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 日本の原典〜古事記物語〜第63号2004年10月25日発行
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 <第63話 オホヤマモリの反逆>

 「応神天皇がお亡くなりになりました」

 (これはチャンスだぞ)

 父の命で山と海を管理していたオホヤマモリだったが、末弟のウヂノワキイツ
 ラコが皇位を継承するのには内心不満であった。

 (これからはこの俺が天下を握るべきだ)

 オホヤマモリはひそかに兵を集め、弟を殺害しようと考えた。

 「オホサザキ様、オホヤマモリ様が不穏な動きをされています…」

 「…そうか。ご苦労。すぐに弟へそのことを知らせるのだ」

 「かしこまりました」

 以前より兄の不満に気付いていた次兄オホサザキは、兄の謀反をいち早く察知
 した。

 「何! 兄が謀反だと。そんな訳はあるまい」

 「しかし、オホサザキ様の使者が確かにそう申しております」
 
 「そうか、ならば致し方なし。すぐに兵を集めよ。そして、河の辺りに伏せて
  おくのだ」

 「ははっ!」

 「そして、山の上に絹の幕をはり、そなたは私の代わりにこの王の服を着、相
  手を欺くのだ。お前たちもうやうやしく振舞うのだぞ」

 「かしこまりました」

 「さらに、兄が川を渡るときに備え、船と舵を用意するのだ。その船にはすぐ
  に傾くように細工をしておくように」

 こうして、オホヤマモリを迎え撃つ準備を整えたウヂノワキイラツコは、賤し
 い身分の姿に変装し、舵をとって船の上に立っていた。

 そこへ、兵士を隠しひそませ、衣の下に鎧を着込んだオホヤマモリが河のほと
 りにたどり着き、船に乗ろうとした。

 (ふふ、ウヂノワキイラツコは山の上にいるのか)

 ウヂノワキイツラツコは山の上にいるものと思い込んだオホヤマモリは、目の
 前の船頭がイツラツコだと全く気付かず、話しかけてきた。

 「この山の上に凶暴な大猪がいると噂で聞いている。私はその猪と討ち取ろう
  と思うが、討ち取れるだろうか?」

 「それはできないでしょう」

 「それはどうしてだ?」

 「たびたび討ち取ろうとしたのですが、できませんでした。だから、できない
  だろうという訳です」

 こう話している間に、宇治川の中ほどまで渡ってきたときに、

 (いまだ!)

 細工した船は一気に傾いた。

 「うわぁっ!」

 あっという間に河に投げ出されるオホヤマモリ。
 水面に浮かび上がったときに歌った歌は、

 ちはやぶる 宇治の渡に 棹執りに 速けむ人し わがもこに来む

 (宇治川の渡し場に、棹を操るのに敏捷な人よ、私の味方に来ておくれ)

 このとき、宇治川のほとりに潜み隠れていた兵士たちがあちこちから一斉に姿
 を現し、川に流れているオホヤマモリを弓矢で狙った。

 そして、ついにカワラの崎まで流れ着き、水中に沈んでしまった。

 オホヤマモリが沈んだ辺りを鉤(かぎ)でさぐると、衣の下の鎧にひっかかっ
 た。
 遺体は奈良山に葬った。

 「やはり天皇の位は兄上がつかれますように」

 「いや、父上の遺言通り、お前がなるのがふさわしい」

 オホヤマモリが死んだ後、オホサザキとワキイラツコは皇位を譲り合った。
 そのとき、海人(あま)がお食事として鮮魚を献上した。
 
 「この鮮魚は弟のところに持っていくように」

 そこで、海人はワキイラツコの元に向かうも、

 「いや、この鮮魚は兄のもとに献上するように」

 と、互いに譲りあい、海人はどちらに鮮魚を献上すればいいのか分からず、何
 度も二人の間を往復し、多くの日数がたってしまった。

 「一体、私はどちらにこの鮮魚を献上すればいいのか!」

 すっかり疲れきってしまった海人は泣き出してしまった。

 ところが、ウヂノワキイラツコが早く世を去ったので、オホサザキが天下を治
 めることになった。

 <参考文献>
 講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸) 

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