| チャップリンの独裁者 1940・米 |
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![]() 製作:監督:脚本: チャールズ・チャップリン 撮影:ローランド・トザロー カール・ストラス 音楽:メレディス・ウィルソン 出演:チャールズ・チャップリン ジャック・オーキー ポーレット・ゴダード レジナルド・ガーディナー ヘンリー・ダニエル ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 二つの世界大戦の中間の時代・・・狂気が世界を支配し、人類の自由が失われていた頃の物語である。 第一次世界大戦の末期、1918年。 敗色濃いトメニアに革命が起こり、政府は平和交渉に努めていたが、前線の将兵は勝利を信じて戦っていた。 最新式の長距離砲が西部戦線に登場し、敵の戦意をそぐべく目標をノートルダム寺院に定めていた。 兵隊の床屋(チャールズ・チャップリン)が引き金のロープを引くと、弾丸は長い砲をゆっくりと登りポトンと落ちた。何じゃこりゃ?「導火線を調べよ!」 床屋が弾丸に近づくと、弾丸は床屋の方向を向き追いかけてくる。そのうちにネズミ花火よろしくクルクルと回転し、ドカンと爆発した。 手榴弾を投げようとした床屋、手榴弾が軍服の中に入ってしまい、慌てふためき探し悶える床屋に上官が言った。「かゆければ後でかけ!」 やっと探し出した手榴弾を投げた瞬間に爆発した! 深い霧の中、敵に向かい行進するうちに紛れてしまい、気が付けば敵の行進に混じっていた床屋。逃げろ! そんなドジな床屋が、傷ついていた政府の高官シュルツ(レジナルド・ガーディナー)を飛行機に乗せて救出した。だが飛行機の操縦ができない床屋はアクロバット飛行で上を下への大騒ぎの果てトメニアの地に不時着した。 時の新聞が時勢を報じた。 『リンドバーグ大西洋横断!』『トメニアに叛乱起きる!』『ヒンケルがついに政権を握る!』 ヒンケル総統の大演説がラジオから流れる。 「民主主義は下らん!自由は下らん!言論の自由は下らん!我が陸軍は世界最強である!海軍も世界最強である!生活を犠牲にせよ!」 演説の後、ヒンケル(チャールズ・チャップリン:二役)がガービッシュ内相(ヘンリー・ダニエル)に意見を求めた。「どうだった?」 「・・・ユダヤ人問題が穏やかすぎましたな」 ガービッシュは答えた。 ユダヤ人街の床屋に戻った床屋は不時着のショックで記憶を失っていた。トメニアに叛乱が起き、ヒンケル政権になったことも知らない。 ヒンケルの突撃隊が街にやって来て、床屋の窓にペンキで“ユダヤ人”と書いていく。それを消そうとした床屋と突撃隊が道路でもみ合いになる。 隣家の洗濯娘ハンナ(ポーレット・ゴダード)は気が強い。二階の窓からフライパンで突撃隊の頭を殴る。間違えて床屋の頭も殴る。突撃隊と床屋は頭が混乱して踊りだす♪ とうとう床屋は突撃隊に捕らえられ、街灯の柱に吊るされそうになった。そこへ来たのはシュルツ高官であった。床屋を見て、「君か!私を覚えておらぬか、ユダヤ人とは知らなかった・・・」 床屋は解放された。 ヒンケルは世界最強の軍隊を頭に描いていた。「アリアン人だけの国を作らねばならぬ。碧眼金髪のトメニアを・・・! ガービッシュ内相は言う。「ユダヤ人と黒髪を抹殺して、アリアン人の世界にするのです、そうすれば総統は神として敬われます!」 「か、神と言うな、自分が怖くなる!」 ヒンケルは有頂天でカーテンによじ登った。 「まず、オスタリッチに進駐なさい、他の国は戦わずして従ってきます。2年間で世界を征服できますぞ」 「世界の君主か!」 ヒンケルは地球儀の風船を玩ぶ。地球は今や我が手中にあるのだ!風船は足で蹴られ尻で突き上げられ、やがてパチンと破裂した。 ヒンケルはオスタリッチ進駐のための軍費の借り入れをユダヤ人財閥のエプスタインに申し込んだ。ユダヤ人街につかの間の平和がやって来た。 床屋はハンナを稽古台に再び床屋を開業した。髪を整えるとハンナはなかなかの美人。 ラジオから流れる“ハンガリア舞曲” ♪♪床屋は緩急のメロディに合わせ剃刀を砥ぎ、男性客の髭を剃る。気分良さそうに髭を剃る床屋はともかく、客の方は気が気ではない♪♪ ユダヤ人財閥のエプスタインに軍費借り入れを断られたヒンケルは、オスタリッチ進駐を延期せざるを得なかった。その代わりに反撃に出た。シュルツ高官を呼びユダヤ人街の襲撃を命じたが、逆にシュルツに意見されたためシュルツを逮捕し、収容所送りにした。 街のスピーカーからヒンケルの叫ぶ声が流れる。 「全てのユダヤ人を地球から抹殺せねばならぬ!」 突撃隊が街を襲撃した。 だぶだぶのズボン、山高帽にステッキのいでたちの床屋はハンナとデイトに出かけるのを止め、屋根の上に逃げた。床屋が焼かれ煙が立つ。 しょげる床屋にハンナが言った。「オスタリッチに行き出直せばいいわ」 大家ジェケルの地下室に逃げてきたシュルツが匿われていた。シュルツが謀議を画策した。ヒンケル暗殺のための人選をするというのだ。 ケーキの中に銀貨が入っていた人間が刺客として選ばれる。 床屋を始め数名がテーブルに着いた。ハンナがケーキを持って来た。その中の一つに銀貨が入っている。どれを食べるか、床屋がケーキを一つずつ品定めして全員に配った。恐る恐るケーキにナイフを入れる。食べて眼を白黒させる床屋。よそ見した隙に床屋のケーキに自分のを混ぜる男。 「僕のケーキに銀貨が入ってた」 大家ジェケルが言った時、床屋の口から何枚もの銀貨が飛び出した。 ハンナが叫んだ。「私が全員に入れたのよ、官邸を爆破して大勢の人を殺すなんて愚かなことよ!」 「そうだ、我々は愚かだった」 シュルツは反省した。 シュルツの捜索で突撃隊がやって来た。屋根の上に逃げる二人。床屋は慌てふためき落ちそうになるが、屋根を突き破り、そこで御用となる。二人は収容所へ送られた。 大家ジェケル一家はハンナと共にオスタリッチへ亡命した。そこで農園を営み豊な自然に囲まれて生活するハンナはつかの間の幸せを味わっていた。 『オスタリッチは美しい国です。釈放の日を待っています』 ハンナは床屋に手紙を書いた。 その頃、ヒンケルは、オスタリッチ進攻を巡り、バクテリア国の独裁者、ナパロニ(ジャック・オーキー)と会談を持つことになった。 列車で到着したナパロニはヒンケルと閲兵する。お互いに見得の張り合いに余念がない。 床屋とシュルツは士官の服を奪い、収容所から脱走した。 その頃、オスタリッチ国境の湖に鴨猟を装いボートに乗っていたヒンケルは、脱走した床屋と間違われてトメニアの兵に逮捕されていた。 床屋とシュルツは軍服を着て歩く。トメニア兵が右手を突き上げて敬礼する。 「ハイル、ヒンケル!」 戸惑う床屋にシュルツが指示を与える。もはや誰の目にも床屋はヒンケル総統である。 「ハイル、ヒンケル!全ては順調に進んでおります。戦車200、装甲車50をもって護衛いたします!」 「・・・よ、よろしい」 「オスタリッチに進駐しますか?」 「・・・よ、よし・・」 かくして、トメニア軍はオスタリッチに入った。迎えた群集を前に演台が準備されていた。床屋とシュルツを見て軍首脳部の一人が囁く。「変じゃないか、シュルツだぜ?」 「許されたんだろう」 ガービッシュ内相が演台に立った。 「今日、民主主義は大衆を欺く組織になった!民主主義によって国は発展しない、むしろ妨げになる。ユダヤ人は市民権を剥奪される!彼らは国家の敵である!国民は我が総統に従わねばならぬ!トメニアの総統!オスタリッチの征服者!未来の世界君主!」 集まった夥しい群集のざわめきが起こる。 床屋はシュルツに促された。「話すのだ・・・」 「・・・だめです」 「他に助かる道はない」 床屋は仕方なく演台に立った。そして、話し始めた。 「・・・申し訳ない・・・私は皇帝になりたくない、支配はしたくない、できれば援助したい、ユダヤ人も黒人も白人も・・・人類はお互いに助け合うべきである、他人の幸福を念願としてお互いに憎しみあったりしてはならない、世界には全人類を養う富がある。人生は自由で楽しいはずであるのに、貪欲が人類を毒し、憎悪をもたらし、悲劇と流血を招いた。スピードも意志を通じさせず機械は貧富の差を作り、知識を得て人類は懐疑的になった。 思想だけがあって感情がなく、人間性が失われた。知識より思いやりが必要である。思いやりがないと暴力だけが残る。航空機とラジオは我々を接近させ、人類の良心に呼びかけて世界をひとつにする力がある。 私の声は全世界に伝わり、失意の人々にも届いている。人々よ失望してはならない。貪欲は姿を消し、恐怖もやがて消え去り、独裁者は死に絶える。大衆は再び権力を取り戻し、自由は決して失われぬ! 兵士諸君、犠牲になるな、独裁者の奴隷になるな!彼らは諸君を欺き犠牲を強いて家畜のように追い回している。彼らは人間ではない!心も頭も機械に等しい!諸君は機械ではない!人間だ!心に愛を抱いてる、愛を知らぬ者だけが憎み合うのだ!独裁を排し自由のために戦え!“神の王国は人間の中にある”すべての人間の中に!諸君の中に! 諸君は幸福を生み出す力を持っている、人生は美しく自由であり素晴らしいものだ!諸君の力を民主主義の為に集結しよう!よき世界の為に戦おう!青年に希望を与え、老人に保障を与えよう! 独裁者も同じ約束をした、だが、彼らは約束を守らない、彼らの野心を満たし大衆を奴隷にした!戦おう、約束を果たす為に!世界に自由をもたらし、国境を取り除き全人類を幸福に導くように、兵士諸君、民主主義の為に団結しよう! ・・・ハンナ・・・聞こえるかい、元気をお出し・・・ご覧、暗い雲が消え去った、太陽が輝いてる、明るい光がさし始めた。新しい世界が開けてきた、人類は貪欲と憎悪と暴力を克服したのだ。人間の魂は翼を与えられていた、やっと飛び始めた、虹の中に飛び始めた、希望に輝く未来に向かって。 輝かしい未来が君にも私にもやって来る、我々すべてに!ハンナ、元気をお出し!・・・」 オスタリッチに進攻したトメニア軍の暴行を受け失意にあったハンナは、ラジオから流れる床屋の声を聞いた。「・・・あの声は?!」 ハンナの顔が希望に満ちてくるのであった。 |
| 映画館主から 喜劇王チャップリンの代表傑作。 当時台頭してきたドイツのヒトラーを戯画化し、茶化し、独裁性を告発した作品です。 それまでトーキーを嫌っていたチャップリンが初めてトーキーを本格的に採用した作品です。 それには、ラストでヒンケル総統に間違われた床屋が6分間を超える大演説をぶつのにどうしてもトーキーが必要だったからに他なりません。 それまでの多くの映画と同様、彼のパントマイムのギャグの連発は大いに笑わせ、腹を捩らねばなりませんが、(特にハンガリア舞曲のメロディに合わせて髭を剃る床屋が最高に笑わせる)その分、彼の反骨精神は独裁者の狂気に翻弄されて多大な犠牲を強いられた時代を明確に浮かび上がらせたように思います。 ヒンケル総統は言わずと知れたドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーの暗示です。同じく、トメニアはドイツ。オスタリッチはオーストリア。バクテリア国はイタリア。ナパロニはムッソリーニとなります。 チャップリンは、1889年4月16日にロンドンで生まれました。奇しくもヒトラーはその4日後の20日にオーストリアで生まれています。 ヒンケルとユダヤ人の床屋の二役を演ずるチャップリンですが、チャップリンの父は、フランス系ユダヤ人でした。 本作の製作にはドイツやその意向を受けたハリウッドの資本家が様々な圧力を加えてきたそうです。しかし、ヒトラーが自由と民主主義の敵だと見抜いたチャップリンは、敢然と勇気を持って映画人生の全てを賭けてでも完成しなければならなかったのです。 ラストの演説はヒンケルでも床屋でもなく、チャップリンのメッセージそのものなのでした。 反ユダヤ主義の名のもとに行われた、ホロコーストと呼ばれるナチス・ヒトラーの大量虐殺は、アウシュビッツなどの強制収容所で主に毒ガスを用いたもので、ユダヤ人の犠牲者は600万人に及びます。 この数は、第二次世界大戦における日本の戦死者・行方不明者・一般市民・原爆被害者の合計310万人の約倍という目を覆うような惨状です。 「日独伊三国同盟」を締結して、太平洋戦争に突入していった日本にはこの映画の上映許可が出るはずもなく、日本で公開されたのは大戦が終わって15年後の1960年(60年安保の年)でした。 参考文献:「週刊20世紀シネマ館 NO.20」 講談社 |
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