条     約  奄美群島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定及び関係文書をこ こに公布する。  御 名 御 璽   昭和二十八年十二月二十五日                      内閣総理大臣 吉田  茂 条約第三十三号    奄美群島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定  アメリカ合衆国は、同国国務長官が千九百五十三年八月八日に声明したと おり、奄美群島に関し、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で 署名された日本国との平和条約第三条に基くすべての権利及び利益を日本国 のために放棄することを希望するので、また、  日本国は、奄美群島の領域及び住民に対する行政、立法及び司法上のすべ ての権力を行使するための完全な機能及び責任を引き受けることを望むので、  よつて、日本国政府及びアメリカ合衆国政府は、この協定を締結すること に決定し、このためそれぞれの代表者を任命した。これらの代表者は、次の とおり協定した。     第一条 1 アメリカ合衆国は。奄美群島に関し、千九百五十一年九月八日にサン・  フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第三条に基くすべての権  利及び利益を、千九百五十三年十二月二十五日から日本国のために放棄す  る。日本国は、前記の日に、奄美群島の領域及び住民に対する行政、立法  及び司法上のすべての権力を行使するための完全な機能及び責任を引き受  ける。 2 この協定の適用上、「奄美群島」とは、付属書に掲げる群島(領水を含  む。)をいう。     第二条 1 アメリカ合衆国が奄美群島で現に利用している二の設備及び用地は、千  九百五十二年二月二十八日に東京で署名され、その後改正された日本国と  アメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に定める手続  に従つて合衆国軍隊が使用するものとする。もつとも、避けがたい遅延の  ため千九百五十三年十二月二十五日前に前記の手続によることができない  場合には、日本国は、アメリカ合衆国に対し、その手続が完了するまでの  間、これらの特定の設備及び用地を引き続き使用することを許すものとす  る。 2 日本国政府は、奄美大島の名瀬にある測候所の運営を引き継ぐものとし、  且つ、行政協定第二十六条に定める合同委員会による協議を通じて合意さ  れるところに従つて気象観測の結果をアメリカ合衆国政府に提供するもの  とする。避けがたい遅延のため千九百五十三年十二月二十五日に日本国政  府がその運営を引き継ぐことができない場合には、現状どおりの運営が、  日本国政府がこの責任を引き受ける準備ができる時まで、継続されること  が合意される。     第三条 1 日本国政府は、千九百五十三年十二月二十五日に、奄美群島における流  通からすべての「B」号円を回収し、且つ、一「B」号円につき三日本円  の割合で「B」号円と引き替えに日本円を交付することを開始しなければ  ならない。この通貨の交換は、できる限りすみやかに完了しなければなら  ない。回収した「B」号円は、沖繩の那覇にいる合衆国民政官に返還しな  ければならない。アメリカ合衆国政府は、「B」号円又は「B」号円と引  き替えに交付される日本円について、日本国政府に対し何ら償還の義務を  負うものではない。 2 予算及び財政に関する現行の措置で資金の収集及び債務の支払に関する  ものは、千九百五十三年十二月二十四日まで維持されるものとし、その後  は、日本国政府が、奄美群島における完全な財政上の責任を有するものと  する。 3 日本国政府は、奄美群島における郵便組織のすべての金融上の債務を負  うものとする。奄美群島における郵便組織と南西諸島のその他の島におけ  る郵便組織との間の勘定は、日本国政府とアメリカ合衆国政府との間で、  奄美群島における郵便組織のその他の資産並びに南西諸島のその他の島に  おける日本国政府郵便組織の戦争前の資産及び債務を考慮に入れて、後日  合意されるとおりに決済しなければならない。 4 琉球政府の財産(書類、記録及び証拠物件を含む。)で千九百五十三年  十二月二十五日に奄美群島に存在するものは、その日に無償で日本国政府  に移転いなければならない。 5 日本国政府(地方公共団体を含む。)の財産で、千九百五十三年十二月  二十五日に奄美群島に存在し、且つ、同日前にはアメリカ合衆国政府の管  理下にあつたものは、その日に無償で日本国政府に返還しなければならな  い。 6 千九百五十三年十二月二十五日に、奄美群島における各種の機関及び団  体が奄美群島への貨物の積送の結果南西諸島のその他の島における政府機  関その他の機関に対して負う当座勘定並びに奄美群島における個人及び団  体が琉球復興金融金庫に対して負う長期債務が存在する。両国政府は、こ  れらの勘定の残高並びに債権者及び債務者をできる限りすみやかに確認し  なければならない。アメリカ合衆国政府は、確認された勘定に関するすべ  ての権利及び利益を無償で日本国政府に移転しなければならない。 7 千九百五十三年十二月二十五日に、奄美群島における個人(法人を含む。  以下同じ。)が南西諸島のその他の島における個人に対し、又は南西諸島  のその他の島における個人が奄美群島における個人に対し負う債務が存在  する。両国政府は、これらの債務の決済を促進する手続を定めることに同  意する。     第四条 1 日本国政府は、戦争から生じ、又は戦争状態が存在したために執られた  行動から生じたアメリカ合衆国及びその国民並びに南西諸島の現地当局及  びその前身たる機関に対する日本国及びその国民のすべての請求権を放棄  し、且つ、アメリカ合衆国の軍隊又は当局の存在、職務遂行又は行動から  生じたすべての請求権で、千九百五十三年十二月二十五日前に、奄美群島  で生じ、又は奄美群島に影響を有するものを放棄する。但し、前記の放棄  には、千九百四十五年九月二日以後制定されたアメリカ合衆国の法令又は  南西諸島の現地法令で特に認められた日本人の請求権の放棄を含まない。 2 日本国は、占領期間中及び奄美群島の軍政府又は合衆国民政府の期間中  に占領当局、軍政府又は合衆国民政府の指令に基いて若しくはその結果と  して行われ、又は当時の法令によつて許可されたすべての作為又は不作為  の効力を承認し、合衆国国民又は南西諸島の居住者をこれらの作為又は不  作為から生ずる民事又は刑事の責任に問ういかなる行動も執らないものと  する。     第五条 1 日本国は、公の秩序又は善良の風俗に反しない限り、次の裁判が有効で  あることを承認し、且つ、それらの効力を完全に存続させるものとする。 (a) 奄美群島におけるいずれかの裁判所が千九百五十三年十二月二十五日   前にした民事の裁判で、同日前の法令によつて再審査の手段又は権利が   なかつたもの及び (b) 沖繩における琉球上訴裁判所が千九百五十三年十二月二十五日前にし   た民事の最終的裁判で、奄美群島におけるいずれかの裁判所に係属した   事件に関するもの 2 日本国は、訴訟当事者の実質的な権利及び地位をいかなる意味において  も害することなく、千九百五十三年十二月二十五日に奄美群島におけるい  ずれかの裁判所に係属中の民事事件又はそれらの裁判所に係属した民事事  件で千九百五十三年十二月二十五日に琉球上訴裁判所に係属中のものにつ  いて、裁判権を引き継ぎ、且つ、引き続き裁判及び執行をするものとする。     第六条  日本国は、奄美群島にいる者で、千九百五十三年十二月二十五日前に南西 諸島におけるいずれかの裁判所が科した刑に服役中のもの又は千九百五十三 年十二月二十五日に前記の裁判所若しくは沖繩における琉球上訴裁判所に事 件が係属中のものに対して、日本国の法令及び手続に従つて刑事裁判権を行 使することができる。但し、これらの者が千九百五十三年十二月二十五日に 抑留中である場合には、適当な措置が執られるまでの間引き続き日本国の当 局の下に抑留されるものとする。日本国の当局は、前記の者に対して刑事裁 判権を行使するに際し、南西諸島における裁判所又は沖繩における琉球上訴 裁判所が前記の者に対して刑事裁判権を行使する際に用いた証拠資料に対し て相当な信頼を置くものとする。     第七条  日本国が当事国である条約及びその他の国際協定(千九百五十一年九月八 日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約、同日に署名さ れた日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約及びこれに基く改正され た行政協定、同日に日本国総理大臣とアメリカ合衆国国務長官との間で交換 された公文並びに千九百五十三年四月二日に東京で署名された日本国とアメ リカ合衆国との間の友好通商航海条約を含む。)は、この協定の効力発生の 日から奄美群島について適用されるものとする。     第八条  この協定の実施に関する事項は、両国政府又はその権限のある当局の間で 協議によつて合意するものとする。     第九条  この協定は、千九百五十三年十二月二十五日に効力を生ずる。  以上の証拠として、下名は、名自の政府により正当な委任を受け、この協 定に署名した。  千九百五十三年十二月二十四日に東京で、ひとしく正文である日本語及び 英語により本書二通を作成した。  日本国のために    岡崎勝男  アメリカ合衆国のために    ジョン・M・アリソン    附属書  奄美群島とは、北方北緯二十九度、南方北緯二十七度、西方東経百二十八 度十八分及び東方東経百三十度十三分を境界線とする区域内にあるすべての 島、小島、環礁及び岩礁をいう。    交換公文  書簡をもつて啓上いたします。本使は、本日署名された奄美群島に関する 日本国とアメリカ合衆国との間の協定に言及し、且つ、次のとおり述べる光 栄を有します。   奄美群島及びその領水は、日本本土と南西諸島のその他の島におけるア  メリカ合衆国の軍事施設との双方に接近しているため、極東の防衛及び安  全と特異の関係を有する。日本国政府は、この特異の関係を認め、南西諸  島のその他の島の防衛を保全し、強化し、及び容易にするためアメリカ合  衆国が必要と認める要求を考慮に入れるものと了解される。  本使は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向つて敬意を表し ます。   千九百五十三年十二月二十四日                        ジョン・M・アリソン  日本国外務大臣 岡崎勝男閣下  書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、閣下が次のとおり本大臣に通報 された本日付の閣下の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。   本使は、本日署名された奄美群島に関する日本国とアメリカ合衆国との  間の協定に言及し、且つ、次のとおり述べる光栄を有します。    奄美群島及びその領水は、日本本土と南西諸島のその他の島における   アメリカ合衆国の軍事施設との双方に接近しているため、極東の防衛及   び安全と特異の関係を有する。日本国政府は、この特異の関係を認め、   南西諸島のその他の島の防衛を保全し、強化し、及び容易にするためア   メリカ合衆国が必要と認める要求を考慮に入れるものと了解される。  本大臣は、更に、閣下が述べられたことを記録にとどめ、且つ、前記に掲 げる了解が日本国政府の了解でもあることを閣下に対し通報する光栄を有し ます。  本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向つて敬意を表 します。  昭和二十八年十二月二十四日                        外務大臣 岡崎 勝男  日本国駐在アメリカ合衆国特命全権大使    ジョン・M・アリソン閣下                      内閣総理大臣 吉田  茂                      法務大臣   犬養  健                      外務大臣   岡崎 勝男                      大蔵大臣  小笠原三九郎                      文部大臣   大達 茂雄                      厚生大臣   山県 勝見                      農林大臣   保利  茂                      通商産業大臣 岡野 清豪                      運輸大臣   石井光次郎                      郵政大臣   塚田十一郎                      労働大臣   小坂善太郎                      建設大臣   戸塚九一郎  『官報』1953年、より抜粋。