無形自然遺産
1 名前: 浦に〜と 投稿日: 2001/2/8(木) 00:52:44
ユネスコは世界遺産の無形版ともいえる「人類の口承及び無形遺産の傑作の宣言」を今年から実施します。これに関連して私が強く感じるのは、何故自然遺産の無形版が作られないのだろう?ということです。(既にそういった取決めがあるとしたら、私が無知なだけです)。

無形文化遺産を制定するなら、その自然版も大きく取り上げていいはずです。私は世界遺産リストに登録されている文化遺産が自然遺産の4倍もあることに非常に違和感を覚えていますし、なんだか自然の方がないがしろにされているような感じさえ受けています。単に軽く見られているというのではなく、保護や世界遺産化が文化遺産に比べてやりにくいという事もあります。だからこういったことも考えるのですが、これも偏った意見かもしれませんね。

自然の国際保護条約とは、ほとんど全てが地球規模の環境回復に関するものです。国家間の相互理解の役目を果たし、各地の顕著な資産を称えるというのは世界遺産条約くらいです。その無形文化版が出来るのなら、自然版も作ってほしいと思うのです。
無形自然として国際的に認めるものって、かなり沢山あるのではないでしょうか。北欧の白夜、オーロラ、ナミブ砂漠の砂の造形、コーグリ川の大逆流、仁川の干満差、太平洋の島で見られる世界最初の日の出(もっともこれは日付変更線が関わったものですが)などなど。国内でもオホーツク海の流氷とか、富山湾の蜃気楼とか、黒潮なんかは無形複合遺産になっても良いのではないか?なんて、勝手なことを考えてしまいます。

あと、現行の世界遺産登録ガイドラインは、あまりにも自然遺産の登録を限定しているように思えます。完全性を追求しすぎるから、ある程度の面積も必要になるわけす。そんな訳ですから、今後自然遺産の数が劇的に増えることは正直言って見込めません。

2 名前: 収斂 投稿日: 2001/2/10(土) 21:21:44
無形自然遺産という考え方を、私は、地球規模の自然現象を世界遺産にしようという考え方に捉えたのですが、どうなのでしょうか。私自身、それは自然遺産となるには、ちょっと難しいのではないかと考えます。そもそも自然遺産は「無形」であり、無形文化遺産のような適用とは違うでしょう。
自然遺産の数が少ないことに対する浦に〜とさんの気持ちは良く分かるのです。しかし、だからといって「無形自然遺産」という考え方をもってしても、世界自然遺産の数は増えないでしょう。本当に貴重な自然が残る地域が登録されなかったらどうにもなりません。
私は、自然遺産の数の増えないことの本質は2つあると考えます。つまり、

(1)自然遺産の登録基準のハードルが高すぎる。
(2)発展途上国の登録意欲をかき立てるほど世界自然遺産は魅力的ではない。

これらの解決策として、個人的な意見を述べさせていただきます。

まず(1)の問題解決ためには、登録基準のハードルを下げるのではなく、登録基準の数を増やすというのはどうでしょうか。文化遺産の登録基準は6個、対する自然遺産は4個しかありません。本来、文化遺産の方が、史跡の持つの文化的・芸術的・歴史的・民族的価値を証明しやすいのに対し、自然遺産はその貴重性を主張するのが難しいと思うのです。だから、ヨーロッパに自然遺産が少ないのだと思います。復元されたものであっても登録できるような基準や、ある程度の広さや貴重種が存在していればそれだけで指定できるような基準を設ければよいと思います。変な話を例にしますが、欧州の文化財は、アフリカ中部以南の諸国の文化財よりも技術的には優れているでしょう。しかしだからといってアフリカの物件は世界遺産になれないというものでは決してない。逆に、アフリカや南米の原生林は、日本や欧州の自然遺産と比べてはるかに広く貴重ですが、だからといって日本や欧州の小さな自然保護区が世界遺産になってはいけないというものでもないでしょう。自然遺産のハードルを低くすることが、先進諸国の自然を保護するのに役立つのなら、実行した方がいいし、また自然遺産の登録を難しくしている一因として、今の登録基準は基準の数そのものが少ないのではないかと考えます。


次に(2)の問題解決ですが、私は、自然遺産が増えるほど、その国が国際的に有利になる仕組みを構築するだけで、この問題は解決すると思うのです。つまり、それは自然遺産が増えるほど、債務の返還が減るとか、先進国から徴収した炭素税が支払われるようにするとかすれば開発途上国の意識が大きく変るはずです。自然を多く持つ国ほど利益になる仕組みさえあればいいだけのことです。

ただし、個人的には、この(2)の流れは時代の必然のようにも思えます。そう遠くない将来、環境問題がどうしようもない状況になって、世界中で森林を保全しなくてはいけない状況が必ず来るでしょうから。

3 名前: 浦に〜と 投稿日: 2001/2/12(月) 11:25:21
ここで私が提示した「無形自然の財」というのは、世界遺産に自然遺産を増やす策の一つとするのではなく、ユネスコ無形文化財に対抗して、こういうものもあればなーと思ったものです。ですから、世界遺産条約とは直接的な関連はありません。無形文化財の国際保護法が出来るのなら、無形自然の財を保護する法も出来てほしいと思ったので、この話題を出しました。

仮に無形自然の財を設定するのなら、地球規模の自然現象というほど大規模なものではなく、その地方やその場所だけで見られる珍しい自然現象、もしくは、特にその場所のものが著名だったり、文化的・歴史的にも影響を及ぼしたものを対象にするでしょうね。まあ、上で私が書いた「白夜」や「日の出」、それに海や雲や星空は大仰な例としても、よくテレビで紹介される珍しい自然現象とか、ここでしか見られないものとか、そういったものを対象にしてもいいのではないかと思いました。(でもそういうのって、太陽や空が関わったものが多い..)

日本の音風景百選みたいに、珍しい潮騒や風の音など、音を登録してもいいでしょう。何かの本で読んだことですが、イエローストーンの湖では風のいたずらで奇妙な音楽が聞こえるとか。
あるいはその場所でしか見られない、劇的な風景もいいかも知れません。例えば富山湾・海の背後にそびえる高峰(世界3箇所でしか見られない景観らしいです)。
世界中には素晴らしい無形自然の財が無数にあるでしょうから、そういうのを集約したリストを作ってもいいのではないかということで、無形自然の財は私の希望です。

4 名前: 浦に〜と 投稿日: 2001/2/12(月) 11:26:17
さて、自然遺産と文化遺産の登録数の不均衡を改善する策に関して、私も少し書きます。

収斂さんが指摘されている(1)。
自然遺産の登録基準はハードルが高く、基準を下げる必要もあるかと思います。例えば登録基準(1)は主に地形や地質に関するものとなっていますが、実は条約履行のガイドラインには、次のような細かい指定が書かれています。「例えば氷河期時代の地形ならば、氷河の作用で生じる一連の形成物がなければならず、また、火山の場合には、全てもしくは殆どの岩石多様性・噴火パターンが見られないといけない」。(だから「ハワイ火山国立公園」はN(1)に該当してないんですね............)
また基準(3)には次のような指定があります。「例えば滝によって景観の価値が認められているような場所の場合、近接した集水池や、遺産の美的価値を維持するための連続した周辺区域を含まなくてはならない」。
滝だけでは登録できないというのは、何とも奇妙です。文化遺産なら一個の教会だけでも登録できるのに・・・。よって私は、自然遺産の基準を和らげる必要があると考えます。

また、厳密なまでに完全性を追求しなくてもいいと思います。文化遺産では、「復元は全部で無く、また正確な資料に基づくものは良い」と規定していて、程々に真正性に柔軟性を持たせているのです。自然遺産も、例えば、「ある程度完全性が損なわれた場合でも、その場所の地形的もしくは生物学的な、世界的に見て顕著な価値を示す特徴までは完全に損なわれておらず、所有国が回復・保全活動を行なっていると確認された場所は登録できる」という注釈を付けても良いのでは無いでしょうか。
以上のことから私は、文化遺産と自然遺産との登録基準を比べた場合、自然遺産の方が厳しく、必然的に数を少なくしているとも思えます。

なお基準の数が少ないことに関しては、「自然遺産は面積があって、その中に多様な自然を含む」という説明もあります。しかし90年代になってから、ガイドラインに「生物多様性」に関しての自然遺産登録の指定が加わったりするなど、時代に合わせて変動しています。


収斂さんが指摘されている(2)。
これは思い切った方策ですね。基準を変更するだけでは対応できなくなったり、地球環境の保全が今以上に急を要するようになった場合、こうなるかも知れません。ただ、時代の必然とは言え、本当に危機的状況になったからといっても、その瞬間に変われるものでもないでしょう。自然資源の使用なんてそう簡単に減らせませんし、気候変動枠組み条約の規定内容を見ても、先進国間で責任を擦り付け合っているような状態です。シベリアやアマゾンなどの大森林地帯の伐採は依然として減っていません。
いつか、自然遺産を多く登録しよう!という機運が、委員会内部ではなくて、締約国の中で起きた時、それは自然が本当に激減したことを意味するようになっているのかも知れません。

また収斂さんの「発展途上国の登録意欲をかき立てるほど世界自然遺産は魅力的ではない」というのも深刻に考えるべき事実だと思います。途上国にとって自然遺産を登録することは魅力的で無いばかりか、ともすれば国の経済発展を制約・抑止してしまうことにもつながりかねないからです。だから収斂さんは、あえて物で釣る(言葉が悪くてすみません)ような方策を考えたのでしょうけど、自然遺産の数の少なさと自然保護の問題はそう簡単に改善されるものでも無いと思います。