<第50話 熊曾征伐>

 (なんとおそろしい奴だ)

 ヲウスノミコトの猛々しい性格を恐れた景行天皇は、そばにおいておくのは危
 険だと思った。

 「ヲウスノミコト、西にクマソタケル(熊曾建)という兄弟がいる。彼らは朝
  廷に服従しない不敬の輩であるから、お前が行って討ち平らげてくるのだ」

 「かしこまりました」

 まだ、髪を額のところで結っているような少年であったヲウスノミコトであっ 
 たが、父の命に従い、熊曾征伐で出かけた。
 しかし、その前に叔母であるヤマトヒメノミコト(倭比売命)の元を訪ねた。

 「ただいまより熊曾征伐に行ってまいります」
 
 「気をつけるのですよ。ヲウスノミコトや」

 「はい、ありがとうございます、叔母上様」

 「何かの役に立つかもしれませんから、この衣装を渡しておきます。」

 こうして、ヤマトヒメから衣装を授かったヲウスノミコトは、剣を懐にしまっ
 て熊曾建の家の前までやってきた。

 「ふむ、さすがに警備が厳しいな」
 
 その家を見ると、兵で三重も囲んであり、容易に近づけそうもない。
 しかし、よく観察すると、人々は新しい家を作る準備で忙しく立ち働いていた。
 
 「3日後の宴の食糧は用意できたか!」

 「はい、こちらにございます」

 「新居を祝うための宴のごちそうだ。料理はふんだんに用意しろよ!」

 「かしこまりました」

 (これは宴の日を待ったほうがよさそうだな)

 熊曾建の家で宴があることを察知したヲウスノミコトは、宴のある日まで辺り 
 をぶらぶらしてその日を待った。

 (叔母様の衣装を着て、髪も女性のように結いなおしたぞ)

 女装したヲウスノミコトは、女性の中に交じり、うまく建の家にもぐりこむこ
 とができた。

 「おい! そこのかわいい奴!」

 (おれのことか?)

 「そうだ、そこのお前だ。こっちきて酌をせい!」

 (しめた、これで奴らに近づける)

 こうして熊曾建兄弟のそばにはべることができたヲウスノミコトは、宴もたけ
 なわになったときに、懐の剣を取り出した。

 「建兄弟、覚悟!」

 「ぐわっ!!」

 熊曾の衣の衿をつかみ、胸を剣で突き通した。

 「わわわっ! に、逃げろ!」

 それを見た、熊曾の弟は恐れ、逃げ出した。

 「逃がすか!」

 部屋を出て、階段の下に追っていき、背後から襲った。

 ズブリッ

 「ぎゃっ!」

 ヲウスノミコトはなんと、熊曾弟の尻に剣を突き刺した!

 「ま、待ってください。その剣を動かさないでください。申し上げたいことが
  ございます!」

 「よかろう。発言を許す」

 「ありがとうございます。それでは申し上げます。あなた様のお名前は?」

 「私は大八島国を治めている景行天皇の御子、ヤマトヲグナノミコ(倭男具那
  王)である。お前たち兄弟が朝廷に従わないので、私が派遣されたのだ」

 「そうですか。確かに西では我ら二人を除いて強い者はおりません。ところが、
  大和国には、我ら二人よりも強い男がいたのです。それがあなたです。どう
  か、私からあなたに名前を奉らせてください。今後はあなたのことを、ヤマ
  トタケルノミコ(倭建御子)とたたえて申し上げます」

 「いいたいことはそれだけか。確かにそなたからの名は受け取った」

 サクッ

 そういうとヤマトタケルは、よく熟した瓜を裂くように、尻に刺した剣を抜き、
 クマソタケルを切り裂いて殺した。

 それから、大和に戻る際に、山の神、河の神、海峡の神をみな服従させ、都に
 戻った。

 <参考文献>
 講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸) 

 +++++++++++++(編集後記)++++++++++++++++
 皆さん、こんにちは。
 キリです。
 
 ヤマトタケルのクマソ征伐は、有名な話ですよね。
 叔母のヤマトヒメからもらった女物の衣装を身につけたヤマトタケルが、クマ
 ソタケル兄弟(日本書紀は一人)を剣で殺す物語です。

 殺された後、ヤマトタケルの名前を差し上げるのも古事記、日本書紀ともに同
 じ記述です。

 それにしても、逃げた弟の方を、尻から剣で突き刺した…というシーンは残酷
 でもあり、こっけいでもありますね。

 その後も話し続けられるのにも驚きですが、ヤマトタケルの名前を差し上げた
 後に、瓜を割るように真っ二つにしてしまうのにも驚きです。

 ヤマトタケルのタケル(建)ですが、勇敢な人という意味で、熊襲地方を本拠
 とした異種族の首長のことを言ったようで、そのクマソのタケル(首長)であ
 る自分を殺した彼を、ヤマト(倭)のタケルですとほめたのでしょうね。

 こうして、正式にヤマトタケルになった、ヲウスノミコトの活躍はまだまだ続
 きます。

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