「十戒」
十戒 1956・米
モーゼの十戒

製作:監督:
    セシル・B・デミル
撮影:ロイヤル・グリグス
特殊技術:ジョン・P・フルトン
考証:ヘンリー・ノードリンガー
音楽:エルマー・バーンステイン

出演:チャールトン・ヘストン
    ユル・ブリンナー
    アン・バクスター
    エドワード・G・ロビンソン
    ジョン・デレク
    イボンヌ・デカルロ
    デブラ・パジェット
    サー・セドリック・
ハードウィック
    ニナ・フォック
    マーサ・スコット
    ジュディス・アンダースン
   ビンセント・プライス

チャールトン・ヘストンとアン・バクスター
モーゼは出生の秘密を知る

モーゼは奴隷の子だった
モーゼは反逆者として捕らえられる

ミデヤンの泉で英気を養うモーゼ
ミデヤンの泉での生活が始まる

ユル・ブリンナーのファラオを諌めるモーゼ
ファラオを諌めるモーゼ
物語

古代エジプトでは、イスラエルの民が奴隷として虐げられ、農耕や町の建設に使われていた。その頃、人々の間で救世主誕生の噂が広まっていた。
「エジプトに悪い星が落ちましたぞ」家臣の進言で、時のファラオは「ヘブライの赤子を殺せ」と指令を出した。

町に兵がやって来て、ヘブライの赤子が次々と殺されていく。しかし、ヨシャベル(マーサ・スコット)は密かに生まれたばかりの赤子を揺り篭の中に隠し、ナイル河に流したのだった。
やがて揺り篭は、神の力に導かれるようにエジプトのファラオの娘、王女ビシア(ニナ・フォック)が水遊びに戯れる宮殿に流れ着いた。子供のいないビシアが拾い上げた揺り篭の中に赤子が入っていた。しかも赤子はヘブライ奴隷の産衣に包まれていたのだ。ビシアは侍女メムネット(ジュディス・アンダースン)に他言しないよう誓わせ、赤子を自分の子供として育てることにした。「水の中から得たゆえ、モーゼと名づけよう、モーゼ!モーゼ!」

時は流れ、逞しい青年に成長したモーゼ(チャールトン・ヘストン)はエチオピアを征して帰還の途にあった。モーゼは新しいファラオ・セティ(サー・セドリック・ハードウィック)の薫陶を受け、学問、人格ともに優れた人物に成長していた。
モーゼが征して引き連れてきたエチオピアの王がモーゼを称えるのを見て、セティは「敵にまで賞賛されるとは・・・」と、モーゼを誇らしく思うのだった。

セティには実の息子、ラメシス王子(ユル・ブリンナー)がいた。ラメシスは侮りがたい権力を振るっていた。美しい王女ネフレテリ(アン・バクスター)は“世襲王女”だったから、次の王座に着く者は彼女と結婚することになる。ネフネテリはモーゼを愛していた。

ゴーシェンでは、都市建設のため、多くの奴隷が巨大な石の運搬に従事していた。鞭を打たれロープを引く奴隷たち。石のすべりを良くする為油を塗っていた老婆ヨシャベル(モーゼの生みの母)が石に腰の紐がはさまれ動けなくなった。「止めて!」巨大な石は迫ってきた。下敷きになる!その時、石工のヨシュア(ジョン・デレク)が監督を殴って全員の動きを止めた。水汲み娘リリア(デブラ・パジェット)の報せでモーゼが駆けつけた。モーゼは老婆の紐を切って助けた。

モーゼはヨシュアに奴隷たちに食物と休暇を与えるよう指示をした。神殿の倉庫から麦を取り出す群集。奴隷たちは生き生きしてきた。
ラメシスはファラオに苦言を呈した。「今や、救世主の替わりにモーゼがいます。彼は7日ごとに奴隷に休暇を与えている」
しかしモーゼはファラオに仕事の成果を示した。巨大な都市。ファラオを称える塔が聳え立っていた。ファラオはモーゼを次の王にすると心に決めた。

その頃、ビシアの侍女メムネットはモーゼの出生の秘密をネフレテリに告げていた。「奴隷を王にしても良いのですか?」メムネットはモーゼが赤子の時、包まれていた布を見せた。ヘブライの布だった。ネフレテリは驚愕したが、「誰の子でも良い」 ネフレテリはメムネットを刺し殺した。

ネフレテリはモーゼに言った。「貴方は生まれつきの王子ではなく、ヘブライの奴隷の子だったのです」・・・モーゼは自分の出生の秘密を知り愕然とする。
ビシアに問いただすモーゼ。ビシアは真相を打ち明けた。
ゴーシェンのヘブライの家に生みの母ヨシャベルを訪ねるモーゼ。石の下敷きになるところを自分が助けた老婆だった。兄と姉もいた。
母は言った。「人間を家畜同様に追い使ったり、偶像を拝むことができるなら、私の息子ではありません・・・」 育ての母ビシアもいた。
モーゼは言う。「ヘブライ人が奴隷でなければならぬ訳をここで考えます・・・」 ビシア「わざわざ奴隷の身になるというの?」

モーゼは奴隷の中に入った。レンガを作る泥の中に肉体を使役した。
ある日、ネフレテリがやって来た。「船のこぎ手が一人欲しいの、その人」ネフレテリはモーゼを指名した。

一方、ヘブライの出身だが奴隷の監督に出世していたデイサン(エドワード・G・ロビンソン)は総督バーカ(ビンセント・プライス)に奴隷の美女リリアを差し出した。それを助け出そうとして忍び込んだリリアの恋人ヨシュアは捕まってしまう。ヨシュアはバーカの鞭を受けた。そこへ現れたのは奴隷姿のモーゼだった。モーゼはバーカの首を締めて殺した。ヨシュア「何故、王子が総督を殺すのです?」モーゼは言う。「私は同胞だ。ヘブライの子として生まれ、捨て子の私を拾った母が王子として育てたのだ」
この二人の会話を陰からデイサンが聞いていたのだった。



ファラオの前に鎖に繋がれたモーゼが引き出された。ラメシスはモーゼを指さして言った。「彼こそ奴隷の救い主、奴隷の子です」 ファラオは信頼していたモーゼを後継ぎにしようと決めていたので立腹した。「お前が奴隷の子でも構わぬ。救い主でないと言えば信ずるぞ」 モーゼは言う。「神のみが救えます。奴隷は自由も信仰もなく虐げられています。できることなら救いたい・・・」 ファラオの逆鱗にふれた。「全ての記録からモーゼの文字を抹消せよ!」

ラメシスはモーゼを殺さなかった。「あらゆる苦しみを味わってから死ぬが良い」 1日分の水と食料を与えモーゼを砂漠に追放した。
何日も何日も、果てしない砂漠を放浪するモーゼ。飢えと乾きが極限に達し、モーゼがたどり着いた場所はミデヤンの泉の近くだった。

羊飼いの族長ジェスロには長女セファラ(イボンヌ・デカルロ)を筆頭に7人の娘がいた。泥棒を退治してジェスロに迎え入れられたモーゼはセファラを妻とし、羊飼いになった。そこは聖なる山、シナイ山を仰ぐ肥沃の地だった。
ある日、鉱山から逃げてきたヨシュアはモーゼに再会した。「ラメシスから民を救ってください。新しいファラオが奴隷を虐げています」ヨシュアはモーゼに訴えた。その時、シナイ山の頂きが異様な光を放っていた。

モーゼはシナイ山に登った。山頂に一本の木があり、光はそこから発していた。声が聞こえる。“アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である”
モーゼはひれ伏した。「主よ、エジプトで虐げられている民の声をお聞きになりませぬか・・・」 “聞いておる。お前をファラオのところへ遣わして民を救わせよう”
モーゼが山を下りてきた。モーゼの髪は白髪になっていた。セファラは言った。「神を見たんだわ・・・」

妻子を連れ一本の杖のみでエジプトに戻ったモーゼは宮殿に出向いた。前ファラオは死に、ラメシスが新しいファラオになっていた。妻ネフレテリとの間に男の子がいた。死んだと思っていたモーゼを見てネフレテリの顔が輝いた。
ラメシス「貢物は?」 モーゼ「神の言葉を伝える。イスラエルの神は言われた。我が民を去らせよと・・・」 ラメシス「奴隷どもはわしの者、生命も財産もだ」 
「神の力を見よ」モーゼが杖を置くとたちまちコブラに変わった。ラメシスは驚かない。「手品で脅すつもりか」
モーゼが杖をナイルの水につけると血に変わった。ナイルの大河が血の色に染まっていく。モーゼが天に向かい両手を差し出した。すると空が急に掻き曇り夥しい雹が降り始めた。雹は落ちると火に変わった。

神官たちは怯え、ラメシスに進言した。「モーゼの言うとうりになった。このままだとエジプトが滅びます」
モーゼに何も手が打てないラメシスをネフレテリがなじるのだった。「それでもファラオなの」 ラメシスは言った。「彼の神など知らぬ。民も去らせぬ」
ラメシスは指示を出した。「ゴーシェンに災厄をもたらす。全ての長子を殺せ!」

ネフレテリはゴーシェンのモーゼの家を急遽訪ねた。ラメシスの決定をセファラに伝え、モーゼの子を守ろうとした。モーゼの妻子はミデヤンへ逃げた。
ネフレテリからラメシスの話を聞いたモーゼは驚愕し、「神を怒らせてしまった。死ぬのはエジプト人の長子だ。ファラオから召使に至るまで、長子を失うことになる」 ネフレテリはそれを聞き、モーゼに哀願した。「私の息子を助けて!私も助けたのよ!」 しかし、モーゼには神の決定は変えられない。

やがて天から暗黒の雲が垂れ込め、地表に降りてきた。街を覆う黒い空気はエジプト人の家に侵入し、長子の命を奪っていく。モーゼの家に育ての母ビシアが来た。「異教徒でもいい?」 モーゼは受け入れた。
暗黒はファラオの宮殿も襲い、ラメシスの息子の命を奪った。ラメシスは完全に打ち負かされた。

恐怖の夜が明け、偉大な一日が始まった。人々は四方から家財を車や背に乗せ、家畜を追いながら道に溢れた。この民族の大移動をヨシュアが指揮した。モーゼは叫ぶ。「神の山へ向かわせよ。そこで、神の掟を授かるのだ」
何千、何万の人,人,人。家畜。砂漠を行進する希望に溢れた旅だ。

一方、ファラオは打ちひしがれていた。息子を殺されたネフレテリは今やモーゼに対し復讐の念に燃えていた。「彼等の嘲笑が聞こえないの!」と、ラメシスを責め立てるのだった。
とうとう、ラメシスは決意する。「一人残らず殺す!」 ネフレテリ「この剣にモーゼの血を着けてきて!」 ラメシス「モーゼの次はお前の血だ!」

ファラオの軍隊がイスラエルの民を追った。その頃、民族は紅海のほとりにいた。やがてはるか彼方にファラオの軍隊を見た人々は騒ぎ出した。
デーサンはゴーシェンの総督になっていたが、いつか民をエジプトへ連れ帰ろうと一行に加わり、様子を窺っていた。「モーゼを引き渡せ!」デーサンに同調する声があちこちから上がった。ファラオの軍隊が目前に迫った。背後は紅海が波打っている。
モーゼ「恐れるな!落ち着いて神の救いを見よ!」 モーゼが天に両手を伸ばした。すると、風雲にわかに掻き曇り、天から光が集まってファラオの軍隊の前に火柱を立てた。
さらにモーゼが紅海に向かい、手を差し伸べる。「神の御業を見よ!」すると、何と紅海の水が割れ、道を作ったのである。群集は海を渡った。全部の民が渡り終えた時、軍隊が開かれた道を追って来た。モーゼは紅海の水を閉じた。軍隊は海に飲み込まれた。かくして、イスラエルの民はシナイの地へと導かれていった。

ラメシスはファラオの軍隊を失い、宮殿に戻って言うのだった。「モーゼの神は真実の神だ」 ネフレテリの復讐は打ち砕かれたのだ。

シナイ山の麓で待つ民は、モーゼが山へ登ったまま40日も降りてこないので不安になった。またもやデーサンが群集をたきつけた。「このままでは飢え死にだぞ!エジプトへ戻ろう! 皆の為に偶像を作れ!金の子牛の神だ!」

モーゼは山頂で神の言葉を待った。「主よ。民をここへ導き、主の戒律を授けさせようとお命じになりました。・・・どうぞ、お言葉を・・・」
すると、雷鳴とともにあらゆる場所から光が集まり、火柱が宙に浮かんだ。神はモーゼの立つ岩に向けて火を放った。“十戒”を刻印したのである。

一、我は汝の神ヤーウェ、汝をエジプトから導いたもの、
   我の外何ものも神とするなかれ
二、汝自らのために偶像を作って拝み仕えるなかれ
三、汝の神ヤーウェの名をみだりに唱えるなかれ
四、安息日をおぼえてこれを聖くせよ
五、汝の父母を敬え
六、汝殺すなかれ
七、汝姦淫するなかれ
八、汝盗むなかれ
九、汝隣人に対して偽りの証をするなかれ
十、汝隣人の家に欲を出すなかれ
“急いで山を下るが良い。お前の民は堕落し、罪を犯した”神の声が聞こえた。

麓の民は大罪を犯した。デーサンの扇動で多くの群集が偶像を作り、踊り狂っていた。彼等は邪悪のパンを食べ、暴虐の酒を飲んだ。

モーゼは十戒が刻まれた二枚の石版を手に、山を降りた。モーゼに後光が差していた。ヨシュアが待っていた。
モーゼが叫んだ。「イスラエルよ災いあれ!お前等は神の前に大罪を犯した。この十戒を授かる資格は無い!」 デーサン「指図は受けん!俺たちは自由に生きることにしたのだ。」  モーゼ「律法なしに自由は無い!」
モーゼは信ずる者達を分けた。そして、デーサンの偶像に向かい石版を投げた。「お前等は地獄に落ちるが良い!」 金の牛の偶像が砕け散った。同時に地が割れ、すべてが落ちていく。

神はこの民を試す為、40年の間荒野をさ迷わせ、十戒に従わぬ者を根絶やしにした。
モーゼがヨルダン河のほとりのネポ山に登った時、ヨシュアに後を託した。
“行け!全ての土地に、全ての住民に自由を宣言せよ・・・・”
映画館主から

大作映画監督の異名をとるセシル・B・デミルが旧約聖書の「出エジプト記」を題材にしたスペクタクル。デミルは1923年にも「十誡」を製作しています。余程、気に入ったテーマなのでしょう。

ジョン・P・フルトンの特殊撮影は当時としては群を抜くもので、紅海が真っ二つに割れる場面、十戒が岩に刻印される場面、火柱がファラオの軍隊を遮る場面、雹が降り、炎に変わる場面、ナイルの水が血に変わる場面などで、CG(コンピュータ・グラフィックス)などない時代のSFXとしては最高の技術でアカデミー特殊撮影賞を得ています。

企画から考証研究に3年、現地エジプトのロケハンとシナリオの執筆に3年、撮影にかかるまでの準備に3年、ロケ撮影に3ヶ月、セット撮影に4ヶ月と、計9年7ヶ月の日数を費やしました。エキストラは2万5千人、小道具は10万点と、ハリウッドの記録づくめ。

モーゼ役のチャールトン・ヘストンは本作の快演で、「ベン・ハー」をはじめ、歴史劇の大作に欠かせない俳優となりました。ラメシス役のユル・ブリンナー、デイサン役のエドワード・G・ロビンソン、ネフネテリ役のアン・バクスター、ヨシュア役のジョン・デレクなど芸達者ぞろい。ジョン・デレクはTVシリーズの西部劇「サーカス西部を行く」に主演していました。もう、40年も前の話です。
モーゼの生みの母、ヨシャベルを演じたマーサ・スコットは奇しくも「ベン・ハー」でもチャールトン・ヘストン演ずるベン・ハーの母親役でした。

それにしても“十戒”の思想は古来イスラエルの宗教の基盤であり、キリスト教に発展し現代欧米の倫理道徳の中核をなす、いわば世界宗教の筈なのに、いまだに血で血を洗う戦火が耐えないのは何故なのでしょうか。
アラブその他の回教圏においても、モーゼは偉大な預言者として尊敬され、“十戒”の思想は様々な形でコーランの中に取り入れられているそうです。

私がこの映画を見たのは中学生の時。学校全員で映画館に見に行きました。何か物凄い映画を見終わり、宗教的な余韻に浸っていたのを思い出します。

   参考文献:「十戒」 公開時パンフレット

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