「飢餓海峡」
飢餓海峡 1965・東映


製作:大川 博
監督:内田吐夢
原作:水上 勉
脚本:鈴木尚之
撮影:仲沢半次郎
音楽:冨田 勲

出演:三國連太郎
    左 幸子
    高倉 健
    伴淳三郎
    三井弘次
    加藤 嘉 
    沢村貞子
    藤田 進
    
物語

昭和22年、折からの台風は、青函連絡船・層雲丸を襲った。その頃、函館市内の質屋で3人を殺し、火を放った3人組みがボートで津軽海峡を本土へと急いでいた。層雲丸は沈没し、多数の死者が出た。
遭難者の身元確認で2死体だけ引き取り手が無かった。それは、質屋を襲った強盗殺人犯の3人のうちの2人だった。もう一人、復員服を着た大男の犬飼太吉はどこへ行ったのか?弓坂刑事の執念の追跡が始まった。
犬飼は下北の花町で娼婦の八重と一夜を過ごした。八重は天真爛漫な女だ。恐山の巫女の真似をして犬飼を怖がらせ、はしゃいだ。八重は犬飼の爪を切ってやった。犬飼の右手親指に傷があった。
別れ際、犬飼は八重に一掴みの札束を置いて立ち去った。大金である。八重は後を追ったが犬飼の姿はもう無かった。
弓坂刑事が八重のところへ聞き込みに来たが、八重は白を切った。
八重は借金を清算すると、東京へ出て働き始めた。辛酸を舐めながらも、八重は頑張った。夜な夜な、八重は大事にしている犬飼の爪の一片を取り出しては、感謝の報告をするのだった。

それから10年の歳月が流れた。ある日、八重は新聞に犬飼の顔を見た。「舞鶴の篤志家、樽見京一郎氏、3,000万円を寄付」とある。名前が違う、しかし、どう見ても犬飼の顔だ。
八重は舞鶴へ向かった。犬飼にひと目会ってお礼が言いたい。立派な屋敷の応接間で待つ八重の前に、口髭をたくわえた樽見京一郎が現れた。「犬飼さんですね、お懐かしゅうございます」八重はしみじみと礼を述べたが、樽見は、人違いだ、自分は樽見京一郎であると言い張った。
だが、八重は見た。樽見の右手親指の傷跡を。「やっぱり、犬飼さんだ!」八重は否定する樽見ににじり寄り、樽見ともみ合いになる。ボキッ!八重の首の骨が折れた。そこへ、樽見の秘書が来て殺人現場を見てしまった。樽見はすかさず、秘書の首を絞めた。
海岸で男女の死体が発見された。女の所持品の中に、樽見の新聞記事の切り抜きがあったことから、樽見が参考人として、警察の調書を受ける。樽見は事件との関りを否定するが、八重の荷物の中から、爪が出てきたことを告げられ、樽見は愕然とするのだった。
牢獄の樽見に今は刑務所の警備人となっている元刑事、弓坂が接見した。弓坂は懐から小さな包みを取り出し、樽見の前に差し出した。「これが何だか解りますか?・・・・灰です。あなたが津軽海峡を渡った船を焼いた、その灰です。」弓坂は迷宮入りになりかけた函館の事件の記録として、灰を後生大事に持っていたのだった。「北海道へ連れて行ってくれ、そこで全部話す」樽見が叫んだ。樽見はまだ何も具体的な供述をしていないのだ。
青函連絡船の甲板に刑事達に付き添われた樽見がいた。弓坂が海に献花を投げた。経をあげる弓坂。花束を手にした樽見だったが、一瞬の隙を見て海峡に身を躍らせ、波の中に消えていったのである。

映画館主から

「大菩薩峠」3部作・片岡千恵蔵主演、「宮本武蔵」5部作・中村錦之助主演と時代劇の大作を撮り続けた内田吐夢がめずらしく現代劇に挑戦しました。原作は水上勉で、1954年に実際に起きた青函連絡船の転覆事故を物語の背景に使っています。
犬飼を演ずる三國連太郎は、粗野な中に、善と悪を併せ持つ性格を見事にこなしています。又、左幸子演ずる八重は貧しい下北の遊女ですが、恩義を忘れないけなげな心が仇となり、殺されてしまいます。死んだ八重の顔は恩人に会えた喜びからか、笑みさえ浮かべています。ぞっとする演技です。
弓坂刑事を演ずる伴淳三郎が秀逸です。悪を憎むが悪人の中にも人間性を見出したい、執念の刑事を味わい深く演じて、彼の代表作になりました。喜劇人がこういうシリアスな役を演じて成功した好例です。
内田吐夢の演出は骨太で、この作品は16ミリ白黒フィルムで撮影され、その荒れた画面の効果で、戦後のすさんだ人間の心理が見事に表現されています。
東京の刑事を演ずる高倉健の若いこと。「宮本武蔵」5部作では、佐々木小次郎を演じてましたが、高倉健は現代劇の方が似合います。

  参考文献:「THE MOVIE」 ディアゴスティーニ

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