| 情婦 1957・米 | (ご覧になっていない方は最後まで読まないでください。) |
![]() 製作:アーサー・ボーンブローJr 監督:脚本: ビリー・ワイルダー 原作:アガサ・クリスティ 脚本:ハリー・カーニッツ 撮影:ラッセル・ハーラン 音楽:マティ・マルネック 出演:タイロン・パワー マレーネ・ディートリッヒ チャールズ・ロートン エルザ・ランチェスター トリン・サッチャー ![]() ![]() ![]() |
物語 病気療養から戻って来たばかりの法曹界の長老ロバーツ卿(チャールズ・ロートン)は、うるさい看護婦(エルザ・ランチェスター)のお小言に辟易していた。 好きな葉巻、酒はもちろん、禁止。身の周りの世話をやき過ぎるのだ。 そんな折、ロンドン郊外に住む未亡人エミリー・フレンチ殺人事件の容疑者レナード・ボール(タイロン・パワー)が付添い人とともにロバーツ卿に弁護の依頼に訪れた。 病み上がりを理由に弁護を断るロバーツ卿だったが、付添い人の胸に葉巻があるのを見て気が変わった。部屋へ入れ容疑者ボールの話を聞く。 「あの日は、フレンチ夫人の家に8時頃遊びに行き、サンドイッチをご馳走になり9時頃出て、家に帰ったのは9時半頃でした」 フレンチ夫人が殺害されたのは9時半頃とされている。 「アリバイを証明する人はいるかね」 「妻がいます」 「献身的な妻の証言は証拠にならんのだよ」 ロバーツ卿はいつもの癖で、自分の眼がねに外の太陽の光を反射させ、相手の目に当てて窺がった。嘘をついているようには見えない。 フレンチ夫人の遺言が見つかり、容疑者ボールに8万ポンドの遺産が託されていることが解った。これは動機にはなる。 状況からボールは容疑濃厚となり、逮捕された。 ロバーツ卿はボールに面会した。ボールは第二次大戦直後のベルリンの酒場で愛する妻クリスチーネ(マレーネ・ディートリッヒ)と出合った経緯を話した。クリスチーネは酒場で歌う歌手だった。悲惨な生活から彼女を救いロンドンに連れてきたのだった。 ボールのアリバイを証明する人間はそのクリスチーネしかいないのだ。 ボールの裁判が始まる。ボールは無罪を主張した。検察側の証人が次々と証言する。そして検事が指名した最後の証人は何とボールの妻クリスチーネだった。ロバーツ卿は驚く。何故、被告の妻が検察側の証言をするというのか。 クリスチーネの証言は意外なものだった。「夫が家に帰ったのは、9時26分ではなく、10時過ぎでした」 「何を言うんだ!」ボールが叫ぶ。傍聴席がざわめく。 「とても興奮していて、袖口に血が付いていました。そして言いました。彼女を殺した、と」 「何でそんな嘘を言うんだ」 ボールは妻が信じられない。人々は「恐ろしい女だ」「鬼のような女だ」と、ざわめいた。 ロバーツ卿は苦境に立たされた。被告の唯一のアリバイを証明できる筈の妻が検察側の証言台に立ち、致命的な証言をしたのだ。 その夜、ロバーツ卿の事務所に知らない女から電話が入る。 「あの女をやっつける証拠が欲しくはないかい」 女はクリスチーネが愛人に宛てた手紙を手に入れ持っているという。ロバーツ卿は急ぎ指定の駅に走り、風采のあがらない女を見つけた。「50ポンドで売るよ」 ロバーツ卿がその手紙を手にとる。クリスチーネの筆跡だ。しかも、その内容は・・・!。女はどうだと言わんばかりに髪をかきあげ言った。「ここにキスするかい」 次の公判日。ロバーツ卿は証言台にクリスチーネを指名した。「これは被告の妻クリスチーネによって書かれた手紙であります」 ロバーツ卿がそう言うとクリスチーネに驚愕が走る。「マックスという男を知っていますか」 「知りません」 ロバーツ卿が手紙を読み始める。 「愛するマックス。予期しない大事件が発生しました。これで、私たちを苦しめた障害を取り除けそうです・・・」 クリスチーネは叫ぶ。「嘘です。作り話です」 「・・・私が、彼はあの時帰っていなくて袖口に血が付いていたと証言すれば、彼は罪人となり、私たちから一生遠ざけられます。そうすれば、あなたと一緒になれるのです・・・」 クリスチーネはその場に泣き崩れた。 ロバーツ卿は哀れな女に一瞥をくれ勝利を確信した。 判決。陪審員の代表、「無罪です」 ボール、喜びに立ち上がる。傍聴席のうるさい看護婦もロバーツ卿に拍手を送った。ボールがロバーツ卿の手を取り言った。「あなたは命の恩人です。一生、忘れません」 傍聴人が去ってからロバーツ卿のところへクリスチーネがやって来た。「君は偽証罪に問われることになる」と、ロバーツ卿が言うと、「一生、入ってなくても済むんでしょ」「私が検事ならそうするね」 その時、クリスチーネは言った。「あなたは裁判に勝ったつもりでしょうけど、無理だったんじゃない!一人ではね」「・・・それは、どういう意味だ」 「献身的な妻の証言は証拠にならないといったでしょ。だから、手を打ったのよ。検察側の証言台で嘘を言い、あなたが嘘を証明すれば陪審員は信じてくれるわ。・・・偽の手紙を書いてあなたに買わせたのよ」 「・・・?」 クリスチーネ、髪をかきあげ言った。「ここにキスするかい」 駅で手紙を持っていた女はクリスチーネの変装だったのである。ロバーツ卿はしてやられたのだ。そして更に、クリスチーネは驚くべきことを口にした。 「彼は犯人だったのよ」 「何を馬鹿なことを・・・」「愛しているのよ。だから私も真剣だったのよ」 「・・・・・」ボールが真犯人だったとは! ロバーツ卿は彼の無実を信じたからこそ弁護を引き受けたのだ。ロバーツ卿はこのしたたかな女に完全に打ちのめされた。 そこへ、預けた所持品を受け取ったボールが戻って来た。クリスチーネ、ボールに抱きつく。「一事不再理、一度決まった判決は二度と変わらないのですよね。お世話になりました」ボールはロバーツ卿にしゃあしゃあと言った。 そこへ若い女がやって来てボールと抱擁する。クリスチーネ、呆気にとられる。「あなた、誰・・・」「決まってるでしょ、ボールの恋人よ」 食って掛かるクリスチーネは、「婆ァに用は無いんだ」ボールに突き飛ばされた。その直後、惨劇が起きた。たまたま近くにあったナイフでクリスチーネがボールを刺したのだ。ボール、崩れるように倒れて動かなくなった。若い女の悲鳴。それらの出来事は弁護士ロバーツ卿の目の前で起きたのだ。 ロバーツ卿、「・・・彼女は天に代わって罪人を処刑したんだ。今度は、クリスチーネの弁護に立つことにする・・・」テーブルにボトルを置き忘れている。立ち去るロバーツ卿を追いかけて看護婦が言った。「待って、ブランデー、忘れましたよ」 |
| 映画館主から ビリー・ワイルダーが放った法廷ミステリーの傑作です。原作はアガサ・クリスティの「検察側の証人」という短編小説です。 100万ドルの脚線美と評された、マレーネ・ディートリッヒの冷徹な演技も見逃せません。なんと言っても、このどんでん返しには、あっと驚くこと請け合いです。しかも、二重、三重のどんでん返しなのです。 ミステリー愛好者はまんまと騙されることに快感を感ずる人種です。そんな人種の人にお勧め一本のです。 一事不再理、一度出た判決は覆されないという裁判の法律は現在でも生きています。無罪の判決が下されれば、たとえ後で真犯人と解っても同じ裁判にかけることは出来ない、何とも理解しがたい制度ではあります。 うるさい看護婦役のエルザ・ランチェスターとチャールズ・ロートンとのやり取りが笑わせます。ドラマに直接関係のない会話が単調になりがちな法廷劇に味付けを施しているのです。さすがワイルダー。 葉巻、手紙、ブランデーのボトルといった小道具の使い方も気が利いています。 アガサ・クリスティのミステリーは最後にどんでん返しが設定されているのが多いです。これまでにも多くの作品が映画化されていますが、「そして誰もいなくなった」(’45年、ルネ・クレール監督)とともに忘れ難い作品となりました。 |
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