用語集



世界遺産の関連用語をまとめました。
緑色の文字は単独項目ありです。


▼英数
20世紀の新都市 ガイドラインが定める3種類の「都市」の一つ。大都市よりも、将来の発展の可能性を残した小〜中規模都市の登録を優先すると規定されている。しかし歴史が浅く、普遍的な評価が難しいため、例外的なケースを除いて登録は認められない。
実際のところ登録例は「ブラジリア」(ブラジル)、「カラカスの大学都市」(ベネズエラ)、「ル・アーヴル」(フランス)くらいしかない。
4C クレディビリティ(信頼性のある)な世界遺産リスト作成」「確実なコンサベーション(保全)」「条約締結国のキャパシティビルディング(能力開発)推進」「コミュニケーションによる世界遺産の普及・支援拡大」の4項目。世界遺産条約の運営上の戦略目標として掲げられている。
5C 上記4Cに「コミュニティ(地域共同体)との連携」を加えたもの。2012〜22年の重点項目とされている。
DOCOMOMO(ドコモモ) 近代の建築・史跡・関連文化財の記録・保全を目指す国際学術組織(Documentation and Conservation of buildings, sites and neighborhoods of the Modern Movement)。世界遺産の登録可否の評価には携わっていないが、ICOMOSのアドバイザーとして近代建築の評価を行い、1992年には世界遺産にふさわしい近代建築のリストを作成。顕著で普遍的な価値のある4人の建築家(アールト、ル・コルビュジエ、ローエ、F・L・ライト)のほか、世界26の建造物をリストアップした。
日本からは「中銀(なかぎん)カプセルタワー」(東京、黒川紀章設計)、「国立代々木競技場」(東京、丹下健三設計)の2件があげられた。
IUCN 世界自然保護連合(International Union for Conservation of Nature and Natural Resources)。学術的価値の高い自然や動植物の保存をうながし、援助する国際NPO。世界遺産に推薦された自然遺産と一部の文化遺産文化的景観)事前調査・評価を行う。
ICCROM(イククロム) 文化財保存・修復の研究のための国際センター(International Centre for the Study of the Preservation and Restoration of Cultural Property)。文化財の保存・修復に携わる技術者を養成し、修復技術の向上のため援助を行う政府間機関。通称ローマセンター。
ICOMOS(イコモス) 国際記念物遺跡会議(International Council of Monuments and Sites)。遺跡や建造物の保護を目的とする国際NPO。世界遺産に推薦された文化遺産の事前調査・評価を行う。
ID番号 アイデンティフィケーション・ナンバー。全推薦物件に振られる識別番号だが、一般的な意味はほとんどない。にもかかわらず昭文社の『世界遺産』(2001年)ではすべての遺産をID番号つきで紹介したため、読者から問い合わせの電話が殺到したとか…。
世界遺産センターのウェブサイトでの登録遺産紹介では、各遺産のファイル名がID番号になっている。ID番号1番は「ガラパゴス諸島」(エクアドル)。
MAB(マブ)計画 人間と生物圏計画
OUV 顕著で普遍的な価値(outstanding universal value)
TICCIH(ティッチ) 国際産業遺産保存委員会(The International Comitee for the Conservation of the Industrial Heritage)。産業遺産の登録推薦に関して、ICOMOSのアドバイザーとなっている。
UNESCO(ユネスコ) 国際連合教育科学文化機関(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)。国連憲章により1945年設立。諸国間の文化的な協力で世界平和と安全保障に寄与することが目的。日本は51年に加盟。世界遺産条約は72年のUNESCO総会で採択された。
WCMC 世界自然保全モニタリングセンター(World Conservation Monitoring Centre)。IUCN、WWF(世界自然保護基金)、UNEP(国際連合環境計画)により設立され、生態系保全・環境評価などを行う。世界遺産関係では、自然遺産に関して概要シートを作成し、ウェブ上で公開している。
WHC 世界遺産センター(World Heritage Center)

▼あ行
遺産の道 1994年にスペインで開催された会合「わが文化遺産としての道」のなかで、「複数の国や地方にまたがり、様々な交流によって生じた文化的価値の各要素からなるもの」と定義された。
道として登録されている遺産には、「フランス側のサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路」(フランス)、「紀伊山地の聖地と巡礼路網」(日本)などがある。このほか、「ケブラダ・デ・ウマウアカ」(アルゼンチン)も遺産の道に該当する可能性が指摘されている。道は、ガイドラインが定める「4つの特殊な文化遺産」の一つである。
意匠された景観 文化的景観の第1カテゴリー。認定基準には次のように書かれている。
「人為的に意匠・創造されたことが明白な景観。宗教的目的や、何らかの建築物の美的価値を高めるためにつくられた庭園・公園景観を含むことが多い」
遺跡 世界遺産条約が定める3種類の文化遺産の一つ。siteの訳語であり、ものによっては「史跡」「場所」などと訳したほうがいいようなところもある。条約では以下のように定義されている。
「人間の作品、自然と人間との共同作品および考古学的遺跡を含む区域であって、歴史的・芸術的・民族学的・人類学的に顕著で普遍的な価値をもつもの」
インテグリティ 完全性
ウドゥヴァルディ ウドゥヴァルディ・ミクロスはハンガリー人生物学者。1975年に彼が作成した生物地理区は、自然遺産の地域バランスを考慮するうえで一つの指標となっている。この生物地理区を指すとき、単に「ウドゥヴァルディによると…」などといわれることもある。
越境遺産 国境をまたぎ、複数の国で共同登録または推薦された遺産のこと。こうした推薦はジョイント・ノミネーションと呼ばれる。2011年1月現在、25件あり、関係国が共同で登録推薦を進め、登録後の管理を行うことが推奨されている。
このため、「わが国の自然保護制度は、他国との協調について規定していない」との理由で、アルゼンチン「イグアス国立公園」がブラジル「イグアス国立公園」の追加を認めず、それぞれ別件登録となったように、「隣接しているが越境遺産ではない」という遺産も数例ある。
運河 ガイドラインが定める「4つの特殊な文化遺産」の一つ。1994年にカナダで開催された会合「ヘリテージ・キャナル」で、「人為的に設計された水路で、歴史的・技術的観点から価値をもつもの」と定義された。その性質上、産業遺産でありながら文化的景観としてもとらえられている。運河単体の登録例は、「ミディ運河」(フランス)、「中央運河」(ベルギー)、「リドー運河」(カナダ)、「ポントカサステ水道橋と運河」(連合王国)の4件。
欧州遺産 EU(欧州連合)加盟国による独自の自然遺産・文化遺産リスト。2013年に導入し、以後、西暦奇数年に選定する予定。第1回は各加盟国4カ所ずつ、第2回以降は2カ所ずつ推薦可能で、審議後に登録可否を決める。観光客の増加が主なねらい。
オーセンティシティ 真正性

▼か行
改称 世界遺産は登録後、しばしば遺産名が変更される。拡大登録による改称のほか、カナダの「アンソニー島」が「スカン・グアイ」に、南アフリカの「グレーター・セントルシア湿地公園」が「イシマンガリソ湿地公園」に変更されるなど、現地名に改称されるケースも。
2006年にはポーランド政府が、「アウシュヴィッツ強制収容所」を「アウシュヴィッツ=ビルケナウの旧ナチス・ドイツの強制・絶滅収容所」に改称する提案を出したが、認められなかった。(改称が不認可となった唯一の例)。
翌07年、「アウシュヴィッツ=ビルケナウ −ドイツ・ナチの強制・絶滅収容所(1940〜1945)−」という、異例のサブタイトルつきの遺産名に改称された。
ガイドライン 世界遺産条約の具体的な運営方法を規定する作業指針。2〜3年に一度くらいの頻度で更新され、登録基準推薦手順やスケジュール国際援助方法などを細かく規定している。
世界遺産条約には大まかな方針や理念が書かれているのみなので、ガイドラインを読まなくては、世界遺産の何たるかがいま一つよくわからない。長らく公式な日本語訳がなかったが、現在、文化庁のウェブサイトに、付属資料を除く本文の日本語訳が掲載されている。
アドレスはhttp://bunka.nii.ac.jp/jp/world/h_13.html
核心地域 コア・エリア
拡大登録 拡大登録には大きく分けて以下の2つがある。
(1)面積の拡大。「もともと1件の建物を登録していたところに、周囲の市街地を追加する」などというパターン。自然遺産では、保護区・国立公園の面積拡張にともなうものもある。
(2)価値の拡大。「はじめ自然遺産として登録後、文化遺産としての価値も追加して複合遺産とする」などというもの。
2000年代になると新規登録を抑制する傾向になったため、拡大登録が増えた。「昔だったら別件登録されていただろうに」と思える拡大登録の例として、中国「北京の故宮」への「瀋陽の故宮」の追加(04年)、英国「ハドリアヌスの城壁」へのドイツ「リーメス」の追加(05年)などがある。
確定的な危機 決定的な危機
火山 1996年に世界遺産委員会が「いったい何か所の火山を世界遺産に登録すれば気が済むのか?」と疑問を呈したように、IUCNも「すでに代表的な火山形式はひと通り世界遺産に登録されている」との見解を示している。
IUCNが2009年にテーマ研究「世界遺産の火山」を発表した当時、全世界遺産(文化遺産を含む)の6%にあたる57件が何らかの火山を含み、そのうち27件は活火山を含んでいた。
化石人類遺跡 400万年前から数十万年前にかけての化石人類出土地は、アフリカ、アジア、ヨーロッパを中心に10カ所ほどが登録されている。ICOMOSは1996年に化石人類遺跡に関する研究を行い、登録にあたり考慮するべき点を以下の6項目にまとめた。
1.人類史を解明する手がかりになること。
2.単一の出土地もしくは同一の地質学的地域から多くの化石が出土していること。
3.年代的に古く、時代が特定されていること。
4.将来の新発見が期待されること。
5.当時の環境を知る手がかりが見つかっていること。
6.オルドバイ渓谷(タンザニア)、ラ・シャペル・オ・サン(フランス)のように、人類史の研究上、重要な象徴的価値をもっていること。
化石生物出土地 化石生物の出土地は世界に無数にあるが、自然遺産に占める割合は少なく、(数え方にもよるが)現在10件ほどしか登録されていない。これは、化石は地表面に露出しているものがごく一部にすぎず、将来、新たな出土地が発見される可能性を考えると、顕著で普遍的な価値を評価しにくくなってしまうためだと考えられる。
なお、IUCNは1996年に、「世界遺産への推薦・登録にあたり考慮するべき10項目」を、以下のように定めた。
1.地質年代的にある程度の幅をもっているか?
2.出土する種の多様性はどの程度か?
3.研究のための模式地であるか? それとも同程度の化石出土地はほかにもあるか?
4.単一の出土地の推薦で十分か? それともシリアル・ノミネーションを考慮する必要があるか?
5.仮にその出土地がなかったとしたら、生命の歴史を理解するうえで、重大な損失となるか?(その出土地によって、科学的調査の重要な進展がもたらされたか?)
6.その出土地において、今後、何らかの新発見は期待できるか?
7.国際研究機関から「ほかに類のない場所」として高く注目されているか?
8.化石以外の自然的価値(景観、地形、植生など)はあるか?
9.化石の保存状態は良好か?
10.出土した化石は、現在または過去の生物分類群に関する情報を提供しているか?
ちなみに、過去3つの「恐竜足跡遺跡」が世界遺産に落選しているが、足跡だけで上記10問に明確に答えるのは難しい。
カルスト地形 地球上の代表的なカルスト地形は、すでに多くが世界遺産に登録されている。世界遺産リストの信頼性を維持するうえでも、IUCNは今後、カルスト地形の登録を制限する方針である。このような状況下で登録されるには、地球上のあらゆる類似地形との比較検討をしたうえで顕著で普遍的な価値を示さなくてはならない。
緩衝地帯 バッファ・ゾーン
完全性 integrityの訳。遺産の価値を維持する特徴をすべて含み、保全・維持していくのに十分な面積をもっていること。文化遺産自然遺産ともに必須の要件だが、とくに自然遺産の登録条件として厳格に定められている。具体的には、基準(viii)にもとづいて推薦される氷河関連の地形の場合、「氷河、雪原、氷食地形、氷堆石、初期の植物遷移などがすべて見られること」、(ix)にもとづいて推薦されるサンゴ礁の場合、「海草原、マングローブ林、サンゴ礁への土砂流入を防ぐ関連生態系を含むこと」、といった具合である。
関連する景観 文化的景観の第3カテゴリー。認定基準には次のように書かれている。
「ある文化に関する物的証拠や痕跡がごく少ないか、または皆無である場合、むしろ自然的要素によって、宗教的・芸術的・文化的な価値が認められることもある。それによって世界遺産としての価値が認められるもの」
危機リスト 世界遺産のうち、重大な危機に直面している場所のリスト。危機には「決定的(確定的)な危機」と「潜在的な危機」の2種類がある。前者は内戦・密猟・自然災害など直接的な危機、後者は保護法の形がい化や、環境変化を引き起こす恐れのある建設計画などがあるものを指す。一度危機リストに記載されても、状況が改善されれば解除される。2013年6月現在、44件が記載されている。
記載 inscriptionの訳。世界遺産リストに記載されることを指す。「登録」と訳されることのほうが多い。
世界遺産は条約締結国が自ら候補地を「推薦する」という方法をとっているため、世界遺産になることを「指定された」とは表現しない。(指定というと、UNESCOサイドからはたらきかけている印象をもつため)。この点、UNESCOはかなりこだわっているらしい。
技術協力 5種類ある国際援助の一つ。遺産保全のための専門家の派遣、遺産の保全・管理・公開に必要な機器の提供などの目的で資金援助がなされるもの。
記念碑 世界遺産条約が定める3種類の文化遺産の一つ。monumentの訳語で、「記念工作物」と訳されることもある。条約では以下のように定義されている。
「建築物、記念碑的意義をもつ彫刻・絵画、考古学的な特徴をもつ場所・構造物、金石文、洞窟住居、ならびにこれらの複合体であって、歴史的・芸術的・学術的に顕著で普遍的な価値をもつもの」
教育・広報・啓発のための援助 5種類ある国際援助の一つ。世界遺産条約への関心を高めたり、存在を周知させるための諸活動や会議の開催、教材・パンフレット・展示物・映像などの作成にかかる資金を援助するもの。
橋梁 文化遺産のなかには、登録エリアに橋梁をもつものが無数にあるが、橋梁主体で登録されているものは、「ポン・デュ・ガール」(フランス)、「ビスカヤ橋」(スペイン)、「メフメド・パシャ・ソコロヴィチ橋」(ボスニア・ヘルツェゴビナ)など数えるほど。1996年、ICOMOSTICCIHと共同研究を行い、世界の121の橋梁を「世界遺産登録の可能性がある橋梁」としてまとめた。
同リストには、日本からは「神橋」(栃木県)、「錦帯橋」(山口県)と、中国・チベットにも存在するものとして「伝統的なカンチレバー(片持ち梁)橋」の計3件がリストアップされた。神橋はその後、「日光の社寺」の一部として世界遺産に登録されている。なお、日本以外の橋梁では、「ロンドン・タワー・ブリッジ」(英国)、「シドニー・ハーバー・ブリッジ」(オーストラリア)、「ブルックリン橋」(米国)など、19〜20世紀のものが多くリストアップされている。
緊急援助 5種類ある国際援助の一つ。地盤沈下、広域の火災、爆発、洪水、戦争など深刻な、または突然の被害を受けた遺産(危機リスト記載物件を含む)の援助のため、保護措置の実施や緊急保護計画の策定を目的に、資金援助がなされるもの。
緊急登録 世界遺産になるには、推薦書の審査から現地調査を経て、世界遺産委員会で審議されなくてはならない。しかし、戦争や自然災害のため性急な保護が必要であれば、通常のスケジュールとは無関係に登録審議を受けることができる。
これまで緊急登録された場所には、「バーミアン渓谷の文化的景観と遺跡」「ジャームのミナレット」(アフガニスタン)、「バムとその文化的景観」(イラン)、「アッシュール」(イラク)などがある。
グローバル・ストラテジー 世界遺産リストの代表性と信頼性を維持するための戦略。ある自然や文化を代表しうる場所のみを登録し、雑多なものが混在していない(=信頼性がある)リスト作成を目指す。「グローバル・ストラテジー」自体は1994年の世界遺産委員会で提唱されたが、登録数が1000件に近づくにつれ、2000年以降とくに重視されている。
決定的な危機 2種類ある危機リストへの登録基準の一つ。「確定的な危機」とも。自然災害や人為的影響を直接受けているもので、以下のいずれかに該当すると危機リストに登録される。
文化遺産
a.材質の重大な損壊。
b.構造あるいは装飾的な特徴の重大な損壊。
c.建築あるいは都市計画の統一性の重大な損壊。
d.都市あるいは地方の空間、あるいは自然環境の重大な損壊。
e.歴史的な真正性の重大な喪失。
f.文化的な異議の大きな喪失。
自然遺産
a.法的に遺産保護が定められた根拠となった顕著で普遍的な価値をもつ種で、絶滅の危機に瀕している種やその他の種の個体数が、病気などの自然要因あるいは、密猟・密漁などの人為的要因などによって著しく低下している。
b.人間の定住、遺産の大部分が氾濫するような貯水池の建設、産業開発や、農薬や肥料の使用を含む農業の発展、大規模な公共事業、採掘、汚染、森林伐採、燃料材の採取などによって、遺産の自然美や学術的価値が重大な損壊をこうむっている。
c.境界や上流地域に人間が侵入することにより、遺産の完全性が脅かされる。
研修・研究援助 5種類ある国際援助の一つ。世界遺産の保全・管理を行う人員の研修や、登録遺産の科学的調査などのために資金援助がなされるもの。
建造物(群) 世界遺産条約が定める3種類の文化遺産の一つ。(group of) building(s)の訳語。条約では以下のように定義されている。
「独立した建造物の集合、または、連続した建造物の集合であって、その建築様式、均質性、景観内の位置のため、歴史的・芸術的・学術的に顕著で普遍的な価値をもつもの」
顕著で普遍的な価値 outstanding universal valueの訳語。地域や国家レベルではなく、世界レベルで重要な価値のこと。これが認められると世界遺産になれる。対語は国家的価値(national value)、地域的価値(regional value, local value)。
コア・エリア 世界遺産として直接登録されているところ。直訳すれば「核心地帯」だが、最近では「資産」と呼ばれることも多い。
国際援助 世界遺産基金を主な財源とするもので、優先度の高い順に緊急援助準備援助研修・研究援助技術協力教育・広報・啓発のための援助の5つがある。条約締結国は常時、援助の要請が可能で、世界遺産委員会は2年ごとに援助内容を決める。
古代都市 ガイドラインが定める3種類の「都市」の一つ。ガイドラインではtowns no longer inhabitedとなっていて、直訳すれば「もはや人が住んでいない都市」。
いわゆる都市遺跡のたぐいで、判明している都市の範囲のすべてを登録対象とすることが推奨されている。「古代都市」として登録する以上、一部の建造物のみを登録しても、消滅した都市の全体像を把握できないためである。
国境をまたぐ遺産 越境遺産

▼さ行
産業遺産 農林水産業や工業に関係する遺産。狭義には産業革命以降のものを指す。産業遺産の登録は1990年代から増え、2000年以降は毎年1件以上が登録されている。日本で唯一の産業遺産が「石見銀山遺跡とその文化的景観」。
暫定リスト 世界遺産条約を締結している国が世界遺産センターに提出するリストで、5〜10年以内に世界遺産へ登録推薦する予定の場所の一覧表。
2013年6月現在、日本の暫定リストには以下の12件が記載されている。すべて文化遺産候補。
●北海道・北東北・その他地域の縄文遺跡群
●平泉の拡大登録
●富岡製糸場と絹産業遺産群
●国立西洋美術館本館
●古都鎌倉の社寺とその他の構造物
●佐渡金銀山
●彦根城
●飛鳥・藤原
●百舌鳥(もず)古墳群と古市(ふるいち)古墳群
●九州・山口の近代化産業遺産群
●宗像(むなかた)・沖ノ島と関連遺産群
●長崎の教会群とキリスト教遺跡群
資産 コア・エリア
自然遺産

世界遺産条約では、「保存上、鑑賞上、研究上重要な自然景観や生物棲息地」と定義されている。2013年5月現在188件で、全世界遺産の約20%。

辞退 withdrawnの訳。文化庁は「撤回」と訳している。条約締結国は、遺産を登録推薦したあとで、任意の段階で推薦を辞退(撤回)することができる。ICOMOSIUCNの事前審査で「不登録」を勧告された場合、辞退するケースが多い。辞退した遺産は、後年の再推薦が可能である。
諮問機関 世界遺産候補地の評価、登録地の管理状況のチェックなどを行う。ICCROMICOMOSIUCNの3つがある。
重要野鳥生息地 バードライフ・インターナショナル
準備援助 5種類ある国際援助の一つ。暫定リストの作成、推薦書の作成、研修・研究援助要請書の作成などのため、資金援助がなされるもの。
ジョイント・ノミネーション 越境遺産
上限 世界遺産は、1国あたりの登録数も、全体の登録数も無制限である。しかし、1998年にイタリアが一度に10件を登録したり、2000年には全体で61件が登録されるなど、90年代後半から登録数が急増したため、00年の委員会にて、「1回の委員会で審議する物件は、各国1件ずつとする」という上限が設けられた。
その後、上限設定はたびたび改訂され、12年度の推薦分からは「1カ国の推薦件数は1件まで」となっている。
情報照会 登録推薦を受けた場所の評価のうち、「記載」に次ぎ上から2番目。追加情報の提出を求めたうえで次回以降の審議に回される。referの訳。
シリアル・プロパティ(シリアル・ノミネーション) 地理的に離れた場所を一括した遺産。一括推薦することを「シリアル・ノミネーション」という。シリアルとして認められるには、以下の要件のいずれかを満たさなくてはならない。
(1)同じ文化圏に属する。
(2)特定の地理区を特徴づけている。
(3)地形形成史・生物地理区・生態系のいずれかが共通している。
フランスや日本など6か国で推薦した「ル・コルビュジエの建築と都市計画」では、上記要件を満たしているか——とくに「1個人の建築作品」という見方が「同じ文化圏」といえるのか——ということに対して疑問の声があがり、登録が先送りになっている。
進化し続ける景観 文化的景観の第2カテゴリー。「有機的に進化し続ける景観」とも。認定基準にはこう書かれている。
「初期の社会・経済・行政・宗教に不可欠とされたため生じたものや、自然との対話によって変化し続けてきた景観。その姿や特徴をみれば、景観の進化過程を知ることができる。この『進化する景観』には以下の2種類がある。
一つは『残存の(旧時代の)景観』で、唐突に、または時代を超越して、それまでの進化の過程が終結しているもの。しかしその重要で卓越した特徴は、物的証拠として目に見えるものではない。
もう一つは『継続した景観』で、伝統生活と密接にかかわり、いまなお進化の途中にあるものとして、社会的役割をもっている」
真正性 authenticityの訳。文化遺産の登録の場合、デザイン、建材、工法、立地がオリジナルであることが要求される。構造物がない文化的景観などにおいても、景観の特徴や構成要素にオーセンティシティが求められる。
人類の口承および無形遺産の傑作の宣言 2008年に第1回登録があった無形文化遺産の前身。世界的に重要な無形遺産(音楽・舞踊・言語・芸能・祭礼など)をリストアップする制度で、1999年に規約を制定。01・03・05年の3回にわたり合計90件が宣言(登録)された。08年、これら90件はすべて無形文化遺産リストに移行された。
推薦 条約締結国は、自国内の自然遺産文化遺産を世界遺産に登録推薦できる。推薦書は世界遺産センターが常時受け付けているが、毎年2月1日までに受理したぶんを、翌年度の審査にまわしている。
推薦書には定型フォーマットがあり、推薦範囲、推薦内容の詳細、世界遺産としての価値の説明、保全状況、保護体制、モニタリング体制、視聴覚資料(写真・スライド・映像)、管理機関、代表者署名の9項目が必須となっている。
スケジュール 世界遺産への登録スケジュールは以下のとおり。
(1)条約締結国が推薦書を世界遺産センターに提出。
(2)関連する諮問機関が推薦書の内容を確認。不備があれば提出国に通知し、同年度内の審査は行わない(3月1日までに行う)。
(3)諮問機関は3月から翌年5月にかけて推薦地を調査(現地調査を含む)。翌年1月31日までであれば、諮問機関は推薦国に対し、追加情報の提出を求めることができる。追加情報の提出期日は3月31日。
(4)諮問機関は世界遺産委員会の開催6週前までに、審査結果と勧告内容を世界遺産センターと推薦国に提出する。推薦国は、審査結果に異議があれば、委員会の2日前までに申し立てることができる。
(5)世界遺産委員会(6〜7月に開催)にて最終的な審議・議決を行う。
生物圏保護区 人間と生物圏計画にもとづき設定される保護区。別名「ユネスコ・エコパーク」。生物多様性を保護するだけでなく、持続可能な資源利用も認めているのが特徴で、核心地区、緩衝地帯、移行地区の3つのゾーンで構成される。2013年6月現在、世界に621カ所があり、世界遺産との二重指定を受けている場所も少なくない。
日本は「志賀高原」「白山」「大台ケ原・大峯山」「屋久島」「綾」の5カ所。このほか「南アルプス」が登録を目指している。
生物多様性 陸上、海域、水中など、ある場所での生態系や生物種間の生態学的複合体。1992年の生物多様性条約の採択後、自然遺産の登録時には、そこが生物多様性の保護上重要であるかが重要な評価ポイントの一つとなっている。
生物地理区 生物分布にもとづく地球上の地理区分。研究者により異なる区分が提唱されているが、世界遺産の場合、IUCNが1975年に作成した「ウドゥヴァルディの地理区分」が使われる。ウドゥヴァルディの区分は生物相にもとづき、地球上に193カ所ある。
日本は、北海道(道南を除く)が「満州・日本型混交林」、道南・東北が「東アジア型夏緑樹林」、関東〜九州が「日本型常緑樹林」、南西諸島が「南西諸島」、小笠原諸島と大東諸島が「ミクロネシア」に所属している。
世界遺産委員会 世界遺産条約締結国から選ばれた21の委員国と、数十か国からのオブザーバーや専門家によって構成される委員会。毎年1回会合を開き、主に以下の4つの役割をになう。
(1)顕著で普遍的な価値をもつ文化・自然を世界遺産リストに登録する。
(2)各国と連携して、登録後の世界遺産の保全状態のモニタリングを行う。
(3)緊急の保護が必要とされる世界遺産を危機リストに記載する。
(4)条約締結国を支援し、世界遺産基金の有効活用を図る。
世界遺産基金 世界遺産の保護を目的とする基金。世界遺産委員会が運営し、遺産の保全・修復費用のほか、登録推薦された物件の調査費用、登録後のモニタリング費用、遺産保護の専門家育成費用など、さまざまな国際援助にあてられる。
世界遺産種 絶滅の危機にある生物種を、世界遺産にならい「世界遺産種」として保護することを目指すもので、2000年に国際霊長類学会と日本霊長類学会がUNESCOに提案した。提案では素案として、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンの4種の類人猿の保護を求めていた。03年には「UNESCOが導入を検討している」とする報道もあったが、その後、世界遺産種に関する情報は見られない。
世界遺産条約 正式名称は「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」。価値ある文化遺産・自然遺産を「世界遺産」として登録すること、条約締結国の拠出による世界遺産基金を設け、遺産の保護にあてることなどを規定。1972年のUNESCO総会で採択された。UNESCOは条約批准を全世界に呼びかけ、文化・自然の保護を強く訴えている。
世界遺産条約履行のためのガイドライン ガイドライン
世界遺産センター 世界遺産委員会の運営、締結国への登録準備のアドバイス、情報公開・世界遺産のデータベース化などを行う。公式ウェブサイトでは全世界遺産の解説のほか、過去の世界遺産委員会の議事録も公開され、世界遺産に関するほぼすべての情報を得ることができる。
世界遺産リスト 世界遺産の一覧表。「世界遺産になる」ということはすなわち、世界遺産リストに記載されるということである。2013年5月現在の記載件数は962件。
世界ジオパーク

「地形・地質の世界遺産」ともいわれる。UNESCOの支援で2004年に設立された「世界ジオパークネットワーク」が認定。特徴的な地形・地質が見られ、観光や教育に活用されていることなども認定条件で、13年6月現在の登録数は世界で92カ所。そのほとんどがヨーロッパ、東アジア、東南アジアにあり、それ以外の大陸では北米に1カ所、南米に1カ所のみ
日本の認定地は「洞爺湖有珠山」「糸魚川」「島原半島」「山陰海岸」「室戸」の5カ所。

世界農業遺産 正式には世界重要農業遺産システム。国連食料農業機関(FAO)が2002年より選定。地域住民と周辺環境の共存により、生物多様性を維持している農業地域を登録し、13年6月現在、世界で25カ所が登録されている。11年、新潟県の「トキの餌場」、石川県の「能登の里山里海」が日本からの登録第一号となり、注目を集めた。13年には静岡県の「茶畑」、大分県の「国東(くにさき)半島」、熊本県の「阿蘇」が登録された。
世界の記憶 「世界記憶(記録)遺産」とも。これまで数多くの戦禍を受けて貴重な記録資料が失われてきたことをかんがみ、未来に伝える価値の高い文書・碑文・音声・映像などをデジタルデータ化する事業。登録されるとUNESCOより支援金を受けられる。1997年に第1回登録があり、以降、西暦奇数年に登録審査が行われている。個人や団体が登録推薦できるのも大きな特徴。
2011年5月、福岡県田川市と福岡県立大学が推薦した「山本作兵衛コレクション」が登録され、国内の登録第一号となった。世界遺産、無形文化遺産とともにUNESCO三大遺産事業に数えられる。
潜在的な危機 2種類ある危機リストへの登録基準の一つ。直接的な脅威はないが、遺産の価値を低下しかねない懸念事項を抱えているもの。以下のいずれかに該当すると危機リストに登録される。
文化遺産
a.保護の度合いを弱めるような遺産の法的地位の変化。
b.保全製作の欠如。
c.地域事業計画による脅威的な影響。
d.市街化計画による脅威的な影響。
e.武力紛争の勃発あるいはその恐れ。
f.地質、気象、その他の環境的な要因による漸進的変化。
自然遺産
a.指定地域の法的な保護状態の変化。
b.遺産内か、あるいは遺産に影響が及ぶような場所における再移住計画あるいは開発事業。
c.武力紛争の勃発あるいはその恐れ。
d.管理計画が欠如しているか、不適切か、あるいは十分に実施されていない。

▼た行
締結国 世界遺産条約を批准している締結国は、2013年6月現在190カ国。最初の締結国はアメリカ合衆国(1973年12月7日)で、以後エジプト、イラク、ブルガリア、スーダンと続いた。日本は1992年6月30日、125番目の締結国となった。
鉄道 1990年登録の「サンクトペテルブルク歴史地区と記念物群」(ロシア)には、サンクトペテルブルク〜パヴロフスク間の鉄道が構成資産に含まれているが、鉄道主体の世界遺産第一号は、98年の「ゼンメリング鉄道」(オーストリア)だった。その後、2011年までに、「インドの山岳鉄道群」(インド)、「アンドラーシ通りの地下鉄」(ハンガリー、「ブダペストのドナウ河岸とブダ城地区」への追加登録)、「レーティッシュ鉄道」(スイス/イタリア)が登録されている。
ICOMOSが99年に発表した調査研究「世界遺産と鉄道」では、日本の新幹線を含む8件が紹介された。この研究のなかで、新幹線について、「近代における世界的な技術転換点の一つの基準をなし、TGV(フランス)、ICE(ドイツ)、ユーロスター(英国/フランス/べルギー)などの高速鉄道の建設時には、新幹線の基本概念が参考とされた。また、日本国内では、敗戦後の暗い時代背景のなかで登場したことから象徴的な意味ももつ。20世紀末を迎えた現在、新幹線は高速度陸上輸送の技術における国際協力の象徴にもなっている」と言及されている。
新幹線以外で事例報告された7件は以下のとおり。
●モスクワ地下鉄(ロシア)
●ゼンメリング鉄道(オーストリア) ※98年世界遺産登録
●バルティモア・アンド・オハイオ鉄道(米国)
●グレイト・ジグザグ鉄道(オーストラリア)
●ダージリン・ヒマラヤ鉄道(インド) ※99年世界遺産登録
●リヴァプール・アンド・マンチェスター鉄道(英国)
●グレート・ウエスタン鉄道(英国)
動産 容易に移動できるもののこと。絵画、彫刻、陶芸、書籍、動物など。世界遺産の登録条件に「不動産であること」という一文があるので、動産は登録できない。ただし地面にすえ付けられていればOKということらしく、彫刻の「自由の女神像」(米国)や、石碑の「イェリングのルーン文字碑」(デンマーク)などは世界遺産になっている。
(ルーン石碑はともかく、「自由の女神像」はちょっとした建築物より動かすのが難しそうなので、やっぱり「不動産」の範疇なのかもしれない……)
登録 記載
登録延期 登録推薦を受けた場所の評価のうち、「記載」「情報照会」に次ぎ上から3番目。推薦書に不備があり、より綿密な調査や推薦書の本質的な改定が必要なもの。推薦書を再提出しなくてはならず、再審査は最短で2年後になる。defferの訳。
登録基準 以下の10項目があり、一つ以上を満たせば世界遺産に登録される。(i)〜(vi)に該当するものが文化遺産、(vii)〜(ix)が自然遺産である。
(i) 人間の創造的才能を表す傑作であること。
(ii) ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に大きな影響を与えた人間的価値の交流を示していること。
(iii) 現存する、あるいはすでに消滅してしまった文化的伝統や文明に関する独特な、あるいは稀な証拠を示していること。
(iv) 人類の歴史の重要な段階を物語る建築様式、あるいは建築的または技術的な集合体、あるいは景観に関するすぐれた見本であること。
(v) ある文化(または複数の文化)を特徴づけるような人類の伝統的集落や土地利用、海洋利用の顕著な見本であり、特に抗しきれない歴史の流れによってその存続が危うくなっているもの。
(vi) 顕著で普遍的な価値を持つ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連があること(委員会は、ほかの登録基準にも該当するのであれば、好んでこの基準を適用できるものとする)。
(vii) ひときわすぐれた自然美および美的要素をもった自然現象、あるいは地域を含むこと。
(viii) 生命進化の記録、地形形成における重要な進行しつつある地質学的過程、あるいは重要な地形学的、もしくは自然地理学的要素を含む、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な例であること。
(ix) 陸上、淡水域、沿岸・海洋生態系、動・植物群集の進化や発展において、重要な進行しつつある生態学的・生物学的過程を代表する顕著な例であること。
(x) 学術上、あるいは保全上の観点から見て、顕著で普遍的な価値をもつ、絶滅のおそれのある種を含む、野生状態における生物多様性の保全にとって、最も重要な自然の生息・生育地を含むこと。
登録の条件 世界遺産への登録条件は大きく4つに分けて考えられる。
(1)世界遺産条約で定義されている文化遺産自然遺産のいずれかであること。(たとえば、動産や動物は登録できない)。
(2)登録基準に該当し、顕著で普遍的な価値が認められること。
(3)真正性完全性が認められること。
(4)保護体制が確立され、恒久的な維持・管理が約束されていること。(たとえば、法律で文化財保護されているなど)。
ただし、これらの条件をクリアしても、すでに同じ地域から同種の遺産が登録されているなどして、登録されないこともある。
登録範囲の軽微な変更 登録範囲や遺産価値に重大な変更をおよぼさない、わずかな程度で行われる境界線の変更のこと。通常の登録推薦とは異なり、簡易的な申請のみで可能だが、「変更内容が大きい」と判断された場合、拡大登録として正規の推薦書を作成・提出しなくてはならない。
2008年にはウクライナが「キエフの聖ソフィア大聖堂とペチェールスカヤ大修道院」に、聖キリル教会と聖アンドリュー教会を追加する申請を「軽微な変更」として提出したが、拡大登録としての推薦が必要であると判断された。
都市 ガイドラインが定める「4つの特殊な文化遺産」の一つ。世界遺産に登録されうる都市には、古代都市(もはや人が住んでいない都市)、歴史都市(人が住んでいる歴史都市)、20世紀の新都市の3種類がある。
毒入りの贈りもの

世界遺産はICOMOSIUCNの事前評価にしたがい、世界遺産委員会で登録の可否が決定される。2000年代後半になると、事前評価が低かったにもかかわらず、委員会の席で逆転登録される例が増えた。事前評価が低い物件には、保護管理策が不十分なものもあり、更新国に多い。委員会では地域間アンバランスの解消のため逆転登録を容認しているのだが、安易な登録は所有国に能力以上の負担を与える、すなわち、「毒入りの贈りもの」をしているようなものだと、2011年の委員会でIUCNが警告した。


▼な行
二重登録

世界遺産のなかには、1つの建物ないし空間が、2つの世界遺産として認定を受けている場所がある。おそらく最初の二重登録は1993年、スペインで「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」が登録されたときに生じた。当時スペインでは、巡礼路上の「ブルゴス大聖堂」(84年登録)と「サンティアゴ・デ・コンポステーラ旧市街」(85年登録)を世界遺産に登録していたため、「すべて巡礼路として一括登録するべきでは」との意見があがった。しかしスペイン政府は、「それぞれの遺産の独自性を尊重し、別件登録としてほしい」と求め、認められた経緯がある。
このほかの二重登録地には、以下のようなものがある。

●モンサンミシェル(フランス)…1979年に「モンサンミシェルとその湾」として登録。98年、「サンティアゴ・デ・コンポステーラのフランス側の巡礼路」の構成資産として再登録された。フランス側の巡礼路関連では、ほかにも4カ所が二重登録となっている(アミアン大聖堂、ブールジュ大聖堂、アルルの聖オノラ教会、ピレネー山脈ガヴァルニーのサン・ジャン・バプティスタ教会)。
●ベームスター干拓地(オランダ)…99年に登録された「ベームスター干拓地」のなかを、96年に登録された「アムステルダムの防塞線」が横切っている。
●パサルガダエ(イラン)…2004年に登録された「パサルガダエ」の都城遺跡の中央部分が、11年、「ペルシア庭園」の構成資産として再登録された。

日本

1992年6月30日、125番目の締結国として世界遺産条約を批准。現在17件の世界遺産を持っている(文化遺産13件、自然遺産4件)。93〜99年、2003〜07年に世界遺産委員会の委員国を務め、98年(第22回世界遺産委員会・京都会議)には議長国となった。

日本ユネスコ協会連盟 民間からUNESCOの活動を推進するNGO組織。1948年に設立。95年より『世界遺産年報』を刊行している。
人間と生物圏計画 UNESCOが1971年に発足させた計画。人類と環境の接点で生じる衝突・問題を解決するための研究や人材育成、生物圏保護区の登録などを目的とする国際協力プログラム。
ヌビア遺跡救済キャンペーン 1960年代、ナイル川のアスワンハイ・ダム建設計画により、エジプト南部からスーダン北部にかけての古代遺跡が水没することが判明。これを受け両国からの要請でUNESCOが行った移築プロジェクトが、ヌビア遺跡救済キャンペーンである。劣化が激しかった一部の遺跡を除き、およそ20年をかけて、16カ所の遺跡を高台に移築した。このキャンペーンの成功を受け、「世界の国々が協力して文化財を保護しよう」とする世界遺産条約が生まれた。なお、移築対象のうちエジプト側の遺跡群が、1979年に世界遺産に登録された。

▼は行
橋梁(きょうりょう)
バッファ・ゾーン 世界遺産登録地(コア・エリア)の周囲に設けられ、その保護強化を目的とするところ。世界遺産への登録推薦時には、十分なバッファ・ゾーンを設けることが求められている。設定が義務づけられているわけではないが、設定しない場合、その理由を示さなくてはならない。2005年ごろから、過去の登録地にバッファ・ゾーンを追加設定するケースが増えている。
バードライフ・インターナショナル 世界の野鳥保護を目指す国際NGO。世界各地に「重要野鳥生息地」(IBA:Important Bird Areas)を認定しており、自然遺産の登録にあたり、同認定地である点が評価されるケースがある。
2010年現在、日本には167カ所の重要野鳥生息地がある。
バランス 世界遺産では「文化遺産自然遺産の登録数の合理的なバランス」が求められている。現実には文化遺産のほうが4倍多く登録され、30年来の懸案事項となっている。
比較検討 登録推薦にあたり、その場所が既存の世界遺産にない特徴をそなえているか、また、似た特徴をもつ場所のなかで最もすぐれた場所であるかを分析すること。説得力のある比較検討がないまま推薦しても登録できない。
人が住んでいる歴史都市 歴史都市
不記載 登録推薦を受けた場所の評価のうち、「記載」「情報照会」「登録延期」に次ぐ4番目(最下位)。登録にふさわしくないものと評価され、例外的な場合を除き再推薦は不可。not inscriptionの訳。
復元 復元された建造物も価値が認められれば登録できる。ただし、史実に忠実な復元であり、かつ、全体が復元でないことが条件となる。
複合遺産 自然遺産文化遺産の登録基準を満たして登録されたもの。2013年5月現在29件で、全世界遺産の約3%。
不動産 世界遺産の登録条件の一つが「不動産」で、「移動が容易ではないもの」と定義されている。1979年にはイタリア政府が「レオナルド・ダ・ヴィンチ画『最後の晩餐』」を推薦するも、「動産の可能性が高い」として登録が先送りになり、80年に壁画のある教会全体が登録された経緯がある。(…しかし、壁画は「移動が容易ではないもの」に該当すると思うのだが)
負の遺産 戦争や人権侵害など、歴史上マイナスの意味をもつ遺産。世界遺産条約ガイドラインには定義がないため、何をもって負の遺産とするかは人によって意見が分かれる。主なものは以下のとおり。
●ゴレ島(セネガル)…15〜19世紀、アフリカ沿岸で最大の奴隷交易拠点だった島。
●アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制・絶滅収容所(ポーランド)…ナチスが建設・運営した1930〜40年代の強制収容所。
●原爆ドーム(広島平和記念碑)(日本)…原子爆弾の脅威を直接伝える世界で唯一の廃墟。
●ロベン島(南アフリカ)…ハンセン病患者や、20世紀のアパルトヘイト政策に反対した活動家を収容した施設。
●ザンジバル石造都市(タンザニア)…東アフリカを代表する奴隷交易港。
●バーミアン渓谷の文化的景観と遺跡(アフガニスタン)…重要な巡礼地だったためたびたび攻撃され、2001年には大仏が破壊された。
●オーストラリアの囚人遺跡群(オーストラリア)…英国植民時代に行われた大規模な流刑の証拠。
●ビキニ環礁(マーシャル諸島)…1946〜58年に米国が計67回の核実験を行った。
文化遺産 世界遺産条約では、「歴史的・芸術的・研究的に重要な建造物記念碑遺跡」と定義されている。平たくいえば「文化財」。2013年5月現在745件で、全世界遺産の約77%。
文化的景観

ガイドラインが定める「4つの特殊な文化遺産」の一つ。自然景観を取りこんだ庭園などを指す「意匠された景観」、自然と一体化し、絶えず変化する耕作地などの「進化し続ける景観」、聖山や神話・伝説の舞台など「関連する景観」の3種類がある。よく「人と自然の共同作品」といわれる。

保護体制 法的または慣習的な保護が確約されていないと、世界遺産に登録することはできない。余談だが、大阪府堺市周辺の前方後円墳は、国指定史跡ではないが、宮内庁の御陵として慣習的に守られてきたのだから、いまさら文化財保護法のもとで管理する必要はないと思うのだが。やっぱり、より確実な保護制度がある場合、その制度を適用しなくてはいけないのだろうか?

▼ま行
抹消 世界遺産リストに登録されたものも、あまりにひどい状況になると登録を抹消される。抹消基準は以下の2つ。
a) 登録を決定づけた遺産の重要な特徴が失われ、その質が低落した場合。
b) その遺産に本来備わっている特徴が、登録推薦の段階ですでに人為的な脅威を受けていて、登録に際して示された是正策が約束された期間内に行われなかった場合。
これまで抹消された遺産は、「アラビアオリックスの保護区」(オマーン)、「ドレスデンのエルベ川流域」(ドイツ)の2例。このほか、「スレバルナ自然保護区」(ブルガリア)、「ガランバ国立公園」(コンゴ民主共和国)、「ケルン大聖堂」(ドイツ)でも抹消について議論されたことがある。
遺産の道
未来遺産プロジェクト 日本ユネスコ協会連盟が展開する運動。7都道県から10プロジェクトを選出し、未来へ残したい文化・自然遺産の保存・活用を図る。(財)知床財団による「人と自然の共生計画」、(財)阿蘇グリーンストックによる「阿蘇千年の草原の保存計画」など。
無形文化遺産保護条約 2003年のUNESCO総会で採択。世界の伝統芸能・祭礼・工芸・技能・習慣の保護が目的。「緊急保護リスト」と「代表リスト」の2種類のリストを作成する。01年以降の「人類の口承および無形遺産の傑作の宣言」も吸収した。世界遺産、世界の記憶とともにUNESCO三大遺産事業に数えられる。
モニタリング 登録後の遺産管理状況の監視のこと。従来は個人やNPOからの報告を受けて世界遺産委員会で審議され、必要であれば危機リストに記載していた。2000年より、毎年の委員会にて、地域別に全遺産のモニタリング状況を順次報告することが義務化された。
もはや人が住んでいない都市 古代都市

▼や・ら・わ行
唯一性 顕著で普遍的な価値の一解釈で、類例のない特徴をもっていることをいう。たとえば屋久島は「花崗岩地形のため杉の生長が遅れることで形成された樹齢1000年以上の杉の森」、厳島神社は「社殿・海・山がつくり出す景観の調和」などが唯一性である。
有機的に進化し続ける景観 進化し続ける景観
ユネスコ・エコパーク 生物圏保護区
ユネスコ村 埼玉県所沢市にあったテーマパーク。日本のUNESCO加盟を記念し、1951年にオープン。風車(オランダ)、胡洞(フートン:北京の路地)の家(中国)、シェイクスピア生家(英国)、マオリの集会所(ニュージーランド)などなど、45カ国の民家・民間建築のレプリカが、木立の間に間に点在していた。このうち4棟は途中で何らかの理由で解体・撤去されている。1990年に閉園。
ちなみに、弊サイト管理人が無類の集落&民家遺産好きになったのは、幼き日にユネスコ村に通い詰めたせいではないかと思っている…。
歴史地区(historic areas) 歴史地区(historic centres)と同様、きわめて重要な歴史建築を多数含む場合に限り登録可能。都市構造のすべてを表現しえない一部の建造物のみで推薦しても、登録できない。
歴史地区(historic centres) 古代から変わらぬ町域を維持し、周辺地域が開発された現在もエアポケットとして保存され、その都市の歴史のすべてを網羅している地区のこと。きわめて重要な歴史建築を多数含む場合に限り、登録できる。
歴史都市 ガイドラインが定める3種類の「都市」の一つ。ガイドラインではinhabited historic townsとなっていて、直訳すれば「人が住んでいる歴史都市」。登録推薦するには建築的な価値を示さなくてはならず、歴史的な象徴性によって登録基準(vi)のもとでのみ評価するべきではないとされている。
この「歴史都市」はさらに、「周辺地域とともに良好に保存され、特定の時代または文化を代表する都市」「その都市の発展の歴史を物語る、線状に展開する都市」「歴史地区」「消滅した都市の存在を教えてくれる断片的な建造物など」の4種類に分けられる。
レッドリスト IUCNが作成する、絶滅の危機にある動植物のリスト。危機の程度によってランクを設け、深刻なものから順に絶滅寸前種(CR)、絶滅危惧種(EN)、危急種(VU)、近危急種(NT)、軽度懸念種(LC)となっている。このうち前3者が「絶滅危機」としてとくに心配されるもので、世界遺産の登録基準(x)では、CR、EN、VUの生息地であることが考慮される。2010年12月現在、「絶滅危機」として1万8000種以上があげられている。
なお、上記以外のランクとして、絶滅種(EX)、野生絶滅種(EW)、情報不足種(DD)などがある。
日本の生物で「絶滅危機」の指定を受けているものは、CRがオガサワラオオコウモリ、イトウ(魚)など、ENがトキ、セマルハコガメ、アマミノクロウサギなど、VUがジュゴン、ヒメバラモミ(植物)など。
連続性のある資産 シリアル・プロパティ
ローマセンター ICCROM

主な参考資料
Glossary of World Heritage Terms(
http://whc.unesco.org/archive/gloss96.htm
世界遺産条約履行のための作業指針・日本語訳(
http://bunka.nii.ac.jp/jp/world/h_13.html
(財)地球・人間環境フォーラム->用語解説(
http://www.gef.or.jp/forest/org.html
『ユネスコ世界遺産年報』1995〜(日本ユネスコ協会連盟)
『世界遺産 ユネスコ事務局長は訴える』松浦晃一郎著、講談社、2008




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