<第52話 ヤマトタケルの東国征討>
「ヲウスノミコト改めヤマトタケル、ただいま熊曾を征伐して復命いたしまし
た」
「うむ、ご苦労。帰ってきてすまぬが、すぐに東方12カ国の荒ぶる神や従わ
ない人々を平定し従わせるのだ」
「…かしこまりました」
「そこで、ミスキトモミミタケヒコ(御?友耳建日子)を連れて行くといい。
また、お前にこのひひらぎの八尋矛を授けよう」
「…ありがとうございます」
東国に向かう前に、タマトタケルは伊勢神宮に行き、叔母のヤマトヒメに会っ
た。
(………)
「どうしました、ヲウスノミコト、いえ、今はヤマトタケルでしたね」
ツゥー
ヤマトタケルの目から涙が零れ落ちる。
「どうしたのです、ヤマトタケル」
「父上は、私が死ねばいいと思っているのでしょうか…」
「そんなことはありません。どうしてそう思うのですか?」
「西の熊曾を討ちに遣わし、都に戻ってまだ間もないというのに、すぐに今度
は東国の十二カ国を平定して来いだなんてひどすぎませんか。しかも、兵士
もくださらずに…」
「…」
「だから、父上は私なんか死んでしまえときっと思っているのです」
「ヤマトタケルや、あなたにこの剣を授けます」
「この剣は!」
「ええ、スサノオ様がヤマタノオロチを退治したときに手に入れた草薙の剣で
す」
「よろしいのですか?」
「もちろんです。それと火急の際にはこの袋の口をお開けなさい」
「ありがとうございます」
ヤマトヒメから草薙の剣と袋をもらったヤマトタケルは尾張の国に立ち寄った
際に、ミヤズヒメ(美夜受比売)の家に泊まった。
(おぉ、なんと美しい!)
一目ぼれしたヤマトタケルは、ミヤズヒメと結婚をしようと思ったが、今回の
東国征討が終わって帰ってきてから結婚をするために、今は結婚の約束をする
だけにした。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)
+++++++++++++(編集後記)++++++++++++++++
皆さん、こんにちは。
キリです。
古事記と日本書紀。
その記述が正反対なのがこのヤマトタケルの物語です。
日本書紀ではヤマトタケルとその父景行天皇の仲はむつまじく、タケルも兄を
殺しておりません。
この東征も、古事記では九州から戻ったばかりのヤマトタケルを追いやるよう
に命じて、タケルもそれを恨んでいます。
しかし、日本書紀では、この東征を最初は(まだ生きている)ヤマトタケルの
兄に命じていますが、彼は驚いて草の中に隠れ、それを責めた天皇が美濃の国
に追いやります。
その様子をみたヤマトタケルが“自ら”東征を志願したと日本書紀では描かれ
ています。
それに対して景行天皇は、ヤマトタケルを征夷の将軍に命じて、正規軍として
派遣しています。
もちろん、兵も与えてのことでしょう。
そして、東征する前に伊勢神宮に立ち寄り、ヤマトヒメノミコトに会って草薙
の剣を授けられるのは一緒ですが、古事記のように袋はもらいません。
自ら東征を志願したヤマトタケルと、天皇に“死ね”と思われているヤマトタ
ケル。
一体どちらが本当のヤマトタケルの姿なのでしょうね。
ちなみに、尾張に立ち寄ってミヤズヒメと婚約するシーンは日本書紀には描か
れていません。