けものみち
 1965・東宝
けものみち

製作:藤本真澄
監督:須川栄三
原作:松本清張
脚色:白坂依志夫
    須川栄三
撮影:福沢康道
音楽:武満 徹

出演:池内淳子
    池部 良
    小林桂樹
    森塚 敏
    小沢栄太郎
    伊藤雄之助
    大塚道子
    黒部 進
    千田是也


池部 良

池内淳子

伊藤雄之助

小沢栄太郎

民子は鬼頭の世話をする

小林桂樹の刑事

久恒が民子に関係を迫る

民子は小滝に惹かれていた

けものみち
物語

民子(池内淳子)は割烹旅館・芳仙閣で働く仲居だった。ある日若く紳士的な客に勺をしていると声をかけられた。
「まだ若い貴方がこんなところで埋もれてしまうのはもったいない」
客はニュー・ローヤル・ホテルの支配人をしている小滝(池部 良)といった。
 
民子は家に帰ると脳軟化症で寝たきりの夫・寛次(森塚 敏)の世話をしなければならない。その夫は不自由な体で民子に迫ってくる。民子はそんな毎日に耐えられないのだった。
 
再び民子は小滝の指名で酒の勺をした。
「チャンスを掴んでみる気はありませんか」 民子は心踊ったが小滝の言っている意味が分からない。「しかし、そのためには貴方の係累を絶たねばなりません」
 
民子はその夜、芳仙閣を抜け出てタクシーで家の近くに乗りつけた。あたりには誰もいない。
家の戸をそっと開け中に入る。奥の部屋で寛次が寝ている。
暖房のため薬缶の乗った七輪に火が点いている。いつもはお手伝いさんが壁から離してあるのだが、民子は七輪を壁に近づける。
壁の上の鴨居に架かっている着物に用意したアルコールを振りまく。
着物に七輪の火が燃え移ったのを確認した民子はそっと家を出て通りに出てタクシーを拾った。
 
芳仙閣の裏戸をそっと叩くと小滝が開けてくれた。
民子は小滝に抱きついた。小滝の勧めるとおりに実行したのだ。夫を死に追いやる危険を冒してきたのだ。全てを小滝に任せるしかない。
これで誰にも知られることなく民子はずっと小滝の相手をして酒を飲んでいたことになる。

翌朝、民子に知らせが入った。民子の家が全焼し、夫が焼死体で発見されたのだ。
民子は焼け爛れた家の前に立ち複雑な心境だった。
民子に現場検証に来ていた警視庁捜査一課の久恒刑事(小林桂樹)が声をかけた。
民子の昨夜のアリバイを聞く。旅館で客の相手をしていたという。その相手はニュー・ローヤル・ホテルの支配人だ。
 
民子はニュー・ローヤル・ホテルの小滝に会った。弁護士の秦野(伊藤雄之助)を紹介される。秦野はアタッシュケースに入った大金を持ち歩く不思議な男だった。
民子は秦野に従い鬼頭洪太(小沢栄太郎)の豪邸を訪れた。
広い屋敷を案内され鬼頭に会う。
鬼頭は政界・財界を影であやつる黒幕だ。その鬼頭は中風で臥せっていた。民子はその鬼頭の世話をするために選ばれたらしい。
 
民子は脳軟化症の夫を殺害した後、又中風の男の世話をする自分の不運を因果に思った。鬼頭は遠慮なく民子の体をむさぼる。老人の精力だけは衰えていない。
屋敷に住む女中米子(大塚道子)の目がある。彼女も以前は鬼頭の世話をする役目だったが飽きられたのであろう。
 
一方久恒刑事は民子の家の火事に事件性を感じ追いかけていた。
すると民子は火事から間もなく芳仙閣を辞めていたのだ。
ニュー・ローヤル・ホテルの小滝を訪ねた久恒刑事はホテルで民子を見かけ後を追う。そのとき見かけた男は高速道路公団総裁香川(千田是也)の姿だった。
どうやらこのホテルには政界・財界の暗部が匂う。
 
民子をつかまえ事情を聞く。鬼頭のこと、秦野のことなど。
久恒刑事は事件を追うにつれて民子に惹かれて行った。久恒は夫殺害の疑惑をちらつかせ民子に性的な行為に走った。
 
調べでは鬼頭は元満州浪人で戦後、莫大な金を手にし、政治を裏から操る男であり右翼団体も握っている。
秦野はかって鬼頭の下で働いていた鉱夫の偽名で、本物の弁護士秦野は満州で行方不明になっていた。
また小滝は左翼くずれで満州から古美術を盗み秦野らに近づいて一つのラインを形成していることが判明した。
 
その頃、政界ではある殺人事件に巻き込まれた高速道路公団総裁香川が辞職し、新しい総裁が椅子についた。
それも鬼頭の差し金であることは分かっていたが確証がつかめず久恒刑事は苛立っていた。
だが、鬼頭の手は久恒刑事に迫った。久恒刑事は突然の辞職勧告に愕然とする。
 
そして数日後、久恒は鬼頭邸の用心棒黒谷(黒部 進)に殺害された。
事件は複雑な様相を呈しながら、今度は鬼頭が死亡、その通夜の鬼頭邸で秦野が殺害される。
 
民子は今更ながら自分の置かれた立場に恐怖を感じた。
小滝を訪ねた民子は安宿で逢瀬を楽しんだが入浴中、乱入した黒谷の手で石油を浴びせられ炎の中で死んでゆく。そして黒谷もその浴室に閉じ込められ炎に包まれた。

暗闇に小滝の姿が浮かび上がる。彼は全てを自分の手で掴み利用し、そして破壊した。彼の狂ったような哄笑が高らかに放たれていた。
映画館主から

松本清張の同名小説の映画化。
政界・財界の裏側に蠢く男たちと、その黒い世界に訳も分からず入っていく女。そこはまさに『けものみち』であった。
 
薄幸のヒロインを演ずるのは池内淳子。裏で操る一番悪い男は池部良。更に、伊藤雄之助、小沢栄太郎、小林桂樹、千田是也といったベテラン演技陣は一癖も二癖もある最高の配役。
 
政界・財界の黒幕、鬼頭洪太は昔、「ロッキード事件」の裁判の際浮き彫りになった児玉 誉士夫を彷彿させます。右翼団体、ヤクザ団体を後ろ盾に影で糸を操る男。
まさに日本のフィクサー。政界・財界を始め総理大臣でさえも彼の意向を無視できなかったといいます。
映画でも鬼頭を演ずる病床の小沢栄太郎のもとに訪れる様々な人々が平身低頭で現れる場面が描かれています。
そんな人々を鼻であしらい帰した後で世話役の池内淳子に絡みつく小沢栄太郎の演技は本当に巧い!
 
鬼頭に縁の深い弁護士秦野に伊藤雄之助、これも巧い。何やら得体の知れないメフィスト・フェレス的な役を演じたら彼に敵う役者はいません。
池内淳子に夫殺害の疑惑感じ近づく刑事久恒に小林桂樹。彼はとうとう池内淳子の魅力に抗しきれず刑事でありながら肉体関係を迫るという暴挙に出てしまい最終的に殺されてしまう。彼は謹厳実直な印象があるだけにこのドラマの展開は意表をつくものでした。
 
ヒロイン池内淳子に殺人を教唆し、弁護士の秦野を通じて鬼頭の愛人に世話をするホテルの支配人小滝。
池部良は二枚目であるだけに役柄にピッタリだし、彼の最後の哄笑は「一番悪い奴はここにいるよ」と言っているようでした。
 
監督の須川栄三は監督第二作の「野獣死すべし」(’59年、主演:仲代達矢)で日本映画のヌーベル・バーグと絶賛された人。
私は今のところ「けものみち」しか見ておりませんが、これ一作でもその演出力は確かなものと確信できます。

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