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日本の原典〜古事記物語〜第67号2004年11月29日発行
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<第67話 皇后の嫉妬3>
ザザザザァァァァァ…
「どうぞ、皇后様、天皇からの歌をお受け取りください」
天皇の使者、口子が皇后の実家についたときに雨が降り始めた。
「お願いいたします!」
雨脚が強まり、豪雨になっても口子は戸口で平伏して皇后の返事を待った。
「見たくはありません」
すると、皇后は表の門から出て行ってしまった。
「なにとぞ、なにとぞ! この歌をお聞きくださいませ!」
地を腹ばいになって進み、庭の中央にひざまづく口子。
しかし、あまりの豪雨に庭にたまった雨水が腰までつかってしまっていた。
そして、口子は赤い紐をつけた青色の服を着ていたが、庭にたまった水が赤い
紐を浸し、青い服が真っ赤に染め上がってしまった。
「あぁ、兄さん、あんなに雨水に漬かってしまって…」
そういうとクチヒメ(口日売)はこう歌った。
山代の 筒木の宮に 物申す 我が兄(せ)の君は 涙ぐましも
(山代の筒木の宮で、皇后に物を申し上げようとしている私の兄君を見ている
と私は涙がこぼれそうです)
「クチヒメよ、なぜ泣いているのです」
「あっ、皇后様、何でもございません」
「何でもないはずがないでしょう。どうしたのですか」
「実は、庭に控えているのは私の兄でございます」
「…そうだったのですか」
そこで、口子、口日売、およびヌリノミの三人はどうすれば皇后が天皇の元に
戻るかどうかを話し合った。
「皇后様をお連れするよりも、天皇様にお越しいただくしかないだろう」
「では、お越しいただく理由を考えなければいけませんね」
「こうすればどうだろう」
「うん、それはいいな」
こうして、相談の後、クチコは天皇の元に戻り、こう報告した。
「皇后がここを出て行った訳ですが、ヌリノミの飼っている虫で、一度は這う
虫になり、一度は繭になり、一度は飛ぶ鳥になり、三色に変化する不思議な
虫がいます。皇后はこの虫を見に行ったに違いありません」
「そうか、そんなに不思議な虫ならば私も見に行こうと思う」
(よしっ)
こうして皇居から川をさかのぼってヌリノミの家に入り、あらかじめヌリノミ
から三色に変わる虫をもらった皇后のいる部屋に向かった。
「こちらにその虫がございます」
「そうか」
そういうと全てを察した天皇はこう歌った。
つぎねふ 山代女(め)の 木鍬持ち 打ちし大根 さわさわに
汝(な)が言へせこそ うち渡す やがはえなす 来入り参来れ
(山代の女が、木の鍬を持って、耕して作った大根、その色つやのさわさわで
はないが、さわがしくあなたが言いさわがれるので、遠くに見渡されるよく
茂った桑の枝のように、多くの供人を引き連れてやってきたのです)
こうして皇后は天皇の元に戻っていった。
<参考文献>
講談社学術文庫:古事記(上)全訳注(次田真幸)