<第51話 イズモタケル>
都に戻る際に、出雲の国を通ったヤマトタケル。
(イズモの首長、イズモタケルを殺していくか…)
そう思ったヤマトタケルは、まず、イズモタケルと親しくなり、親友になった。
「イズモタケルよ、川に沐浴に行きませんか?」
「いいですね、参りましょう」
出雲の肥の河へともに沐浴に出かけるヤマトタケルとイズモタケル。
「先に川からあがります」
「どうぞ」
先に川から上がったヤマトタケルは、イズモタケルがはいていた太刀を腰にさ
した。
「互いに太刀を変えましょう」
「いいですよ。さて、私も川から上がります」
そういって川から上がったイズモタケルは、ヤマトタケルの太刀を腰にさした。
「せっかくですから、太刀合わせをいたしましょう」
「いいですね、では、参ります。」
(にやり)
「ん? ややっ、太刀が抜けない!?」
「ふっ、その太刀は私がイチヒの木で作った偽りの太刀だ」
「なんだと、だましたな!」
「さらばだっ!」
こうして、ヤマトタケルは太刀を抜くことができなかったイズモタケルを打ち
殺した。
やつめさす 出雲建が はける刀(たち)
黒葛(つづら)さは巻き さ身無しにあはれ
(イズモタケルが腰につけている太刀は、さやにつづらをたくさん巻いてあっ
て見かけは立派だが、刀身がなくて、ああおかしい)
こうして、イズモタケルを殺した後、周辺を平定し、都に上り、復命した。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)
+++++++++++++(編集後記)++++++++++++++++
皆さん、こんにちは。
キリです。
このイズモタケルの物語は日本書紀には出てきていません。
しかし、同じような物語が、日本書紀の崇神天皇紀に書かれいます。
舞台も同じ出雲。
登場人物は兄弟ですが、木刀を指した兄が、弟を川にさそい、先に出た兄が弟
の本物の刀をさし、後から川から出た弟は兄の木刀を手にし、抜くに抜けずに
そのまま兄に殺されてしまいます。
そして、そのとき兄が詠む歌がこの古事記で書かれた同じ歌です。
この木刀と真刀を交換して相手を殺す説話自体は出雲地方に昔から伝わってお
り、それが大和朝廷対出雲氏族の物語に取り入れられた際に、一方はヤマトタ
ケルの物語になり、もう一方は日本書紀の物語になったのではないかと言われ
ています。
今の感覚でいうと、ヤマトタケルは何だかイズモタケルをだましたような印象
ですが、宮本武蔵同様、作戦勝ちと考えれば、ヤマトタケルの方が一枚上とい
うことなのでしょうね。