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「華岡青洲の妻」 |
| 華岡青洲の妻 1967・大映 |
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![]() 製作:永田雅一 監督:増村保造 原作:有吉佐和子 脚本:進藤兼人 撮影:小林節雄 音楽:林 光 出演:市川雷蔵 若尾文子 高峰秀子 伊藤雄之助 渡辺美佐子 伊達三郎 内藤武敏 浪花千栄子 丹阿弥谷津子 ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 紀伊国近郷の地頭頭と大庄屋を勤める妹背佐次兵衛(内藤武敏)の娘、加恵(若尾文子)は、乳母(浪花千栄子)に伴われて華岡家の嫁の姿を見たことがあった。 医師華岡直道(伊藤雄之助)の嫁、於継(高峰秀子)は凛として美しく、良妻賢母で評判だった。加恵はそんな於継に憧れていた。 加恵が年頃になったある日、その於継が妹背家にやって来た。 「こちらの加恵さまを、うちの雲平の嫁にいただきたく・・・」と、息子の縁談の話を持って来たのだった。於継はいつの間にか加恵に白羽の矢を立てていたのである。 加恵の心が騒いだ。妹背佐次兵衛は「家柄が違う」と反対だったが、妻(丹阿弥谷津子)や乳母の勧めでやむなく承諾した。 華岡家に嫁入りした加恵だったが、まだ見たことも無い夫、雲平(後に青洲:市川雷蔵)は京へ医師修行にいっており、家事に精を出す毎日だった。 雲平の妹二人は機織りをして雲平に仕送りをしている。加恵もそれに加わった。於継が機織りを加恵に丁寧に教えた。加恵は嬉々として励んだ。 「良い織りだす」 商人が言うのに、「うちの嫁が織ったものでして、いい嫁に来てもらい、雲平も幸せですわ」 於継は嬉しそうに答えるのだった。 義母の於継は加恵に優しく、楽しい日々が過ぎて行った。 そして3年後。雲平が帰ってきた。彼はオランダ流の外科とともに漢方の内科も学んできたのだった。。 初めて自分の妻を見た雲平は、加恵に「おうっ!」とだけ言った。 この日から義母於継の態度がどことなく変わった。それは加恵にしか解らない程度の微妙なものであったが、於継のことばの端々にどこか棘があるのである。 華岡家の畑に白い花が咲き乱れている。それは曼陀羅華、別名朝鮮アサガオで毒を持っているが漢方では麻酔に用いられるのだ。 「この花をできるだけ多く集めてくれ、そして乾かすのや」 雲平の言葉に加恵は喜んで従った。 曼陀羅華の花の露を拭き取り、ざるに入れて乾かす。雲平はそれを煎じたり、粉にしたり色々研究を重ねる。 動物、特に猫にそれを飲ませる。多くの猫が死んだ。量が難しい。多ければ死に、少なければ麻酔として効果がない。 長雨によるはやり病で華岡家は病人で溢れていた。足の骨瘤の患者の手術は助手に患者を押さえつけて行う。麻酔薬が無い為、痛みで患者が暴れるのである。 「患者が眠っている間に手術ができたら、どこでも切れるんやが・・・」雲平は麻酔薬の完成にやっきだった。 於継は妻の加恵を押しのけるように息子雲平の世話をする。義母はこんなに冷たいお人だったのか・・・加恵の心は揺れ動いた。 そんな時、加恵が妊娠した。 出産のために実家へ帰った加恵に母は言う。華岡のお姑を誉めるのである。いいところへ嫁にやってよかったと。だが、加恵は反論した。 「おかあはん、華岡のお母さんが奇麗なのはうわべばっかりやして・・・腹の底は冷たくて意地悪でくさったお人や!」 「それは、お前の邪推や、あんなええお姑さんをそない言うたら罰があたりまっせ」 母は加恵をたしなめる。 「おかあはんは何もわかりゃしまへんのや!」 堰を切ったように泣き崩れる加恵であった。 そんな加恵が女児を産んだ。 雲平の妹於勝(原知佐子)が乳癌に侵されていた。雲平の手に負えないほど進行しており、もはや手遅れの状態だった。於勝がやがて死んだ。 「麻酔薬があればなあ・・・」雲平は苛立った。 雲平は麻酔薬の研究に10年を費やしていた。そして・・・実験用の猫が3日間眠りつづけた後、宙返りした。雲平がその猫を空中に放り投げて皆を笑わした。猫がちゃんと元のように宙返りしたのだ。 「大成功でんなあ」と、周りの皆が歓声を上げた。 「いやいや、まだ成功とは言えませんわい。猫と人間では大違い。猫と同じ量では人間には効かんやろし・・・難しいのはこれからや」と、雲平。 そんなある日、雲平と加恵の部屋へ於継が入って来て何やら真剣な顔で言う。 「麻酔薬の実験に私を使いよし」 これに加恵はきっとなり、 「その実験には私を使うて欲しいとかねてから決めていたのやよし。私で試していただかして!」 加恵も主張する。二人がお互いに譲らぬので業を煮やした雲平は、 「よっしゃ、二人に飲んでもらおう。いずれは欲しい人間の体やったんや」 かくして、実験が行われ、於継がまず飲んだ。やがて苦しそうに身悶えし、眠りについた。眠った於継を心配そうに見つめる加恵に雲平が言った。 「ほんの少しの曼陀羅華を焼酎でといたものや、酔って眠ってるのと一緒や、このことは内緒やで」 加恵はそれを聞き、内心ほっとする。本当の麻酔実験は自分の役目だと。 於継が目覚めた後、加恵が飲む。今度は8倍量の曼陀羅華であった。 苦しんで暴れた後、加恵は3日間眠り続けた。その間、雲平は加恵の内股をつねってみた。内股は人間の体の中で一番痛みを感ずる部分なのである。加恵は眠っているにもかかわらず、つねられるとうめき声を上げた。 「まだまだ駄目や、量が少ないんや・・・」 再び於継が挑む。これも加恵とは比較にならない曼陀羅華の焼酎割である。 加恵も再挑戦した。今度は曼陀羅華の量を増やした。 加恵が3日後に目覚めた時、異変が起こった。 「・・・眼が!・・・」 加恵の眼が見えない。 「どないした!」 雲平が叫ぶ。「眼が、眼が!・・・」 曼陀羅華の毒が加恵の視力を侵してしまったのだった。 「私はなんともなかったのに・・・」 と、於継が訝った時、雲平が言った。 「お母はんが飲んだのは加恵とは比べ物にならん軽いもんや、ふた時ほどで眼が醒めるただの眠り薬だったんや!」 それを聞いた於継の血相が変わった。 「加恵さん!あんた・・・それを知っていなさったんか?」 「・・・はい・・・」 「知ってて・・・私が3日間も眠っていたと・・・嘘を!加恵さん!あんたという人は!・・・う、ううううううう」 於継は雲平の実験の役を加恵に取られたことが何にも増して悔しく、搾り出すような雄叫びを上げて無きj崩れた。加恵が失明したことなど問題外なのであった。 その於継も老いて死んだ。そして1年後、加恵が男児を産んだ。 雲平の妹小陸(渡辺美佐子)が首筋に血癌ができ、手術もできない状態だった。小陸は於継と加恵の確執を目の当たりに見ていたから、死に際して加恵に言うのだった。 「私の一生では嫁にいかなんだのが、何にも代えがたい仕合せやったのやしてよし。嫁にも姑にもならないですんだのやもの・・・」 3年後の1805年の秋。雲平は世界で初めて全身麻酔による乳癌の手術に成功した。喜びを満面に表わし雲平が加恵に言った。 「加恵、手術は大成功や、乳癌を切ったんやで!これからは何でも切れる。お前のおかげや!」 加恵は目が見えなくなっても、それが夫の為になった自負心と満足感で満たされていた。華岡家の医師や助手、賄い女たちからは、雲平の母と嫁は医者の家の鏡のように尊敬されている。加恵はかっての於継のように凛として穏やかに雲平に答えるのだった。 「いえ、みんな、亡くなられたお母さんのおかげですよし・・・」 |
| 映画館主から 江戸時代中期の医師、華岡青洲をモデルに有吉佐和子が書いた小説「華岡青洲の妻」が原作。 青洲よりもその母と妻、姑と嫁の息詰まるような確執を鋭く描いています。 青洲は世界で初めて全身麻酔による乳癌摘出手術に成功した医師で、その快挙の裏には姑と嫁の命がけの麻酔生体実験があった、という凄まじい話なのです。 名手進藤兼人の脚本を得て、監督は溝口健二や市川崑の助監督出身の増村保造。彼は大映での仕事が多く、私は彼の作品は多くは見ていませんが、とりわけ「やくざ絶唱」(’70年、主演:勝新太郎)は絶品でした。 若尾文子を監督第二作「青空娘」で起用してから20作品で組んでいるとのことで、本作もその1本。 若尾文子、高峰秀子共に好演です。特に青洲の開発した麻酔薬、曼陀羅華(朝鮮アサガオから抽出したエキスで後に通仙散と呼ばれる麻酔薬となる)を競って飲む二人は鬼気迫る場面です。自分よりも嫁の方に麻酔薬の効き目の期待をかける青洲が、自分にはただの眠り薬を飲ませたのだと知った時の高峰秀子の悔し泣きの演技は彼女ならではの名演です。 そして、市川雷蔵の華岡青洲は貫禄もあり、何と言っても声が渋いですね。 他に伊藤雄之助、内藤武敏、渡辺美佐子、浪花千栄子、丹阿弥谷津子といったベテランが脇を固めています。 |
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