「パピヨン」
パピヨン 1973・仏=米
パピヨン

製作:ロバート・ドーフマン
    フランクリン・J・シャフナー
監督:フランクリン・J・シャフナー
原作:アンリ・シャリエール
脚本:ドルトン・トランボ
    ロレンゾ・センブル・Jr.
撮影:フレッド・キーネカンプ
音楽:ジェリー・ゴールドスミス

出演:スティーブ・マックィーン
    ダスティン・ホフマン
    ロバート・デマン
    ウッドロー・バーフリー
    ドン・ゴードン
    アンソニー・ザーブ
    ビクター・ジョリー
    ラトナ・アッサン
    ドルトン・トランボ


パピヨンはドガに近づいた

「金がいる」「何に使う?」「脱獄だ」

パピヨンのナイフがドガを救う

鎖で縛られるパピヨン

パピヨンは口を割らなかった

パピヨンは逃げる

酋長の胸に刺青を彫るパピヨン

またも捕まるパピヨン

パピヨン
物語

「たった今からお前達は、フランス領ギアナ刑事局の所属となる!たとえ刑期を終えても8年以上刑を課せられていた者は植民地の労働者としてギアナに留まる!これはフランスの意志である!お前達は見捨てられたのだ、祖国など忘れろ!」
大勢の囚人を前にフランスの刑務所長(ドルトン・トランボ)が叫んだ。

港までの囚人達の長い列。その中に胸に刺青を彫っていることから“パピヨン”と呼ばれている男(スティーブ・マックィーン)がいた。彼はポン引き殺しの罪で終身刑を言い渡されたが、それは濡れ衣であった。
街角を埋める見物人に混じってパピヨンの恋人が声をかけた。しかしパピヨンはどうすることもできず、ただ黙って歩き続ける。

南米・仏領ギアナに向かう囚人護送船の中は灼熱の地獄だった。ギアナに送られれば最初の1年以内に大半が死ぬという。だが、金さえあれば話は別だ。金で看守を買収できるからだ。囚人たちの多くが体内に金を隠し持っている。<プラン>と呼ばれる金属製の筒に紙幣をたたみ込み、尻の穴から直腸の中へ送り込むという秘策である。だが、その金を狙っての殺人事件も起きるのだ。
ルイ・ドガ(ダスティン・ホフマン)も大金を隠し持っているという。彼は偽札作りの名人で、1928年の国債も偽造した。パピヨンはドシャブリの甲板での食事中、ドガに近づいた。
「誰もがあんたを八つ裂きにしたがってる・・・俺が守ってやる、考えときな・・・」 パピヨンがそっと囁いた。
はたして、夜、別の囚人が腹を切り裂かれて死んだ。
翌日、ドガがパピヨンに言った。「俺を守ってくれる奴が必要かも知れん、何が必要なんだ?」 「金だ」 「何に使う」 「脱獄だ」 「・・・ギアナに着くまで俺を守ってくれ、資金は俺が保証する」

そんな夜、ハンモックの上でパピヨンは異変を察知した。今しもドガが二人の囚人の餌食になろうとしていた、その瞬間、隠し持ったパピヨンのナイフが二人を血祭りに上げたのだ。
ドガは命を救われたが、パピヨンは罰として、手足を鎖で繋がれ首かせをはめられた。その状態でうつぶせになって食事をとらなくてはならない。

ギアナに着き、全員が放り込まれた所は、『サン・ローラン刑務所』だった。
ここでは脱走を企てた者に2年の独房入り、2度目は更に5年、それ以上の者には広場でのギロチンによる公開処刑が待っているのである。
重労働を避けようとドガが看守を買収したのが裏目に出て、ドガとパピヨンは“キロ40”と呼ばれるジャングルの奥での強制労働キャンプに回された。そこではワニが生息する沼地での材木の切り出しが行われている。まさに命がけである。
そんな中、パピヨンが護送船で知り合ったジュロ(ドン・ゴーガン)が腹を切り裂かれ金属筒を奪われた死体となって戻ってきた。彼は重労働を避ける為、わざと膝をナイフで切り病院へ送られたのだが、そこから脱走を図ったのである。ジュロの死体を見たドガが激しく嘔吐するのを看守が見てドガを殴りつけた。パピヨンはドガを助けようと看守に熱湯を浴びせて川の中へ逃げた。銃撃がパピヨンの頭上を飛び交う。
結局パピヨンは捕まり2年間の島送りとなってしまった。

サン・ローラン西方の沖合いにあるサン・ジョセフ島の“人喰い牢”と呼ばれる独房は吸血コウモリとムカデの住みかで、天井は鉄格子。そこから四六時中見張られているのである。食事はひとかけらのパンと僅かばかりのスープのみ。囚人たちは飢えで次々と死んでいく。
ある日、スープの缶の中に隠してヤシの実が入っていた。「いつもお前の味方だよ」と書いた小さな紙片が添えてある。「・・・ドガだ!」
パピヨンはヤシの実をむさぼり食った。
暗い独房の中をパピヨンは歩く。1,2,3,4,5・・・小さな歩幅で5歩で壁。腕立てを繰り返す。いつか脱獄するためには体を鍛えておかねばならない。

ヤシの実の差し入れの件がほどなく所長に知れた。
「誰にもらった?」 パピヨンは所長の追求に答えない。
「食事は半分、半年間明かりなしだ!」 パピヨンの食事はそれから半分に減らされた。天井の鉄格子が遮蔽され真っ暗となる。
パピヨンの壮絶な戦いはそこからだった。ただでさえ、貧しい食事事情でばたばたと死んでいくというのにパピヨンは半分に減らされたのだ。
パピヨンは僅かな明かりを頼りに床をはうゴキブリやムカデを捕獲しておき、スープの中ですりつぶして食した。だが、さすがのパピヨンも体力が限界にきていた。ある日・・・
パピヨン 「所長に話がある」 看守が所長を呼んできた。ドアの小窓から顔を出したパピヨンは痩せこけ、青白い。
所長 「誰にもらった?」
パピヨン 「・・・その、困ったことに、名前は知ってたが・・・ボケちまって・・・どうしても・・・思い出せないんだ・・・」
差し入れ者の名前をパピヨンが白状すると期待していた所長はパピヨンの顔色を見て看守に言った。「じきに死ぬ」
所長が引き上げた後、べパピヨンは不敵な笑みを浮かべ、ドアの内側に貼り付けてあったドガからの紙片を飲み込むのだった。
そしてパピヨンが力尽きる寸前、2年の刑期満了がきた。パピヨンはドアから外へ出て5歩以上も歩けず倒れた。

再びサン・ローラン刑務所に戻ったパピヨンは、ドガと再会する。ドガは持ち前の機用さと機転をきかせて“キロ40”からサン・ローランに戻り、今や所長代理として一切をきりまわしているのだった。
パピヨンはドガの差し入れの栄養たっぷりのスープで、失われた体力を快復していった。
ドガは目に涙を浮かべていた。 「早く白状していればこんな目には・・・」
パピヨン 「・・・しかけたんだ・・・」
ドガ 「誘惑に勝てるかどうかで人間の真価が決まる」 ドガはパピヨンに命を助けられたこともあるが、死にそうな目に合っても口を割らない男としてのパピヨンに絶対の信頼を置くのだった。

ドガは囚人だが医師を勤めるインド人と話をつけ、ボートを手配した。囚人で美男のマチュレット(ロバート・デマン)にかねてから色気を示す看守を、音楽界の夜、部屋へ招き寄せ殴り倒すと、パピヨンとマチュレット、それにクルジオ(ウッドロー・バーフリー)が部屋を出た。外の庭で音楽祭が賑やかい。パピヨンとマチュレットが塀を乗り越えようとしていた時、遅れたクルジオが別の看守に見つかった。自分は参加せずに様子を見ていたドガが看守を殴りつけ、塀に走る。塀の外側へ飛び降りた時、ドガが足を挫いた。
ようやくたどり着いた密林の中に用意してあったボートは朽ちていて使えないシロモノだった。
そこへ顔に刺青をしたスキンヘッドの男が現れた。「ハンターは片付けた、ピジョン島へ連れて行く、そこでボートが買える、・・・金がなきゃ殺されるがな・・・島民は全員、ハンセン氏病だ」

案内されたピジョン島はハンセン氏病患者の住む島だった。パピヨンは島の首領トゥーサン(アンソニー・ザーブ)と面会した。トゥーサンは身体中が崩れかかっていたが、それに臆せぬパピヨンの態度にいたく感激し、丈夫なヨットを与えたばかりか、貯めてあったいくばくかの金までもたせてくれた。
灼熱の太陽の下、ヨットは3人を乗せて快調に滑り出した。だがそれもつかの間、嵐がヨットを襲い、倒れたマストにドガの足が挟まれた。ドガの足は壊疽で腐り始めていた。医術の心得があるマチュレットがドガの足の壊疽の部分を切り落した。

仕方なくコロンビアとおぼしき海岸につけた時、折りしも犯罪者護送中のパトロールと遭遇してしまった。ドガを砂浜に残しパピヨンとマチュレットはジャングルの中へ逃げる。マチュレットと離れ離れになった時、護送中だった犯罪者の案内で共に逃げるが犯罪者は罠に掛かり絶命する。そしてパピヨンは原住民の吹き矢に襲われ断崖から川へ転落していく。

パピヨンは流れ着いた部落で娘達から手厚い看護を受け、次第に快復していった。美しい娘ゾライマ(ラトナ・アッサン)とのロマンスも芽生えた。パピヨンは久しぶりの平和なひと時を過ごしていた。
酋長(ビクター・ジョリー)の要請でパピヨンは酋長の胸に自分と同じように蝶の刺青を彫ってやった。そのお礼の意味か、パピヨンは島で取れる大粒の真珠をいくつか手にした。
自由を求めて行く途中、パピヨンはコロンビアの検問所に引っかかった。たまたま通りかかった修道女に真珠を寄付し、馬車に乗り込みその場は切り抜けた。修道院に真珠を渡し、泊めてもらったが、翌朝彼を待っていたのは院長の通告でやって来た警官だったのである。

パピヨンは再びサン・ジョセフ島の独房へ送られた。今度は5年という孤独な歳月をそこで送った。
独房を解放されたパピヨンはすっかり白髪になり、歯も抜け、昔の面影は微塵も無い。その日、担架で運ばれてきた男はマチュレットのやつれ果てた姿だった。
ジャングルで別れたまま、それからどう過ごしてきたのであろうか。彼はまもなく息絶え、海に投げ込まれた。死体にサメが群がっている。

パピヨンは悪魔島へ送られた。そこでは手錠も足かせもない。だが島の周囲は断崖絶壁で、波が打ち砕け、サメが待っているという脱出不可能な状況だ。
そこにドガもいた。すっかり頭の天辺が禿げたドガは、自分の庭園で野菜などを栽培したり豚を飼い、島に適応して暮らしている。彼の妻はドガの釈放運動をしていたのだが、頼んでいた弁護士とねんごろになり、結婚してしまったのだという。

パピヨンは一人、飽きもせずに海を眺める。潮の流れを観察する。本土まで40キロ。潮の流れに乗れば2日で着ける。ヤシの実を袋に詰め込み、海に投げ込む。袋は波にもまれ、岸壁に打ち砕かれた。
それでもパピヨンは諦めなかった。
「7回に1度来る大きな波に乗れば、2人とも沖に出られるぞ」 パピヨンがドガに言った。「そうか・・・」 ドガが気の無い返事をする。

断崖の上に立つパピヨンとドガ。ヤシの実を詰めた袋が用意してある。
ドガ 「許せ・・・行けない・・・」
パピヨン 「いいさ」
ドガ 「きっと死ぬことになる」
パピヨン 「まあな」
ドガ 「やめてくれ」
決意の変らないパピヨンはドガを抱き締めた。パピヨン、袋を投げ込み、続いて自分も身を投げた。そして、袋につかまったパピヨンは少しずつ沖へ流れていく。見送るドガの目に涙が止まらなかった。
沖へ向かうパピヨンが空に叫ぶ。「俺は生きてるぜ!ばかやろー!」


パピヨンは無事に逃げ切り、自由人としての余生を送った。ギアナの刑罰制度はまもなく廃止された。
映画館主から

原作者のアンリ・シャリエールが実はこの映画のパピヨンその人なのです。
彼は無実の罪で南米・仏領のギアナの流刑地へ無期徒刑囚として送られ、以降13年にも亘る執念に満ちた脱走への戦いに挑戦したのです。
奇跡的な生還の後、’69年にフランスで出版された『パピヨン』はフランスだけでなく、世界17ヵ国語に翻訳され、1000万部を越える超ベストセラーとなったのでした。彼はこの映画のロケ地を訪れ、細部に亘って実際に体験した模様を指導したそうですが、映画の完成前に喉頭がんにより波乱の生涯を閉じてしまいました。

パピヨンにスティーブ・マックィーン、囚人の盟友ドガにダスティン・ホフマンという絶好のキャスト。ダスティン・ホフマンの演技力はかねてから知られるところですが、パピヨンのマックィーンの凄惨を極める囚人役はもはやアクションスターの枠を越えています。
暗い独房に入れられて満足な食事も与えられない彼は、床を這うゴキブリやムカデを食べて生き抜くのですが、げっそりとやせ細り、歯が抜け落ちていく彼の風貌にはゾッとするほどの気迫が漂っているのです。

監督のフランクリン・J・シャフナーは、威厳のある濃厚な顔つきのスターを起用することで知られ、「猿の惑星」(’68年)ではチャールトン・ヘストンを、「パットン大戦車軍団」(’70年、アカデミー作品賞、監督賞、音響賞)ではジョージ・C・スコット(アカデミー主演男優賞・拒否)を、「パピヨン}ではマックィーンとホフマンを、「「ブラジルから来た少年}(’79年)ではローレンス・オリビエとグレゴリー・ペックを起用し成功しています。

脚本のドルトン・トランボは、「スパルタカス」(’61年、監督:スタンリー・キューブリック、主演:カーク・ダグラス)、「いそしぎ」(’65年、監督:ビンセント・ミネリ、主演:エリザベス・テーラー)、「パピヨン」、「ダラスの熱い日」(’73年、監督:デビッド・ミラー、主演:バート・ランカスター)など、社会性のある骨太の執筆で活躍していますが、’71年、65歳にして初めて自作の小説を監督した「ジョニーは戦場へ行った」(主演:ティモシー・ボトムズ)は世界を驚かせ、カンヌ映画祭審査員特別賞を得ています。
戦後の赤狩り旋風にチャップリンらと巻き込まれた彼は懲役を経て変名でシナリオを書きつづけ、さながらパピヨンのように蘇ったのです。本作の冒頭、囚人たちの前で叫ぶフランスの刑務所長の役で特別出演しています。

ラスト、パピヨンが沖に向かう場面にジェリー・ゴールドスミスの曲が静かに穏やかに流れ、自由への賛歌を謳い上げています。

  参考文献:公開時パンフレット

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