漢字表記法

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2001/07/31 追加 (2001/07/28 公表)

平成の現在、日本語の表記は専ら「常用漢字」と「現代仮名遣い」を規範として行はれてをります。然し、此処のウェブでは敢へてこの戦後に制定された規範とは又異なつた規範を元に作成されてをります。

ご覧の皆さんの中には「正統表記を標榜してゐるサイトなのに多くの新字体を使用してゐるぢや無いか」とか「何だ、此処は「常用漢字」を使つてゐる似非旧かなサイトぢや無いか」とか思はれてゐるかも知れません。

この頁では、私の用ゐる電脳上の漢字をどのやうな経緯で選択してゐるのかを説明しようと思ひます。キーワードは麗しいです。

  1. 続・漢字表記法

始めに

日本語の表記、特に漢字表記を電脳で書表さうとする場合、考へねばならない点は二つあると思ひます。

一つは、漢字の文字集合として何を選ぶかと云ふ事です。日本で現状として選べる文字集合は「常用漢字」1945字、と其れ以前に制定された「当用漢字」1850字があると思ひます。又追加して選べる文字集合として「人名漢字」や其の「許容字体表」があります。ですが、此処では此れ等の文字集合は敢へて無視します。

もう一つ重要な点として、電脳で表記できる文字集合からどのやうに取捨選択するべきかと云ふ事になります。

漢字の文字集合を選ぶ

「当用漢字」は、制定された1850字を限りとして、其れから洩れた漢字は其の使用を禁止するのを原則としてゐます。其処から「漢字熟語の書換へ」と云つた愚行に向つたのは残念であります。

「常用漢字」は、規定の上では目安となつてをりますが、其の中身は「常用漢字」の規定に先立つて規定された「当用漢字」の影響が色濃く残つてゐるものです。

其処で、このウェブでは漢字の基本文字集合を康煕字典に求め、其の字典で正字体とされてゐる漢字が「麗しい」漢字であると認める事に致しました。康煕字典は、満洲族出身の皇帝が勅命で作成させた漢民族の言語の為の字典です。皇帝の勅命と云ふ点が正統の根拠となります。

文字概念

此処で文字概念と云ふ熟語を定義しておきます。

漢字の場合、字音と字義と字体の三つの要素が基本となります。この内「字音と字義が結合した概念」を示して文字概念と呼ぶ事にします。

文字概念と正字体

漢字の場合、一つの文字概念に一つの字体しか無い場合もあれば、複数の字体が幾つもある場合もあります。文字概念の同一な複数の漢字がある場合は、其の中の一つに正字体と云ふ特質を与へ、其の他の文字を正字体に対して異体字と云ふ事にします。其の正字体を康煕字典の規定に求めます。

複数の文字概念の統合

戦後の日本で制定された「当用漢字」では複数の文字概念を一つの字体に収めた例が少からずあります。

色々な経緯があつて、このやうな結果となつたのではあるのでせうが、このウェブでは此れ等の文字を夫々の文字概念に則つて使分ける事に致します。

文字概念の離隔

或る特定の意味を分けて表現したい時や、漢字熟語の構成上、書分けが必要な場合は、正字体が同一でも異体字との書分けを行ふ場合があります。

文字を使分ける事で、意味の違ひを際立たせる事が出来ます。

電脳で表記できる文字集合からの取捨選択

電脳で表記できる文字集合は文字コードと呼ばれてをります。

日本の文字コードとして代表的なものは、JISコード・EUC・シフトJIS・ユニコードです。

JISコードの基本は、2byteコードで仮名文字・ローマ字・ギリシャ文字・キリル文字の規定の外、漢字の文字コードセットが規定されてゐます。此処では、其の内の漢字のコードについて言及します。

JISコードの漢字には、第1水準漢字と第2水準漢字の二種類があります。第1水準漢字として日本語でよく使用される漢字2965字が規定され、又、第2水準漢字としてあまり使用されないであらう漢字6348字が文字コードとして規定されてゐるさうです。

文字集合の選択

電脳における文字集合の選択する場合、日本ではJISコードが正統であると認められます。

EUCやシフトJISの場合、所謂機種依存文字或は機種未対応字が独自に規定されてゐる場合があるので、JISコードとの兼合ひを常に考慮せねばなりません。

そして、JISコードを選んだ場合、漢字は自動的に第1水準漢字と第2水準漢字が選ばれたと見做す事が出来ます。

正字体とJISコード

JISコードでは、現在の日本で使用されるべき漢字がコードとして規定されてゐます。然し、残念な事にはこのJISコードで規定されてゐる漢字は、正字体を中心とする体系で設計されてはをりません

悪しき「83JIS」の規定以前は、「当用漢字」以外の「表外字」に就いては所謂康煕字典体を例示字体としてゐたのですが、「83JIS」の規定変更により、「表外字」に就いても大幅な例示字体の変更が加へられました。

詰り「83JIS」以降、日本の文字コードとしての漢字には正統と云ふ概念がすつぽりと抜け落ちた状態になつてしまつたのであります。言はばドーナツの穴を連想してみて下さればイメージとして掴み易いと思ひます。

文字コードとして正統な漢字を選ぶには

日本の文字コードには一つの文字概念に複数の例示字体を指定してゐる場合が少くありません。

有名なもので、「剣・劍・劔・劒・剱」などと云ふ一見無駄とも云へる規定が存在します。其の中からどの例示字体が正統かを決めなければなりません。

其処でこのウェブでは文字コードは飽く迄も文字概念を"0"と"1"の繰返しで指定したものあり、字体を直接指定する規定では無いと云ふ態度を採ります。

具体的な選定方法

文字コードは使用頻度に随つて第1水準漢字と第2水準漢字とに分けられてゐます。ですので、この規定から文字概念としての正しい文字コードを選定させます。当然此処でも「麗しい」を標榜してをります。

  1. 第1水準のみに指定されてゐる場合は、其の侭其の文字コードを使用する。
  2. 第2水準のみに指定されてゐる場合は、其の侭其の文字コードを使用する。
  3. 第1水準と第2水準に共に指定されてゐる場合には、第1水準の文字コードを優先使用する。
  4. 第1水準に複数が指定されてゐる場合は、仮令1番違ひでも小さい数字(若番)の文字コードを優先使用する。
  5. 第2水準に複数が指定されてゐる場合は、仮令1番違ひでも小さい数字(若番)の文字コードを優先使用する。

上記を原則としますが、人名・地名を含む固有名詞はこの限りにありません。

例へば、「熙と煕」があります。「熙」は「人名漢字」で規定された比較的新しい例示字体ですが、「煕」のはうが若番なので「煕」を採用すると云ふ按配です。

このやうに規定した場合、其の例示字体は何故か「常用漢字」とか「人名漢字」とか「拡張新字体」になつてしまふのはご愛嬌ですが、私自身は飽く迄も正字体で表記してゐるのだと認識してゐます。画面表示が偶々さうなるだけで、正しい字体を常に思ひ浮べ乍ご覧下されば幸ひです。

電脳表記として

現在の文字コードは字体を中心とした文字コード体系となつてをります。此れはユニコードとて同じ事です。唯、漢字の其の優れた特質を考慮する場合、一文字で其の意味が特定できると云ふ事が重要であると思ひます。

さう云ふ観点で物を考へた場合、一つの文字概念で一つの文字を表す事は重要であります。仮令正字体の例示字体があるにせよ、一つの文字概念に対して複数の例示字体を規定するのは或る意味無駄があると感ぜずにはをられません。

最後に

「言語の美しさ」と云ふ考へ方から、「漢字の字形の美しさ」を引出さうとする考へをお持ちのお方がお出でのやうです。

さう云ふ考へ方をなさる事自体は悪い事だとは思つてをりません。ですが、私は「字体として麗しいものを採用する」と云ふ事を先づ優先し、其の上で「書体の美しさ」を考へるやうにしてをります。

字体に「美しさ」を求める事は結果的に「新たな異体字を増やす事」であり、文字が増えると云ふ事は「世間の混乱を増長する事」に繋がります。方向性こそ違ひますが、結局「当用漢字」や「現代かなづかい」の制定と殆ど同じ結果が得られてしまふ事でせう。

正字体と云ふ筋を確りと押へた上で、其れを土臺して漢字の美しさを論じなければアートとしての美術は語れないと私は思ひます。其の観点から敢へて「美しさ」に対抗して「麗しさ」と云ふ熟語を採用しました。この言葉には「正式だ。本格的だ。」と云ふ意味合も含まれてをります。

現在の文字コードの体系を俯瞰するに「俗字や略字などの異体字を雑多に並べたもの」となつてしまつた事は残念ですが、さう云ふ中から別の観点で「一の文字概念としての文字コード」を特定させると云ふのは難しいものです。

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