となりを賛美すると暖かい拍手が沸いた。
マイケルの妻エリザベス(ジュヌビエーブ・ビュジョルド)と幼い娘エミーは祝福に応えるようにダンスを披露した。マイケルにとってまさに至福の夜の筈であった。

その夜のことだ。夫婦水入らずの夜を過ごそうとした時、エミーの叫ぶ声がした。エリザベスがエミーの部屋に行ったがなかなか帰ってこない。マイケルが部屋を見に行くと二人の姿が消えていた。
替わりに新聞の文字を切り貼りした脅迫文が一枚ベッドの柱に残されていた。『 警察には知らせるな。妻子を取り戻したかったら50万ドルを用意しろ 』

マイケルはロバートを呼んだ。「私の出資金を戻して欲しい」 ロバートはマイケルの気持ちを察していたから快く応じるのだった。
翌朝、新聞配達の少年が犯人からの伝言を持ってきた。手紙に添えられたテープだ。
手紙には、『11時の綿花川フェリーに乗り、50万ドル入りのカバンを旧荷揚げ場に投げろ』とある。テープレコーダーからは娘エリーの声が叫んでいた。「パパ、お金を持ってきて!あたしとママを助けて!」 警察から連絡を受けたブリー警部がやって来た。

ブリー警部(スタンリー・J・レイス)は言う。「金はかえって人質を危険にさらす。経験上やめたほうがいい。我々は渡さずに人質を救出する」 金の替わりに白紙を詰め、送信器を入れたカバンを追跡すれば人質は必ず取り戻せるというのだ。
マイケルは迷ったが結局、警部の提案に従った。
犯人の要求通りマイケルはカバンを持ちコットン・ブロッサム号に乗った。途中の旧荷揚げ場の河岸にカバンを投げた。
犯人の車がカバンを回収すると隠れ屋に向かう。

「父親はお前達を見捨てたぞ!」 犯人達は金が偽と分かると人質を抱え警察の包囲網を破り逃走した。警察の車が犯人の車を追う。スピードを上げる車は橋の中ほどで向きを変えようとしていたタンク・ローリー車に激突炎上し、川の中に沈んでいった。警察の車に乗って追跡していたマイケルもその惨劇を目撃したのだ。

翌朝の捜索にもかかわらず二人の姿は発見出来なかった。
マイケルは深い悲しみと後悔の念に打ちひしがれた。愛する妻と娘を一瞬に失ったのだ。
マイケルがエリザベスと初めて出合ったフローレンスの教会を象った墓を建てたのは1年後だった。

それから16年の歳月が過ぎた。マイケルは商談の為、再びフローレンスに行った。イタリア語が得意のロバートも同伴した。商用はロバートの巧みな話術で進行し、あえなく終わった。
マイケルはついでにとエリザベスと初めて会ったフローレンスの教会へと足を伸ばした。
一人マイケルは厳かに教会の中へ足を踏み入れた。様々な美術絵画や彫刻が飾られているのを丁寧に見て回る。
ふと、壇の上で一人の若い女性がキャンパスに向かい絵筆を手にしているのを見てハッと足が止まる。その女性は死んだエリザベスに瓜二つだったのだ。

亡霊を見たような顔つきで教会を出たマイケルはロバートを連れて教会へ戻る。その女性を見たロバートも、「・・・まさか」 と絶句した。
マイケルはロバートを先に帰国させ、教会へ通う。仕事の終わった彼女の跡をつける。家は確認できた。
次の日、教会で女性と目が合った。「B・ダディの1328年の作品よ」 女は見上げるマイケルに話しかけた。「ルネサンス初期の作品よ」 彼女は絵の勉強をしていたが、教会の美術品の復興事業の話が持ち合ったとき、自分も役立てればと思い絵画の修復作業に参加したのだという。
「どうかな?解説のお礼に夜の食事でも」 マイケルは言った。「夜の食事はこの国では特別の意味よ」 女は釘を刺してきた。「・・・では昼でも」 

マイケルは女とレストランで昼食をした。「サンドラ・ポルティナーリ」と女は名乗った。「君は妻に似ている」 マイケルは言った。「男の人はたいていそう言って近寄るのよ」 「妻は大分前に死んだんだ」「・・・・」 サンドラは黙る。
二人は逢瀬を重ねた。「
『生ある限り、天国の恋人に誠実であるべきだ』 サンドラはダンテの一節を口ずさむ。「奥さんを愛していたのね」 サンドラは言う。「だから、私を・・・何故、死んだの?」 「・・・私が殺した」 

サンドラの母親が入院しており、二人で見舞う。母親がマイケルに言った。「娘を愛してる?」 マイケルは頷く。「・・・ママ」 サンドラは「お互いまだ知らないわ」 とはぐらかしたが、「結婚おし」 と母親は言うのだった。

マイケルは結婚をするため、サンドラをニューオーリンズへ連れて帰った。マイケルの大邸宅へ入ったサンドラは目を見張る。
階段の踊り場に掲げてある大きな絵画を見上げた。エリザベスとエミーが描かれていた。サンドラはエリザベスの顔の見入った。
マイケルの留守中、二階の開かずの間の鍵を開けるとそこはかってのエリザベスの部屋だった。サンドラは物色した。16年前の誘拐事件の新聞記事を見つけた。犯人の脅迫文が掲載されている。サンドラはその部分を破り裂く。

結婚式の前日、マイケルは夢を見た。目の前にエリザベスがいる。「貴方の妻エリザベスよ。私は戻ってきたの。貴方の愛を確かめるために」 「愛してるとも」 マイケルは言う。「見捨てない?二度と」 「二度と見捨てないよ」

目覚めたマイケルは胸騒ぎがしてサンドラの部屋へ行くと、サンドラの姿はなく、ベッドの柱に例の新聞記事の脅迫文が貼ってあった。『 警察には知らせるな。妻子を取り戻したかったら50万ドルを用意しろ 』 16年前の新聞記事だ。
又だ!マイケルは凍りついた。
早朝、車を飛ばしロバートの家へ駆けつけ、ロバートを叩き起こした。「50万ドル必要なんだ」 不機嫌なロバートを説き伏せ銀行へ行く。ロバートには代わりに会社の経営権を譲る条件を約束していた。
銀行で50万ドルをカバンに詰めるマイケルにロバートは、「サインを」と会社の経営譲渡書にサインを求める。その時、マイケルがカバンから離れサインをしていると何者かがカバンを取り替えたのだ。

マイケルはカバンを手にコットン・ブロッサム号に乗った。途中の旧荷揚げ場の河岸にケースを投げた。16年前の記憶が甦る。
果たしてそのカバンを見に来たのはサンドラだった。
カバンを開けると中身はただの紙だった。サンドラは空を見上げて嘆く。
「ママー」 血を絞り出すようなサンドラの叫び。 そこへロバートが現れた。「奴め、金を惜しんだな、前と同じだ」 
しばらくしてその旧荷揚げ場へマイケルが行った。そこにはカバンの中の紙切れが風に舞っていたのだった。

サンドラは空港へ向かう途中、ロバートから報酬を受け取ったが、釈然としないままロバートに言った。
「これでは酷すぎるわ」 サンドラは16年前、誘拐されたが隠れ屋から一人保護され爆発炎上した車には乗っていなかった。そして背後にロバートがおり、マイケルが金を惜しんだためにエリザベスが死んだのだと説得されて、無理やりイタリアへ送られたのだ。
16年後、ロバートの計略の機会が訪れる。成人したサンドラにマイケルを会わせれば必ずマイケルの気持ちが動くに違いない。その計略は図に当たった。マイケルはエリザベスに瓜二つのサンドラに恋をし、結婚へと突き進む。そして再び誘拐劇を演じたのだった。
ロバートは言う。「罠にかけたのは君だ。罪は重いぞ」

『パパ、許されるとは思いません。私はあの時ロバートに説得され、イタリアの夫人に預けられたのです。貴方が母を殺したと信じ復讐の機会を待つうちにロバートが会社乗っ取り計画を持ち込みました。今、誤解は解け憎しみは愛に変わりました…』 サンドラは手紙を書いたが途中で破り捨てた。そして、飛行機のトイレに入った。その手にハサミが握られている。

ロバートの元へマイケルがやって来た。「金は無かった!」 「50万ドルを守ったのさ、君のためにな」 平然とロバートが言った。
「・・・終わりだ。私の愛を確かめるために戻った人を私は殺した・・・」 マイケルは憔悴しきっている。「女も付いてこないか。自分を何だと思ってる、会社がジリ貧になったのもお前のせいだ!」 ロバートの言葉にマイケルはロバートに体当たりして掴みかかる。「殺せよ、あの女と一緒に。俺とあの女はグルなのさ、初めからな、サンドラはお前の娘だ!」 「・・・・・」 マイケルは言葉を失った。
サンドラはエミーだったのか・・・。ロバートは引き出しから拳銃を取り出した。「貴様は金と一緒に人生も投げたのさ。サンドラはイタリアに帰ったよ、報酬を持ってな」 マイケルがロバートを押し倒した。はずみで拳銃が床に落ちる。二人はもつれ合った。マイケルはそばにあったハサミをロバートの胸に付き立てていた。

拳銃とカバンを持ったマイケルは空港に向かった。表情は修羅と化していた。
ローマ行きの切符を予約しようとしたマイケルに係員が言った。「ついてますよ、ローマ行きの飛行機がエンジン不調で戻りました」 
搭乗しようとマイケルが足早に歩く。向こうからサンドラが車椅子に乗せられて来た。手に包帯が巻かれている。自殺未遂をおこし助けられたのだ。
マイケルとサンドラは遠くからお互いを見た。歩きながらマイケルは拳銃を構える。サンドラが車椅子から立ち走って来た。顔は喜びに輝いている。
マイケルを不審に思った警備員が立ちはだかる。マイケルはカバンで警備員を突き飛ばす。その時、カバンのふたが開き札びらが舞った。
「パパ!助けに来たのね!」 サンドラはマイケルに抱きついた。「パパ、パパ」 マイケルは瞬時に愛情を取り戻した。「・・・エミー」 親娘はしっかり抱き合った。
映画館主から

ブライアン・デ・パルマが大ヒット作「キャリー」に先駆けて発表したロマンチックミステリーの傑作。

妻と娘を誘拐された主人公は身代金を渡せず、妻子を事故で失う。
16年後に妻とそっくりな女に出会った主人公は、その女に恋心を抱き結婚を決意する。だが、その女は実は自分の娘であり、復讐心に燃えていた。
複雑な物語の迷路に我々を引き込み、たじたじとさせるサスペンスの妙。同じ顔の女に恋をするという、ヒッチコックの「めまい」を彷彿させるストーリー展開。
回想場面でジュヌビエーブ・ビュジョルドが娘役で走るシーンは、デ・パルマの発想らしいのですが、ジュヌビエーブ・ビュジョルドの童顔とあいまって不思議な迷宮に我々を引き込む効果は抜群でした。
いったい、これはどうなっているんだろう、と。
ドラマは二転三転し、危うく近親相姦的な話になるのかと思いきや、ラストはハッピーエンドになります。しかし、マイケルはロバートを殺してしまっているのですから、この後二人にどんな試練が待っているのかは想像するしかありません。

本作ではヒットコキアンとしてのデ・パルマらしいシーンが幾つかあります。
サンドラが結婚のためにイタリアからニューオーリンズのマイケルの大邸宅へやって来て邸内を見て回るのは「レベッカ」の感じ。ラスト近くマイケルがロバートを刺し殺すのは「ダイヤルMを廻せ!」と同じハサミ。ラストでマイケルとサンドラが抱き合う周囲をカメラがくるくる回るところは「めまい」そっくりなのです。

そして、バーナード・ハーマンの音楽がこのドラマに絶妙の効果を投入しているのです。タイトルバックの音楽からしてこの映画は謎が一杯ありますよ、という感じ。
バーナード・ハーマンはヒッチコックのアメリカ時代の、「ハリーの災難」「知りすぎていた男」「間違えられた男」「めまい」「北北西に進路を取れ」「サイコ」「鳥」「マーニー」と、全盛時代のヒッチコック作品の音楽を手がけた作曲家です。
そのハーマン自身が生前、「愛のメモリー」の音楽が一番お気に入りだったというのです。「めまい」の旋律にも似たミステリアスな雰囲気にはハーマンの音楽が欠かせませんでした。

主演のクリフ・ロバートソンは、若き日のジョン・F・ケネディを演じた「魚雷艇109」(’63年、監督:レスリー・H・マーティソン)や政治サスペンス「潜行」(’65年、監督:ベジル・ディアデン)を経て「まごころを君に」(’68年、監督:ラルフ・ネルソン)でアカデミー主演男優賞に輝いた実力派二枚目。

参考文献:公開時パンフレット

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