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        短文の授業〜俳句②

                            

 

1.はじめに

 短文(俳句)で、分析批評の授業を試みる。

 向山氏の授業実践の中でも有名な実践の一つと数えられる追試である。

 ここでは、「言葉の検討を促す発問」がカギになる。

 「分析批評」の授業は、言葉を根拠にした論争ある授業なのである。

 以前、6年生を対象にこの教材を扱い授業したことがあるが、今回は、3年生を対象に授業化してみることにした。3年生でも可能なのだろうか?教材は、以下の夏目漱石作の俳句である。


  それがしは 案山子にて候 雀殿
 

2.授業の流れ


指示1 先生と同じスピードで、ていねいに視写しなさい。
 

 この指示の後、下位の子供のレベルに合わせたスピードで、教材の俳句と作者名を板書する。俳句については、以前一度授業したことがあるが、念のため5・7・5に分かち書きする。全員「書きました。」の報告の後、音読に入る。


指示2 全員起立。どんな読み方でもいいから(でたらめでもいいから)この俳句を声に出して2回読みなさい。
 

 全員読み終えた後、質問する。


質問  分からない言葉や読めない漢字はありませんか。教えてあげますから出してごらん。
 

 「それがし」「かかし」「候」「雀殿」が挙がった。

 さすがに3年生。ほとんどの語句が分からないのである。

 「分からないんだね。よかったなあ。それでこそ、この勉強が楽しくなるよ。」と言って、それぞれの語句の意味や読み方について以下のように簡単に説明した。


説明
「それがし」・・・わたくし
「案山子」・・・・(一部の子供が分からなかったので、確認のため説明)田や畑に立たせて、鳥などの作物を荒らす生き物を脅かし   て、近寄らせないようにするための人が作った人形。「かかし」
「候」・・・・・・「そうろう」と読む。「〜でございます」という意味。
「雀」・・・・・・「すずめ」
「殿」・・・・・・人を敬って言う言葉。
「それがし」「にて候」などは、お侍などが使う昔の言葉。
 ですから、この俳句は、「わたくしは、かかしなのでござい
す。すずめどの。」という意味です。
 

 子供たちはこの説明でようやく大意を掴めたようで、ほっとした表情になった。


指示3 この俳句の意味や読み方が分かったところで、もう一度大きな声で読んでみよう。
 

 さすがに先程よりも、スムーズにかつ音量も大きく読むことができた。


発問1 さて、この俳句の話し手は誰でしょう。ノートに書きなさい。
 

 ノート作業後、列指名で聞いていく。

 「かかし」「わたくし」がほとんどであった。正解を告げた。


説明 「それがし」です。それがし=かかしですが、「それがしは」とありますから「かかし」よりは「それがし」と答えた方がいいです。
 

  話し手をしっかり押さえた後、イメージを掴ませる学習へとつなげて行く。


指示4 静かに目をつむりなさい。・・・・・(間)
 

 


発問2 どんな景色が目に浮かんで来ましたか。何が見えますか。
 

 子供たちは、自然に口々にイメージしたものをつぶやき発言する。出てきたものを列記する。


・ かかし ・ぼろぼろの着物をきている。・へのへのもへじの顔・田んぼ・いね・すずめ・山など
 

 


指示5 かかしとすずめさんがいますね・・・(間)。はい、静かに目を開けなさい。今、頭に浮かんだ「かかし」と「すずめ」の絵をノートに簡単にかきなさい。
 

 時間は3分与えた。机間巡視すると、「かかし」は大方同じような絵であるが、雀の数と位置が各々微妙に違っている。

 全員、イメージを絵にすることができた後、指名予告しておいた子数名に黒板に板書させた。

 およそ、次のような(A)〜(H)の8つの絵が出された。以下の絵である。

「おもしろいね。同じ俳句で勉強しているのに、いろんな絵が出て来るんですね。これだから、おもしろくてやめられないよ。」と教師のつぶやきの後に問う。


発問3 さて、雀一羽いるのもあれば、数羽いるのもある。いっぱい飛んでいるのもあるね。雀は何羽いるのでしょうね。
 

 自分のかいた絵をもとに自由発言させる。


・一羽だと思います。たくさんの雀とお話しているのなら、雀殿ではなくて雀たち殿となるはずだからです。
・ぼくは、いっぱいいると思います。一羽だけ飛んでいるのはなんとなく様子に合わないからです。

 

 おおよそ、この2つの意見に絞られた。「なるほど。」と頷いて、ここでは深入りは避けた。


発問4 では、(A)〜(H)までの絵を見て、これは絶対おかしいと思う物はどれでしょう。それを1つノートに書きなさい。
 

 「1つだけでなくてもいいですか。」という声があったので、おかしいと思ったらいくつでもいいこと、しかしその理由は考えて書くことを告げた。ノート作業後、指名なし発言させた。


・Aがおかしい。雀は稲のある田圃の地面に下りているはずはないから。
・Dはいっぱいいて、どの雀に話しかけているのか分からない。
・Fですが、雀は案山子を無視していて聞いていない。
・反論。Fはいい。雀がおしりを向けているから、案山子は話しかけているのだと思う。
・Cが変だ。案山子が雀に話しかけているのなら、目は雀の方に行っているはず。雀は左側にいるほうがいい。

 

 主な意見は以上である。

 いわゆる思い思いの発言であって、絵の検討という点では浅く弱い。また、とりわけ根拠となる物もないので、全ての意見をとりあえずは認めることにした。


発問5 それではね。この案山子の顔なんだけどね。この文のように雀に話しかけているときの顔は、悲しい顔なのかな。それともおこっているのかな。それとも笑っているのかな。3つのうちどれでしょう。ノートにそのうちの1つを書きなさい。訳も考えるんですよ。
 

 本時の主発問である。思考作業の時間には、5分取った。

 5分後、まず挙手で人数分布を調べる。


悲しい(27人)おこっている(5人)笑っている(1人)
 

 少ない人数の意見から聞いていくことにした。


(笑っている)
・いつもおこった顔をして雀を追い払っているから、たまには笑おうかなと思って・・・。
(おこっている)
・案山子はずっと立ったままで何もできないのに、雀は自由に稲を荒らしているから。
・どうして、こんなこと人間のためにしなくちゃいけないんだと思って。
・つまらないからむすっとしている。
(悲しい)
・空しい気持ちというか、寂しくなって。
・雀にも馬鹿にされているみたいで、何も自分はできないから情けなくなって。
・立っているだけだから、なんとなく悲しい表情でいると思う。

 

 それぞれの立場から考えを聞いてみたが、イメージによる解釈に片寄りがみられ、文の中の言葉を根拠とした読み取りや言葉へのこだわりができていない。

 さすがに、語彙不足と言語感覚の乏しさという点では、3年生は未熟であるという感は拭えない。また、教師側の普段の言葉にこだわる国語の授業が不十分であることを実感させられた次第である。

 討論はできなかったが、イメージを元に案山子に同化している子供たちの姿は、一応評価できた。さて、授業時間も残り1分足らずとなった。


説明 先生の考えを言います。その前に、辞書で「案山子」を調べてみてください。(間)何と書いてありますか。(「田畑に立って、鳥や獣を脅かす人形」)そのほかに何か別の意味が書かれていませんか。(あった!「見かけだけで役に立たない人」とあります。)そう!それです。この俳句は、こう考えることもできますよ。
 『わたくしは、見かけだけで、役に立たない者でございます。雀殿』
ですから、先生は、「案山子」が雀に苦笑いしながら愚痴をこぼしているように思うんです。「どうせ、わたしなんて・・・」っていうようにね。

 

 ここでチャイムが鳴った。時間切れである。授業を終えた。

 

3.おわりに

 補足だが、夏目漱石が生きた時代は、ちょうど武士の社会が終わりを告げた明治時代である。この時代、新しい時代が訪れたのにもかかわらず、刀を脇差にして、まだ、侍の格好でのし歩いていた者もいたらしい。

 ならば漱石は、その時代の主役から下りた武士たちをこの作品で冷笑していたのかもしれぬ。

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