「逃走迷路」
逃走迷路  1942・米
逃走迷路

製作:フランク・ロイド
    ジャック・H・スカーパル
監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:ピーター・ビアテル
    ジョーン・ハリソン
撮影:ジョセフ・バレンタイン
音楽:チャールズ・ブレビン
    フランク・スキナー

出演:ロバート・カミングス
    プリシラ・レイン
    ノーマン・ロイド
    オットー・クルーガー
    ボウハン・クレイザー
    マーレイ・アルバー

手錠のケインは一軒家にたどり着く

ロバート・カミングスとプリシラ・レイン


サーカス団の人々

自由の女神像

フライ(ノーマン・ロイド)を追い詰めるケイン

フライに手を差し伸べるケイン

女神像にぶら下がるフライ

ケインの手がフライの手に伸びる

掴んだフライの背広がほつれて・・・

落ちるフライ

逃走迷路
物語

バリー・ケイン(ロバート・カミングス)はカリフォルニア州のグレインデイル航空機工場で働いていた。
ある日、工場の昼食時間、友人のメイスンと食堂へ向かっていた時、フライ(ノーマン・ロイド)という男とメイスンがぶつかり共に倒れた。
その直後、工場の一部からモクモクと黒煙が上がり始めた。火事か?
「塗装部だ!爆発するぞ!」 誰かが叫ぶ。メイスンがその方へ行こうとした時、フライが消火器を手渡した。
メイスンが消火器を火に向けて噴出すると何と火が急激に勢いを増しメイスンは火にくるまれて燃え上がった。フライの姿は消えていた。

警察は破壊工作員による殺人とみなし、死んだメイスンの近くにいたケインを容疑者と断定した。消火器にはガソリンが入っていたのだ。
自分が追われているのを知ったケインはトラックに便乗して逃げる。フライという男は会ったこともなかったが、ケインはフライが怪しいとにらんだ。先ほどぶつかった時にフライが落とした封筒のあて先に“ディープ・スプリング牧場”とあったのを覚えていた。トラックはその牧場の近くを走っている。
運転手に礼を言って牧場に降ろしてもらう。

牧場主のチャールズ・トビン(オットー・クルーガー)は小さな孫と遊ぶ上品な好々爺だった。フライのことを聞いても知らないと言う。
だがトビンが場をはずした時、孫がいたずらで椅子に掛けてあったスーツのポケットから何やら放り出した。ケインが見るとそれは何とフライの出した電報で『ソルダー・シティに向かう』とある。
戻ってきたトビンに見られた。トビンの表情が強張っている。家政婦に銃を突きつけられたがケインはトビンの孫を抱き難を逃れた。
牧場の馬で逃げたが追ってきた牧童に捕まり警察に突き出された。

「いい弁護士が付けば20年。付かなきゃ終身刑だ」 車で護送される時、警官が得意げに言う。ケインは無実を訴えたが取り合ってもらえない。橋に差し掛かった時、前方のトラックが止まっていた。タイヤの交換中だった。先ほど乗せてもらったトラックだ。
車が橋の上で止まった隙に車を飛び出し橋の上から川の中へ身を投げた。捜索する警官をまき、手錠を嵌められているケインは川から森へ逃げ込んだ。雷鳴が轟き雨の中、一軒の家にたどり着いた。

その家のあるじフィリップ・マーティン(ボウハン・クレイザー)は盲目だった。そこへフィリップの姪のパット・マーティン(プリシラ・レイン)がやって来た。たちまちケインの手錠に気づき警察に突き出そうとした。
「手錠を見たのか」 フィリップは言った。「私は音で知っていた」
盲目のフィリップはとうに手錠に気づいており、この人は悪い人ではないから近くの鍛冶屋へ連れて行って手錠を外してもらうようパットに依頼するのだった。

パットはケインを車に乗せて鍛冶屋に向かうと見せかけて実は警察にケインを突き出すつもりだった。途中、パットが車を降りた隙にケインは車のボンネットを開け、ファンベルトのモーターで手錠を切断した。強引にパットを乗せ車を走らせるがやがてオーバーヒートで止まってしまう。

その時ゆっくりと走って来た車に二人は飛び乗る。サーカス団の車だった。髭女、小人、シャム双生児の姉妹、デブ女など奇妙な人たちが乗っているが団長はケインの無実を信じて警察の取調べからケインを守るのだった。
その夜、ワゴン車の中で一夜を過ごした二人に愛が芽生えていた。パットはケインの無実を信じた。

フライの電報にあった『ソルダー・シティ』でサーカス団の車を降りた二人はナチの破壊工作員の連絡小屋を見つけた。そこへ工作員たちがやって来た。ケインはパットを別部屋へ隠すと仲間を装い、トビンから命じられて来たのだと偽りニューヨークへ飛んだ。

工作員に連れて行かれたのは5番街の大豪邸だった。サットン夫人邸。そこでは慈善パーティが開かれており、二階の部屋にトビンに捕らえられたパットがいるのだった。
ここがトビンを首領とするナチ破壊工作員の本拠地だったのである。そして明日、一味がブルックリンで行われる戦艦の進水式で戦艦を爆破させる計画を知ったケインは地下室に監禁される。翌朝、ケインはスプリンクラーを誤動作させ、警報ブザーの鳴る中、混乱に乗じて脱出する。
一方、ロックフェラーセンターの一室に監禁されていたパットはSOSを知らせる紙片を窓から落とした。

進水式が始まろうとしているキャニヤード港。ケインが駆けつけ、爆破のタイミングを狙っていた一味の中にフライを見つけ格闘になった。爆破のタイミングがずれ、事なきを得たが、ケインはフライに捕らえられパットの監禁されている一室に入れられるところだったが、パットの紙片により、警察が駆けつけてきた。

逃げたフライはラジオ・シティ・ミュージック・ホールへ潜入した。警官とフライの撃ち合いが始まる。かかっていた映画は折から発砲シーンの最中で、銃声のたびに観客も倒れる。
劇場から逃げ出すフライを発見したパットは、自由の女神像へフライが入ったところで警察に電話した。

FBIと共に自由の女神像へ駆けつけるケイン。フライが女神像の内部を登っていく。女神の掲げる腕の内部を登りきるとトーチの淵の部分だ。
追いついたケインが銃をフライに向けた。怯んだフライがよろけて淵から転落しそうになる。女神の腕の出っ張りにぶら下がるフライ。
ケインが淵から身を降ろし手を差し伸べた。ケインの手がフライの背広の腕を掴む。フライの必死の形相。だが、フライの背広の腕がほつれて千切れ、遂にフライは千尋の彼方に落ちていった。
映画館主から

ヒッチコックの代表的傑作、「北北西に進路を取れ」の巻き込まれ型サスペンス映画の系列に属する一作です。無実の主人公が追われながら事件を解決していくというストーリーです。
ヒッチコックが母国イギリスからハリウッドへやって来て5作目に当たります。

「海外特派員」(’40年)、「知りすぎていた男」(’55年)、「北北西に進路を取れ」(’59年)などが巻き込まれサスペンスとして知られますが、考えてみれば、ヒッチコック作品の殆どの作品は巻き込まれ型サスペンスといっても過言ではないといえます。

本作の一番の見せ場はラストの自由の女神像の場面。落ちそうになる犯人を主人公がてを差し伸べるも、犯人ははるか彼方に落下していってしまいます。
高い所から落ちるというサスペンスは、ヒッチコックの十八番で、本作の他にも、「海外特派員」「白い恐怖」「レベッカ」「裏窓」「泥棒成金」「知りすぎていた男」「めまい」「北北西に進路を取れ」など、随所に使われています。
中でも「めまい」は、そのサスペンスが全編にちりばめられ最高に生かされた代表でしょう。

ただ、本作での自由の女神像にぶら下がるのが犯人でなく主人公だったら、サスペンスの緊張度は更に深まったに違いありません。観客は主人公の立場にこそ感情移入するものだからです。
その点、「北北西に進路を取れ」のラスト、ラシュモア山の歴代大統領の顔にケーリー・グラントとエバ・マリーセイントが追い詰められ、落ちそうになる場面はさすがにヒッチコック。数段洗練されたテクニックを堪能させてくれます。

主役を演ずるロバート・カミングスは後年の「ダイヤルMを廻せ!」(’54年)でもグレース・ケリーの愛人役で出演しています。
ヒッチコックは本作でのキャストは会社側から与えられたもので気に入っていませんでした。
「ロバート・カミングスは軽いコメディ映画に相応しい俳優でね。スターとしての重量感がなかった。愉快な顔つきをしているので、絶望的な状況に陥った時も深刻にあがいている感じが出ないんだよ」とヒッチコックは語っています。

矢継ぎ早に色々な事件が起こり、登場人物も多彩なのですが、盛り込みすぎの感があり、ヒッチコック作品としては説明不足な点、物足りなさを感じた人も多いでしょう。
しかし、スリルとサスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコックの声が聞こえてきそうです。「理屈抜きに面白かったら、それで良いではありませんか」と。

参考文献:「ヒッチコック 映画術 トリュフォー」 晶文社
      :「ヒッチコックを読む」 フィルムアート社
      :公開時パンフレット

 映画館へ戻る