字体弄りの変遷

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2002/03/31 追記 (2002/03/23 公表)

「当用漢字」制定以来、様々の思惑により漢字の字体が弄られて来た。此処では、其の変遷を年代を追つて公表したいと思ふ。

本論

昭和21年11月16日 「当用漢字表」制定

「当用漢字表」の中から字体変更部分を抜粋

乙部
乱(亂)
人部
併() 仮(假)
入部
両(兩)
力部
剤(劑) 労(勞) 励(勵) 勧(勸)
匸部
区(區)
厶部
参(參)
口部
嘱(囑)
囗部
囲(圍) 円(圓) 図(圖)
土部
堕(墮) 圧(壓)
士部
壱(壹)
子部
学(學)
宀部
実(實) 写(寫) 宝(寶)
寸部
対(對)
尸部
届(屆) 属(屬)
山部
岳(嶽)
广部
廃(廢)
彳部
径(徑)
心部
悩(惱) 惨(慘) 恋(戀)
手部
択(擇) 担(擔) 拠(據) 挙(擧) 拡(擴)
攴部
数(數)
斤部
断(斷)
曰部
会(會)
木部
栄(榮) 楼(樓) 枢(樞) 権(權)
欠部
欧(歐) 歓(歡)
止部
帰(歸)
歹部
残(殘)
殳部
殴(毆)
水部
浅(淺) 満(滿) 潜(濳) 沢(澤) 済(濟) 浜(濱) 滝(瀧) 湾(灣)
火部
営(營) 炉(爐)
牛部
犠(犧)
犬部
独(獨) 猟(獵) 献(獻)
田部
画(畫) 当(當)
癶部
発(發)
石部
研()
示部
礼(禮)
禾部
称(稱) 穏(穩)
穴部
窃(竊)
立部
並(竝)
糸部
糸(絲) 経(經) 総(總) 絵(繪) 継(繼) 続(續)
缶部
欠(缺)
耳部
声(聲)
聿部
粛(肅)
肉部
脳(腦) 胆(膽)
至部
台(臺)
臼部
旧(舊)
艸部
茎(莖) 万(萬)
虍部
処(處) 号(號)
虫部
虫(蟲) 蚕(蠶) 蛮(蠻)
見部
覚(覺) 観(觀)
角部
触(觸)
言部
証(證) 訳(譯) 誉(譽) 読(讀) 変(變)
豆部
豊(豐)
豕部
予(豫)
貝部
弐(貳) 賛(贊)
足部
践(踐)
車部
軽(輕)
辛部
弁(辨 瓣 辯) 辞(辭)
逓(遞) 遅(遲) 辺(邊)
酉部
医(醫)
釆部
釈(釋)
金部
銭(錢) 鉄(鐵) 鉱(鑛)
門部
関(關)
阜部
随(隨) 隠(隱)
隹部
双(雙)
雨部
霊(靈)
食部
余(餘)
馬部
駆(驅) 駅(驛)
骨部
髄(髓) 体(體)
鹵部
塩(鹽)
麥部
麦(麥)
黒部
点(點) 党(黨)
齊部
斎(齋)
齒部
歯(齒) 齢(齡)

「当用漢字表」制定における字体弄りの概説

「当用漢字」制定当時の昭和21年に弄られた字体は以上に掲げた131文字の多きに亙る。「当用漢字表」の「まえがき」に依ると、簡易字体については、現在慣用されているものの中から採用し、これを本体として、参考のため原字をその下に掲げたとされてゐる。

詰り、此処では括弧内の文字が原字で、其の脇が簡易字体であり、この簡易字体が「当用漢字」の本体となるのである。

又、【予】と【弁】と【余】の字の字体統合もこの時点で既に行はれてゐる。漢字の字体の面としては、示偏は正示で、進繞は二点進繞で、食偏は正字体だつた。【礼】の字の精確な漢字表の収容字体は【】となつてゐる。

この時点で弄られた漢字の字体は、此れ以降は全く顧みられなくなる事となる。

JIS基本漢字(第1水準、第2水準)との関聯では、JIS基本漢字自体が後の成立の為か、【併】と【研】の文字の正字体が対応できてゐないだけで、其の他の129字は全て正字体の表示の対応が可能のやうである。

昭和24年4月28日 「当用漢字字体表」制定

「当用漢字字体表」の中から字体変更部分を抜粋

人部
仏(佛) 来(來) 伝(傳) 価(價)
儿部
児(兒)
口部
単(單)
囗部
国(國) 団(團)
土部
塁(壘) 壊(壞)
寸部
専(專)
巾部
帯(帶)
广部
広(廣) 庁(廳)
心部
応(應)
手部
払(拂) 摂(攝)
日部
昼(晝)
木部
条(條) 楽(樂) 桜(櫻)
水部
滞(滯) 湿(濕)
犬部
狭(狹)
皿部
尽(盡)
示部
秘(祕)
糸部
県(縣)
艸部
芸(藝)
貝部
売(賣)
車部
転(轉)
述()
金部
鋳(鑄)
頁部
顕(顯)
飛部
翻(飜)

「当用漢字字体表」制定における字体弄りの概説

「当用漢字表」制定当時に調査中とされてゐた回答が、「当用漢字字体表」制定の昭和24年に出された。従来の普通の形として字体表上に註された文字は34文字あるが、「一点一画の増減」などの微細な字体弄りを含めれば、結果的に数多くの文字が弄られた事になる。

此処では従来の普通の形を括弧内に示し、其の脇に字体の標準とされる文字を記した。

又、【芸】の字体統合はこの時点で行はれた。漢字の字体の面としては、示偏はネ示に、進繞は一点進繞に、食偏は略字体になつた。

この時点で弄られた字体は、其の后の「人名漢字」に影響を及ぼす事になる。

JIS基本漢字(第1水準、第2水準)との関聯では、JIS基本漢字自体が後の成立の為か、【述】の文字の正字体が対応できてゐないだけで、其の他の33字は全て正字体の表示の対応が可能のやうである。

又、「当用漢字字体表」で制定された字体の漢字は全てJIS基本漢字の第1水準の中に無条件で収容されてしまつてゐる。

昭和56年10月1日 「人名用漢字別表」制定

附則別表 人名用漢字許容字体表(附則第二項関係)

一 常用漢字表に掲げる漢字に関するもの
括弧内のものは、つながりを示すために添えた改正後の戸籍法施行規則第六十条第一号に規定する漢字である。
二 別表第二に掲げる漢字に関するもの
括弧内のものは、つながりを示すために添えた改正後の戸籍法施行規則第六十条第二号に規定する漢字である。

「人名用漢字許容字体表」制定における字体弄りの概説

昭和56年、「常用漢字」制定と時を同じくして制定された「人名漢字」だが、この時から「人名漢字」は内閣告示の位置から法務省令の戸籍法施行規則の一部をなすことになる。

上記に転載した「人名用漢字許容字体表」は、更に附則別表として「当分の間用ゐる事ができる」とされてゐる漢字、205字である。許容字体表は、「常用漢字」に対応するもの195字と「人名漢字」に対応するもの10字との二つに分離されてゐる。

先づ、この中に「当用漢字字体表」で略字体に代へられた【述】の字以外の33字全ての正字体が収容されてゐる。

又、「当用漢字」では【燈】が正しいとされてゐた【灯】の字については正字の【燈】が許容字体表に収容されてゐる。この【灯】の字は「常用漢字」で字体統合された漢字である。

「常用漢字」以前の「人名漢字」で「常用漢字」に格上げされた漢字は8字、其の内の【竜】の字が正字体の【龍】として許容字体表に収容されてゐる。

「人名漢字」に対応するものでは、10字全てが「常用漢字」以前からの「人名漢字」だが、【渚】の1字だけは昭和51年に制定された「人名用漢字追加表」からのもの。又、「人名漢字」では【亘】も字体統合されてゐる。

結果的に「当用漢字字体表」で変更された字体が「人名用漢字許容字体表」として一部復活した形となつてゐる。

この時点では既にJIS基本漢字("JIS C 6226-1978"、所謂"78JIS")が制定されてゐた。然し、この許容字体表はJIS基本漢字とは別次元で字体を弄られた為か、文字コードでは表し切れない字体が幾つもある。

先づ、IBMやNECで選定された拡張文字の類が18字(内「人名用漢字別表」対応が1字)ある。此れらの文字はunicodeで正規に規定されてゐる文字なので、unicodeの番号を直接指定すれば問題ない。

然し、JIS基本漢字やIBM選定拡張文字などに指定されてゐない文字が70字(内「人名用漢字別表」対応が4字)ある。此れらの文字は、外字指定としてでしか表示させる事が出来ない。

補足(H14-03-31追記)

上記の「字体表」が正常に表示されないと云ふご指摘がある。この「字体表」の内、70文字はunicodeの「私用領域」を指定してゐたが、今回70文字全てを【〓】に書換へる事にした。

其の場合、「【〓】を指定してゐるのが悪い」とか「私のパソコンが故障してしまつた」とか受取らないで欲しい。そもそも宜しくないのは「当用漢字」の制定であり、其の延長線上で文字コードを顧みないで制定された「人名用漢字許容字体表」にある事を理解して欲しい。

又、【〓】部分の70文字の字形の参照として下記にスクリーンショットを用意しておいた。

スクリーンショット (1),(2),(3)

昭和58年 "JIS X 0208-1983"("83JIS""JIS C 6226-1983")制定

例示字体入替

78JIS
あぢ
16区19点【鰺】、82区45点【鯵】
うぐひす
18区19点【鶯】、82区84点【鴬】
かき
19区34点【蠣】、73区58点【蛎】
かく
19区41点【攪】、57区88点【撹】
かまど
19区86点【竈】、67区62点【竃】
くわん
20区35点【灌】、62区85点【潅】
かん
20区50点【諫】、75区61点【諌】
くび
23区59点【頸】、80区84点【頚】
くわう
25区60点【礦】、66区72点【砿】
しべ
28区41点【蘂】、73区02点【蕊】
じん
31区57点【靱】、80区55点【靭】
せん
33区08点【賤】、76区45点【賎】
つぼ
36区59点【壺】、52区68点【壷】
37区55点【礪】、66区74点【砺】
たう
37区78点【檮】、59区77点【梼】
たう
37区83点【濤】、62区25点【涛】
38区86点【邇】、77区78点【迩】
はへ
39区72点【蠅】、74区04点【蝿】
ひのき
41区16点【檜】、59区56点【桧】
まま
43区89点【儘】、48区54点【侭】
やぶ
44区89点【藪】、73区14点【薮】
ろう
47区22点【籠】、68区38点【篭】
83JIS
あぢ
16区19点【鯵】、82区45点【鰺】
うぐひす
18区19点【鴬】、82区84点【鶯】
かき
19区34点【蛎】、73区58点【蠣】
かく
19区41点【撹】、57区88点【攪】
かまど
19区86点【竃】、67区62点【竈】
くわん
20区35点【潅】、62区85点【灌】
かん
20区50点【諌】、75区61点【諫】
くび
23区59点【頚】、80区84点【頸】
くわう
25区60点【砿】、66区72点【礦】
しべ
28区41点【蕊】、73区02点【蘂】
じん
31区57点【靭】、80区55点【靱】
せん
33区08点【賎】、76区45点【賤】
つぼ
36区59点【壷】、52区68点【壺】
37区55点【砺】、66区74点【礪】
たう
37区78点【梼】、59区77点【檮】
たう
37区83点【涛】、62区25点【濤】
38区86点【迩】、77区78点【邇】
はへ
39区72点【蝿】、74区04点【蠅】
ひのき
41区16点【桧】、59区56点【檜】
まま
43区89点【侭】、48区54点【儘】
やぶ
44区89点【薮】、73区14点【藪】
ろう
47区22点【篭】、68区38点【籠】

例示字体入替の概説

"83JIS"は、JIS基本漢字の例示字体が大幅に変更された事件である。上記には入替へられる前の"78JIS"と入替へ后の"83JIS"を示した。

"83JIS"で入替へられた文字は「常用漢字」の表外字22字で、入替は第1水準と第2水準との間に行はれた。

例示字体移動

78JIS
げう
22区38点【堯】
まき
43区74点【槇】
えう
45区58点【遙】
えう
64区86点【瑤】
りん
49区59点【凛】
63区70点【煕】
83JIS
げう
22区38点【尭】、84区01点【堯】
まき
43区74点【槙】、84区02点【槇】
えう
45区58点【遥】、84区03点【遙】
えう
64区86点【瑶】、84区04点【瑤】
90JIS
りん
49区59点【凛】、84区05点【凜】
63区70点【煕】、84区06点【熙】

例示字体移動の概説

"83JIS"の例示字体移動は、4字分行はれた。全て「人名用漢字別表」に関聯する文字である。其れ迄の例示字体は新設の84区に追出された格好となる。

"90JIS"では、更に2文字の例示字体が追加されたが、この時は「人名用漢字別表」の字体のはうが84区に指定されてゐる。

例示字体変更、其の他

かう
25区23点【昂】、90区22点【】、116区50点【】、99区52点【

其の他の概説

"83JIS"に依る例示字体の変更は、269字に及んだ。「鴎、掴、涜、蝕、溌、昂、廠、鱈、唳、捩、枴、湮、甄、綛、綟、荵、蔗、蟒、鬮」など、其の他多数が該当する。

此処で、【昂】だけは特別のやうである。元々の例示字体は文字の左下が「エ」になるのだが、"83JIS"で現在の例示字体に変更された為に、以前の例示字体がIBMやNECで選定された拡張文字に移動した。

然し、IBMなどの拡張漢字の例示字体がフォントの意匠によつては若干変化する為、左下が「エ」になる例示字体が更に外字領域に飛ばされてしまつたと云ふ顛末である。

スクリーンショット (1)

最後に一言

もう此れ以上弄らないで呉れ。

参考文献

関聯頁