| 大いなる遺産 1946・英 | |
![]() 監督:脚本: デビッド・リーン 原作:チャールズ・ディッケンズ 脚本:アンソニー・ハブロック・アラン 脚本:撮影: ロナルド・ニーム 撮影:ガイ・グリーン 出演:ジョン・ミルズ バレリー・ホブソン ジーン・シモンズ アンソニー・ウェイジャー アレック・ギネス バーナード・マイルス フィンレイ・カリー マーティタ・ハント フランシス・L・サリバン ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 1817年の冬、イギリスのテムズ河口に近い湿地帯の町。 両親を相次いで失った少年ピップ(アンソニー・ウェイジャー)は、年の離れた姉夫婦に育てられていた。姉は気難しい人だが、その夫の鍛冶屋のジョー(バーナード・マイルス)は優しく何かとピップの面倒をみた。 ある風の強い夕方、ピップは密かに抜け出して両親の墓を詣でた。墓場の木々が風に揺れ枝が不気味な音を立てる。 突然、ピップは丸坊主の大男に肩を掴まれた。両手と両足が鎖でつながれていた。脱獄囚だった。 「食い物とヤスリを持って来い、誰にも言うな、もし話したら八つ裂きにして喰うからな」 ピップは恐怖に震え、うなずいた。 夜、ピップは台所からポークパイとブランデー、ジョーの仕事場から適当なヤスリを持ち出し墓場へ走る。大男はポークパイに喰らいつき、ブランデーをむさぼり飲んだ。 ピップが家に帰ると、姉はポークパイとブランデーがなくなっているのに不審の表情だった。 翌日、他の脱獄囚と共に大男は追っ手の兵隊に逮捕され、護送船に乗せられた。ピップはジョーとこの光景を見ていた。大男はピップを見つめた。どこか感謝の眼差しだった。 船出の前、大男が言った。「誤解のないように言うが、わしは鍛冶屋の家に忍び込み、ブランデーとポークパイ、それにヤスリを盗んだ」 それは、大男がピップに安らぎを与える言葉となった。遠ざかる船の中から大男はいつまでもピップを見ているのだった。 近くの古い邸宅に住むミス・ハビシャム(マーティタ・ハント)から遊び来るようにと誘いがあった。ピップが邸宅を訪れると、門に出迎えたのは美少女のエステラ(ジーン・シモンズ)だった。エステラは邸内を案内した。 ミス・ハビシャムはミスとはいうものの老女だ。若い頃、ある人物との結婚が果たせず、以来大きな邸宅の窓を締め切り、埃と蜘蛛の巣の中で閉じこもりの生活なのだ。噂では彼女は狂女であるという。 「エステラをどう思うかい」ミス・ハビシャムがピップに問うた。 「お高くとまってます」ピップはそっと答えた。実際、エステラはピップに対して横柄な口調で話すのだ。しかし、ピップの心はエステラに会った瞬間から その虜となっていた。 エステラは事情があって親元を離れ、ミス・ハビシャムの世話をしているのだという。 ピップは毎週、ミス・ハビシャムの邸宅に出向いた。エステラに会いたいからだった。 それはピップが14歳になり、ジョーの鍛冶屋見習になるまで続いた。そして6年が経ち、ピップが20歳になったある日、ロンドンから太っちょの弁護士ジャガース(フランシス・L・サリバン)が訪れた。 「実は、ピップは莫大な財産の相続者となったのだ。鍛冶屋の見習いを止めてロンドンに行き、遺産相続者にふさわしい教育を受けてもらう」 ピップもジョーも何のことか解からずあっけにとられる。 「その人物からの注文がある。常にピップと名乗り、名前を変えないこと。そのパトロンの名は本人が望むまで詮索しないこと」 ピップは憧れのロンドンで生活を始めた。ジャガース弁護士が後見人となり、あてがわれたアパートでハーバート・ポケット(アレック・ギネス)との共同生活だ。 ポケットはミス・ハビシャムの親戚筋にあたり、ピップは少年の頃ミス・ハビシャムの邸宅の庭で会ったことがある。二人はすぐに親しくなった。 ダンス、フェンシング、ボクシングとピップとポケットは紳士修行に余念がない。 そして、フランスでレディの教育を受けて帰ってきたエステラとの再会。エステラは社交界で羨望の的だった。ダンス、スケートと彼女のいるところに付きまとうドルムロ(トリン・サッチャー)がピップの恋敵となった。 「蝋燭の火には蛾が寄ってくるのよ」 エステラは男たちを手玉にとってもてあそぶ風情である。 そんなある嵐の夜、アパートのドアを叩く者がいた。ピップが開けると、片目に黒い眼帯をした大きな老人が立っていた。老人は手を差し伸べた。 「立派に成長したな」 老人はマグウィッチ(フィンレイ・カリー)と名乗り、ピップの成長を喜んでいる。ピップは思い出した。昔、墓場で会った脱獄囚だ。 「俺を親切にしてくれた君を忘れたことはない」マグウィッチは語る。彼はその後、オーストラリアで大成功し、巨万の富を築いた。一人娘がいたのだが行方知れずとなっており、ジャガース弁護士を通じてピップに財産を贈与することにしたのだった。 ピップは驚いた。財産の主はてっきりミス・ハビシャムとばかり思っていたのだ。 「あなただったとは・・・」 だが、マグウィッチはイギリスに帰ればお尋ね者の身の上だった。ピップに会いたくて危険を冒してやって来たのだ。 ピップはポケットと共にマグウィッチを安全な隠れ家に隠した。密告者が彼の後を追って来ているのだ。ピップは決心した。マグウィッチとオーストラリアへ行こうと。 ミス・ハビシャムに分かれを告げに行くとそこにエステラがいた。エステラは言った。「ドルムロと結婚するわ。お別れね」 そして、馬車で迎えに来たドルムロと去っていった。ミス・ハビシャムと分かれた時、ミス・ハビシャムの衣服に暖炉の火が燃え移りミス・ハビシャムは無惨に焼け死んだ。 ピップは好機を見て英仏連絡船を待った。その夜、マグウィッチを乗せたボートを出すと密告者を乗せた警察船が追ってきた。マグウィッチは密告者ともみ合いになった。その時、近づいて来た連絡船にぶつかり密告者は連絡船の外輪に巻き込まれた。マグウィッチも瀕死だった。 マグウィッチは死刑の宣告を受けた。ピップはジャガース弁護士の事務所へ出向いた。「彼を救う方法はないのですか」 「ない」 ジャガースはそっけなく言うのだった。「だが、ひとつ言っておくことがある。そのベルを鳴らしてみなさい」 ピップがベルを鳴らすと女が入って来た。ピップは見た。「・・・!」 「もう、下がってよい」 ジャガースは女を下がらせた。 「例えばの話だ・・・あの女はかって人を殺した。訳あってこの事務所で使っている。彼女には一人娘がいて、ある金持ちの家の養女に世話をしたのだ。そしてあの女の夫は囚人だ」 「え、それでは・・・!」 「例えばの話だからな」 「その話の通りならあの女の人はエステラの母親だ!」 「例えばの話だ」 ピップは牢獄から病院へ移されたマグウィッチを見舞った。容態は悪かった。ピップはマグウィッチの耳元で言った。 「あなたの娘さんは美しい女性になり、お元気です。そして私は娘さんを愛しています。解かりますか」 マグウィッチは微かに満足そうにうなずくとそのまま息を引き取った。 ピップは帰りの雑踏の中で熱に浮かされ意識を失ってしまった。 ピップが気が付いた時、目の前にジョーがいた。ジョーの家に連れてこられ何日も意識不明だったのである。 快復したピップはミス・ハビシャムの家の門に立った。寂れている門は開いた。暗い邸宅の中へ蝋燭を灯して入る。そこにエステラがいた。 「エステラ!ここで何をしてる・・・」 「ドルムロが私の素性を調べて結婚を断ってきたのよ、私にはここが似合っているわ」 エステラはミス・ハビシャムと同じ道を歩もうというのか。埃と蜘蛛の巣に囲まれた世間を捨てた生活を・・・。ピップは部屋中のカーテンを引き裂き窓を開け放った。陽光が差し込み、外気が流れ込んできた。 ピップはエステラを思い切り抱き締めるのだった。 |
| 映画館主から イギリス文学界を代表するチャールズ・ディッケンズの名作、「大いなる遺産」を、デビッド・リーン監督が格調高く映像化した名作です。 不遇な少年ピップが墓場で脱獄囚と出会う場面から、神秘的な邸宅に住む夫人と謎の美少女エステラとの交流。 更に青年に成長したピップに、誰とも解からない人物から莫大な遺産が贈与されるというミステリアスな展開を経て、エステラとのロマンスが実を結ぶのかといったスリリングなドラマが緊張感溢れるモノクロ画面に凝縮されています。 主役のピップを名優ジョン・ミルズが演じています。彼は後にリーン監督の「ライアンの娘」(’70年)でアカデミー助演男優賞を受賞しています。 エステラ役に「フランケンシュタインの花嫁」(’35年、米)のバレリー・ホブソン。その少女時代をジーン・シモンズが演じています。 ピップの親友ポケット役をアレック・ギネスが演じていますが若すぎて気がつかない程です。リーン映画の常連であるアレック・ギネスは、この2年後、やはりディッケンズ原作の「オリヴァ・ツイスト」でスリ集団の親玉フェイギンを演じていますが、何という変貌ぶりでありましょう。 デビッド・リーン作品は後期の、「戦場にかける橋」(’57年)、「アラビアのロレンス」(’62年)、「ドクトル・ジバゴ」(’65年)などの超大作も目を見張りますが、初期の作品、「逢びき」(’45年)、「大いなる遺産」(’46年)、「オリヴァ・ツイスト」(’48年)などはモノクロの画面が際立っており、実に味わいがあります。 |
|
|