だれもが知る言葉となったが…
世界遺産とは一体なんなのだ?
「世界遺産」。この言葉は突如として現れ、またたく間に浸透していきました。いまではテレビや新聞・雑誌などで、だれもが知っている一般常識のごとく扱われています。しかし、そもそも世界遺産とは一体なんなのでしょうか。 |
■なぜ世界遺産が生まれた? 国や民族の枠にとらわれず、世界各地の自然や文化財を、人類共有の財産として守る。それが世界遺産条約の目的です。条約の正式名は「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」。1972年11月、第17回UNESCO総会で採択されました。この条約のもと作成される「世界遺産リスト」に名を連ねた場所、それが「世界遺産」というわけです。 |
■世界遺産条約が「画期的」といわれる理由は? 自然環境や文化財は、利用するのも保護するのも、所有国の自由です。世界遺産条約が画期的といわれるのは、これらを国際協力のもと守ろうとしているからです。 * * それから、自然遺産と文化遺産をともに保護していることも、世界遺産が画期的といわれる理由でしょう。それまでヨーロッパでは、自然と文化は相容れない存在というのが一般的な考え方でしたから。 |
世界遺産には「1カ国あたりの登録数にも、全体の登録数にも、上限は設けない」という規定があります。ところが2000年代になってから「上限を定めるべき」という声が聞かれるようになりました。最近では「1000件が限度」などと、具体的な数字まで出るようになっています。元UNESCO事務局長の松浦晃一郎氏が、著書『世界遺産 ユネスコ事務局長は訴える』(講談社、2008)で「私自身は、2000は確実に多過ぎるし、1500でも多過ぎるのではないかと感じている」と述べたことが、一つの示唆になっているらしいです。 * * 件数に関する話では、「世界遺産が多すぎて価値が薄れている」という意見も稀に聞きます。思うんですが、これって、まったく中身のない指摘ですよね。たとえば2011年7月現在、日本の世界遺産は16カ所ですが、ラムサール条約の登録湿地は倍以上の37カ所。しかも環境省は、14年までに10カ所を追加する予定です。増えるにつれて、ラムサール湿地の価値は低下していくのでしょうか?(ちなみに環境省内では「増えると価値が下がる」という認識があるらしいですが。なお、ラムサール湿地は世界全体で約1900あります)。 |
■登録抹消基準の適用の衝撃 話をもとに戻しまして、いま、世界遺産を取り巻く特に熱い話題といえば、登録抹消でしょう。もともと抹消手順の規定はありましたが、条約発効から35年目の2007年、ついに抹消第1号が生まれてしまいました。それがオマーンの自然遺産「アラビアオリックスの保護区」です。 * * 2年後の09年には、ドイツの文化遺産「ドレスデンのエルベ河岸」(06年登録)も抹消されました。理由は橋の建設。05年、渋滞解消のためエルベ川を渡る橋を架ける計画が出されると、景観が破壊されるのではないかと反対論が起きました。その後、計画をトンネル化することが求められましたが、ドレスデン市は橋のデザインを変更するに留めました。しかもその内容が世界遺産委員会の要求を満たすものではなかったため、登録抹消となってしまったのです。なお、ドレスデンでは建設決定前、「橋をとるか、世界遺産をとるか」市民アンケートを行いました。結果、6割の住民が「橋」を選択したとのことです。 |
■世界遺産はどこへ行く? 上限問題に、相次ぐ登録抹消。世界遺産はこの先、どこへ行こうとしているのでしょうか? * * アジアでは6カ国による「シルクロード」の登録計画も進行中です。(中国、インド、キルギス、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イラン)。中国は海上ルートとして泉州(福建省)と寧波(浙江省)も登録候補に入れているので、日本も参戦しない手はないでしょう。
作成 2010.03.06 |