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Kは,これまでの小学校生活で算数テストの最高得点は70点。
算数は「大の苦手」「大きらい」と言い張る子供であった。
5年生になった4月当初は,書く文字も雑,学習道具も乱雑,じっとしていられず分からなくなると机にうつ伏せて,あげくの果てに「どうせできっこない!」「俺なんかいくらやってもできないんだ!」と吐き捨てるように言っては泣きわめく有り様であった。
この子をなんとかしてあげたい,どうにかして「分かった!」という声を聞きたい,自分でもやればできるんだという実感を味わわせたい,そう切に願った。
そこで,今年度こそ徹底的に我流を排し,原理原則を忠実に学び,向山風算数から向山型算数に取り組んでみようと心に決めた。
くどくどした説明はやめ,言葉をこれでもかと削る。
基本型を見抜くべく,教科書を幾度も見つめ直し予習して授業に臨む。
個別指導も10秒以下にして,ノート指導も徹底する。
そして,褒めた。とにかく褒めた。
揺るぎの無いこの繰り返し。この繰り返しを毎時間積み上げるように努めた。
すると,徐々にKに変化が見られるようになった。
あの嘆き,あきらめの呟きが消えてきた。

(4月のノート)
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ノート書き直しの宣告にも,何度でも挑戦し書いて見せにくる。
ミニ定規と赤鉛筆をきちんと使い,書く量も見違えるほど増えた。
とうとう6月でノート3冊目に突入。月一冊のペースだ。彼にとってはすごいことだ。
「早い子は(賢い!)」「賢い子は(早い!)」という有名なせりふは,もう今では彼の口癖になっちゃっている。
私は,健気でひたむきな彼の取り組みをいとおしいと思うようになった。
結果,偶然かも知れないが,彼は生まれて初めて「小数のかけ算」で85点をとった。
家庭訪問した際,母親と本人を前にして私は言った。
「よかったですね。85点ってすごいことなんですよ。人生始まって以来の快挙ですよ。」
母親は私の目の前で,はばかることなくKを抱きしめた。このときのKのとびっきりの笑顔を私は忘れられない。
「子供の事実でのみ語れ」「腹の底からの手ごたえ」とは,こういうことを言うのかと,初めて感じ,この親子の姿を見て胸が熱くなった。
我がクラスでの向山型算数,いや向山風算数の実践が,僅少ながらしかし確かな一歩を踏み出した瞬間を,私は親子と一緒に共有することができたのである。

(11月のノート) (#2につづく)
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