書籍紹介
1 名前:高橋 投稿日:2001/1/21(日) 21:53:36
日本の近代化遺産−新しい文化財と地域の活性化−(伊東孝著、岩波新書、¥700)を読了いたしましたので、ご紹介いたします。
国内の文化財として美術工芸品や建築物は多々登録されていますが、こと土木構造物にいたっては事例が少なく、ようやく最近になって見なおされ始めてると言うものです。著者は日本大学理工学部土木学科教授で、恐らくは学生さんと一緒のフィールドワークで各地の土木遺産や産業遺産を巡って調査の報告を行ってくれております。
なかでも私自身は不勉強で初めて知りましたが指定文化財とは別に国家が認める文化財の種別として登録文化財というものがあるのだそうで、最近は多くの橋やダム等の土木構造物が登録文化財とされているそうです。また、登録文化財は指定文化財と違って保存指向ではなく活用指向であるということ、比較的年代の新しい近代化遺産、産業遺産が多く含まれる等の傾向があるそうです。
このあたり、世界遺産を批准した後の日本が多少なりとも文化財の視野を広げてくれたかのように考えられます。
本書で紹介されている土木構造物は、橋梁、配水塔(東京)、下水、運河(名古屋)、干拓(熊本)、発電所等々多岐にわたり、世界遺産化運動もあるという広島鞆の浦港なども紹介されています。
国内の土木構造物の文化財化という観点から近代化、地域性なども浮き彫りにされ、この時代の産業の推移等に興味の有る方、さいきんの文化財登録の傾向に興味のある方にはぜひご一読をお勧めいたします。私など、その両方に興味がありましたので一晩で読んでしまいました。

2 名前:浦に〜と 投稿日:2001/1/26(金) 22:06:42
私は日本国内の文化財指定は全く分かりません。原爆ドームを世界遺産にする時、それまで登録対象が明治以前だったのを、昭和戦前にまで拡大したとか、そういった事をおぼろげながら知ってる程度です。
文化財として価値あるものといえば、やはり美的に価値あるものや歴史的に重要なものを一番にするのは仕方ないことだと思います。世界遺産も最初は偉大な古代遺跡や建築物ばかり登録されていました。それが最近は産業遺産や交通網、更に地上に何の構造物も無い遺跡や一見平凡に見える農園も次々に登録されて、嬉しい限りです。国内の文化財指定対象にそういった物が少ないとすれば、当然、今後範囲を拡張するべきですよね。
ご紹介頂いた本、機会があれば読んでみます。

3 名前:収斂 投稿日:2001/1/29(月) 06:11:59
登録文化財制度は、貴重と思われる文化財を自己申告するもので、管理責任は個人にあります。ですから登録されていても所有者の意志で壊す自由もあります。しかし実際壊すことを考えているなら、最初からこんな制度に登録するはずないですから、実際は文化財登録の垣根を低くし、街並み保存をしやすくする狙いがあります。
ですから、自治体によっては、どんどん登録し、文化財が急増したところも多いのです。たしか香川県の金毘羅宮か善通寺の門前町だったか忘れましたが、まあ讃岐地方のある自治体では、この登録文化財制度によって、街の文化財が急増したという話を最近聞きました。私はいいことと思います。この制度は由緒ある街並みを復活させる切り札です。うまく活用していただきたいものです。

4 名前:収斂 投稿日:2001/1/29(月) 06:25:41
書籍紹介させていただきます。

小学館から「週刊 古寺をゆく」という雑誌が刊行されます。第一回目は法隆寺です。全50回ですから、約1年間発刊される計算です。毎回全国の主な寺を詳細に記していますが、回によっては一回に数箇所の寺を特集するみたいですから、全部で大体60寺以上を紹介するみたいです。このHPを見る方なら、この雑誌に掲載されるくらいの寺には何回も行ったとか、全部見て回ったという方も多いでしょうが、私は購入していこうかなと考えています。なかなかいい本です。できれば神社についてもそういった企画があればいいのですが。よかったらどうぞ。

5 名前:高橋 投稿日:2001/12/12(水) 17:55:29
久しぶりに書籍の紹介をいたします。

遺跡エンジニアリングの方法(遠藤宣雄著、鹿島出版会、税別2400円)

これは著者が勤務していた会社のエンジニアリングという手法を以って、遺跡のみならず歴史・文化遺産をどう活用して行くかという手法を研究開発してきた記録です。
エンジニアリング会社とは主として石油精製プラントなどの設計、建設に携わる企業ですが、その極めて複雑な過程を遂行するプロジェクトの特性を、遺跡等にあてはめ現実にカンボジア、タイ、インド等で実用されているそうです。
学術的な研究もプロジェクトの枠組みの中では全てではなく、遺跡にまつわる多面な要素を網羅した上で文化的な資源として捉えるという、言葉で説明しても判りにくいですが、革新的というより本質を追求した新たな手法という気がしました。

私は1992年に観光で訪れたベトナム・ホーチミンのホテルで上智大学アンコール調査団の方たちとご一緒になり、ちょっとした縁があったものでご挨拶いたしましたところ、この遠藤氏がエンジニアリングを活かしたいのですとおっしゃって地域開発ジャーナルという雑誌に寄稿された旨を教えてくれました。私もエンジニアリング会社に勤務する身で遺跡の保存活用にも関心を持っていましたので帰国後にさっそく地域開発ジャーナルを入手し、遠藤氏の論を興奮しながら拝見した記憶があります。
このたび、その後の実用された例も踏まえて出版されたことを知り、最近読了することができました。正直申し上げて読み易い文章ではありませんでしたが、もちろん内容に関しては質が高く、私自身がエンジニアリングという手法を理解していることもあり、為になりました。というよりむしろ、私もこの道を進みたかったなという気になりました。

浦に〜とさんはじめ、この掲示板を読まれている方にもぜひご一読をお勧めしたい本です。

6 名前:柳沢 投稿日:2001/12/14(金) 02:37:02
高橋さん、よい本を紹介していただきありがとうございます。さっそく‘挑戦’してみたいと思います。(読み易い文章ではない、という言葉にびびっている・・・)
読み易い、といえば講談社現代新書ははずれがなく読みやすいという印象があります。(話が脱線してしまった・・・・)
自分の住んでいる町には、兵器工場に伴う給水塔があり、所有者に返すの返さないのでもめています。文化庁のリストにはのっていますが、登録文化財になっていないので壊されなければいいな、と思っています。

7 名前:高橋 投稿日:2001/12/22(土) 18:31:41
近代化遺産を歩く (増田彰久著/中公新書1604、¥980)

本スレッド1番でも近代化遺産の書籍を紹介いたしましたが、今度は「近代化遺産を歩く」という書籍を紹介いたします。
著者は30年以上の永きにわたり西洋館の写真を撮り続けている中で、建築以外の土木遺産や産業遺産にも目を向けられ、取材をされてきたそうです。恐らくは今ほど○○遺産等という名称が使われなかった頃から。
本書では個々の案件について論をめぐらすのではなく、ダムとか配水塔、トンネル、運河・・・といった項目毎に全国の貴重な遺構の写真と簡単な紹介をしてくれています。また、巻末に都道府県毎の掲載されている遺構一覧があり、初心者のための本つくりに徹してくれています。

有名な遺構はもちろん、既に除却処分されてしまったもの(厳密には遺構ではなくなっています)の貴重な写真もあります。
中でも消防署の火の見櫓を扱っているのは驚きで、これまであまり目を向けられていなかったものではないでしょうか。
そう言えば以前は街を歩いていて火の見櫓を目にしたものですが、最近はめっきり目立たなくなりましたよね。

なにしろ写真の美しさと内容の判り易さでは本スレッド1番の書よりもお勧めです。年末年始のお休みにサッと読めますのでぜひどうぞ。

8 名前:浦に〜と 投稿日:2001/12/27(木) 07:59:48
高橋さん>
判り易い本、ということで少し安心(?)しました。早速近所の書店に行ったのですが、置いてませんでした。年内に、もっと大きな書店に行ってみます。

9 名前:浦に〜と 投稿日:2001/12/30(日) 10:36:20
先日購入し、今読み進めているところです。私もこういった土木・産業遺産が好きですので、とても面白いです。そして鉄塔や天文台なども取り上げるということに、土木・産業遺産の幅広さを気付かされました。こういった近代化遺産って、見た目にも綺麗だと思うのですが、あまり注目されないものですよね。もともと辺鄙な所にあるとか、周辺に何もなくて観光地に向かないとか、色々あるのかもしれませんが・・・。
ところで余部鉄橋がそれほど古いとは知りませんでした。明治建築だったとは、驚愕です。