怪談佐賀屋敷                           
1953・大映京都


監督:荒川良平
脚本:木下藤吉
撮影:牧田行正
美術:川村鬼世志
音楽:高橋 半

出演:坂東好太郎
    若杉曜子
    南條新太郎
    伏見和子
    毛利菊枝
    入江たか子
    浪花千栄子
    沢村国太郎


入江たか子の化け猫

浪花千栄子の化け猫

物語

鍋島藩の当主、鍋島丹後守(沢村国太郎)は、子供に恵まれていなかった。正室に子供ができないのだ。
そこで世継ぎを側室に生ませようと日頃から思っていた。ある時、一人の女性に心を奪われた。それは龍造寺家の又一郎の妹お冬だった。

又一郎は時々、城へ招かれては丹後守と碁を打つ間柄である。又一郎は盲目であった。丹後守は又一郎に懇願した。「お冬を側室として迎えたい」 「手前の一存では・・・」

その頃、家老の豊前は、丹後守の側室に自分の妹お豊(入江たか子)を推挙し、世継ぎを生ませた後、権力を手にしようと策略していた。

丹後守と又一郎が碁を打つ日。
「その前に、先ほどの話し、聞かせてくれ」お冬のことである。「・・・まだ、18歳の子供ゆえ、どうか、お許しのほど・・・」又一郎は答えた。丹後守は落胆し、碁を放り投げた。「検校に帰ってもらえ」又一郎は引き上げていった。
そこえ、家老の豊前が現れた。「龍造寺家又一郎に良からぬ噂がございます。龍造寺家は鍋島家断絶を望んでいると・・・」丹後守に耳打ちした。

そして、豊前の引き合わせでお豊と会った丹後守はその美貌に引き込まれていく。

音沙汰の無くなった丹後守を又一郎がご機嫌伺いに出ようとした時、愛猫のコマが足元を離れない。「まるで、お引止めしているようですね」 お冬は言った。母親のお政の方(毛利菊枝)も何か不吉な予感がするのだった。

久しぶりの対局が始まった。形勢は又一郎にあったが、彼が腹痛で厠にたった隙に見守っていた豊前が石に操作を加えた。相手は目が見えない。丹後守も黙認した。
戻った又一郎、丹後守の次の一手に意義を唱えた。
「そこには私の石があった筈です」 丹後守は激怒した。「それでは、私がごまかしたと申すか!」 やおら刀を抜き又一郎に斬りかかる。そして、豊前がとどめを刺した。又一郎、碁盤の上に倒れ絶命する。その時、どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。

又一郎の遺体は人知れず庭はずれの古井戸の中に投げ込まれた。

お政の方とお冬は、城から帰ってこない又一郎を心配し、小森半左エ門(坂東好太郎)に調査を依頼した。彼は鍋島の藩士で、お冬の恋仲である。
しかし、城のどこにも又一郎はいない。
お政の方は夢に又一郎を見た。血を流す息子の顔に不吉な予感が的中したことを悟る。
「私は死んで、鍋島家に祟ってやる。コマもそうするがよい」 自害したお政の方の血を舐めるコマ。

鍋島家の夜。火まわり番の二人は古井戸の中から人の声が聞こえてきたので腰を抜かす。丹後守は悪夢にうなされた。又一郎の声がする。気がつくと碁盤の上に猫がいる。

お豊が懐妊した。丹後守は喜び、祝の宴を開いた。そこへ、猫が現れた。
お豊の母、杉江(浪花千栄子)の様子が変だ。夜、豊前の嫁が義母の部屋の様子を障子の穴から窺っていると、杉江が行灯の油をひたひたと舐めているではないか。「ひっ」感づいた杉江の形相がみるみる変わった。目は吊り上り、口は耳まで裂けた。髪の毛を逆立てた杉江 「見たな〜」 障子を破って踊り出た杉江は嫁の喉笛を噛み千切った。
駆けつけた豊前は格闘の末、母親を斬った。母親は猫の化身となっていたのだ。

ある夜、池の傍で中を覗き込んでいるお豊を目撃した小森半左エ門は、不審に思い、お冬を使ってお豊の寝所に生きた鯉を置いてきた。
部屋に戻ったお豊、鯉を見つけるやむしゃぶりついた。口から血をしたたらせ、振り向いたお豊はこの世の者ではない。口が耳まで裂けた猫の化身であった。

化け猫が庭に踊り出る。城内が大騒動になる。丹後守は慌てふためく。豊前は化け猫によって喉を食い千切られ絶命する。
しかし、着物を経で清めた小森半左エ門によって化け猫は斬られ息絶えたのだった。

丹後守は豊前という獅子身中の虫にたぶらかされ、又七郎を殺害した自分を恥じ、大いに反省したのである。

映画館主から

こんなすこぶるつきの怖い映画はめったにお目にかかれません。
私は、幼少の6歳頃に叔母に連れられ見に行ったのを覚えています。その頃、立て続けに化け猫映画がやって来て、叔母はそのたびに私を連れていくのでした。
今、大の大人、それも孫がいる年齢になって見てもぞっとするほど怖いのですから、幼少の私が怖がったのも無理からぬはなしです。
手で顔をおおい、隙間から見ていたものでした。

その頃、住んでいた借家は縁側のはずれにトイレがあり、何故か電灯が無かったのです。しかも昔のぼっとん便所。
夜、トイレに行く時はロウソクに火をつけ持っていくのです。炎の揺れが生きもののようにまわりの陰を動かし、下には真っ暗な底なし沼があり、化け猫の手が伸びてこない方が不思議なのでした。板壁の木目模様をじっと見ていると何時の間にか化け猫の顔になってしまうのです。
そんな体験のトラウマが裏目にでたのか、私は怖い映画が大好きです。

入江たか子は菅原氏の流れをくむ公家の出身で、舞台女優から映画界へ、そしてその美貌で一躍主演スターになりました。
戦後、仕事にあぶれていた彼女に舞い込んだ役が化け猫の役でした。経済的にひっ迫していた彼女がえり好みせずに引き受けたのがこの「怪談佐賀屋敷」です。映画は大ヒット。往年の大スター入江たか子を皆が見に行ったわけです。
本作の後、「怪猫有馬御殿」’53年、「怪猫岡崎騒動」’54年、「怪猫逢魔ヶ辻」’54年、「怪猫夜泣き沼」’57年と、計5本の化け猫映画に出演した後はほとんど引退状態でした。
私が入江たか子と再会したのは、黒澤明の「椿三十郎」’62年でした。私は中学生、入江たか子はふっくら太ったおばさんになっておりました。

洋画の怪談話といえば吸血鬼とかフランケンシュタイン、ゾンビなどが浮かんできますが、日本映画の怪談は殺された人間の怨念が祟って悪人を滅ぼすという筋書きが大半です。
したがって、幽霊や化け猫は善悪でいえば善の側なんですね。そう思うことで心を慰めることにします。

ちなみに私は鯉が食べられません。入江たか子が化け猫になって鯉をむさぼり食ったのを見た幼少の頃より、鯉は見たくもありません。
私は信州出身ですが、佐久の鯉が有名であろうとなかろうと、うまかろうがまずかろうが、私は絶対に食べません。

  参考文献:「日本恐怖映画への招待」 平凡社
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