’99.2.25

                                                     NO.118



 

詩の授業〜「てつぼう」

                           

○ はじめに

 以下の詩を教材にして授業した。


 てつぼう
           いといしげさと

てつぼうは きみを
まって います
ひくい ほうのも
たかい ほうの てつぼうも
きみを まって います

きみが さかあがりするのを
きみが しりあがりするのを
きみが あしかけあがりするのを
てつぼうは まって います

きみが こないと
てつぼうは ただの てつぼうです
さみしい てつぼうです

てつぼうは まって います
きみが まえまわりするのを
きみが うしろまわりするのを
きみが だいしゃりんするのを

てつぼうは こんな こさめの ふるひ
いつまでも きみを まって います

 

 対象学年は、3年生である。

 全てひらがな書きで、かつ平易な文脈であるので、一度読めばどの子も容易に理解できる詩である。
 この詩を教材に分析批評を試みた。

○ 授業の実際

 黙って教材を印刷したものを配ってから言う。


指示1 2回音読します。2回とも立って読みます。
    1回目よりは2回目、というように読むたびに上手になるような最高の読みをしましょ   

う。読んだら座ります。では、始めなさい。
 

 全員座ったのを確認してから、列指名で数名に読ませる。ここでは、6名に読ませた。 
 3年生らしく、生き生きとした張りのある声である。

 ふつうのレベルであれば、「これでよし」としてもいいが、ここは、読みへのこだわりを持って「ここをこう読めばもっとよくなる」ということを正していく。

 前進的向上的読みとでも言おうか。

 音読している者だけが緊張感を持って読むのではなく、聞き手もまた積極的に、その良さや改善点を指摘できるということが大事である。

 そこで次のような指示をまず与える。


指示2 今の6人の読みを聞いて、「よかった」あるいは「ここをもっとこうすれば120点にな  

るよ」っていうところあったら、お話してください。
 

 


・みんな上手でした。もっと、連と連の間をあけて読むといいと思います。
・もう少し大きい声で読んでいいと思います。
・ぼくは、○○さんは、「さみしいてつぼうです」のところを、もう少しさみしく読んでもいいと思います。
・あまり声の高さを変えないで、ふつうに読めばいいと思う。
・ことばとことばの間があいているところも、ちょっと間を空けて読めばいいと思います。
・はっきりしている読み方で、いい。
・○○さんは、題を大きく作者名を小さく読んでいるのでいい。
 

 まずは、自由発言にて相互評価をさせた。

 よい読み手を育てるには、よい聞き手を育てることが大事であると考えている。

 言われたどの子も納得していたが、ここで、教師の方でも指摘してやった。

 時間をかけず的確に素速くである。


説明1 ・○○さんは、途中から速くなりました。スピードを保つように。
    ・○○さん。この詩には「、」がありません。その代わり一字空きがあります。そこだけ休 

んで、あとは休みません。
     ・○○くん。「てつぼう」と読んでいる。「は()」は、口を開けながら音を出すんで   

す。
    ・○○さん、もっと空気パンパンのゴムまりの声を出しましょう。
    ・○○くん。「〜するのを」の「を」を少し弱めるといい読みになりますよ。
     ・○○くん。「ほう」と読みます。「ほお」と聞こえました。
 

 もう一度読ませる。


指示3 全員起立。3回目の読みです。ただ読むのではなく、これまで読んだ最高の読み方

を目指しなさい。では、どうぞ。
 

 全員着席後、先程と別の列で一人ずつ読ませてみる。

 1回目よりも、どの子も格段に上手になっている。

 野口先生の言われる向上的変容を子供たちに自覚させていく指導が、正しい読みを促し、成果をもたらすのである。
 読み終えた後、大いに褒める。ここでの賞賛が大事である。ほんの一言でいい。
「よく読めました。」「とても上手になりました。」という教師の一言が、さらに向上的変容を連続的に保障していく礎となっていくのである。


指示4 この詩を読んで、感じたこと、気づいたこと、思ったこと何でもいいですから、箇条書 

きでノートに書きなさい。
      3分あげます。どうぞ。
 

 3分後、一つでも書けたことをほめてから、指名なし発言させた。


・三連目だけに「まっていた」がない。
・全部の連に「きみ」という言葉がある。
・どのくらいの鉄棒がきみを待っているのだろう。
・どうして、「きみ」をてつぼうがまっているのか。
・「きみ」ってだれかな。
・全部の連が、てつぼうのことを書いている。
・こさめのふるひのてつぼうのことを書いていると思った。
・どうして続けていい言葉なのに間が空いているのかな。
・一連目だけが5行だ。
・何かさみしい感じがする。
・二、三、四連には、「きみが」、一、五連には「きみを」と書いている。
・「こんなこさめのふるひ」ってどのくらい小雨の日なんだろう。
・「きみ」と言う言葉が10個ある。
・なぜ「、」「。」を使っていないのかな。
・静かな声で読んだらいいような詩だなと思った。
・繰り返している言葉がある。
・二連目と四連目だけに、てつぼうの技が書いてある。
・全部ひらがなである。
・最後「います」で終わっているのは、一、二、五連で、四連は何か中途半端な終わり方だ。
・どの連にも濁点付いている言葉がある。
 

 たくさん発見できたことを大いに褒めた。その後、もう一度一連だけを範読して問うた。


発問1 「まっています」という言葉がありますね。この詩全部を通していくつ出ていますか。 

その数をノートに書きなさい。
 

 列指名で座ったまま聞いていく。「五つ。」

 「その通り。赤鉛筆で○しなさい。五つありますね。」


発問2 ところで、何が「まっている」んですか。
 

 「てつぼう。」と子供たち。


発問3 うん。それならば、てつぼうは、何をまっているんでしょう。
    そこが問題なのです。何を待っているんですか。ノートに書きなさい。
 

 2分後尋ねた。一人を指名。


・「きみ」を待っていると思います。
 

 ほとんどの子供が「同じです。」と答えた。他にないか尋ねた。


・「あそんでくれる」のを待っている。
・きみが、てつぼうで「わざをする」のを待っている。
 

 「なるほど。おもしろくなってきたね。」と言って次の問いかけをした。


発問4 「きみ」をまっているのか、「あそんでくれる」のをまっているのか、「わざをする」のを 

まっているのかどれでしょう。
      どれか一つを選びましょう。そして訳も考えなさい。
 

 全員立場を決めたのを確認して、挙手にて人数を調べた。

 以下の通りである。

 A「きみ」          ・・・・・・17人
 「あそぶこと」         ・・・・・0人
B「わざをかけてくれること」・・・・・13人

AとBに絞り、ではどうしてそのように考えたのか自由に発言させた。


B「きみ」だけじゃなくて、いろんな人が来て遊んでくれることを待っていると思ったからです。
Aでは、なぜ一、五連目の最後に「きみをまっています」と書いているのですか。
A「きみを」とか「きみが」と書いているので、誰でもいいのではなくて、やはり「きみ」を待っているのだと思います。
Aもし、遊んでくれる人を待っているんなら、「きみ」でなくて「みんなを」とか、そう書いているはずだと考えます。
 

 以上の意見が出されたが、ここでとぎれたので次のことを問うてみた。


発問5 「きみ」って誰なんですか。
 

 「鉄棒が嫌いな人」と答えた子供がいた。
「なるほど、ほかに。」と尋ねたが、なかなか答えられないでいる。
ここは深入りするのを避け「わかりました。では、これはとりあえず(はてな)にしておこう。」と言って、さらにAかBか意見を促した。

A文には、「きみをまっています」とはっきり書いています。
B二連目に「さかあがりするのを」「しりあがりするのを」「あしかけあがりするのを」まっていると書いています。
B四連目にも同じように「まえまわり」「うしろまわり」「だいしゃりん」のことを書いている。
B Aはおかしい。もしAだったら、二連と四連はいらないことになってしまう。
B先生の問題は、「何を待っているか」と尋ねた。「だれを」と聞いていません。
Aそれならどうして、「きみをまっています」と書いているんですか。
Bそれは「きみ」そのもののことではなくて、そういうわざをやってくれるきみをまっているということではありませんか。
Aそれは、○○さんの思っていることではありませんか。そのことは、どこにも書いていません。
 

 以上の意見が続いた。ここで教師の方で整理した。


発問6 「きみをまっています」とはっきり書いてあるのは何連ですか。
 

 「一連と五連。」と子供たち。


発問7 では、二連と四連はどう書いていますか。
 

 「てつぼうはまっています。」と子供たち。


発問8 もう一度聞きます。何を待っているんですか。よく文を見てごらん。
 

 「さかあがりするのを」「しりあがりするのを」「あしかけあがりするのを」と子供たち。

 残り1分となった。

 「そうですね。『を』って何を表しているんでしょうね。さて、時間もなくなってきたのですが、もう一つ聞きたいことがあります。」と言ってから問うた。


発問9 「きみ」が「さかあがりするのを」「しりあがりするのを」「あしかけあがりするのを」「ま  

えまわりするのを」「うしろまわりするのを」「だいしゃりんするのを」まっていますと書いてありますが、これらのことは「きみ」ができることなのでしょうか。できないことなのでしょうか。どっちでしょう。
 

 座りながら口々に子供たちは言い合う。

・できないんだから、やってほしいんだと思う。
・できるからでしょ?
・できるんだったら、そんなに「まっています」なんて言わないでしょ。
・いや、できるから嬉しいから鉄棒はやってほしいんだよ。
・できるようになってほしいんじゃないの?          などなど

 「どっちだろう。終わります。」と笑顔で言って、授業を終えた。

 

○ おわりに

 この詩を使った実践で、目を引く授業記録がある。

 野口芳宏氏の実践である。’94.9.19〜20に高知市立第六小学校の二年生を対象に行われたものである。

 氏の授業は、言うなれば、


「言語感覚を磨く」という視点から、読みの変革を迫る授業である。
 

 

 参考までに、その授業構成並びに主な発問・指示群を紹介しておく。

 

 ①指名読みさせる。


 ②
 


○○くんのおかしいところが一つあった。おかしいところが見つかった人?
 

 間違った読みを即座に指摘し、修正点を示す。

 ③もう一度読ませる。

 ④「よおし。よく読めた。」と褒める。

 ⑤数人に読ませる。


 ⑥

 


口まねするんじゃありません。本を見るんです。
ちゃんと本を見て、読まないとダメです。
 

 子供の読みの実態を瞬時に把握し、間違った箇所や読み方をズバリと指摘している。

 しかも氏は、「どこをどうすればよいか。」を間髪入れず子供に伝え、改善していく。 
 野口氏の授業の特徴は、教師の観察力(氏の言われる「聞き耳アンテナ」)で読みへのこだわりを子供自身に働きかけ、向上的変容を保障していくところにある。

 そして、よくできたときの「上手になったなぁ。」「姿勢がいい。」「声が澄んでいる。」といった向上的変容を自覚させる“褒めの一言”をいつも忘れない。


 ⑦
 


今読んだ「てつぼう」は、作文ではありません。作文とどういうところが違うか。
 

 




 


・「、」「。」「 」がない。
・ひらがなばっかり。
 

 


 ⑧


 


この詩を書いた「いといしげさと」と言う人は、漢字を知らないんだと野口先生は思うんだけど、先生と同じだと思う人は○、いや違うと思う人は×をノートに書きなさい。
 

 ちょっとした揺さぶりの後、「詩を書いた人が、わざとひらがなで書いたんだよ。」と束ねている。


 ⑨

 


この詩には、かたまりがあるでしょ。そのかたまりがいくつあるか、ノートに数字を書いてごらん。
 

 「一つずつ数えながら言ってごらん。」(目でとらえさせる)

 「そこのところ読んでごらん。」(読んでとらえさせる)   

 「みんなで数えてみよう。」(確かめさせる)

 前進的かつきめ細やかな指導により、詩の連を目に見える形で意識させている。


 ⑩
 


この「かたまり」を何て言うか知っている人?
 

 


 ⑪

 


この詩は五連でできています。この詩の五つの連を「一連」「二連」・・・と指で押さえながら言ってみましょう。
 

 ⑫ 「次の問題はすごく難しいよ。ほとんどの人ができないよ。」と挑発した後、




 


この詩の中で、元気よく読むのはどの連でしょう。もう習ったから三連だったら「三連」と書くんですよ。
 

と問うている。

 ⑬ 「クイズじゃないんだ。中身をしっかり読むんだ。」と主体的でかつ的確な読みへのこだわりを引き出す。


 ⑭

 


この詩には、静かに読むところがあります。五連の他に静かに読むところは何連でしょう。わけが話せないとダメです。
 

 


 ⑮

 


静かに読むところが決まった。今になって、「元気になって読む」ところがはっきり分かった者は手を挙げてごらん。
 

 野口先生の解は、こうである。


(一連)ふつうに読む
(二連)ふつうに読む
(三連)しずかに読む
(四連)元気よく読む
(五連)しずかに読む
 

 ⑯ 最後は、子供に詩を読ませ授業を終えている。

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