「白い巨塔」テレビ版
白い巨塔 
    1966・大映
白い巨塔

製作:永田雅一
監督:山本薩夫
原作:山崎豊子
脚本:橋本 忍
撮影:宗川信夫
音楽:池野成

出演:田宮二郎
    東野英治郎
    田村高廣
    小沢栄太郎
    船越英ニ
    滝沢 修
    藤村志保
    小川真由美
    石山健二郎
    加藤 嘉

   加藤 武

田宮二郎の財前五郎

白い巨塔
物語

大阪の国立浪花大学医学部第一外科助教授、財前五郎(田宮二郎)は、癌手術の権威で次期教授の最有力候補とされていた。
黒川五郎は岡山の農家に生まれたが、父の死後、近所の医師の経済的なバックアップで浪花大学に進学した。医局員の時、五郎を高く評価した大阪医師会のボス、産婦人科医の財前又一(石山健二郎)の娘婿に迎えられ財前五郎となる。

その五郎の養子入りを影でまとめたのは母親の黒川きぬだった。五郎は岡山で一人農家を営む母親に手紙を添えて仕送りを続けるのだった。「母さん、僕はきっと教授になってみせます!」

財前五郎が学内、学外で認められ面白くないのは、五郎の上司である東教授(東野英治郎)だった。五郎は週刊誌に写真入りで取り上げられるなど目立つ存在になっており、今や浪花大学第一外科は財前外科とさえ言われる様相だったのだ。
来年退官の東は、五郎を自分の後の教授にだけはしたくない。東は五郎を呼びつけ何かと苦言を浴びせつけた。
「君はスタンドプレイが多すぎる、何だこれは!」週刊誌を投げられた五郎は平身低頭で詫びる。「配慮が足りず申し訳ありません」
東の部屋を出た五郎はほくそえむ。「・・・まったく、気骨がおれるわ・・・」

五郎は義父の又一に金の無心をした。
「女やったら、飛び切りええのにせにゃあかんぞ」
「お父さん、そんなんと違います」五郎が浪花大学の教授選考会の話を持ち出すと、又一の顔色が変る。「お前が教授になるのはわしの夢や」金なんかいくらでも持っていけといわんばかりの口ぶりだ。
東教授から財前五郎のことで相談を受けた内科の鵜飼教授(小沢栄太郎)も、五郎から好きな絵画を送られ、「ああいう事をしてもらっては困る」などと言いながらも、その実まんざらでもない。

東は、厚生省と深いパイプを持つ東都大学医学部の船尾教授(滝沢修)に会った。「お心当たりの人材は?・・・」 五郎の傲慢不遜ぶりを聞かされた船尾は「そういうことなら考えておきましょう」と請合った。
結果、金沢大学医学部の菊川助教授(船越英ニ)が浮かび上がった。実力ある学究肌の男だ。「ただし、推薦する以上私の顔をつぶしてもらっては困りますぞ」船尾は東に釘を刺した。

その頃、財前五郎は、友人でもある内科の里見助教授(田村高廣)から里見の患者の病状について相談を受けていた。患者、佐々木庸平は五郎の診断によると噴門癌であった。
「食道の噴門癌については君が一番の専門家だからね」と、里見は五郎の見識を評価しながらも、即刻手術しようとする五郎に意義を唱えた。「肺への転移も考えられるから、オペの前に一応、断層写真だけは・・・」
「その必要はないね」五郎は断固と言い放った。「手術が遅れればその分癌はひろがっていく。だいいち、佐々木庸平はすでに私の患者だ、口を出さないでくれたまえ」
五郎は佐々木庸平の噴門癌を摘出した。手術は成功したかにみえた・・・

「なんぼや、なんぼ金がありゃええんや、向うが権力でくるならこっちは金や」
東都大学の船尾教授がからんできたのを知った財前又一は雄叫びを上げた。それぞれの思惑と双方の権謀術策が裏工作として激しく乱れ飛び、浪花大学医学部第一外科教授選考が行われる。
財前五郎対菊川の選考結果は僅差で財前五郎の勝利に終わる。

晴れて教授になった五郎の喜びもつかの間、患者の佐々木庸平が死んだ。手術後に癌性肋膜炎を起こしたのが死因であった。
そして、佐々木の妻、よし江は財前五郎を相手取り、医療ミスとして訴訟を起こしたのだ。

裁判の焦点は里見助教授がオペ前に断層写真を撮るよう財前五郎に進言したにもかかわらず、五郎がそれに耳を傾けず手術を断行した点であった。
証人に立ったのは、里見や遺体解剖をした大河内教授(加藤嘉)ら多数にのぼった。しかし、原告側、被告側ともに決定的な証言が得られないまま裁判は進行し、最終的に裁判所が選んだ鑑定人は癌医療の権威、東都大学の船尾教授であった。

財前五郎はあせった。東都大学の船尾は教授選考の際、金沢大学の菊川を推した人物である。いわば敵である。
船尾教授の証言は、原告の佐々木よし江、被告の財前五郎、双方の弁護人、様々な思惑で傍聴席を埋めた人々の注目の中、行われた。

 裁判長 「被告が噴門癌の手術前に肺の断層写真を怠ったことについてどう思われますか?」
 船尾 「たとえ撮ったとしても、癌性肋膜炎の発見は不可能です。しかし、財前教授にも大きな手落ちと責任がある!たとえ里見助教授の指摘があってもなくても、あらゆる手段を尽くすのが医師としての義務であります」
 裁判長 「すると、船尾教授は、財前教授に誤診があったと言われるわけですね?」
 船尾「私は、そんなことは申し上げていない。これは医師としての良心の問題です。財前君にはそれが欠けている!ただ、ここで付け加えるに、財前教授は今までの傲慢不遜な態度を反省し、慎重さと謙虚さを身に付け、その卓越した医療技術をもって進めば大阪浪花大学の名誉ある教授になるであろうということであります!」

船尾教授のこの証言は、裁判の方向を決定づけるものだった。船尾は財前五郎に鋭い反省を求める一方で、大学病院のひいては日本医学界の名誉と権威を守ったのである。
佐々木よし江はその後、訴訟を取り下げた。結果として財前五郎は裁判に勝った。
「ただ今より、財前教授の総回診が始まります」
大学病院の廊下に回診を告げる音声が響き渡ると、多くの医局員を引き連れた財前五郎が歩いてゆく。その顔は権力を握った満足感に浸っているのだった。

山陰大学の教授にあてがわれた里見助教授は、それを辞し、浪花大学を去る。里見にとって学究の場所である筈の浪花大学を振り返ると、それは汚れた白亜の殿堂として巨大にそびえているのだった。
映画館主から

山崎豊子の原作を社会派の山本薩夫監督が圧倒的な迫力で描いた問題作です。
山本薩夫は「真空地帯」(’52年)、「氷点」(’66年)、「戦争と人間」(’73年)、「華麗なる一族」(’74年)、「金環食」(’75年)などの社会性のある映画を多く手がけましたが、中でも「白い巨塔」が代表作といえるでしょう。
’66年(昭和41年)度、キネマ旬報ベストワン作品。

脚本は黒澤映画でも多くを執筆しているベテランの橋本忍です。
現代医学のあり方と大学病院の内部抗争にメスを当て、教授選考会の政治的な駆け引きを中心にドロドロした人間関係をダイナミックに描き出しました。

主演の田宮二郎はまさに当たり役で、医療の腕は立っても傲慢不遜な財前五郎役は田宮以外に考えられないほどはまっていました。
田宮二郎は、’70年代にも連続テレビドラマ化された「白い巨塔」で主演していますが、最終回の放映直前に謎の猟銃自殺を遂げ日本中を騒然とさせました。半年にわたる平均視聴率は20パーセント台と好調でしたが、最終回はなんと31パーセントでした。テレビシリーズ最終回で、田宮演ずる財前五郎は自らガンに冒され死んでいくのです。

映画ではそこまでは描かず、医療ミス裁判までですが、ラスト近くの証人に立った、滝沢修の圧倒的な迫力は特筆しなければなりません。

田宮以外の演技陣も、東野英治郎、滝沢修、田村高廣、小沢栄太郎、船越英ニ、加藤嘉、加藤武、石山健二郎、小川真由美、藤村志保と多彩でした。

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