単位の話(東洋の通貨単位)
Copyright ©1998-2004 Petronius All rights reserved.
(2004/11/15 公表)
東洋の通貨単位
此処では東洋の漢字を使用する国々の貨幣単位を其の国毎に一覧にしてみたいと思ひます。通貨単位の体系の相違に基づき、順番は、江戸時代の日本、近代日本、清国、支那と臺湾と満洲、香港と澳門(マカオ)、朝鮮(韓国と北朝鮮)、越南(ヴェトナム)になりました。全て過去も含めて漢字を使用してゐる国々になります。
江戸時代の通貨単位
先づは日本の江戸時代です。使用されてゐた通貨単位は主に「両、分、朱、貫、文」の五種類になります。関東では金決済が習しで、補助通貨単位として「分」(ぶ)や「朱」が使はれました。
換つて関西では銀決済が習しとなり、銀の重量で取引がなされてゐました。秤量貨幣として、丁銀や豆板銀の重さが其の侭貨幣の価値に繋がります。重さの単位に「分」が在るのですが、補助通貨単位の「分」と区別する為に「ふん」と呼ぶやうにしてゐました。
この時代には銭貨として一文銭の「寛永通宝」が出回つてゐましたが、時代が下る毎に背波の四文銭や「天保通宝」の百文銭が出回るやうになりました。
【両】
- 種別
- 日本の通貨単位
- 名称
- 両、兩(りやう)
- 貨幣の種類
- 小判、大判(金貨)
- 意味
- 一両は四分、一両は四貫文に等しい
- 備考
- 江戸時代の金貨の単位で、小判一枚が一両に相当します
【分】
- 種別
- 日本の通貨単位
- 名称
- 分(ぶ)
- 貨幣の種類
- 一分銀、二分銀(銀貨)
- 一分金、二分金(金貨)
- 意味
- 一分は四朱、四朱は一両、一分は一貫文に等しい
- 備考
- 江戸時代、主に江戸で使はれた単位貨幣です
【朱】
- 種別
- 日本の通貨単位
- 名称
- 朱(しゆ)
- 貨幣の種類
- 一朱銀、二朱銀(銀貨)
- 一朱金、二朱金(金貨)
- 意味
- 四朱は一分に等しい
- 備考
- 江戸時代、主に江戸で使はれた単位貨幣です
【貫】
- 種別
- 日本の通貨単位
- 名称
- 貫(くわん)、貫文(くわんもん)
- 貨幣の種類
- 一文銭の千枚差し(銅銭)
- 意味
- 一貫は千文、一貫は一分に等しい
- 備考
- 江戸時代の貨幣の単位の一つ
【文】
- 種別
- 日本の通貨単位
- 名称
- 文(もん)
- 貨幣の種類
- 一文銭、四文銭、百文銭(銅銭)
- 一文銭、四文銭(鉄銭)
- 意味
- 千文は一貫に等しい
- 備考
- 江戸時代の通貨で、寛永通宝に一文銭と四文銭、文久永宝に四文銭、天保通宝に百文銭がありました
近代日本の通貨単位
明治以降の近代日本では、「貨幣法」の規定に従つて、通貨の単位が一変しました。「円、銭、厘」が用ゐられてをり、最小の単位として「毛」も使はれました。
当初は金本位制を布いてゐましたが、臨時貨幣が導入されてからは、金本位制も崩れてしまひました。不換紙幣が発行されるに至つて、金本位制は事実上廃止になります。
現在は、通貨の単位としては「円」しか用ゐず、計算単位として「銭」と「厘」が残されてゐる状況です。
【円】
- 種別
- 日本の通貨単位
- 単位の記号
- ¥ ; JPY(日本)
- 名称
- 円、圓(ゑん ; YEN)、日本円
- 貨幣の種類
- 一円(銀貨)
- 一円、二円、五円、十円、二十円(金貨)
- 意味
- 一円は百銭に等しい
- 備考
- 一円銀貨は大型で立派な貨幣であり、対外的な銀取引の基本単位になります
- 現在の日本の基本通貨単位です
【銭】
- 種別
- 日本の通貨単位
- 名称
- 銭、錢(せん ; SEN)
- 貨幣の種類
- 五銭、十銭、二十銭、五十銭(銀貨)
- 半銭、一銭、二銭(銅貨)
- 意味
- 一銭は十厘、百銭は一円に等しい
- 備考
- 一銭は銅貨の基本でした
【厘】
- 種別
- 日本の通貨単位
- 名称
- 厘(りん ; RIN)
- 貨幣の種類
- 一厘、五厘(銅貨)
- 意味
- 一厘は十毛、十厘は一銭に等しい
- 備考
- 日本の貨幣の最小単位です
- 「寛永通宝」銅銭一枚に等価です
【毛】
- 種別
- 日本の通貨単位
- 名称
- 毛(もう)
- 通貨の種類
- 二厘五毛(日支事変軍票戊号)
- 意味
- 十毛は一厘に等しい
- 備考
- 軍票ではありますが、単位の使用実績があるので載せておきます
清国の通貨単位
清国の場合、漢字の通貨単位として「両、銭、分、釐」の四種類が用ゐられますが、対外的な読み方として "tael, mace, candareen, cash" が使はれてゐました。この通貨単位は、銀取引で使用されましたが、其の侭重さの単位としても用ゐられ、完全な十進法で構成されてゐます。穴銭一枚が一釐になります。
【両】
- 種別
- 清国の通貨単位
- 名称
- 両、兩(りやう ; テール ; tael)
- 意味
- 一両は十銭に等しい
- 備考
- 1テールの銀幣は銀の重さで取引され、対外的な銀取引の基本単位になります
【銭】
- 種別
- 清国の通貨単位
- 名称
- 銭、錢(せん ; メース ; mace)
- 意味
- 一銭は十分、十銭は一両に等しい
- 備考
- 清国の通貨単位は全て十進法です
【分】
- 種別
- 清国の通貨単位
- 名称
- 分(ぶ ; カンダーリン ; candareen)
- 意味
- 一分は十釐、十分は一銭に等しい
【釐】
- 種別
- 清国の通貨単位
- 名称
- 釐(り ; カッシュ ; cash)
- 意味
- 十釐は一分に等しい
- 備考
- 穴銭一枚が一釐になります
支那・臺湾・満洲の通貨単位
支那では、「円(圓)、元、角、分、釐」の五種類が通貨単位として用ゐられてゐます。当初は「円(圓)」を基本単位としてゐましたが、中共が実権を握つて後は「元」が基本単位に替つてしまひました。
臺湾では、中華民国の基本通貨単位として「円(圓)」が其の侭用ゐられてゐます。
満洲では、其の当時の支那で用ゐられてゐた通貨単位を其の侭踏襲してゐます。
【元】
- 種別
- 支那の通貨単位
- 単位の記号
- CNY(支那)
- 名称
- 元(げん ; ユアン ; yuan)、人民元
- 意味
- 一元は十角に等しい
- 備考
- 中華人民共和国の基本通貨単位
【円】
- 種別
- 臺湾・満洲の通貨単位
- 単位の記号
- TWD(臺湾)
- 名称
- 円、圓(ゑん ; ユアン ; yuan)、臺湾ドル(Taiwan dollar)
- 意味
- 一円は十角に等しい
- 備考
- 中華民国の基本通貨単位
- 満洲帝国の基本通貨単位
【角】
- 種別
- 支那・臺湾・満洲の通貨単位
- 名称
- 角(かく ; チャオ ; CHIAO)
- 意味
- 一角は十分、十角は一円、十角は一元に等しい
- 備考
- 支那や臺湾や満洲の補助通貨単位
【分】
- 種別
- 支那・臺湾・満洲の通貨単位
- 名称
- 分(ぶ ; フェン ; fen)
- 意味
- 一分は十釐、十分は一角に等しい
- 備考
- 支那や臺湾や満洲の補助通貨単位
【釐】
- 種別
- 支那・臺湾・満洲の通貨単位
- 名称
- 釐(り ; リ ; li)
- 意味
- 十釐は一分に等しい
- 備考
- 支那や臺湾や満洲の補助通貨単位
香港・澳門の通貨単位
香港や澳門では、支那とは違ひ「円(圓)、毫、仙」の三種類が通貨単位として用ゐられてゐます。
香港は英国の旧植民地で、通貨の単位は英語で"dollar, sent"と読まれてゐました。
澳門は葡萄牙の旧植民地で、通貨の単位は葡萄牙語で"pataca, avos"と読まれてゐました。
【円】
- 種別
- 香港・澳門の通貨単位
- 単位の記号
- TWD(香港) ; MOS(澳門)
- 名称
- 円、圓(ゑん ; ドル ; dollar)、香港ドル(Hongkong dollar)
- 円、圓(ゑん ; パタカ ; pataca)、澳門パタカ(Macao pataca)
- 意味
- 一円は十毫に等しい、Hongkong (1 dollar = 100 sents), Macao (1 pataca = 100 avos)
- 備考
- 英領香港や葡萄牙領澳門の基本通貨単位
【毫】
- 種別
- 香港・澳門の通貨単位
- 名称
- 毫(がう ; 10 sents) - 香港
- 毫(がう ; 10 avos) - 澳門
- 意味
- 一毫は十仙、十毫は一円に等しい
- 備考
- 英領香港や葡萄牙領澳門の補助通貨単位
【仙】
- 種別
- 香港・澳門の通貨単位
- 名称
- 仙(せん ; セント ; sent) - 香港
- 仙(せん ; アヴォス ; avos) - 澳門
- 意味
- 十仙は一毫に等しい
- 備考
- 英領香港や葡萄牙領澳門の補助通貨単位
朝鮮の通貨単位
朝鮮の通貨単位は、「円(圓)、圜、銭」の三種類になり、漢字の読み方をカタカナで書くと夫々「ウォン、ホアン、チョン」となります。然し乍ら、歴史的地域的経緯が複雑になつてゐますので、其の経緯を簡単に書いてみます。
- 1910年以前
- 一圜を百銭として半島全域で通用しました。
- 1910年以后終戦までの日本統治時代
- 一円を百銭として半島全域で通用しました。日本の円を其の侭踏襲してゐました。
- 戦後の韓国
- 当初韓国では、1ウォン(円)を100チョン(銭)として通用してゐました。
- 1953年のデノミネーション
- 韓国で100ウォン(円)が1ホアン(圜)に変更されました。
- 1962年のデノミネーション
- 更に韓国で10ホアン(圜)を1ウォンに変更して現在に至ります。
- 戦後の北朝鮮
- 北朝鮮では、1ウォン(円)を100チョン(銭)として現在に至ります。
【円】
- 種別
- 朝鮮の通貨単位
- 単位の記号
- W ; KRW(韓国)
- 名称
- ウォン(won)、韓国ウォン
- 意味
- 1 won = 100 chon
- 備考
- 終戦から1953年の韓国の通貨単位
- 1962年以降の韓国の基本通貨単位、現在の韓国ウォンには漢字表記はありません
- 北朝鮮の基本通貨単位
【圜】
- 種別
- 朝鮮の通貨単位
- 名称
- ホアン(hwan)
- 意味
- 1 hwan = 100 chon
- 備考
- 1901から1910年の朝鮮の通貨単位
- 1953年から1962年の韓国の通貨単位
【銭】
- 種別
- 朝鮮の通貨単位
- 名称
- チョン(chon)
- 意味
- 100 chon = 1 won = 1 hwan
- 備考
- 1896から1910年の朝鮮の通貨単位
- 北朝鮮の補助通貨単位
越南の通貨単位
越南(ヴェトナム)は歴史的には漢字使用国の一国でした。当然、越南独自の漢字音が現代も広く使はれてゐるのですが、其の内の一つに「銅」があります。語源に当る語となるので、現代越南の通貨単位として「銅」を使ふのは必ずしも正しい行為とは言へません。
【銅】
- 種別
- 越南の通貨単位
- 単位の記号
- VND(越南)
- 名称
- ドン(dong)、越南ドン
- 備考
- 越南(ヴェトナム)の通貨単位で、「銅」の越南漢字音が語源になつてゐるとの由
参考文献
- 『角川 新字源』1990年、306版
- 『岩波 国語辞典』1975年、第2版
- 『宛字外来語辞典』1984年、柏書房
- 『丸善 単位の辞典』2002年、丸善
- 『図解・単位の歴史辞典』1989年、柏書房
- 『世界大百科事典』1988年、平凡社
- 『日本大百科全集』1988年、小学館
関聯頁