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「妖刀物語 花の吉原百人斬り 」ラストシーン |
| 妖刀物語 花の吉原百人斬り 1960・東映 |
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![]() 監督:内田吐夢 脚本:依田義賢 撮影:吉田貞次 音楽:中本敏生 出演:片岡千恵蔵 水谷良重 木村 功 沢村貞子 原 健策 片岡栄二郎 山東昭子 千原しのぶ 花柳小菊 三島雅夫 千秋 実 星 十郎 ![]() |
物語 武州佐野の絹商人、次郎左衛門(片岡千恵蔵)は、生後まもなく捨て子として先代夫婦に拾われ、我が子として育てられた。そして次郎左衛門は成人し、先代の後を継ぎ、その真面目な人柄が商いを繁盛させ、先代なき後も倍にも3倍にも広げていったのである。 ただ、次郎左衛門は生まれつき顔に大きな痣があった。大人になってもその痣は尚も目立つようになる。次郎左衛門には嫁の来てがなく、幾度となく見合をしたが、いつも相手が断ってくるのだった。 ある日、商売仲間の越後屋丹兵衛(原健策)のきもいりで次郎左衛門が見合いをするため江戸に赴いた。しかし、案の定、見合いは徒労に終わる。 越後屋丹兵衛たちの誘いで次郎左衛門は吉原で遊んでいくことになった。断りきれず付き合うことになった次郎左衛門にとって、吉原などというところに足を運んだことは初めてである。 吉原の兵庫屋に席を設け宴が始まる。それぞれ花魁を隣にはべらせ酒を飲む男衆だが、次郎左衛門の横には誰も座りたがらない。誰もが次郎左衛門の容貌を気味悪がって近づかないのだ。次郎左衛門もこんなことでは吉原なんぞに来るんじゃなかったと後悔していた。楽しくもなんともなく、ただ惨めな思いをするばかりではないか。 その時、次郎左衛門の隣にやって来たのは玉鶴(水谷良重)という芸子だった。玉鶴はかって岡場所を脱走した女郎だが兵庫屋の主太郎兵衛(三島雅夫)に預けられた身の上だ。玉鶴は平気な顔で次郎左衛門の相手をした。 玉鶴は次郎左衛門と二人きりの部屋でもくったくなく次郎左衛門と酒を酌み交わす。次郎左衛門はおそるおそる言った。 「おまえさん・・・私のこの痣、気にならないのか・・・」 すると、玉鶴は笑いだした。 「ハハッハハハ・・・心の中まで痣がある訳じゃないだろ、ハハハッハハハ・・・」 次郎左衛門は玉鶴の顔を嬉しく見つめるのだった。 玉鶴は岡場所上がりということで、兵庫屋の先輩たちから様々な嫌がらせを受けた。だが、玉鶴には硬い決意がある。『きっと太夫になってやる、お前らを見返してやる』 これである。 その玉鶴には栄之丞(木村功)という遊び人のひもがいて、いやらしく時々小遣いをせびりにやって来るのが悩みの種だ。 次郎左衛門は佐野へ帰ってからも玉鶴が忘れられない。自分を差別なく男として相手してくれた、ただそれだけで嬉しかったのだ。 金庫から金を持ち出しては吉原へ通うようになる。そのつど玉鶴を指名する。 「あたしを太夫にしてくれるわね・・・そしたら女将さんになったげる・・・」 「おー、よしよし」 次郎左衛門は玉鶴が愛しくてならない。 兵庫屋に長逗留する次郎左衛門に下男の治六(片岡栄二郎)が次郎左衛門の手紙で二百両を届けに来た。治六は次郎左衛門の可愛がっている使用人だが、次郎左衛門の放蕩ぶりを心配している。だが、主人が今までになく幸せそうにしているのを見て何も言えないのだった。 一方、玉鶴は芸子たちの前で、「あたしは、お大尽に太夫にしてもらうんだ」と吹聴していた。すでに太夫の座にある岩橋(花柳小菊)は鼻で笑った。「フン、太夫の作法もお稽古もどんなものか知りもしないくせに・・・」 次郎左衛門は兵庫屋に相談を持ちかけた。「玉鶴が太夫になりたいって言いましてねえ、いったいどの位の費用が・・・」 兵庫屋の女将お源(沢村貞子)は、内心ほくそ笑んだ。「太夫にするには、稽古ごと、箪笥、ながもちなど小道具一式・・・千両箱のひとつもご用意いただければ・・・」 「千両!」次郎左衛門は仰天した。これまでにもかなりの金を玉鶴につぎ込んできた。その上、更に千両か・・・。千両といえば、現在の1億円に相当するだろうか。しかし、次郎左衛門にとってかけがえのない女の為だ。玉鶴を女房にして跡取を作らねば先代に申し訳が立たない。次郎左衛門は兵庫屋に請合った。玉鶴を太夫にすると。 さっそく、玉鶴の太夫になる為の稽古が開始された。琴、鼓に始まり太夫の歩き方まで学ぶのである。 玉鶴の情夫、栄之丞が玉鶴が太夫になるという噂を聞きつけて兵庫屋をゆすりに現れた。そうなると自分は消えたほうがいいだろうから、まとまった金が欲しいと言うのだ。 兵庫屋は店の用心棒たちに手を回し、栄之丞を惨殺した。 次郎左衛門にまたお源が申し出た。「何かと費用が嵩みまして・・・これまでの増量額、千三百両は是非ご用意いただけますでしょうな・・・」この女は口を開くたびに金の額が増える。次郎左衛門はしぶしぶ首を縦にふった。 そんな折、信州一帯に雹が降り、桑が全滅するという非常事態が起こった。お蚕様が死んでいく。絹商人にとってお蚕様は何よりも大切な飯の種である。 次郎左衛門は近隣の桑を買い集めるよう指示を出した。その費用、五百両。 そんな窮地の次郎左衛門に吉原の玉鶴から書状が届く。それは、さる西国のお大尽から身受け話が持ち上がっている、自分は貴方様に身受けして欲しいから、すぐにでも来て欲しいというものだった。 実はこれは真っ赤な嘘で、兵庫屋の指示で玉鶴が書いたものである。 兵庫屋の女将お源 「西国のお大尽なんて話、ちょっとあこぎでないかえ」 兵庫屋 「いいんだよ、噂じゃ佐野はもう、あぶねえらしい。今のうちに搾り取っておかなくちゃな」 次郎左衛門の店に兵庫屋から使いの者が来た。「千三百両はどうしていただけるんで・・・」 次郎左衛門 「・・・色々と痛手がありましてね・・・金の工面が・・・」 「冗談じゃありませんぜ・・・とりあえず、五百両お預かりできれば、玉鶴の身体は奇麗な身体のままで置かしていただきますが・・・」 次郎左衛門はなけなしの金、五百両を使いの者に渡した。これで店に金は無い。 次郎左衛門は越後屋の仲介で千両の手形を用立ててもらった。しかし、それには条件が付いていた。「次郎左衛門が吉原から足を洗う」というものである。 兵庫屋では玉鶴の太夫品定めが終わり、玉鶴は晴れて太夫八ツ橋となる。 「残りの八百両、ご用意いただけたと思いますが・・・」 そう言うお源に次郎左衛門は口篭もった。「その件だが・・・お披露目は半年ばかり伸ばしてもらえないか・・・」 すると、兵庫屋の態度が変った。 「冗談じゃありませんよ、・・・すると、半年分の利息と合わせて千七百両、払っていただけると、お約束してくれますか」 「・・・・・・」 次郎左衛門にはこれ以上の約束など無理な相談だった。 お源が冷たく言い放った。「まったく、気が利かない化け物だよ!」 「化け物!・・・」 次郎左衛門、思わず顔に手をかざした。 「玉鶴!お前は黙っているが、私を待っていてくれるだろうね」 次郎左衛門は隣で地蔵のように押し黙っている太夫八ツ橋に詰め寄った。 「私は、立派な太夫になって、お披露目をしてくれるんなら、次郎さんだって、他の誰だってかまわないわ」 八ツ橋はしらっと答えた。 「えー!それはお前の本心か!」 ここに至って次郎左衛門は自分の不徳を知った。寄って集って自分はカモにされたのだ。 次郎左衛門が憔悴して兵庫屋を出るとそこに越後屋が来た。吉原には出入りしないとの約束で借りた千両の手形は越後屋に返さざるを得なかった。 下男の治六は次郎左衛門の家伝の刀村正・籠釣瓶を金に替えるよう言われて江戸中の刀屋を駆け巡ったのだが、この刀に妖気が宿っていると言われて、籠釣瓶はそのまま持ち帰ったのだ。次郎左衛門と治六の二人は兵庫屋から塩をまかれて、すごすごと江戸を後にした。 佐野へ帰った次郎左衛門は一人、土蔵の中に篭ったまま、出てこない。次郎左衛門は家伝の村正・籠釣瓶を抜きじっと見入る。この籠釣瓶は自分が捨てられていた時、養育の足しにしてくださいという手紙と共に添えられていたものである。籠釣瓶が妖しく光っている。 土蔵の前で不安にかられる治六の前に次郎左衛門がようやく出てきた時、その顔は生まれ変わったかのようにさっぱりとしていた。 次郎左衛門は治六とその許婚お咲(山東昭子)をそっと呼び、ささやかな祝言をしてやった。感激で涙にくれる二人に言うのだった。 「この店はお前たちに譲り渡そう」 「え!」 「私は京に行き一からやりなおそうと思う」 二人は泣いた。 花の吉原大通り。満開の桜が吹雪いている。今、玉鶴改め太夫となった八ツ橋のお披露目が行われようとしていた。 「八ツ橋太夫にございまーす、どうぞ、ごひいきにおねがいもうしあげまーす」 囃しの声と共に大勢の男女に囲まれた八ツ橋がゆるりと足を踏み出した。通りの両側を埋めた見物人の山。 「たいしたもんだ」 「それにしても、気の毒なのは佐野のお大尽さ、兵庫屋に陰ではお化け大尽、お化け大尽と馬鹿にされながら、さんざん毟り取られてよう」 「兵庫屋もあこぎな真似をするじゃねえか」 そんな声を通りの片隅で編笠を被った次郎左衛門が聞いていた。懐に手を伸ばす。 次の瞬間、村正・籠釣瓶を振りかざした次郎左衛門が八ツ橋の行列に突っ込んでいく。 「よくも人をたぶらかしたなー!」 突然のことに悲鳴を上げ逃げ惑う人々。次郎左衛門は手当たり次第に斬りまくった。兵庫屋を、続いてお源を、斬り殺した。兵庫屋の男たちも血祭りに上げた。吉原の門まで這いずって逃げる手傷を負った八ツ橋を追い詰めた。 「お前は今から、俺の女房だー!」 そして、村正・籠釣瓶を八ツ橋に突き入れた。次郎左衛門は町方に取り囲まれている。今や半狂乱となった次郎左衛門が今生最後の叫び声を上げた。 「悪い奴ら!出て来い!皆殺しにしてくれるー!」 そんな下界の喧騒をよそに桜吹雪が宙に舞っている。 |
| 映画館主から 歌舞伎の三世河竹新七の代表作、籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)の映画化です。 その講談というのが、江戸時代に実際に起きた事件をもとにしたものだそうです。 真面目な商人ながら、生まれながらに顔に大きな痣があるために女に縁がなかった男が初めて知った恋。そして、それが欲に踊ったまやかしだと解かった時、男の怒りが爆発します。 片岡千恵蔵がその商人を好演。ラストの大殺陣では修羅の権化となります。 花魁の八ツ橋を水谷良重(現・水谷八重子)が、ふてぶてしくも逞しく演じています。 八ツ橋の情夫を木村功がいやらしく演じますが、黒澤の「七人の侍」の若武者役とはうって違った役柄が東映時代の彼には多かった気がします。 三島雅夫、沢村貞子の悪ぶりもベテランの味でした。 また、花魁の千原しのぶ、花柳小菊といった女優が懐かしい! タイトルに『妖刀物語 花の吉原百人斬り』とあるように、原作では家伝の妖刀・籠釣瓶が裏の主役であるようです。八ツ橋を斬ったあと、「籠釣瓶は良く斬れるなあ」と、にんまりと妖刀に見入る、となっているそうです。ただし、百人斬りはしないそうです。 内田吐夢は「血槍富士」(’55年)、「大菩薩峠・三部作」(’57年〜’59年)、「浪花の恋の物語」(’59年)、「宮本武蔵・五部作」(’61年〜’65年)と、片岡千恵蔵を多く起用しています。当時、東映の看板スターの千恵蔵は、内田作品の中では、かっこいいヒーローではなく、一種独特な役柄を演じているところが興味深いです。 |
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