<第43話 ある愛の物語2〜別離〜>
「私はあやうくだまし討たれるところだったのか」
「……」
「…ええい、サホビコめ、許さん。兵を集めよ、サホビコを討ち取ってくれよ
う!」
「……(兄さん)」
謀反がばれ、天皇が攻めてくるのを察知したサホビコは、稲城を築いて迎え撃
った。
「大変です!」
「どうした?」
「サホビメ様のお姿がございません」
「何!? すぐに辺りを探すのだ!」
「かしこまりました」
姫を探す兵士たち。
そこへ、姫を見たという兵が現れた。
「サホビメはどこに行ったのだ」
「サホビメ様が裏門からこっそり抜け出すのをこの目で見ました」
「それで、一体ヒメはどこに向かったのだ!」
「向かった方角は兄、サホビコの稲城のようでしたが…」
「なんだと。なぜだ! ヒメよ…」
…………………………………
「あなた、お許しください…」
自分が強く断ればこのようなことにならずにすんだという思いが、サホビメを
責め立てる。
そして、兄が攻め滅ぼされようとしているのにいてもたってもいられず、兄の
いる稲城に向かうサホビメ。
「兄さん!」
「サホビメ、お前、どうして…」
「私が兄さんを見捨てる訳ないじゃない」
「…そうか」
一方、垂仁天皇は、悩んでいた。
「攻撃の準備が整いました」
「そうか」
「あとは合図を出していただくだけでございます」
「わかっておる」
「いつごろ攻めかかりましょうか」
「…しばし待て」
「かしこまりました」
(ヒメ、なぜだ。しかも、そなたは身重の身。生まれてくる子はどうするのだ。
どうしてサホビコのところに行ってしまったのだ。わしとの3年間は何だっ
たのだ…)
苦悩する天皇は、攻撃することができず、稲城をただ取り巻くだけだった。
オギャァァァ
稲城の中から赤子の泣き声が響き渡る。
しばらくして、稲城からサホビメが現れた。
「あっ、稲城から誰か出てきます」
「あれは、サホビメではないか! ヒメ、わしだ!」
見ると、サホビメは腕に赤子を抱いていた。
「ヒメ、その子はもしや…」
「はい、あなたの御子でございます」
「そうか、無事生まれたか」
「もし…」
「どうした?」
「もし、この御子をあなたの御子と思し召すならば、引き取って育ててお育て
ください」
「…。そなたの…、そなたの兄を憎んでいるが、そなたを愛しいという思いは
忍びがたいものがある。分かった、わしの子として育てよう」
「ありがとうございます」
「今からそちらに受け取りに行く。そのものたちに御子を渡すがよい」
「かしこまりました」
そういいながら、天皇はすぐに兵たちの中で特に屈強な兵たちを呼び集めた。
「いいか、御子を受け取る際に、同時にサホビメも奪い取るのだ。髪であろう
と、手であろうと、つかまえて、引き出すのだ」
垂仁天皇の命を受けた兵たちが御子とサホビメを奪うために稲城に向かった。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)
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