<第57話 仲哀天皇の死>
テッ テッ テッ テッ テッ テテテテテ…
辺りに響き渡る琴の音。
ここは筑紫(北九州)の香椎宮(かしいのみや)。
仲哀天皇は熊襲征伐を前に、神おろしの儀式をするために琴を弾いていた。
建内宿禰(たけうちのすくね)は神がおりてくる神聖な場所で控え、神託がく
だるのを待っていた。
「あああぁぁぁぁ」
「オキナガタラシヒメ(息長帯日売)様! いかがいたしました!」
見ると、仲哀天皇の后、オキナガタラシヒメに神がかり(神霊が乗り移ること)
し、神託を告げた。
「西の方に国がある。その国には金銀をはじめ、目もくらむような珍しい宝が
多くある。私はその国をあなたに差し上げようと思う」
しかし、仲哀天皇は、この神託を信じなかった。
「高いところに登って西の方を見ても国は見えない。ただ、海が見えるだけだ。
そのような国があるはずがない。あなたは偽りをいう神だ」
そういうと、天皇は琴を押し退けて弾くのをやめてしまった。
「なんたる振る舞い! およそこのあめのした(天下)はお前が統治すべき国
ではない。黄泉の国に行くがいい!」
怒った神は天皇に死(黄泉の国行き)を宣告した。
「恐れ多いことです。天皇様、やはりその琴をお弾きさなったほうがよろしい
かと…」
そこで、天皇はそろそろと琴を引き寄せ、しぶしぶ弾きはじめた。
テッ テッ テッ ッ ……
ところが、まもなく琴の音が聞こえなくなった。
不安になったタケウチノスクネがすぐに火をともすと…
「天皇様!」
天皇はすでに事切れていた。
驚き恐れたタケウチノスクネは、天皇の遺体を殯宮(あらきのみや)に移し、
国中から大祓(おおはらい)のための幣帛(みてぐら)を集めて、国家的な大
祓の儀式を行い、再び神おろしの神託を行った。
「すべてこの国は、オキナガタラシヒメのお腹にいる御子が統治する国ぞ」
「かしこまりました。我が大神よ、その御子は男の子でしょうか。女の子でし
ょうか」
「男の子だ」
「今、このように教えさとしてくださっている大神のお名前をお教えください」
「これは天照大神の心だ。また、底筒神、中筒神、上筒神の三柱の大神だ。今、
本当に西の国を求めようと思うならば、天つ神、国つ神、山の神、川の神、
海の神をはじめ諸々の神々にことごとく幣帛を奉れ」
「かしこまりました」
「そして、我が魂を船の上に祭って、真木を焼いた灰を瓢(ひさご)に入れ、
また、箸と葉盤(ひらで:柏の葉を並べて作った皿)をたくさん作り、それ
らをすべて大海に散らして浮かべ、海を渡り西の国に行くがよい」
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)
+++++++++++++(編集後記)++++++++++++++++
皆さん、こんにちは。
キリです。
仲哀天皇はヤマトタケルの子供です。
しかし、神からのお告げを信じずに死んでしまいます。
この大筋は古事記も日本書紀も一緒です。
敢えて違うところは、海から朝鮮半島が見えないというのは一緒ですが、祭る
べき神はもういないというところと、琴を弾きながら死ぬのではなく、クマソ
退治に失敗して都に戻ってから死ぬというところでしょうか。
また、古事記ではアマテラスですが、日本書紀はただ「神」とあるだけで特定
はできません。
ヤマトタケルの子供にもかかわらず、あっけなく死んでしまいますが、彼の子
供がさらに皇位につきます。
それにしてもなぜ彼は神からの神託を信じなかったのでしょうか?
謎だけが残ります。