「武士道残酷物語」
武士道残酷物語
    1963・東映京都
武士道残酷物語「四話」より

監督:今井 正
原作:南条範夫
脚本:鈴木尚之
    依田義賢
撮影:坪井 誠
音楽:黛 敏郎

出演:中村錦之助
    東野英治郎
    渡辺美佐子
    荒木道子
    森 雅之
    有馬稲子
    加藤 嘉
    木村 功
    三田佳子

   岸田今日子
    江原真二郎
    山本 圭


「三話」より、岸田今日子と中村錦之助


「四話」より、罪人の打ち首をする中村錦之助
物語

サラリーマンの飯倉進(中村錦之助)は、ある日、先祖から伝わる日誌を発見した。そこには先祖代々の悲惨な歴史が書き記されてあった。

「一話」

慶長十五年、飯倉次郎左衛門(中村錦之助)は、関が原の戦いに敗れた主家没落後、矢崎家の藩主(東野英治郎)に召抱えられた。幾たびかの武勲をあげたが晩年、藩主の落ち度をかばうため切腹して果てた。藩主の落ち度はそのためにご赦免になる。

「二話」

飯倉次郎左衛門の息子、佐治衛門(中村錦之助)は、同じ藩主に仕えていたが、ある日、病気の藩主の機嫌をとり損ね七十石を取り上げられて謹慎処分となった。そして佐治衛門のもとへ殿危篤の報が届いた。
佐治衛門はいてもたってもいられず、城へ行こうとするが妻(渡辺美佐子)は謹慎中の身であるからと止めた。そこへ殿の死の知らせが届く。
「遅かった」佐治衛門は嘆き悲しむ。次々と殉死の報が寄せられた。殿の死のお供をする武士の追い腹(切腹)である。
そして佐治衛門も白装束になり、妻子を残し自室で自害したのである。

「三話」

時は元禄。飯倉久太郎(中村錦之助)は、美少年の小姓であるがゆえに、殿(森雅之)の目にとまり寵愛を受ける。殿の寝所にまで呼ばれて殿の慰みを受けなければならない。久太郎にはそれが苦痛であり、屈辱であった。
そんな久太郎の苦衷を側室の萩(岸田今日子)は理解し同情していた。
ある日、久太郎は離れの茶室に来るようにとの殿の連絡を受け茶室に出向くと、そこには側室の萩がいた。殿に同じ理由で呼ばれたという。そこへ殿は来れなくなったとの報せがあった。
茶を入れる久太郎の腕に歯型の跡が・・・。萩の乳房にも同じように歯型の傷がある。二人は殿の異常な性愛を受けた者どうしだったのである。
「お慕いもうしておりました」思わず久太郎は萩の手を取った。萩とて以前から久太郎が愛しくてならない。二人は我を忘れた。男と女になった後、許されぬ情事を犯した償いにお互い死を覚悟する。「死にましょう」
その時、「死んではならぬ。久しぶりに目の保養をいたしたぞ」襖が開いて殿が現れた。二人の恋情を察していた殿が二人を罠にかけたのだ。
牢に入れられた二人。互いの名を呼び合う。そして久太郎は無惨にも去勢された。
久太郎と萩は殿の許しで夫婦になった。それが幸福である訳も無いが、ただ、萩は久太郎の子を宿していたのである。

「四話」

天明三年。その年、浅間山が大噴火を起こした。
飯倉修三(中村錦之助)は、居合い斬りの達人である。称して「闇の刃」。
時の殿(江原真二郎)に「闇の刃」を披露する修三。目隠しをして立て札を一瞬のもとに斬ると、立て札は左右寸分違わず切り取られていた。
修三の娘さとには一馬(山本圭)という婚約者がいた。そして修三の妻(有馬稲子)が美人だったことが悲劇の始まりだった。
ある日、修三の妻が殿に呼ばれた。「殿様のご寝所へ参られい」との命令に妻は苦悶し自害する。
修三は殿に諫言する決意を固め、幼い息子に言うのだった。「侍の命は主君のためなれば、己を殺して主君のために死ぬことこそ男の生きることであると知れ」
修三の諫言は殿の怒りを買うだけだった。「本来ならば縛り首のところだが、従前の働きに免じ、本日仕置きになる罪人を討って見せい」
やがて目隠しをした修三の前に頭から頭巾をかぶせられた罪人が連れてこられた。「・・・・」一瞬の抜刀のもと罪人の首が飛んだ。
目隠しを取った修三はその罪人を見て愕然とした。娘のさと、婚約者の一馬だったのである。何と言う無慈悲な仕打ちであろう。修三、形相を変え殿に迫る。「・・・ううう、御無体な・・・」
笑っていた殿、「褒美に刀をつかわす」刀を抜くと修三の手の平に突き立てた。「ううううう・・・、有り難く頂戴仕ります・・・」苦悶の修三、素手で刀を引き抜くと自分の腹に突き立て掻っ捌いた。「御家のご安泰を・・・」声が途切れ、そして果てた。

「五話」

時は明治となる。志を抱いて信州より上京した飯倉新吾(中村錦之助)は、人力車夫をしながらの苦学生である。
ある日、今は落ちぶれた最後の矢崎藩主で子爵の堀孝文(加藤嘉)が病気だと知り人力車に乗せて下宿に連れて帰った。下宿は新吾の婚約者おふじ(丘さとみ)と警察官の兄(木村功)が一階に住み、二階を新吾が借りている。
堀を二階に上げた新吾はおふじに「殿様をよろしく頼む」と言って仕事に出かけた。
二階に茶を入れて上がったおふじは、自分を見る殿様の目が異様に輝くのを見てぎょっとする。そしてとうとうある日、誰もいない日に二階に茶を入れて上がった時、おふじは殿様の病人とは思えない獣のような力の前に貞操を奪われてしまうのだった。
帰ってきた新吾はむせび泣くおふじを見て事態を察した。二階に上がると、殿様は「お前ではない。おふじ、おふじを呼べ」とわがままを口走る。新吾は困惑しながらもおふじに懇願した。「・・・殿様を慰めてやってくれ、それができるのはそなただけなんだ」 おふじは軽蔑と絶望で新吾をなじる。「・・・あんたという人は・・・」
その時、しびれを切らした殿様が階段を降りようとして足を滑らせ転がり落ちた。殿様は打ち所が悪く死んでいた。
新吾はその後、日清戦争に駆り出され戦死した。

「六話」

昭和20年、太平洋戦争末期。
飯倉修(中村錦之助)は、神風特別攻撃隊に志願していた。そして今日が出撃の日。
「これから天皇陛下からのお神酒を賜る」 上官が一人一人の杯に酒を注ぐ。修たちは意気揚揚とゼロ戦に乗り飛び立っていく。そして、太平洋上に散っていった。

「七話」

昭和38年。飯倉進(中村錦之助)は、建設工事会社の積算課に勤務するサラリーマン。学生時代に知り合った杏子(三田佳子)と近く結婚する予定だ。だが、杏子は進の会社のライバル会社に勤めるOLだったことから悲劇が始まる。
進はある日、部長(西村晃)に仲人を依頼した。快く了承してくれたのだが、婚約者の会社の信州ダムの入札価格の情報を知ることができないかと、それとなく示唆するのだった。進は杏子に言った。「信州ダムの見積りが回ってきたら、数字を教えてくれないか」 杏子は困惑した。それは杏子にとって今まで世話になった上司を裏切ることになる。
やがて上から見積書が回ってきた。タイプを打つ杏子。悪いことと知りながら杏子は進に見積書を見せた。喜ぶ進。そして進の会社が信州ダムの落札に勝ちを納めた。
しかし進は部長に言われる。「こういう時期に君たちが結婚するのはどうもまずい。ライバルの会社の社員同士だからね。ほとぼりが冷めるまで延ばしてもらえないか」 
「私より会社の方が大切なのね」杏子は言った。「そうじゃない、僕たちの将来だって会社あってのものじゃないか」進は必死に言い訳した。「所詮、自分たちだけではどうにもならないのね」杏子は悲嘆に暮れた。
そして、杏子は睡眠薬を飲み自殺を図る。
病院に駆けつけた進。杏子は一命を取り留めたがまだ意識は快復していない。
進が先祖代々の日誌を読んだのは、そんな看病の日々でだった。「・・・飯倉家代々の日誌を読んだ私が、知らず知らず、それを繰り返していたのだ・・・」
やがて杏子が息を吹き返した。進は今は決心した。会社や周りのしがらみを気にせず生きようと。「二人だけで結婚しよう」二人は手を取り合うのだった。
映画館主から

今井正監督が武士道の理不尽さを痛烈に批判し、それは現代の世にも続いているのだと訴えた問題作。
とにかく暗く鬱屈した話がこれでもか、これでもかと続く7話からなるオムニバス形式の内容ですが、最終章で明るさを見出して終わります。

中村錦之助が押さえた演技で7役をこなしています。美少年から老武士までを演じることができる役者は中村錦之助の他にはいないでしょう。
特に「四話」の鬼気迫る演技が光ります。俳優陣も豪華で芸達者ぞろいです。

武士道の理不尽さをテーマにした映画としては、昔から「忠臣蔵」をはじめとして数々ありますが、代表格としては、「切腹」(’69年、小林正樹監督)を参照していただきたいと思います。

本作はベルリン映画祭のグランプリに輝きました。日本映画がベルリン映画祭のグランプリに選ばれたのは、その39年後の「千と千尋の神隠し」になります。
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