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「雨月物語」 |
| 雨月物語 1953・大映京都 | |
![]() 製作:永田雅一 監督:溝口健二 原作:上田秋成 脚本:川口松太郎 依田義賢 撮影:宮川一夫 音楽:早坂文雄 出演:京マチ子 森 雅之 田中絹代 小沢 栄 水戸光子 香川良介 上田吉二郎 青山杉作 毛利菊枝 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 天正十一年。戦国時代のある早春。 近江国琵琶湖の北岸に貧しい二軒の家があった。陶工の源十郎(森雅之)の家族と彼の義弟藤兵衛(小沢栄)夫婦である。 源十郎が荷車に陶器を積み、町へ売りに出かけようとしていると、藤兵衛が「連れて行ってくれ」とついて来た。彼は武士になりたくて仕方がないのだ。 やがて、源十郎は陶器が売り切れ、大金を手に帰ってきた。 妻の宮木(田中絹代)や息子源市に小袖や様々な食べ物を買って来てやった。 一方、分かれた藤兵衛は長浜で武士になりたいと、丹羽方の武将に直訴するが、「具足と槍を持って来い」と追い返され、悄然と家にもどった彼は、妻の阿浜(水戸光子)に罵倒されるのだった。 「もっと働くぞ」大金を手にし、幸せは金で買えると思う源十郎は、陶器づくりに励む。妻や弟夫婦も手伝った。しかし、宮木は家族が平和に暮らせさえすればよいと思っていた。 だが、戦乱はこの寒村にもやって来た。柴田の軍勢が農家を襲い、源十郎たちも着の身着のまま逃げ回る。 源十郎は逃げながらも焼いている最中の陶器が気になって仕方がない。軍勢が去って、家に戻ると、陶器が素晴らしい仕上がりに出来上がっていた。 源十郎の家族と藤兵衛夫婦5人は、小舟に陶器を積み込み、琵琶湖に漕ぎ出した。 阿浜が舟を漕いでいると、霧の中を一艘の舟が漂っていた。中に瀕死の船頭が一人。「海賊にやられた」と言って息絶えた。源十郎は舟を一旦戻し、宮木と息子源市を置いて再び大溝へと向かった。 大溝城下の市で、陶器を並べると、次々と売れた。その時、源十郎の前に市来笠を冠った美しい女が付き人の老女を伴って現れた。大量に買い込み、「山陰の朽木屋敷に届けてくれますか、お金はその時に・・・」と命ずるように言うのだった。 藤兵衛は通りかかった武士の行列を見ていたたまれず、売上金を持って具足屋に飛び込んだ。そして鎧に身を包み槍を持った。 一方、藤兵衛を見失った阿浜は、侍たちに襲われ犯された。 再び大金を手にした源十郎が妻への着物を物色していると、先ほどの美しい女若狭(京マチ子)と老女右近(毛利菊枝)が現れた。「朽木屋敷案内しましょう」 朽木屋敷は、荒れた庭の中の大きな屋敷だった。やがて若狭が衣裳を替えて現れた。源十郎の作った陶器に酒肴を乗せ、酒宴が始まる。 「どうしてあのような美しいものができるのか、お会いしてお聞きしたかったのです」若狭が言った。 「貴方様のような美しいお方に使っていただくとは、陶器も幸せ者です」 「貴方様の腕は、貧しい片田舎にうずもれて終わるものではありません」 「では、どうしたら良いのでしょう」源十郎が言った時、右近が答えた。「若狭さまとお契りなされたら良い」 若狭が源十郎に迫り抱き寄せた。うろたえる源十郎。しかし、若狭の魅力には勝てなかった。 右近が鼓を打ち、若狭が舞う。源十郎は、右近から織田信長に滅ぼされた朽木一族の話を聞かされ、若狭と右近のみが生き残ったことを知る。 そして、源十郎はいつしか若狭の虜となっていった。 一方、残された宮木は、源一を背負い、武士たちから逃げ回っていたが、家に帰る途中、落武者に槍で突かれ死んだ。 藤兵衛は、ひょんなことから敵将の首を奪い、それを届けたことから出世の道を掴んだ。 そして、十数人の家来を持った藤兵衛が、部下の慰労のために立ち寄った遊女屋で、皮肉にも今や遊女に落ちぶれた妻阿浜に出会うのだった。 「お前さんが出世する間に、私はこうなったんだよ」阿浜の言葉は藤兵衛の耳をつんざく。 朽木屋敷で過ごしていた源十郎が、町の着物屋で衣裳を買った。 「少し足りないが、朽木屋敷まで来てくれれば、払う・・・」と、源十郎が言うと、着物屋の主人(上田吉二郎)は、「朽木屋敷!?」と、急に怯えだした。 帰り道、源十郎を呼び止めた老僧がいた。「お前の顔には、死相が出ておる」 朽木屋敷にいる若狭と右近は死霊であると、老僧から聞かされる源十郎。 朽木屋敷に帰った源十郎は、若狭に買って来た着物を見せる。喜んだ若狭は、源十郎にこの世を捨て、自分たちの黄泉の国へと誘うのだったが、はたして、源十郎の体には、老僧によって魔よけの梵字が書きめぐらされていたのだ。 若狭と右近はそれを見て狼狽し、源十郎を責め苛む。 「お許しください、私には、妻と子が・・・」 源十郎は、二人を突き放し、傍らの太刀を振りかざして斬りかかった。そして、庭に踊り出て、そのまま気を失った。 神官、土地の目付けたちが源十郎を引き起こす。源十郎は朽ち果てた朽木屋敷の廃墟に横たわっていたのだった。 疲れ果てた源十郎が家に戻ると、宮木が囲炉裏端に座っていた。源市は傍らに寝ている。 源十郎は、源市を抱きしめた。そして、欲に溺れた自分を宮木に詫びるのだった。 翌朝、源十郎は村の名主(香川良介)から、宮木はすでに落武者により殺されたことを知らされたのだ。では、あれは・・・宮木の亡霊だったのか。 一方、藤兵衛も阿浜と真っ当な生活に戻ろうと決意し、具足を捨てた。 源十郎は、宮木の墓に供養し、陶器作りに精を出すのだった。 |
| 映画館主から 溝口健二監督が、上田秋成の「雨月物語」の中の「蛇性の婬」と「浅茅ヶ宿」から材を得て映画化した溝口映画の最高峰。 「蛇性の婬」は愛欲の妄執を端的に強烈に描いており、「浅茅ヶ宿」は人間のいのちのはかなさ、無常というものを描いています。 この二つの話を、それぞれの主題を主張しながら一つの映画にまとめられないかというのが、溝口の考えでした。 井原西鶴のいう、色欲ニ道でいえば、「蛇性の婬」では愛欲に溺れていく男を、「浅茅ヶ宿」では、物欲や出世欲に目のくらんだ男を描いているのです。 そしてこの物語は、欲望にかられた男たちの陰で犠牲になった女たちの物語でもあります。 画面は宮川一夫のカメラの冴えが加わり、見事な幻想世界が私たちを魅了します。 霧に包まれた琵琶湖を行く小舟のシーンの幽玄な美しさ。 朽木屋敷の中で繰り広げられる奇怪なドラマ。幽霊話の哀調さ。 宮川のカメラ演出はモノクロ画面の芸術です。 主演は、「羅生門」’50年のコンビ、京マチ子と森雅之。京マチ子の幽霊は華麗な中に凄みがあります。森も適役です。 それに田中絹代、小沢栄、水戸光子と芸達者が揃いました。 毛利菊枝は老婆右近役ですが、この女優は他の映画でも何故か不気味な役が多いです。 参考文献:「映画監督 溝口健二」 平凡社 |
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