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「エレファントマン」 |
| エレファント・マン 1980米=英 |
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![]() 製作:ジョナサン・サンガー 監督:デビッド・リンチ 脚色:クリストファー・デ・ボア エリック・バーグレン デビッド・リンチ 撮影:フレディ・フランシス 音楽:ジョン・モリス 出演:ジョン・ハート アンソニー・ホプキンス アン・バンクロフト サー・ジョン・ギールガット デーム・ウェンディ・ヒラー フレディ・ジョーンズ ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 19世紀末、イギリスは産業が発展し史上空前の繁栄を迎えていた。ボイラーから炎が噴出し、ところどころから湯気が出ている。 ロンドン病院の優秀な外科医フレデリック・トリーブス(アンソニー・ホプキンス)はある日見世物小屋で“エレファント・マン”と看板にあるのを見た。 トリーブスは金を払い中に入る。「世の中は驚くことばかり。哀れこの男の母親は身篭っている4ヶ月目にして地図にもないアフリカの島で像に襲われ・・・」 小屋の親方バイツ(フレディ・ジョーンズ)は口上を述べた。 トリーブスはその異様な男を見て驚愕のあまり言葉を失った。これが人間なのか。目から涙が流れた。あり得ない姿であった。 トリーブスは再びバイツに頼み込み“エレファント・マン”を馬車で病院に呼び寄せた。ジョン・メリック(ジョン・ハート)という名乗る男をトリーブスは密かに診断した。彼は初めて見る奇形であった。しかも彼は黙っているままだった。額に瘤状のものが突起し、後頭部が異様に変形し飛び出ている。鼻はひしゃげ、唇はめくれている。目は落ち窪み口も満足に話せない。左手は辛うじて正常だが右手は自由が利かない。全身が腫瘍で覆われ背中には茸状の吹き出物があった。脚も不自由であった。 メリックの奇形の原因は不明であり治療も不可能という絶望的な状態だった。 トリーブスは学会で発表した。ジョン・メリックを裸にし、聴衆の前に出した。トリーブスの研究成果は異常な反響を呼ぶ。 メリックは帰ると親方バイツに 「どこへ行っていた」 と鞭で殴られた。翌日、バイツが連れ歩く少年がトリーブスに急を知らせた。 トリーブスが駆けつけるとメリックの容態がおかしい。 「俺の宝をどうするつもりだ」 と言うバイツに 「死んではどうにもなるまい」 とトリーブスはメリックを病院に連れ帰った。 トリーブスはメリックの容態が治まってから質問を始めた。メリックは流暢ではないが話はできる。 治療の見込みが無い患者は転院させるようにトリーブスに告げた院長(サー・ジョン・ギールガット)にトリーブスは言った。「あれを聞いてください」 「・・・主は我が牧者なり、主は我をみどりの野に・・・我が魂を生かし・・・たとい我死の陰の谷を歩むとも わざわいを恐れじ 汝 ともにいまし 汝の杖・・・世にあらんかぎり恵みと哀れみは 我にそいきたらん 我はとこしえに 主の宮のうちに住まわん・・・」 メリックが聖書の一節を諳んじているのだった。 「院長、私は教えていません」 トリーブスが言った。 メリックの声をドア越しに聞いた院長の考えが変わった。 メリックのために屋根裏部屋があてがわれることになった。 「詩篇3篇を何故知ってる?」 とトリーブスが聞くと、「毎日、聖書を読んでいました。祈祷書も良く知っています。23篇は美しいので好きです」 メリックが答えた。 メリックは外見の醜さからは想像できない知性と豊かな人間性を備えた青年だったのである。 トリーブス夫妻はメリックを自宅に招いた。新調した背広を着たメリックはトリーブスの妻アンに手を差し出され握手された。メリックは涙ぐむ。 「・・・すみません。あなたのような美しい婦人からこれほど優しく迎えられるなんて・・・初めてです・・・・おお、許してください」 部屋の中に飾ってある肖像写真を見て、「あれは何ですか?」 「家族の写真ですわ。これは子供達・・・これが母です」 「素晴らしい!気品のある顔立ちだ・・・私も母の写真を持っています。見ますか?」 メリックが肌身離さず持ち続けていた母の写真を取り出した。美しい写真だった。 「母は天使の顔を持っていました。私が生まれたとき母はどう思ったでしょう。このような私を見てきっと失望したに違いありません」 「そんなこと!あなたのような立派な息子さんに失望だなんて」 「こんなに素晴らしい友達と一緒のところを見れば、母もきっと安心して今の私を愛してくれるに違いありません・・・私はいつも努力しているんです。美しい母に相応しい自分であろうと・・・」 アンは涙を抑えきれず顔をそむけた。 院長はメリックの苦境を救うためタイムズ紙に投書して募金を広く読者に訴えた。その際、メリックの人柄を詳しく紹介することも忘れなかった。 かくして一躍有名人となったメリックのもとに様々な階層の人が訪ねてくる。有名な舞台女優ケンドール夫人(アン・バンクロフト)もその一人だった。彼女はメリックに「ロミオとジュリエット」の本をプレゼントした。 しかし、婦長(デーム・ウェンディ・ヒラー)に「先生は病院を見世物小屋に代えているだけではないのか」と言われトリーブスは悩むのだった。 メリックは集めたダンボールをたどたどしく切り窓から見える聖フィリップ寺院の模型の制作に取り掛かっていた。窓から見えるのはそれしかなかった。 それにメリックはベッドに体を横たえて眠ることができない。ベッドに枕を積み重ね座った姿勢でしか眠れないのだ。 一方、病院の夜警係りのように酒場で金を取って“エレファント・マン”を見せにやってくる卑劣な人間もいた。夜を待ち娼婦をメリックの部屋に連れ込みメリックと娼婦を抱きつかせる。メリックが倒れると夜警係りはメリックの口にウィスキーを注ぎ込むのだ。 メリックに鏡を見せのけぞる姿を見て楽しむ。 ある夜、見せ小屋の親方バイツが密かにメリックを連れ出した。イギリス国内では“エレファント・マン”の興行が禁止されたためヨーロッパ大陸に渡った。 興行を続けるうちに虐待のためメリックの容態が急激に悪化していった。ある夜、メリックの仲間達、巨人男や小人たちがメリックを解放した。「幸運を!我が友よ!」 メリックは船でイギリスへ。 ロンドン駅で頭にすっぽり頭巾を被ったメリックを好奇の目で子供達が追いかけた。階段を駆け降りるメリックが悲鳴を上げる少女を押し倒し逃げると今度は大人たちが追ってきた。たちまちふくれ上がった集団に取り囲まれ頭巾を剥ぎ取られる。便所に逃げ込んだメリックは叫んだ。 「私は動物じゃない!象じゃない!私は人間だ!」 メリックの行方を案じていたトリーブスはメリックとの再会を心から喜んだ。充分な治療のためようやく体力を回復したメリックだったが、しかし、病状は更に悪化して重態と診断された。 ある夜、メリックはケンドール夫人の好意で劇場の観劇に招待された。なんと素晴らしい舞台であろう。メリックは全身で感動した。 メリックは劇場に集まった人々にトリーブスから紹介され、ぎこちなく立ち上がり挨拶した。 病院に戻ったメリックはかねてから製作していた窓から見える聖フィリップ寺院の模型を完成させた。たどたどしい手つきでしっかりと自分の名前をサインした。 入院以来窓から見えるのはこの寺院だけだった。 そして、ベッドの邪魔なものを取り除きゆったりと横になる。メリックにとって横になることは死を意味している。 「終わった・・・」メリックは呟き安らかに眠りに付くのだった。 |
| 映画館主から デビッド・リンチ監督が弱冠33歳の時に放った感動的な衝撃作。 イギリスのロンドンに実在したジョン・メリックは、数多い見世物の奇形人間の中でも群を抜いていました。 イングランド中部レスター出身のこの青年は幼年時代から悲惨な境遇におかれ、ついには“エレファント・マン”として大衆に身を晒すことになったのです。 1884年、ロンドン病院の医師トリーブスに発見され、当初は医学上の研究対象だったのですが、やがて鋭い感受性とロマンチックな想像力を持っていることが知れるに及んで、ついに人間どうしのふれあいが始まったのです。 メリックの奇形の原因は不明。その治療は現代医学をもってしても不可能でした。メリックは1890年に死去。ロンドン病院内に終生住むことを許されてからわずか4年後のことで、まだ27歳でした。 世にもまれなる奇形のためメリックについての膨大な論文、研究レポート、回想録、遺品などや住んでいた部屋なども大切に保存されているそうです。 映画が始まって30分以上の間、メリックの素顔は出てきません。恐怖を煽るような映画的手法は何も知らない看護婦が食事を届けにきてメリックを見て突然絶叫するところで頂点に達します。 ただし、この映画はホラーでもオカルトでもなく、きちんと人間を捉えた本格的な正当映画なのです。 1977年に「イレイザーヘッド」で実質的な映画デビューをしたデビッド・リンチにとっては異形なものへの偏愛の傾向のある彼に相応しい題材であったことは否めません。 そして本作の後に超大作「砂の惑星デューン」(’1984年)へと続いていきます。 メリックを演ずるのは性格俳優ジョン・ハート。ただし凄まじいほどのメイキャップのためその素顔はまったく分かりません。医師トリーブスに名優アンソニー・ホプキンス。院長にサー・ジョン・ギールガット。舞台女優ケンドール夫人にアン・バンクロフトと名優ぞろいです。 そして何より素晴らしいのはフレディ・フランシスのモノクロ映像です。緻密に計算された構図や重厚な画面が19世紀のロンドンの様子を再現しています。 本作はアカデミー賞の作品、監督、主演男優賞など8部門にノミネートされ、各国でも様々な賞を受賞しています。 参考文献:公開時パンフレット |
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