| 救命艇 1943・米 | |
![]() 製作:ケネス・マックゴワン 監督:アルフレッド・ヒッチコック 原案:ジョン・スタインベック 脚本:ジョー・スワーリング 撮影:グレン・マックウイリアムズ 特殊効果:フレッド・サーセン 出演:タルラ・バンクヘッド ウイリアム・ベンディックス ウォルター・スレザク メアリー・アンダースン ジョン・ホディアク ヘンリー・ヒル アリス・マッケンジー カナダ・リー ヘザー・エンジェル ![]() ![]() ![]() ![]() ヒッチコックは新聞のやせ薬広告で出演 |
物語 第二次世界大戦の大西洋上で一隻の輸送船がドイツ軍のUボートの攻撃を受け撃沈された。 残骸が海に漂う。その中に、ボートが一つ浮かんでいた。乗っているのは夫人記者のコニー(タルラ・バンクヘッド)で、平然と煙草を吸っている。 そこへ、泳ぎ着いた男が助けを求めた。その男、コバック(ジョン・ホディアク)はエンジン室の技師で逞しい肉体の持ち主だ。コニーが記者魂を発揮して戦争の惨状を次々にカメラに収めようとするので、コバックは「生存者を早く探してここから脱出するんだ」とたしなめた。 もう一人泳ぎ着いたのは無線技師のスタンリー(ジョン・ホディアク)だ。 また、3人の男女が泳ぎ着き助けられた。富豪のリッテンハウス(ヘンリ・ヒル)、看護婦のアリス(アリス・マッケンジー)、脚に負傷を負った水兵ガス(ウイリアム・ベンディックス)だ。 続いて、コックで黒人のジョー(カナダ・リー)が、赤ん坊を抱いたイギリスのヒギンズ夫人(ヘザー・エンジェル)を抱きかかえるように泳いできた。 アリスは赤ん坊に人工呼吸を施したが既に死んでいた。ヒギンズ夫人は錯乱状態で我が子を抱きしめる。 そこへ、もう一人の手がボートのへりにかかった。輸送船爆破のあおりを受けて沈没したUボートの生き残りウィリー(ウォルター・スレザク)だった。 ドイツ兵を乗せるのか、海に突き落としてサメの餌食にするか、皆の意見は割れたが、多数決でウィリーを乗せることにした。 その夕方、赤ん坊は水葬にふされた。夜更け、ヒギンズ夫人は人知れず、後を追って海の中に消えた。 残されたメンバーは悲しむ間も無く、誰が救命艇のチーフとなるべきか揉めた。コンパスの無い船の進路を決める人物が必要だった。 意気盛んなコバックがバミューダ海域を目指すと主張し、スタンリーが舵を取った。他の者はそれぞれ役割を分担し、持ち場に着く。 海上での何日かが過ぎた。食料と水は不足し、昼間の猛烈な暑さと夜の冷え込みが彼らの体力を消耗させていく。 ガスの脚の傷は悪化していった。切断しなければ命が危ない。そんな時、ドイツ人、ウイリーは軍医であるといい、手術を申し出た。人々の協力でウイリーはガスの脚を切断した。 信頼を勝ち得たウイリーの主張でコースも変更された。自信ありげなウイリーに皆は従うしかなかったのだ。しかし、夜になって金星の位置からスタンリーが重大な発見をする。救命艇はバミューダではなく東に向かっている! そして、もとスリだったジョーが寝ているウイリーのポケットにコンパスを発見した。皆はウイリーをなじった。 その時、突然大しけがやって来た。ウイリーが大声で命令を下した。「馬鹿野郎、モタモタするな!死にたくなければ荷物を捨てろ!」 海は荒れ、容赦なく波が救命艇を襲う。凄まじい嵐に皆は耐えた。 大しけが過ぎ去った後、皆寝静まる中、ウイリーだけが元気に舵をとった。手術後水も飲めずに朦朧としていたガスはウイリーがひそかにポケットから水筒を出し水を飲むのを見た。「俺にも飲ませろ」にじり寄るガスを海に突き落とした。 「ガスは自殺した。助けたってどうなる」ウイリーはうそぶいた。しかし、皆はウイリーを許さなかった。そして隠し持っていた水筒も見つけた。全員ウイリーに襲い掛かる。リンチによりウイリーは海に沈んで行く。 空しく漂う救命艇。食料も無い。コニーのダイヤの腕輪を餌に海中に糸を垂らす。その時、目の前にドイツの補給船が現れた。驚く人々はダイヤの腕輪を海に沈めてしまった。 だが、救命艇に向かって来た補給船のボートも補給船も突然の連合軍の攻撃であっという間に撃沈された。 連合軍の戦艦が近づいてくる。助かったのだ。 その時、若いドイツ兵が救命艇に助けを求めた。「悪いのは戦争だわ」コニーがつぶやき、アリスはドイツ兵の手当てをするのだった。 |
| 映画館主から ヒッチコックの実験的映画。 Uボートの攻撃で救命艇に逃れた人々の命運を、救命艇の中だけの限られた空間で繰り広げます。音楽も最初のタイトル部分以外は一切使われていません。そういう点でも実験的です。 撮影はヒッチコックの好きなリア・プロジェクション・イフェクツという方法です。 プールに救命艇を浮かべ、その背後に巨大スクリーンをセットします。海と空の映像をスクリーンに映写した前で救命艇の中の俳優が演技するのです。従って、本作はスタジオ内部で撮影し、海でのロケーションは皆無だったといいます。 大しけの場面では、荒れた海の映像の前で俳優たちの頭からヒッチコックの合図でスタッフが大量の水をぶっかけたのです。その量、10万ガロン。相当な迫力で、とてもスタジオ内での撮影とは思えません。 自分の映画には必ずチラッと顔を出すヒッチコックは、限られた救命艇の中にどうやって出場するのか・・・・。海に浮いた死体の役で、という案もあったそうですが、ヒッチコックの名案は、新聞のやせ薬の広告に出るというものでした(写真・下)。なんとも人を喰った彼らしいアイデアです。 肥満体の彼はその頃150キロから100キロへと50キロの減量に成功していたそうで、それを記念する意味もあったのだとか。後年、トリュフォーとの対談で「あれは、私の一番好きな役だよ」と語っています。 ドラマは、ナチの軍人が優秀な人物として描かれたり、最後にその彼を皆でリンチしたりの場面が賛否を呼んだそうですが、戦時下のこと、アメリカ人の苛立ちが読み取れます。 限られた空間でのドラマは後に「ロープ」’48年でも見られます。 参考文献:「ヒッチコックを読む」フィルムアート社 「ヒッチコック/映画術/トリュフォー」晶文社 |
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