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「怪談」 |
| 怪談 1964・文芸プロダクション にんじんくらぶ=東宝 |
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![]() 製作:若槻 繁 監督:小林正樹 原作:小泉八雲 脚色:水木洋子 音楽:武満 徹 出演:三國連太郎 新珠三千代 渡辺美佐子 岸 恵子 仲代達矢 望月優子 中村賀津雄 志村 喬 丹波哲郎 岸田今日子 中村翫右衛門 宮口精二 滝沢 修 杉村春子 中村雁治郎 仲谷 昇 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 「黒髪」 朽ち果てた屋敷であったが結構広い屋敷である。京都に住むその武士(三國連太郎)は、主君の没落のため貧しくなった境遇に絶えられなくなっていた。 彼は遠い国守の人に仕えるため妻を捨て任地に赴く決意をした。 「達者で暮らせ」 妻(新珠三千代)は泣いて引き止めるが、「男は立身出世が大事。それを捨てここで朽ち果てるわけにはいかんのだ」 「これまで以上に機を織って働きますから、どうぞ思い止まってください」 妻は武士にすがりついた。 「貧しさに疲れ果てた」 と武士は妻を足蹴にして去った。 任地で新しい妻(渡辺美佐子)を娶り、任務に就く武士。だが今度の妻は我がままで贅沢で冷酷な女だった。武士は常に前の妻を思い出して自分の身勝手な行動を反省した。済まなかったという思いは常に付きまとうのだった。自分が愛しているのは前の妻だという思いは消えない。 「恥知らず、恩知らず!家柄と引き換えに手に入れた出世を忘れて、昔の思い出に浸っているのでしょう!」 今度の妻は荒い気性で武士を打ち据えるのだった。 歳月が過ぎ、任期を終えて京に戻った武士はかっての屋敷を訪れた。雑草が生い茂り、更に朽ち果ててはいるが屋敷は元の場所にあった。墓地のような静けさ。屋敷の一室に明かりがある。 武士はそこに前の妻が機織をしている姿を見た。 妻は昔のままの美しい姿で武士を迎えた。 「片時も忘れることは無かった。許してくれ・・・」 武士は詫びた。 「いえ、はるばると私を訪ねてくださった、それだけでも私は・・・」 妻はしおらしく泣いた。 一夜が明け、武士は幸せな思いで目覚めた。横に妻の長い黒髪があった。武士は異変を感じ取った。長い黒髪は髑髏の頭から生えていたのである。その黒髪が生き物のように動いている。「ひ〜」 武士は飛び上がり屋敷を逃げ回る。 床が抜け柱が崩れ屋敷自体が朽ちている。武士は白髪になり、次第に髪が抜け落ちていく。水瓶に映った自分の顔は老人の姿だった。おまけに長い黒髪が武士の体にまとわり付くのだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「雪女」 武蔵の国の若い巳之吉(仲代達矢)は、茂作老人と良く森に薪を取りに行く。冬のある日、二人は森の中で猛烈な嵐に見舞われた。 森の中の山小屋に泊まることになった。 巳之吉がふと目を覚ますと老人に覆いかぶさるように白い着物姿の女が見える。女は老人に白い息を吹きかける。すると老人は見る見る凍りついていった。 女が巳之吉のほうにやって来た。巳之吉は恐ろしさで身動きできなくなっていた。女は美しいが能面のように無表情だ。 「あなたは若いから気の毒になった。あなたに危害は加えません。ただし、今夜見たことは誰にも言ってはなりません。たとえ母親であろうとも。もしお前が話したら、その時はお前を殺す・・・よく覚えておきなさい」 女はそう言うと音も無く消えていった。 巳之吉はそれから熱にうだされ母(望月優子)の看病を受けた。それから一年。巳之吉が森に薪を取りに行った帰り道。一人の旅女に出会う。若い美しい女だった。 お雪(岸 恵子)という女は江戸に奉公口を探しにいくのだという。巳之吉はお雪を家に案内し泊めることにした。足を洗うお雪を見た巳之吉の心がときめいた。なんて美しい女だろう。二人は結婚し3人の子を儲けた。 10年後。亡き母の墓参りをするお雪。お雪は村でも評判の嫁だった。3人の母親でありながら容貌は少しも衰えない。巳之吉は幸せだった。 ある夜のこと。巳之吉は草履を編んでいた。お雪のもの、3人の子供のもの。巳之吉はお雪に作ったばかりの草履を履かせてみる。 「まあぴったり。あなたの作った草履は評判がいいけれど、本当ね。きつすぎずゆるすぎず」 お雪は正月に向けて子供の着物を仕立てている。子供達は寝息をたてていた。 お雪の顔を見ていた巳之吉ははっとする。どこかで見た顔に似ている。 「どうしたんですか、そんなに見つめて」 お雪が言った。巳之吉はふと10年前の不思議な出来事を話し始めた。「いやね、ほら茂作老人のことさ。女がふーっと息を吹きかけると茂作老人は見る見る凍りついたんだ。あんな美しい女はお前を別にしてみたことがねえ。ありゃ人間じゃねえ。血の気を探し求める雪女かそれとも夢か・・・」 「・・・夢ではない」 お雪が言った。「それはわたし、わたしだよ・・・誰にも言わない約束をあんたはとうとう破ってしまった。わたしは殺すと言ったでしょう」 巳之吉は驚愕していた。お雪はあのときの雪女になっていた。「今となっては子供らを大事にされたがよい。もし子供らがあなたに不満を持つようなことがあったら、わたしはただではおかないから・・・」 女は雪の降る小道に消えていった。巳之吉は呆然として後を追ったが女の姿はどこにも無い。お雪のために編んだ草履を玄関先の雪の上にそっと置く巳之吉。巳之吉は泣いた。雪の中の草履はいつの間にか消えていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「耳無芳一の話」 盲目の琵琶法師芳一(中村賀津雄)が夜、阿弥陀寺の住職の留守に寺の番をしていると、「芳一、芳一」と声がする。鎧兜に身を固めた武士(丹波哲郎)が寺の前に立っていた。この近くに逗留しているさる高貴な人に芳一の琵琶と語りを聞かせるために迎えに来たという。 芳一は武士に広い場所に連れて行かれた。海辺のようだった。壇ノ浦の源平合戦場面を芳一は琵琶を奏で唄う。芳一には見えないがそこには多くの人がいるように感じた。毎晩、武士は迎えに来た。そして繰り返し琵琶を奏でるのだった。 芳一は死人のように衰えていった。寺の住職(志村喬)は毎晩どこかに出かける芳一を心配し寺男(田中邦衛)たちに後をつけるように言付ける。 その晩、芳一の後をつけていった寺男は驚いた。芳一が一心不乱に琵琶を弾いているそこは滅亡した平家一門の墓場だったのである。平家と共に幼くして入水した安徳天皇の墓前であった。辺りは多くの人魂が飛んでいる。 「お前の行った所は平家一門の墓場だ。死霊に魅入られたお前はこのままでは取り殺されてしまう」 住職は言った。住職は芳一の体に般若心経を書き付けた。顔、手、胴体、足と余すところ無く書き付けると、今夜迎えが来たら絶対に声を出してはいけない。動かずにいるのだ。と芳一に諭した。芳一は素直に「はい」と答えた。 果たしてその夜も例の武士が迎えに来た。「芳一、芳一」 返事が無い。ふと見ると、空中に耳が二つ浮かんでいる。『拙者が来た証拠にこの耳を持って帰ろう』 武士はエイとばかりに芳一の耳を引き裂いた。 両耳を抑えて苦悶する芳一。抜かりの無い筈だったが、住職は芳一の耳だけ般若心経を書き付けるのを忘れてしまったのであった。 以後芳一は耳無芳一と呼ばれ、その名声は遠くまで聞こえ耳無芳一の晩年は大層な金持ちになったと伝えられる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「茶碗の中」 明治32年。作家(滝沢 修)は、書斎にいた。奇怪な物語で結末のない話が世の中にはあるのだ、という原稿を執筆中だった。 その物語は220年前にさかのぼる。元旦。関内(中村翫右衛門)が主君の中川佐渡守について年始の回礼に出かけ江戸本郷の菩提寺に立ち寄った時のことだ。 咽喉が渇いた関内は水のみ場で茶碗に水を汲み飲もうとした。ふと見ると茶碗の中に見たこともない男の顔が映っている。水を入れ替えても同じ男の顔がある。しかも男は不適な笑いを浮かべているではないか。 一度は茶碗もろとも打ち捨てたが、別の茶碗に映る男を飲み込んだ。 その夜、詰め所で夜勤している関内の前にどこからともなく一人の男が現れた。式部平内(仲谷昇)と名乗った男が身構えた関内に言った。「それがしに見覚えがござろう」 それは昼間茶碗の中に映った男だった。「知らぬ!」 関内は言う。「そなたは私に非道な振る舞いをなさったではござらぬか!」 関内は抜刀し斬りつけたが男は消えた。 再び別の位置に現れた男を斬ると手ごたえがあった。しかし男は壁の中にすっと消えてしまったのである。 関内が、「狼藉物でござる!方々お出会い召され!」と大声で叫ぶと武士たちが集まってきた。皆で屋敷内を捜索するがどこにもそんな形跡がない。 音も無く壁の中に消えたと関内に言われて武士たちは、「お疲れで夢か幻を見たのであろう」と関内の言うことを信じないのだった。 夜、自宅でくつろぐ関内に3人の来客があった。編み笠を被った男達は式部平内の家中の者だという。「主人が貴方に斬られて療養中である。来月の16日にはここに参り必ずお恨みを果たし申す」 「何!」 激高した関内は3人に斬りつけたが、男達は消えては現れ消えては現れた。実体がないのであった。 しまいに関内は笑い始めた。気が狂ったように笑うのだった。 『話はここで切れている。この後の結末を私は色々想像することはできる。だが、諸君に満足を与えるようなものは一つもない。人の魂を飲んだ後のもっともらしい結末は自分で考えてみられるに任せる。人の魂を飲んだ者は・・・・』 作家のもとへ出版元の老人(中村雁治郎)訪れてきた。おかみさん(杉村春子)が作家を探すがどこにもいない。老人は作家の書斎に入り書きかけの原稿を手にした。 『・・・人の魂を飲んだ後のもっともらしい結末は自分で考えてみられるに任せる。人の魂を飲んだ者は・・・・』 その時、おかみさんの悲鳴がした。老人が行くとおかみさんが恐怖に震えその指が水瓶を指している。老人は水瓶に近づいた。 「うぁ!」 老人が水瓶を覗いて仰け反った。 水瓶の中に青白い顔の作家が映っており手招きしているのだった。 |
| 映画館主から 名匠小林正樹監督の怪異談の傑作。4話からなるオムニバス形式に綴られた原作は小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の短編集から選ばれています。4話といえども3時間を越える大作で、9ヶ月の撮影期間と3億2千万の予算が掛けられて制作されました。 「黒髪」は、立身出世のために妻を捨てた男が、その妻が忘れられず数年後戻ってみると美しかった妻は骸骨になっており、その怨念の篭った黒髪が生き物のように男に絡みつくという話。 「雪女」は、嵐の夜、雪女が老人を殺すのを見た若者が、雪女に堅く口止めされる。後年、若く美しい妻を娶る。3人の子供を儲け幸せに暮らしていたが、ふと妻に10年前の不可思議な話を聞かせたところ、妻がその時の雪女だったという話。 「耳無芳一の話」は、平家の死霊に魅入られた琵琶法師が毎夜平家一門の墓場で琵琶を奏でる。案じた住職が琵琶法師の体に般若心経を書き付けて死霊から身を守ろうとしたが、琵琶法師の両耳がもぎ取られてしまう。耳にだけ般若心経を書き忘れてしまったのだという話。 「茶碗の中」は、茶碗の中に浮かぶ不思議な男を飲み干した武士のところにその不思議な男が現れる。武士は男を斬り付けるが男は壁の中に消えてしまう。後日男の部下と称する3人の男が現れるが武士は3人も斬ってしまう。そして武士は気がふれたように笑い出す。 その物語を書いていた作家が行方不明になる。おかみさんと出版元の男が探すと、作家は水瓶の中から手招きしていたという不気味な話。 全編凝った色彩で空の色がダリを思わせるシュールな感じで奇怪さを表現しています。第4話の「茶碗の中」が怖さからいえば一番ショッキングです。作家が紹介する怪異談と作家自身の話が二重構造になっていて、ラストで行方不明の作家がぞっとする形で現れるのです。 全体的に芸術性を意識しすぎたきらいはありますが一級の怪異談になっています。 出演者は超多彩。小林正樹は「切腹」(’62年)についでカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞しています。またローマ映画祭監督賞、米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品です。 |
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