|
「間違えられた男」 |
| 間違えられた男 1956・米 |
|
![]() 監督:アルフレッド・ヒッチコック 原作:マックスウェル・アンダースン 脚本:マックスウェル・アンダースン アンガス・マクフェイル 撮影:ロバート・バークス 音楽:バーナード・ハーマン 出演:ヘンリー・フォンダ ベラ・マイルズ アンソニー・クェイル ハロルド・J・ストーン チャールズ・クーパー リチャード・ロビンズ ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 マンハッタンの高級クラブ、ストーク・クラブでは深夜まで多くの客がしゃべったり踊ったりしていた。
イタリア系のアメリカ人、エマニュエル・バレストレロ(ヘンリー・フォンダ)はそこのベース奏者でレギュラーメンバーだった。
愛称はマニーで、皆からもそう呼ばれている。年齢は38歳。妻ローズ(ベラ・マイルズ)と二人の息子がいる一般的な普通の家庭である。
マニーは深夜の2時に閉店すると仲間と別れクイーンズに向かう。
がらんとした地下鉄に乗り新聞を広げて競馬の予想に目を走らせる。
地下鉄を降りると駅前のスナックで軽く腹ごしらえしながら競馬予想にマークをつける。これがマニーの日課だった。
マニーがアパートに帰る頃はもう明け方である。
ローズは歯を痛めており、近々治療に300ドル必要だという。マニーの週給は85ドルで、かなりの痛手だ。
次の日に生命保険証をもとに借金してこようとマニーはローズに言った。
朝になるとやんちゃな息子たちが兄弟げんかを始めた。長男がピアノを弾いていると、次男がハーモニカを吹いて邪魔をする。マニーは今夜レッスンをしてやろうと二人に言った。
そこへ母から電話があり、父親が病気なので寄ってくれないかという。
午後、ロング・アイランドのアソシエイテッド生命保険会社の出張所で、マニーは妻の生命保険証を出して金を借りようとした。
窓口で応対した女はマニーを見て何やら怪訝な顔つきになった。
「あの人、似てない?」
女は奥に行き、何やら話している。応対に出たほかの女も怪訝な面持ちでマニーの顔を見ていたが結局金は貸してもらえなかった。
マニーはその足で母親のところに行き、夕方5時過ぎに自宅に戻ったが、自宅前で見張っていた二人の男に呼び止められた。
刑事だった。少し話があるからと、そのまま車の中に押し込まれ、警察に連行されたのだ。マニーはまったく何のことか分からない。
「保険会社の女事務員から通報があった。お前が去年のピストル強盗だと言ってな」
第110分署につくと、刑事がマニーに言った。マニーは 「まさか、何かの間違いだ」 と、開いた口がふさがらなかった。
マニーは車に乗せられ酒屋の前で降ろされた。
「酒屋に行き、奥まで行って戻って来い」 刑事はマニーに言う。
マニーはその通りに実行する。酒屋の主人がマニーを見ている。首実検である。食料品店でも同じことをさせられた。
マニーの家ではマニーの帰りが遅いのでローズが心配していた。
昼間寄るといっていた母親の家にも電話した。
マニーは署に連れ戻され尋問を受ける。アソシエイテッド保険会社が襲われたのは昨年の7月9日と12月18日だった。
その時、強盗は応対に出た女に『この銃は君を狙っている。静かにすれば怪我はさせない。現金引き出しの金を出せ』 とのメモを見せた。
刑事はマニーにその文面をそのままに筆記させた。しかも2度だ。筆跡鑑定だった。
マニーの筆跡は強盗のものと酷似していた。しかも2度目の時には“引き出し”のスペルを間違った。何故か犯人もそうだったのだ。
これはマニーにとって致命的だった。調べは本格的になった。首実検でも保険会社の事務員たちはマニーを犯人と指摘した。マニーは留置された。
翌日、マニーはロング・アイランドの刑務所に未決のまま収容され、保釈金7500ドルを支払えば出られると言われる。
しかし、週給85ドルの彼にそんな大金がある筈もない。
マニーは絶望感に襲われたが、ローズの尽力でローズの兄ジーンが保釈金を調達してくれ、2日後にマニーは保釈された。
ローズはマニーの母親と相談し、弁護士フランク・オコナー(アンソニー・クェイル)に弁護を依頼した。
オコナーはマニーから事情を聞き、アリバイの立証が一番だと言った。
マニーとローズは事件のあった昨年の7月9日の記憶をたどった。
二人はその日、ニューヨーク州のコーンウォールに旅行に出かけていた。
二人は早速、コーンウォールのホテルの主人に会いに行く。
ホテルの主人の記憶は曖昧で失望したが、話しているうちにその日は雨でベランダのテーブルで3人の宿泊客とポーカーゲームをしたことを思い出した。
宿帳を見ると、そのうちの二人の名前、ラマルカとモリネリの住所があった。
二人に証言してもらえば容疑は晴れる。元気付けられた二人は、ラマルカのもとを訪れた。
ラマルカは居所が不明で、その妻は3ヶ月前に引っ越しており移転先は不明だった。
がっかりしながら、つづいてスラム街のモリネリを探し当てたが、アパートの住人は彼が死んだというのだった。
マニーは落胆し、ローズはひどく疲れきっていた。
弁護士のオコナーはそれでも裁判に勝てると励ました。マニーが2回目のピストル強盗のあった12月18日にはマニーは歯痛で片方の頬を腫らしていたのを思い出したからである。
それが人違いであることを立証できるかもしれない。
だが、ローズの様子が尋常ではなかった。ローズは夫の受けている仕打ちが自分に原因しているのではないかと誇大妄想にかかり精神に異常をきたしていた。
マニーはクラブで仕事を続けていたが、ある日帰宅すると、ローズがベッドにまるで幽霊のように打ちひしがれて座っていた。
「眠れないの」 とローズ。
マニーが医者に見てもらおうというとローズは怒り出した。しばらく息子たちを母親に預けようというと、ローズは半狂乱になりマニーの頭をブラシで殴りつけた。
マニーはローズをニューヨーク郊外の精神病院に入院させざるを得なかった。
公判が始まった。オコナーは次々と検事側の証人に反対尋問を行ったが、状況はあきらかに不利だった。
陪審員の一人が不謹慎な発言をしたのを盾に取り、オコナーは裁判を一時中止し、陪審員を選び直すことに成功した。
時間稼ぎができ、今度こそ有利に展開できるとオコナーは励ましたがマニーの憂鬱な気分は深くなるばかりだった。
母親はきっと神が助けてくださるとマニーを慰める。マニーはキリストの画像を見て祈りの言葉をもらす。
そしてその頃、“奇跡”が起こっていたのである。
夜の街を一人の男(リチャード・ロビンズ)が歩いてくる。この男の顔はマニーにそっくりである。
男は左右を見回し、食料品店に入る。店番が一人だけなのを確認すると現金を奪おうとした。しかし女主人の機転で難なく逮捕されてしまったのである。
その夜もクラブでベースを弾いていたマニーに警察から電話が入った。
重い気分のマニが出向くとオコナーも来ている。
「真犯人が逮捕された」 オコナーが言った。
マニーは自分と良く似た男と顔を合わせる。
「君が僕の妻に何をしたか分かるか!」 マニーは怒りを抑えきれずに口走った。
ようやく潔白の身になったマニーが療養所にローズを訪ねる。
安心させようとしたが、ひとたび彼女を見舞った衝撃はそう簡単には去らず、夫の言葉をひとごとのように聞くばかりだった。
ローズが心身ともに回復し、療養所を退院し一家と共にフロリダで幸福に暮らすようになったのは2年後のことであった。
|
| 映画館主から アルフレッド・ヒッチコックの最も好む題材は“間違えられた男”です。
犯人に間違えられ警察に追われる、追われながら真犯人を探すというパターンが多く見られますが、本作はまさに“間違えられた男”なのです。
実話に基づいた話なのでドキュメンタリータッチで前編リアリズムに徹しており、ヒッチコックのお得意のスリルやサスペンスは排除されています。
その意味ではあまり面白くないといえます。
ヒッチコックの実話の映画化はこの1本のみです。
劇作家でシナリオ・ライターでもあるマックスウェル・アンダースンが「ライフ」誌に発表した実話「クリストファー・エマニュエル・バレストレロの実話」に基づき、事件の日付、事件の起きた場所など、実話どおりに再現しました。
ある日、突然、強盗の罪を着せられ警察に逮捕されるという濡れ衣の恐怖。しかも、ただ顔が似ているだけというのがきっかけなのでした。しかし運が悪かったのは筆跡までそっくりだったのです。
現在なら、強盗の残したメモ書きの紙片からDNA鑑定も可能かもしれませんが何しろ半世紀も前の話です。
悲惨なのは冤罪事件を通じて妻の精神が異常をきたしてしまったことです。一旦異常をきたした精神は夫の冤罪が晴れても簡単には元に戻りません。 主演のヘンリー・フォンダ、ベラ・マイルズ、アンソニー・クェイルの他はほとんど無名のキャストです。それだけリアリティにこだわったのです。 印象深いシーンがあります。ヘンリー・フォンダがキリストの画像を見て祈るとその画像とだぶるように真犯人の顔が現れるシーン。 まさに骨格がフォンダにそっくりです。 フォンダが独房に入ると、ドアのこちら側にいたカメラが小さなドアの覗き窓からスッと独房の中に入ってしまい、フォンダが外を見ようと窓を覗くと同時にカメラもスッと外に出てきます。 何気ない場面ですがさすがと思いました。 参考文献:「ヒッチコック 映画術 トリュフォー」 晶文社 |
|
|