満洲文字について

2001/01/11 全面修正

此処では、清朝銭の背に記されてゐる満洲文字についてもう少し掘下げてご紹介しようと思ひます。

満洲文字は、場合により「満洲字」「満文」「満字」などと言換へられる事があります。

満洲語と満洲文字

満洲語は、ツングース諸語の一つに分類され、歴史的には金の時代の女真語と極めて近い関係にあります。文法としては膠着語的構造を持つてゐます。

現在の満洲には満洲語を話す人達は残つてゐませんが、新疆のシベ族が満洲語の方言の一つとされるシベ語を話してゐます。

満洲語を表記する為の文字を満洲文字と呼びます。

満洲文字の成立ち

満洲文字の直接の起源は蒙古(モンゴル)文字に由来します。文字の起源を辿ると、満洲文字〜蒙古文字〜ウイグル文字〜ソグド文字〜シリア文字〜北セム系アラム文字と溯つて行きます。西セム文字の系統とされてゐます。

満洲文字の種類

満洲文字は満洲語を表記するための表音文字です。成立の時期によつて、無圏点満洲字有圏点満洲字とに分けられます。又、新疆のシベ族が使ふシベ文字と呼ばれるものも有ります。

無圏点満洲字

満洲文字が用ゐられる以前の明末の女真満洲族は蒙古語に直して蒙古文字で文書にしてゐました。

1599(万暦27)太祖ヌルハチは2人の文臣に命じて、蒙古文字を用ゐても、唯字音だけを借りて満洲語を書写することに改めさせました。然し、[o:u][k:g:h][t:d]などに字形上の区別が無いと云ふ蒙古文字書写の不便さは継承されてしまひました。

後金国時代に発行された「天命皇寶(天命汗銭)」や「天聡通寶(聡汗之銭)」はこの無圏点満洲字で書かれてゐます。

有圏点満洲字

1632(天聡6)に至つて、此れ等の文字に点や円を添へて同型異語を区別する事をダハイ(達海)と云ふ満人学者が工夫しました。ダハイは支那語音など満蒙字では書表し難いものの為にも特別な満字を考案しました。

有圏点満洲字は母音書写のもの6個(a,e,i,o,u,u~)、子音書写のもの19個(n,k,g,h,b,p,s,s',t,d,l,m,c,j,y,r,f,w,ng)からなります。

順治通寶以降の背の満字は全て有圏点満洲字に該当します。

満洲文字の語句形態

満洲文字の語句は上から下へと読んで行きます。また、満洲文字の字形(アルファベット)には4種類有ります。

夫々の字形には同じ音のアルファベットでも大きな違ひの有るものも有ります。

字形の繋ぎ方には「語頭〜語中〜語尾」「語頭〜語尾」「独立」の三つの方法があります。

満洲文字の文章形態

満洲文字で文章を書く場合、必ず縦書きになります。語句を縦に上から下に書いて行きます。行を換へる時は日本語の場合とは逆に左側から右側へ移動してゆく事になります。

清朝銭の背の満文は例へば宝泉局の場合、左側に、右側にと書かれてゐますが、満洲文字の文章の読み方に則つて此れを読めば宝泉となります。

満洲文字で書かれた文書の事を档案档子と呼びます。此れは、満洲文字が書かれた木片(木牌)を綴ぢたものを档子(タンス)と呼んだ事の名残です。

今を生きる文字「シベ文字」

シベ文字は、新疆ウイグル自治区イリカザフ自治州チャプチャルシベ自治県に住むシベ族が話すシベ語を表記する為の文字です。

シベ族は、満洲に居住する人達と新疆に居住する人達とがゐます。新疆に居住する人達は、18世紀の清朝乾隆年間に辺境防備の為派遣された駐留軍の子孫と云ふ事です。

シベ文字はシベ語を表記させる為に満洲文字を僅かに改良してゐます。又、シベ文字による書籍や新聞も刊行されてゐるさうです。ユニコードへの搭載の豫定はあるんでせうか。

シベ語(文字・族)はシボ語(文字・族)と呼ばれる事もあります。満洲語の一つの方言と見做されてゐます。支那では、満洲語の事を「満語」と呼び、「満語」と区別して「錫伯語(シベ語)」と呼んでゐます。

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