福田恆存著『私の國語教室』2002.03.10、文春文庫「ふ」9-3、ISBN4-16-725806-4
『私の國語教室』の復刊を祝してささやかなウェブページを立ち上げる事にする。当初、漢字は新字体で印刷されてしまふのではないかと危惧されてゐたが、開いてみれば其れは列記とした正字体だつた。
福田恆存は、戦後に行はれた「当用漢字」、「現代仮名遣い」を代表とする国語国字改革に真つ向から批判した評論家である。其の内容の不当性、其の成立の裏事情などを細部まで見抜き、鋭い指摘を繰返し乍ら正字正かなの正当性を主張して来た。
今回復刊された『私の國語教室』は、現在も其の内容が陳腐化する事なく、尚活き活きとした文章として読者に語り掛けて来るだらう。正字正かな派に取つての聖典とも譬喩される書籍が此れである。
『私の國語教室』は、単行本が(S35)年に刊行されて以来、新潮文庫や中公文庫で過去3度に亙つて復刊されて来た。今回の文春文庫版で4度目の復刊となる。個人的には単行本やS35の新潮文庫版のカヴァの意匠が好みなのだが、今回は又新たな意匠となつてゐる。
もう一冊文庫本が出てゐたが、手元に無いので割愛する。
今回復刊された文春文庫版では、全集の覚書を附録し、正字正かなソフト「契冲」の開発に携つた市川氏の解説が附加されてゐる。
国語国字問題の論客が福田氏ならば、文字コード問題やフォント製作を正字正かなの立場で論ずる市川氏も、国語を蔑ろにしたくない思ひは変らない。誠に適任の解説である。
附録の覚書には大野先生の談話も引用掲載されてゐるので、其の件は改めて別の機会に論じたい。
唯、惜しむらくは、「増補版」で採用された「陪審員に訴ふ」が今回の復刊で外された事で、此れは残念である。
私がこの書籍を知つたのは、或るウェブサイトを通してだつた。当時は廃刊になつて暫く経つてゐたので、古書で探すのが難儀だつた。其れ迄、正字正かなで書かれた書籍が幾つもある事は知つてゐたが、あそこ迄、国語の事や仮名遣の事を掘下げて解説した書籍は見なかつた。
其の内容は、歴史的仮名遣の正当性、「現代かなづかい」の不合理性、国語国字問題の本質的な問題点などを叮嚀に説明してゐる点で、他の書籍に類を見ない。
復刊されるとの情報の3月8日の前日、書店の梯子をしてゐた。K書店にはまだ置いてなかつたやうだが、書泉GとS堂とT堂書店には既に平積みになつて置いてあつた。締めて6冊捕獲しておいた。
私は、今日「現代かなづかい」に疑問を持つ人、国語の文法の授業で何か違和感を感じた青年、物書きを生業にしてゐる人、より良い文章を少しでも読みたい人、そんな人にこの書を勧めたい。
そして、特に「旧字旧かなに否定的な人々」、もつと解り易く書かう、「旧字旧かなに敵対心を燃やす人々」には、必ずこの書を読んで理解してから反論して貰ひたいものである。此れを読まずに反撥されてもこの書に既に答は載つてゐる。
書籍資料は上記に示しておいた。