「地獄の黙示録」
地獄の黙示録
     1979・米
地獄の黙示録

製作:監督:脚本:
    フランシス・F・コッポラ
脚本:ジョン・ミリアス
撮影:ビットリオ・ストラーロ
音楽:カーマイン・コッポラ

出演:マーロン・ブランド
    ロバート・デュバル
    マーチン・シーン
    フレデリック・フォレスト
    デニス・ホッパー
    ハリソン・フォード
    アルバート・ホール
    ラリー・
フィッシュバーン
    サム・ボトムズ
    スコット・グレン
    J・D・スプラドリン

    
カーツは武勲を立てた軍人だったが・・・

硝戒艇で川を遡る

ギルゴア(ロバート・デュバル)

プレイメイトの官能的なダンスに兵士たちは熱狂する

カーツ王国の山岳民族

カーツ(マーロン・ブランド)

ウィラード(マーティン・シーン)

地獄の黙示録
物語

1968年。サイゴンのホテルの一室に酒に明け暮れ悶悶と時を待っているベンジャミン・ウィラード大尉(マーチン・シーン)。彼はある指令が下るのを待っていた。

「ウォーター・E・カーツ大佐を抹殺せよ」 迎えに来たヘリで司令室に連れて行かれたウィラードにコーマン大将(J・D・スプラドリン)が言った。
カーツ大佐は、これまでに米国が輩出した最も優れた将校の一人だったが、特殊部隊に入ってから人間性が変ってしまったのだという。カーツは現在、山岳民族の部隊とともに国境を越え、カンボジアに侵攻し、米軍の方針を無視して、ひとつの王国を築いているらしい。兵士達はカーツを崇拝し盲目的に従っているのだという。
「南ベトナム軍情報将校を二重スパイであるとして独断で処刑したのだ」 
ルーカス中佐(ハリソン・フォード)も付け加えた。
ウィラードは、カーツという人間の暗殺指令を受け、戸惑った。だが、彼自身の悶悶としていた閉塞状態を打ち破るのはこの命令を実行するしかない。

任務の出発点、ナン川には海軍の硝戒艇と若い4人の乗員がが待っていた。黒人のチーフ(フレデリック・フォレスト)、クリーン(ラリー・フィッシュバーン)とシェフ(フレデリック・フォレスト)、ランス(サム・ボトムズ)だ。
“乗員のほとんどはまだガキだった。片足を棺桶に突っ込んだロックン・ローラーだ”
ナン川の河口は広大なデルタ地帯で、硝戒艇の侵入可能な地点は2箇所。しかし、両方ともベトコンの勢力下だった。ウィラードは護送を頼む第一空挺部隊と共にナン川の手前30キロの地点のベトコンの村の攻撃に参加した。

第一空挺部隊のビル・キルゴア中佐(ロバート・デュバル)も戦場の狂気を漂わせる男だ。ランスが有名なサーファーのランスと知り、狂喜した。
ベトコン勢力下の海岸は6フィートの波が来ると聞き、嬉々としてサーフィンを決行することにした。
早朝、第一空挺部隊のヘリの群れが怪鳥の如くに攻撃目標に向かった。
「昇る朝日を背に低空で侵入し、目標から1マイルの地点になったら音楽をかける。ワーグナーをかけるんだ。ベトコンどもをビビリ上がらせてやる」 ギルゴアは叫ぶ。

大音響のワーグナーの『ワルキューレの騎行』が響き渡った。
ロケット弾が発射され、ガトリング砲が火を噴く。ビン・ドリップの村は平和そうな漁村だが、実はしたたかに武装もしているのだ。対空砲火を受けてヘリが炎上する。
村を制圧したギルゴアは、まだベトコンが潜んでいそうな森一帯をナパーム弾で火の海にした。そしてギルゴアたちは海岸でサーフィンに興じた。近くの海に爆弾が炸裂するが、ギルゴアは平気なのだった。
ウィラードはギルゴアの一連の行動を見て思う。”あれがギルゴアの戦争のやり方なら、軍の連中のカーツに対する反感はいったい何なのか”

ウィラードは4人の若者と硝戒艇でナン川を遡る。カーツを求め密林の奥へ奥へと。給油のために立ち寄ったハウ・ファット陸軍基地の夜、基地全体が沸き返った。ライトアップされた円形のステージにヘリが降り立った。中から飛び出てきたのは慰問活動を行う米軍サービス機関の放ったプレイボーイのバニーガール達だ。
騎兵隊、インディアン、カウボーイの姿をした3人のプレイメイトたちのエロティックなダンスに数千人の兵士達が熱狂的な声援を送る。そのうちに女に飢えた兵士達の興奮は手がつけられなくなり、女たちに襲い掛かりそうになる。ヘリは女たちを非難させ飛び上がって行った。

再び川を遡って行くウィラードの硝戒艇。たまたま出合った小舟の臨検をした。ウィラードは反対だったが、チーフが言い張ったのだ。そこで惨劇が起きた。
積荷の検査をしていた時、一人の少女がある缶に向かって走った。反射的にクリーンは銃を放ち、ベトナム人たちを乱射した。
少女の目指す缶の中には一匹の小犬が入っていた。少女は小犬を案じて走ったのだった。
少女は銃弾を受け、虫の息だった。ウィラードはやるせない思いで少女に銃を撃ち込みとどめを刺す。

ナン川における米軍最後の前哨拠点、ド・ラン橋で派遣されてきた中尉から受け取った機密文書によると、数ヶ月前、ウィラードとまったく同じ指令を受けてカンボジアに潜入したリチャード・コルビー中尉(スコット・グレン)は、現在カーツと行動を共にしているという。
川を遡る間にクリーンは密林からの銃弾に倒れ、チーフは原住民の槍に胸を貫かれた。まさに地獄への旅だ。ウィラードの向かう果てには何が待ち構えているのか。

霧を突き抜けると、ウィラード一行の前に白い灰で体中を塗りたくった何百もの山岳民族の群れがカヌーに乗って待っていた。カーツの軍隊だった。
カーツは自分を暗殺しにやって来る刺客の情報を得ていた。カーツの軍隊は攻撃を仕掛けて来るわけではない。不気味な沈黙をもってウィラードたちを迎えたのだ。
ウォーター・E・カーツ(マーロン・ブランド)は、陸軍士官学校を首席で卒業し、朝鮮戦争に従軍。数々の武勲を立て将来は将軍にも陸軍参謀にもなれる程のエリートコースを歩んでいた。しかし、ベトナム戦争は彼を変えた。
彼は軍の許可なく作戦を行い、独断で南ベトナム軍の大佐を含む4人を二重スパイであるとして処刑した。上層部の指示を仰がず独自の軍事作戦を遂行するカーツは明らかに軍に反逆しているのだった。
今や、カーツはカンボジアの山岳民族を率いてゲリラ戦を展開し、ベトコンと戦っている。それはカーツの王国であった。

「古典的な意味で彼は詩人で戦士なんだ」 饒舌な報道写真家(デニス・ホッパー)はカーツを評して言う。「彼は恐ろしくもなれる、卑しくもなれる、正しくもなれる、戦争を戦っているんだ。偉大な男だよ」
ウィラードとシェフはカーツの王国を見て回った。至る所に散乱する死体。転がっている首。
“カーツはその輝かしい軍歴から逸脱している、精神を病んでいる、邪悪だ” ウィラードは吐き気をもようした。
硝戒艇を離れカーツの拠点に潜入したウィラードは突然、取り囲まれ縛られた。

寺院の一室、頭を剃り上げた巨漢のカーツがウィラードの前に異様な姿を見せた。
「お前は本当の自由というものを考えたことがあるか」 カーツは言う。「他人の意見からの自由、自分自身からさえも束縛されない自由を・・・」
ウィラードは死体が散乱したカーツの王国を見た後だ。カーツの自由という言葉は精神を病んだたわ言としか聞こえない。
「お前は暗殺者か?」 
「私は兵士であります・・・」
「いや、どちらでもない」 カーツは冷笑した。「お前は集金係りにすぎん、雑貨屋の店員から支払い金を集めるように言われるままに来ただけなのだ」
ウィラードは屋外の檻に監禁された。

その夜、カーツがウィラードのところへやって来た。カーツは持って来たものをウィラードの股に落とした。何とそれは硝戒艇に残っていたシェフの生首だった。
ウィラードはもがき絶叫を上げた。ウィラードは自分が戻らない時は、カーツの王国を空爆するようにシェフに指示していたのだ。それをカーツに読まれていた。
やがてウィラードは著しく衰弱し、カーツの寺院へ運び込まれた。
「私は恐怖を見てきた・・・」 横たわるウィラードにカーツが語る。「お前が見てきた恐怖を・・・お前に私を人殺しと呼ぶ権利はない。私を殺す権利はある・・・だが私を裁く権利はない」 カーツは続ける。「・・・特殊部隊にいた時のことだ。私たちが駐屯地で子供たちにポリオの予防接種を行った。その子供たちの予防接種した腕をベトコンがやって来てすべて切り落していたのだ。そこには腕が・・・小さな腕が山のように積み上げられていた。・・・私は泣いた。どこかの老婆のように・・・そして次の瞬間、私は理解した、ダイアモンドの弾丸で額を撃ち抜かれたように理解した。ああ、その天才性を。そうすることができる意志の力を。私は彼らが私たちより強いことを理解した。・・・彼らのような男たちが10個師団もいれば我々のベトナムにおける問題は速やかに解決するだろう、と・・・」
「息子には、私が何になろうとしたのかを理解できないかも知れない・・・」 カーツは語る。「もし、私が殺されなければならないのなら、ウィラード、誰かが故郷に行って、息子に全てを教えて欲しい。私の為した全てのこと、お前が見た全てのこと・・・なぜなら虚偽の連鎖ほど憎むべきものはないからだ。そして、お前に私が理解できるなら、ウィラード、お前がそうしてくれ・・・私のために」

寺院の外では祭りが始まろうとしていた。豊穣と国土再生の祭り。阿片を吸う人々。原始的な太鼓のリズム。神への生贄の為の水牛が引き出された。
その中をウィラードは硝戒艇へ戻った。
“カーツを殺害する” ウィラードは決意した。“カーツ自身がそれを望んでいた。奴は俺が苦痛を取り除いてやるのを待っているように思えた。哀れな消耗しきった裏切り者としてではなく、兵士のように、きちんと起立して去りたいというのがカーツの望みだった”
鉈(なた)を手に河に飛び込む。泥水の中からウィラードの顔が浮かび上がる。寺院に忍び込む。見張りに後ろから忍び寄り咽喉を掻き切る。
カーツはテープレコーダーに向かいメッセージを録音しているところだった。
祭りで、水牛の首に男たちの長刀が振り下ろされた。
ウィラードの鉈がカーツを襲った。
水牛の首が胴体から離れる。
カーツは血まみれで横たわり、最後の言葉を囁き息絶える。
「・・・恐怖だ・・・恐怖だ・・・」

ウィラードはカーツを殺害した。カーツに関する資料を片手に寺院の外に出ると民衆が待っていた。まるで新しい王を迎えるかのように。
ウィラードは彼らを睨みつけ、カーツの血に染まった鉈を捨てる。すると彼らもそれぞれ手にした武器を捨てたのだった。階段を降りながらウィラードは彼らの中に同化していく。
映画館主から

監督のフランシス・フォード・コッポラは語っています。「『地獄の黙示録』製作において、私の成し遂げたかったことは、観客にベトナム戦争の恐怖、狂気、感覚、道徳的ディレンマなどの認識を与えうるような映画体験を創造することであった」と。

そのためか様々なエピソードがぎっしりと詰め込まれ、かなり難解な映画になっている感は否めません。ウィラードの目を通してベトナム戦争の実態を体感すると共に、極限状況の中、戦争の狂気に駆り立てられた二人の男カーツとギルゴアという存在に焦点が当てられていきます。

ギルゴアは戦争の最中、サーフィンをする為に一つの村を焼き払います。
ギルゴアを演じるロバート・デュバルはコッポラの大ヒット作「ゴッド・ファーザー」でコルレオーネ家の長男を寡黙で渋く演じていました。本作では打って変わって饒舌で活動的、残忍な行為も戦争と割り切る男です。

そしてカーツ。カンボジアの奥地に軍の方針を無視して王国を築き、『神』として君臨する男。演ずるマーロン・ブランドのこれまでの映画と同様、アウトサイダーの極致ともいうべき男。約2時間半の本作の中で、彼が2時間近くたってからやっと姿を現すのですが、その存在感は圧倒的でまさにマーロン・ブランドの当たり役といえましょう。
形而上学的な彼の本質は戦場経験がない私には到底、理解の範囲外のものです。
マーロン・ブランドを参照ください。

カーツ暗殺指令を受けたウィラードは、カーツと出会い複雑な心境のもとで暗殺を決行します。演じるマーティン・シーンは地味ながら知的な風貌で適役。
エミリオ・エステベス、チャーリー・シーンの父親でもあります。

ベトナム戦争を題材にした映画は数多くあります。
古くは「グリーン・ベレー」(’68年、ジョン・ウェイン監督・主演)。これはタカ派の戦意高揚映画です。そのうちにベトナム戦争が泥沼化して以降、様々な反戦映画の傑作が並びます。
他に代表的なのは、「ディア・ハンター」(’78年、マイケル・チミノ監督・ロバート・デ・ニーロ主演)、「プラトーン」(’86年、オリバー・ストーン監督・チャーリー・シーン主演)、「フルメタル・ジャケット」(’87年、スタンリー・キューブリック監督、マシュー・モディン主演)、「カジュアリティーズ」(’89年、ブライアン・デ・パルマ監督・マイケル・J・フォックス主演)などです。
「地獄の黙示録」はそれらの中にあって、戦争の狂気を描いた映画の代表格になったといえるでしょう。

本作はカンヌ映画祭グランプリ、アカデミー賞は撮影賞、音響賞受賞作品です。

参考文献:
公開時パンフレット
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