<第48話 時じくの香の木の実>
「タヂマモリ(多遅摩毛理)よ、頼んだぞ」
「はっ、お任せあれ。必ず、常世国にあるという時じくの実を持って参ります」
あるとき垂仁天皇は、時を定めず常によい香りを放つ木が常世の国にあると聞
き、タヂマモリに命じてその木を求めさせた。
そこで、タヂマモリは苦心の末、常世国にたどり着き、ついに時じくの香の木
の実を採り、縵八縵(かげやかげ)、矛八矛(ほこやほこ)を持って帰ってきた。
「タヂマモリ、ただいま常世国から戻りました!」
「…」
意気揚々と戻るタヂマモリに対して、静まり返る宮殿。
もっと歓迎されてもいいと思ったタヂマモリは、天皇が宮殿にいないことに気
付いた。
「スメラミコト(天皇)様はどこですか! タヂマモリ、ただいま戻りました!」
「…スメラミコト様はすでに亡くなられました」
「!?」
「スメラミコト様はそなたのことをいつも気にされていたぞ」
「そ、そんなバカな! そんなことがあっていいものか…。スメラミコト様…」
あまりのことにしばし呆然とするタヂマノモリ。
落ち着きを取り戻した、タヂマモリは、縵八縵、矛八矛を半分に分け、縵四縵、
矛四矛を大后に奉った。
残りの縵四縵、矛四矛は天皇の御陵の戸に奉り置いた。
そして、その木の実をささげ、泣き叫んだ。
「タヂマモリ、時じく香の木の実を持って参上いたしました!」
あまりの悲しさに泣きうめくタヂマノモリ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ついに泣き叫びながら事切れてしまった。
この時じくの香の木の実というのは、今の橘のことである。
垂仁天皇は、153歳で崩御し、菅原の御立野に葬られた。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)
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【コメント】
この物語は、古事記も日本書紀も同じです。
常世国は、上巻で、スクナビコナが帰った国で、海のかなたにあると考えられ
た異郷で、生命の根源世界だとされていました。
タヂマモリが常世国から帰ってきたとき、天皇がすでに崩御していたというの
は、常世国がはるか遠い海のかなたの異郷であるとともに、時間を超越した世
界であることを表しているそうです。
今日、垂仁天皇陵と伝えられている古墳の周濠の中に、一つの小島があって、
それがタヂマモリの墓であると伝えられています。